第2話 最凶から最強へ
「コレで決めるわよ!」
金髪パーフェクトロリ女神のフォーチュン様がウキウキとした様子でサイコロを手に取る。
何か妙に楽しそうに見えるのは気のせいではないはずだ。
「あの、フォーチュン様? もしかして異世界転移させるのって俺が初めてですか?」
「そうよ。他の神がしてるのを見て羨ましくなったってわけ。そしてどうせするなら私の好きなコレでボーナスを決めようと思ったのよ」
そう言ってコロリと一つテーブルの上にサイコロを転がす。
目の前まで転がってきたそれは見事に丸が6つある面を上に向けていた。
俺はそれを手に取ると女神様の方に向かって転がす。
出目は見事に1。
「それでボーナスってなんですか?」
「ボーナスはボーナスよ。地球の人間が転移先の世界に行くと能力値が低すぎてすぐ死ぬわよ。魔物も剣も魔法もある世界なんだから」
なんだと!
ファンタジーなのは正直心が踊るがすぐ死ぬのはイタダケない。
死んで覚える系のゲームは好きだが、自らがそれを実体験するのはごめんこうむる。
「なるほどなるほど。つまり振って出たダイスの目で能力値が底上げされるってわけですね」
「そういうこと。成長も初期値によって変わるからね。ちなみに向こうの世界では一般人がダイス1つ分、普通の冒険者が2つ分、上級冒険者がそれ以上って感じじゃないかしら」
あくまで目安だけどね、実際にはステータスなんて見ることができないし、というのがフォーチュン様の弁。
なるほど。
つまりここで6を連発するととんでもないチート能力者になれる可能性があるってことだな。
いや、それよりも問題なのは。
「と、ところでフォーチュン様? サイコロはいくつ振らせて頂けるのでしょうか?」
これだ。
振ることが出来るサイコロの数が問題だ。
これが一つだとどれだけ良い値をしても普通の冒険者の平均以下の能力になってしまう。
それはもうただの一般人だ。
折角異世界に行けるのであれば冒険がしたい!
なのでせめて、せめて2個。出来れば3個振らせて欲しい。
そんな願いを込めて上目遣いでフォーチュン様を見る。
肝心のロリ女神様はうーんと可愛らしく唸りながら腕を組んで思案すると、唐突にサイコロを1つ手にとってそれをテーブルの上に転がした。
出た値は4。
「中途半端な数になったわね。まぁいいわ。ユキヒロ、各ステータス毎に4つ振りなさい」
「へあ!?」
まじでか!
4つも振ってもいいのか!
そんなに振ったら運が良ければ勇者級の化け物になれる可能性もあるじゃないか!
運が、良ければ・・・。
「ちなみにフォーチュン様。振り直しとかそういうのは?」
「あるわけないでしょ? 出た値は何があっても取り消し不可能よ」
「ですよね」
「で、これが貴方のステータスよ」
そういうとフォーチュン様はピっと人差し指を立てる。
するとその指先に四角いステータスウィンドウが表示され、そこに俺の情報が表示されていた。
「えっと、力、敏捷、体力、器用、知力、魔力、抵抗、幸運か。見事に全部1だなぁ・・・って、ええ?」
上か下まで並ぶ1。
俺の能力が低いのもそうだが、地球人が如何に異世界人より軟弱なのかがよくわかる。
魔力が1あることに驚いたが、何より驚いたのが。
「幸運−50って・・・」
「それ、凄いわよね。サイコロ8個全て6でも打ち消せない数字よ」
「化け物級の数字じゃないですか!!」
逆の意味で!
むしろこの値でよく16年も生きてこれたなって本当に思うよ!
テーブルに突っ伏して涙を流す俺に女神様が慰めるように声をかけてくれた。
「まぁだからこそ私の目に止まって異世界転移出来るようになったんだし? そう悪いわけでもないわよ」
それよりほら! とサイコロがいっぱいのボウルをこちらに寄越してくる。
中のサイコロが動いてカランと涼やかな音が響いた。
「それじゃボーナスを決めましょう。まずは力。これはそのままの意味で力強さを表すわ。攻撃力って言ったらわかりやすい?」
女神様がそういうと俺のステータスウィンドウの力の欄が点滅する。
これから振って出た数字によって1から加算されるのだろう。
なんてわかりやすいんだ。
攻撃力。
とても大事だ。
やっぱり冒険者になるのなら剣士になりたい。
出来れば魔法も使えて魔法剣士。
コレに憧れない男子は居るのだろうか?
