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その光に泣く時  作者: 夏草枯々
二章 血が二人を別つまで
6/15

1

「ヒカリはこれからどんな予定なんだ?」


俺は病室のベッドに座ったまま隣の椅子に腰掛けるヒカリの方を見てそう聞いた。

幸い俺の方はこの怪我のおかげか休暇がたっぷりと与えられている。今日は診察と治療の為、動くことができないので明日以降になるけれどヒカリが暇ならこの都市でゆっくりと過ごすのもいいし、まだゴブリンの数が少ないうちにどこか近場に出るという選択肢もあった。二人で行ってみたいところの候補は沢山ある。それもこの休みでは行ききれないほどに。

ただヒカリは「次空いてるの三日後とかなんだよね」と渋そうな表情をしながら言った。俺は「そうなんだ」と頷く。舞い上がっていた自分が少し馬鹿らしい。


「行きたい予定なんてないんだけどー」


そう病室の天井を見ながら言う。聞いてみればこれから会合に出席、明日は騎士団の作戦会議に勉強として出席、帰って剣の師匠が来るので勉強、夜は魔法の勉強と、どうやらヒカリの方はかなり多忙らしい。


「その次の日はお母様がセッティングしたお見合いで…」


「お見合い!?」


俺は思わず声が出ていた。

ヒカリは「うーん」と天井を見上げたまま唸る。


「なんか豪商の貴族の方らしいよ」


そう言った後「まぁ断るつもりだけどね」とこちらを見ながら言って軽く眉を顰める。

俺は断るんだ、と頷きながら言った。その言葉を聞いて力を抜く自分が心のどこかにいるのも感じる。


「でもお見合いって毎回めんどくさいから、今から嫌なんだ」


ヒカリはそう吐き捨てるように言って首を横に振る。多分、お見合いは一度や二度の事では無いのだろう。ましてや家族が決めた相手となれば気乗りする方が難しい。


「何でこんな中途半端なのが良いんだろ」


ハァ、と大きくため息を吐き出した。


「良い所のお嬢様は大変そうだね」


ヒカリは苦笑いをしながら「良い所のお嬢様じゃないのに大変なんだけど」と言う。

それに俺は頷き


「その次の日は空いてるんだったよね?」


そう言うと先程まで暗い感じだった彼女の雰囲気がスッと明るくなった気がした。特に口元や目元の辺りが明るく上向きになったように思う。


「うん、空いてる」


そう言いながら俺の方に目を向ける。声色もどこか弾んでいた。

俺は少しの間、天井を見上げて行きたい所の候補を何個かに絞る。結局、一番無難そうな所を選ぶ事にした。


「城壁の近くにさ、ガラス工房があるの知ってる?」


「え、知らない」


「そこ、作業場を勝手に見てて良いんだけど面白いよ。たまに赤いガラスを近くで見せてくれるし」


「勝手にって本当に大丈夫なの?」


「うん、仕事帰りに見つけて職人の方に聞いたらそこの椅子で見てろって、何回か行ってる」


「へー仲良いんだね」


ヒカリは目を丸くしながらそう言った。

俺は「…それはどうだろ」と首を傾げる。

仲は良いのだろうか。あまりそこの職人と喋ったりしないのでよくわからない。俺はただボーッと赤い球が回るのを見ているだけだし、職人の方はただ仕事をしているだけだ。ヒカリが飽きたら近くにある出店にでも寄ればいいし。


そこからしばらくお互いこの多忙だった一週間の話をする。その後、ヒカリがそろそろ行かなくちゃと言って病室から去っていった。

ポツンと病室に残された俺は何気なく辺りを見渡した。同じようなベットに寝転がった同じ騎士団の仲間達がいた。それなりに重症の者もいて顔の半分以上を包帯で巻かれていたり片腕を無くしているものもいる。今回の戦いがいかに壮絶だったかをその傷達が物語っていた。

夜になるとさらに悲惨で部屋の誰かが啜り泣く声や、突然病院内で叫び声が聞こえてきたりした。その時は部屋の数人が同じようにして起き上がり互いの顔を見た。


「困ったね」


言葉も表情もそう表す一時(ひととき)の隣人に「えぇ」と俺は頷きその夜はそこで再び眠りについた。


「最近、ゴブリン病は出て無いですし大丈夫でしょう。何か体調の変化あればすぐに病院に」


翌朝、俺は薬を飲んでそう医者に言われて退院になった。外へ出ると病院の静けさとは裏腹に市場はやけに盛り上がっている。ふと、騎士団の服を着た人が市場で嬉しそうな顔をしながら笑っているのを見かけて、裏路地から帰ることを決めた。

