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第1話 ボーイミーツロリ女神

ゆるい中編小説の始まり始まり

正直よくここまで生きてこれたな。

毎日そう想う。


俺の名前は寿幸大ことぶきゆきひろ

16歳の何処にでもいる高校生だ。

見た目は普通。

頭の出来も普通。

運動神経も普通であれば、通う学校も普通レベルの普通校。

そんなある意味世界のど真ん中に位置する俺の最大の特徴は。


「イテェ!!」


学校の帰り道、歩道を歩いていたら後頭部に強烈な衝撃が走る。

頭を抑え悶絶する俺のすぐ横を白い自動車が軽快に走り抜けていく。

最近はやりのコンパクトカーだ。お値段はコンパクトじゃないらしい。

涙目で後ろを振り返るとすぐ後方、2メートルほどのところに小さな石が転がっていた。


あくまで予想になるのだが、この痛みは先程のコンパクトなカーが通った時に車道上にあった石が跳ね飛ばされて運悪く頭に直撃したものと考えられる。

誰も悪くない。

コンパクトなカーのドライバーも「石飛ばしたろ!」なんて思ってないはず。


と、まぁこんな感じ。


そう、つまり俺の最大の特徴は「物凄く運が悪い」ことである。


犬も歩けば棒に当るという言葉があるが、俺も負けていない。

幸大が歩けば棒が当たりに来る、と中学時代はよくからかわれたものだ。


何よりも名前がおめでたすぎるため、ギャップが凄い。


名前の時点で俺の人生の幸運は殆ど消費されたのではないかと勘ぐってしまう。

当然そんなことはないと思うのだが。


ないよね?


「はぁぁ・・・。血が出てないだけ運が良いほうなのかな」


何度も後頭部をさすっては手が赤くなっていないか確認してべっとりとした不快な感触がないことに胸をなでおろす。

頭部の怪我は出血していないほうが危ないこともあるらしいが・・・。まぁそれはそれ。

ふと見ると歩道の水たまりに複雑な表情を浮かべた情けない顔が映っていた。


考えようによっては水たまりの水を浴びていないだけ運が良いかも知れない。

制服が汚れるとお財布的にもダメージがでかい。

それがなかっただけでも。


そんな後ろ向きにポジティブになる俺の目に増水した川が映った。

一昨日から今日の昼まで振った雨により川は茶色く濁り、腹に響く轟音と水しぶきを辺りに撒き散らしているのを橋の上から確認する。


こういう橋を渡るときにはコツがある。

橋の端を通るべからずってね。


端を通ると俺のことだ、きっと川に落ちる。

普段なら良いが(良くないが)、今日みたいな日に川に落ちたら運がいくら良くてもきっと命を落とすだろう。

それぐらい川の勢いが凄い。


「出来るだけ歩道の端を、川とは反対側を、警戒して通る!」


そおっと川の反対側、つまり車道に寄りながら橋の歩道を歩く。

こういう大袈裟な注意が16年間無事とは言えないが生きてこれた秘訣だと思っている。


しかし雨上がりに車道の近くを通るなど最もしてはいけないことの一つだった。


ぶおーんと軽快に車が走っていく音と、ばっしゃーと軽快にスプラッシュな音が耳に届く。


「ギャー!! 冷てぇえ!!」


通り過ぎた自動車に見事に水を浴びせかけられる。

それはもう情け容赦無く上から下まで。

ふらふらと車道から離れて橋の高欄に手を付いて全身を見回す。

残念ながら見事にやられた。

泥と水で制服はグチャグチャになってしまっていた。


「結局こうなるのかよ! またクリーニング代がーーー」


突風が吹いた。


そう、突然風が吹いた。


故に突風。いややかましいわ。


俺の身体はいつの間にか橋の高欄を越えて濁流渦巻く川の上にあった。

一瞬の出来事。

言葉は最後まで発せられることはなく、その代わりに別のモノ、すなわち悲鳴が辺りに響いた。



(あ、川に落ちたら泥は落ちるかもしれないな)