いや居ない。
ちなみに敏捷は素早さ、体力はHPや持久力、器用は命中率、知力は魔法攻撃力、魔力は魔法防御力、抵抗は状態異常耐性、幸運は運の強さを表すらしい。
俺は気合を入れてボウルからサイコロを4つ手に取ると天高く手を掲げて大袈裟に腕を振って静かにサイコロを転がした。
コロコロコロ・・・。
1、1、1、1。
・・・。
・・・・・・。
「え、えっと合わせて4ね。じ、じゃあ力は5ってことで」
見てはいけないものを見てしまったようにフォーチュン様は焦りながら俺のウィンドウを指差す。
力の横に「5」という数字が燦然と輝いた。
「ち、ちょっと! あんなのありですか!? 1が4つとかありえます!? 確率0.08%以下ですよ!」
「計算早いわね貴方」
「不運な出来事については色々経験があるので大体の確率を覚えてるんですよ!」
「なんて無駄な知識・・・。でも駄目よ。さっきも言ったけど出た値は取り消し不可能よ!」
ほら、次は敏捷! とサイコロを指差すフォーチュン様。
俺はどんよりした気持ちでサイコロを4つ手に取る。
これで剣士の道は閉ざされたと見ていいだろう。
なにせ5というのは一般人の上位、普通冒険者の平均以下である。
そんな攻撃力では憧れていた剣士にはなれない。
しかし、まだ諦めない。
敏捷が高ければシーフのような忍者のようなそんなスタイリッシュなジョブになれるかもしれない!
そんな気持ちを込めてサイコロを振る。
1、1、1、1。
「え、えぇっと敏捷はプラス4と。つ、次よ。早く次を振りなさい」
「・・・」
体力は1、1、1、1の4。
器用は1、1、2、1の5。
知力は1、1、1、1の4。
魔力は2、1、1、2の6。
抵抗は1、1、1、2の5。
青ざめた顔でフォーチュン様がウィンドウの操作をする。
女神の間には先程からサイコロが転がる音しか響いていない。
二人とも無言のこの空間はとんでもなく重い空気が満ちていた。
「や、やってられるかー!!!」
堪らず大声で不満を叫ぶ。
いや、無理でしょ! こんなの我慢できないでしょう!?
折角、折角異世界で無双が出来る大チャンスだったのに!
何この数値!
一番値が高い魔力だけが一般人を辛うじて越えてるだけで他は普通冒険者の平均かそれ以下!
こ、こんなのって・・・。
俺がテーブルに頬をつけて突っ伏し涙を流しているとフォーチュン様が恐る恐る声をかけてきてくれた。
「あの、元気出してよ。一応、一般人の中ではかなり優秀なわけだしさ。それに! まだ幸運の値が残ってるし!」
ほらほら! とガラスのボウルを俺の頭にグイグイと押し付けてくる。
俺は顔を上げるとステータスウィンドウを指差す。
「そんな事言っても幸運値−50ですよ! どうせ減っても−45とかでしょ! 変わんねーじゃん!」
サイコロ一つの出目を平均4としても12個分。
3つ以上で上級冒険者って話だからこれはもう勇者を超えて魔王級じゃないのか?
悲しいかなそれがマイナスの数値だというのだから堪らない。
「はぁ・・・もういいですよ。振ります振ります」
最後のステータス、幸運の値。
それを決めるために俺は適当にサイコロを4つ振る。
その時それは起こった。
「あ」
振ったサイコロの内の一つがテーブルから落ちそうになるのをフォーチュン様が慌てて手を伸ばして阻止しようとした。
それが、その些細な行動が、俺の将来を大きく変えることとなった。
フォーチュン様が小さな身体を思いっきり伸ばしたその瞬間。
伸ばした腕とは逆側の肘がガンっとサイコロ入のボウルに当たる。
その衝撃でボウルはくるくると回転して、最後に・・・。
中のサイコロを全てぶちまけた。
その数おおよそ100。
「「あ」」
ボウルを倒したのが幸運の女神だからなのか。
それとも俺の今まで溜まっていた幸運が一気に吹き出したからなのか。
テーブルの上には1が4つと、数え切れないほどの6。所々に5。
「え、え、え? うそ。うそうそ!」
俺の初期ステータスが決まった。
力:5
敏捷:5
体力:5
器用:6
知力:5
魔力:7
抵抗:6
そして・・・
「こ、こんなの無しよ! あり得ないわよ!」
幸運:512
俺のステータスウィンドウにはその異常な数値が燦然と輝いていた。