一歩大通りから離れてみれば昼間なのに薄暗く、吹いてくる風もどこか湿っぽい。


「なんだろうな」


思っていた騎士団と全く違うわけでは無いけれど、どこか現実と乖離している。ゴブリンを倒し賞賛されることをしてそれに喜ぶ仲間を見たのに、俺はなぜこんな遠くから歓声が聞こえるような場所を歩いているのだろうか。心がチグハグだ。


「なんで」


虫のように湧いてくるゴブリンを倒し続け、順調に貴族への道を歩いているのに…グッと歯を食いしばったと同時に自分の部屋の前に着いていた。

慣れた動きで鍵を使い扉を開ける。そこは自分の部屋なのに何故か他人の部屋のような気がした。薄暗く寂しく静かな部屋に下書きだけ終えたキャンバスがポツンとある。俺はこんな部屋で寝起きしていたのか、と眉を顰めた。

…いや、きっとうるさい生活に慣れたせいだ。野営地にいた時は十人を超える仲間と共に並んで寝ていたし、何らかの音が森から周りから聞こえていたのでそう感じるのでは無いか。

とりあえず窓を開けて部屋に日を入れた。楽しげな声が外のすぐ下から聞こえてくる。見下ろすと騎士が子供を肩車しているのが目に入った。

しばらく外を眺めた後、ベットに腰掛ける。そこでやっと自分の部屋に戻ってきたような感じがした。


「色…つけるか」


ふと、目に入った描きかけの絵画を見てそう思い立つ。

ベットの下から画材道具入れを取り出し確認すると絵の具に使う卵が無かった。しばらく悩んだ後、への字口で頭を掻きながら部屋を出た。色塗り以外にやる事が思いつかなかったので市場へと買いに出かけることにしたのだ。


「カゲル!」


市場について卵を探している最中、俺を呼ぶ声がした。

聞いた事の無い声だったが呼ばれているので振り返る。


「あぁ久しぶり」


と、言いつつ俺は頷く。

そこには名前は出てこなかったがあの日の酒場にいたような気がする同い年くらいの男性がいた。


「騎士になったんだってな!おめでとう!騎士も色々と大変らしいじゃん?今日飲み会あるんだけどどうよ?学校の奴らも会いたがってると思うよ」


彼は笑いながら俺の肩を叩いてそう言った。


「じゃあ行くよ。どこ?」


その後、場所と時間を聞いて彼と別れた。

どうせやることも無かったしちょうどいい。最近色々とありすぎて酒でも飲んで明るい気分になりたかった。

それから予定通り卵と昼食を買って家に戻り絵を描いた。

キャンバスの前の椅子に座っていると開けた窓から心地のいい風が吹いてくる。しばらく俺は鼻歌を歌いながら筆を動かしていた。腹の虫が鳴くので途中で昼食を食べて、また描くのを再開する。

描いている時、城塞都市に戻ってきてから頭の中にずっとあった違和感を忘れていた。


日が落ち始め部屋が暗くなってきた頃、俺は椅子から立ち上がり両手を上に伸ばし、背中を後ろに反った。久々に絵を描けていい休日になった、と一人部屋で頷く。その後、絵に視線を向ける。完成まで三分の一程度進んだだろうか、と思いつつ何気なく腕を擦っていた。

部屋に入ってくる風がそろそろ冷たい。窓を閉じに向かうと外は暗く見える家々には明かりがついていた。酒場に向かう時間は日が落ちたらと言われている。ベットに座り、そろそろいかなくちゃな、と考えつつ中々体は立ち上がらない。しばらくベットの上で何をするでもなくただボーッとしていた。


「悪い遅れた」


俺はそう先に飲んでいた集団に混じりながら言った。酒場はかなり混んでいて騒がしい。

俺を誘った彼は酒を呷りながら「主役は遅れてやってくるもんだから」と既に赤い顔をしながら言った。皆に拍手して出迎えられ、やりずらい、とは言えず笑って流した。

飲み始めると俺、というより騎士についての質問が沢山きた。これからどうなるのか、避難勧告が出ているけれど行くべきなのか、道中は安全なのか、皆、今後について不安を抱えている。

知っている限り質問には答えたものの、俺もゴブリンに関して知らない事の方が圧倒的に多い。今後についての不安も同じだ。それを誤魔化すように度数の高いお酒を頼んで呷った。


「お酒強いんですね」


一向に酔いが回らないまましばらく質問に返答していると、いつの間にか名前も知らない女の子が俺の隣にいて感心したような調子で言った。肩と肩が触れ合うような距離で俺の顔を覗き込むようにしながら話す。俺はお酒の入ったコップを持って中身を見つめ危うく「これは美味しいから飲めるんだよね」と言いそうになる。