そんな事を思いながら文字通り意識は深く深く沈んでいった。





「早く起きなさいよ」


「ふぉ!?」


大きく一つ身体を震わせて意識を取り戻す。

何処からか落ちる夢を見た時にビクッとなるあの感じ。

ちなみにジャーキングという立派な名前があるんだよ。


そんな無駄な知識で現実逃避をしつつ、いつの間にか丸テーブルに座っていた俺は早鐘を撃つ胸を落ち着かせながら正面に座る幼女を見た。


さきほど声をかけてきたのはきっとこの子だろう。

美しい、いや美しすぎる金の髪は彼女が動く度にさらさらと流れてそのものが輝いているかのような錯覚を覚える。

それを頭の両側に2つ結びにした小学生女子のような子。

幼さが残るがその顔立ちはこの世のものとは思えないほどに整っている。

神が完璧な計算で完璧に創られた。

そう言われても俺は何一つ疑うことなく信じるだろう。


つまり彼女は所謂、パーフェクト金髪ロリっ子だ。


「え? 何この絵に描いたようなパーフェクトなロリっ子は!?」


「いきなり失礼極まりないわね」


頬杖をつきながら心底呆れたような虫を見るような目で睨みつけられる。

なにか変な扉を開けられてしまいそうだからそういう刺激的なことはやめて欲しい。


「君は誰? っていうか今更だけどここは何処だ?」


丸テーブルの向かい側に座る金髪ロリっ子に尋ねてみる。

正直周りを見渡してみたけどさっぱりここが何処だかわからないのだ。


なにせ、何もない。


右を見ても真っ白な空間。

左を見ても真っ白な空間。

上も下も後ろでさえも、同じように何もない空間が広がっている。


唯一違うのが正面で、見目麗しい百点満点ロリっ子がジトリとこちらの様子をうかがっていた。


「ここは私の住処。名前をつけるとしたらそうね、女神の間、かしらね」


そう言って勝ち誇るように笑う幼女。


「なるほど。君が勝ち気な夢ロリってことだけはわかった」


「アホなの?」


「アホにもなるよ! だってこれって流れ的に俺が死んじゃって君が女神サマで今から天国か地獄か転生かって話になるんでしょ? そんなの夢に決まってるじゃん!」


そうなのだ。

この流れは古今東西何処ででも見る生まれ変わりチャンスってやつだ。

場合によっては転移の可能性もあるが、どちらにしろよく見るやつだ。


こんなのは運が良いやつが選ばれて第二の人生を謳歌するって相場が決まっている。

俺みたいな不運を一身に背負ったような奴が選ばれるわけがない。


というわけでコレは夢。

パーフェクトロリっ子を見ることが出来ただけで満足。


そう思い、俺は席を立ち幼女に別れを告げて歩き出そうとした。

その背中に、冷たい声が投げかけられた。


「後2歩。踏み出したら存在が消えるわよ」


「へ? ・・・おわ! な、なんじゃこりゃ!?」


幼女の言葉がスイッチであったかのように俺の目の前の地面が消失した。

目の前と言うより幼女が座る丸テーブルより少し大きい円の空間以外が真っ黒になった。


白と黒。


こうやってくっきりと色が分かれると白の上にいる方が幾分か安心感を覚える。

妙な感想を抱きながら俺はへっぴり腰で元の席につく。

その正面でパーフェクトロリ子がドヤ顔で威張っていた。


「さて、単刀直入に言うわね。貴方死んだのよ」


「もうちょっとオブラートに包んで」


「貴方は不慮の事故に見舞われたのよ」


「意見を取り入れて頂きありがとうございます。ってええ!? やっぱり死んだの!」


唐突に脳裏に濁流の映像が流れ込んでくる。

白と茶色と黒。

それが混じり合って重なり合って。


思い出した。

俺は死んだんだ。


「思い出したみたいね。まぁそれで、何となく察しているみたいだけど私は女神の一柱で名前をフォーチュン。幸運を司る女神様よ」


胸を張るロリ、ではなくフォーチュン様を見る。

確かに完成されすぎたロリっ子だ。

人間ではあり得ない気もしてくる。

ということは本当に女神様かも知れない。


「その判断基準もどうなのよ」


「心を読まれた! ということは本物の女神サマ!?」


「全部口に出しておいて・・・」


!!?

俺の頭に電撃が走った。


「え? なんて? もう一回言って」


「はぁ? だから全部口に出し・・・」


そこでフォーチュン様の頬が一気に赤く染まった。

そしてテーブルによじ登り俺の胸倉を掴みあげると前後に激しく揺さぶりながら叫んだ。


「お前は! この変態! この場で本当に殺してやろうか!」


「じ、冗談じゃないですか」


いやもう本当に死んでも良いかも知れない。

こんな可愛い幼女と漫才のようなやり取りが出来たのだから。

ってもう死んでるけど。


「全くこのアホは。話が進まないからさっさと要件を言うけど、貴方に異世界で生きるチャンスをあげようと思ってるのよ」


え? まじで。

異世界転生? 転移?

この俺が?


「ほ、ホントですか! でも何で俺が? あ、まさか実は俺が隠された能力を持っているとか、勇者の血筋とか!」


「いや、貴方の人生、なんというか見てて不憫で不憫で・・・」


ただの同情だった!


がくりとうなだれながらあることに気が付く。

こういうのはあることがお約束だ。


「もしかして異世界に行ったら魔王を倒せとかそういうのじゃ?」


うまい話には裏があると相場が決まっている。

もし魔王討伐とかの使命があるならば断固拒否するべきだ。

絶対重圧に耐えられない。


「んーん。特に使命はないわ。好きに生きてくれたら良いわよ。私としてはサボテンに水をあげて育てるような感覚ね」


何故サボテン?

好きなのかな?


「え? じゃあ俺は観察され続けるってことですか?」


それは困る。

お風呂やトイレやあれやこれや。

プライバシーも何もあったものではない。

人権侵害甚だしい。

コレには断固抗議したい。


「時々ね。ずっと見てても飽きるじゃない。貴方も四六時中サボテンを見てるわけじゃないでしょう?」


そもそもサボテン育ててません。

というツッコミを入れるとややこしくなりそうなのでとりあえず頷いておく。


「さて、それじゃあ納得したみたいだし異世界転移ボーナスを上げるわ!」


そう言ってフォーチュン様は指を鳴らす。

正確には綺麗に音が鳴らなくて、テシッみたいな変な音だったが。


すると突如、テーブルの上に何かがいっぱい入ったガラスのボウルが出現した。

そしてロリ女神様はふっふっふと不敵に笑いながらそのボウルに手を突っ込むと無造作に中の物体を一つ手に取った。


それは整った六面体で、それぞれの面に丸がいくつか描かれていた。


よく見知ったそれは。



「さぁ! コイツを振ってボーナス値を決めるわよ!」



六面ダイス。

所謂サイコロだった。

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