本当は美味しくもなければお酒に強いわけでもない。

一度言いかけた言葉を飲み込み「今は酔っぱらってたいんだよね」と顔を逸らし濁す。


「騎士ってやっぱり大変なお仕事なんですね」


俺の返答をどう捉えたのだろうか。彼女は顔を顰めながらそう言った。

大変なんだろうか。たまに死傷者が出るけれどその分収入はとても良い。将来、騎士称号が貰えるという希望もある。


「みんなのために働いて」


「そうだね」と返事をする。ただ俺はみんなのために、と思いながら働いた事はない。感謝をされれば嬉しいしゴブリンを退治する事はみんなを守ることに繋がるのだろうけれど、それを意識しながら剣を振った事はない。戦場に立つと考える事はただ一心ゴブリンを狩ることだけに集中している。村人の救助は仕事の一環でしかない。

…ダメだ。変な酔い方をしてるな。


「そういうのカッコいいと思います」


俺は「ありがとう」と返事をして笑った。彼女はそれを見て同じように笑い「こちらこそいつもありがとうございます」と頭を下げている。純粋で良い子に思えた。

だから…


「悪い、明日早くから騎士団の所いかなくちゃいけないから先帰る。お金は置いとくから」


もちろん嘘だ。そんな予定は一切ない。明日も暇だ。

俺はコップに残っていたお酒を勢いよく飲み干してから立ち上がりかなり多めにお金を置く。誘ってくれた彼は「おぉ、忙しいのにありがとう」と真っ赤な顔でユラユラと手を振っていた。

俺は隣に座っていた彼女に一言「君も楽しんで」と言い残しその場を去る。隣にいた彼女は目を丸くしていた。


「…かなり酔ってるな」


店を出てフラフラとおぼつかない足取りにそうぼやきながら家へと向かう。

十分に店から離れて「あーあ!可愛かったなぁ!」と夜空に向かって叫んだ。多分、彼女が見ていたのは俺じゃ無く、崇高な騎士様で恐らく騎士団団長のような人を見ている。俺はそんなものになれない。

それでも良いと言われても俺には先のない地獄へ進む勇気が無い。


「ビビったな」


そう言った後、情けのない自分を鼻で笑い飛ばした。

翌朝の気分は最悪で痛む頭を抑えながら水差しからコップに注いで水を飲んだ後、再び寝た。もう一度起きた時は昼過ぎで頭痛はかなり治まっていた。

それからしばらくボーッと絵を眺めていたけれど絵の続きを描く気になれず、何もしていないのも気持ちが悪いので騎士団の所で現在のゴブリンたちの状況について調べに行くことにする。外は快晴でどこまでも続いていそうな青空が広がっている。この都市に戻ってからずっとささくれ立っている心も歩いていると次第に落ち着いていた。


「新兵期間の終了ですか!?」


落ち着いたはずの心だったが騎士団の詰所についてすぐに言われた言葉に大きく揺らいだ。動揺が分かりやすく声量に出る。俺はいつの間にか騎士見習いでは無くなっていたらしい。馬の乗り方さえ教育されていないのに何が騎士なのだろうか。


「普通は二年の教育がありますよね?」


「今回の新兵には厳しい実戦訓練があり二年分の勉強が免除となったそうだ。良かったな」


それを聞いてポカン、と口が開く。何も良く無かった。

戦場の花形である騎士は一度戦場に出れば馬に乗って果敢な突撃で先陣を切って戦い、その機動力で敵兵に大きな衝撃を与えると言われている。

そこで偉大な功績を残せば戦場の指揮官として任命され、その都市の貴族から認められて騎士称号を与えられる。それが俺たち見習い騎士の目標だ。


「そのまま使えそうな新兵は全て公式な騎士に認定されている。後で広場に知らされるはずだ」


俺は馬も乗れずに騎士を名乗るのか、と眉を顰めたけれど上官の指示に従うほかなく「分かりました。ありがとうございます」と頭を下げて詰所の資料室へと向かった。

淡い光が差し込む廊下を一歩進む度ギッギッと木の軋む音がする。横を通りすぎるのは全て騎士で皆堂々と胸を張って背筋を伸ばして歩いていた。詰所の中にいるだけで凛と張り詰めた空気に押しつぶされそうになる。同じように胸を張って歩いているのに俺だけ小さく感じた。


「見習い卒業おめでとうカゲル」


そんな聞き慣れた声がして振り返る。そこには軍服姿のカイちゃんがいた。


「俺は納得がいってないけどな」


眉を顰めながらそう苦々しく口にする。

カイちゃんはそれに一度深く頷いてから「昔とは状況が変わったんだ。騎士団のあり方も変わるさ」と言った。

俺は一度ため息を吐いてから「まぁな」と頷いた。多分、カイちゃんの言う通りなのだろう。


「あいつらには会った?」


カイちゃんの言うあいつらとはあの日の夜、共に飲んだ友達のことで俺は「いや」と首を横に振った。


「俺も見てないんだけどどっか病院か」


俺は「そうだろうね」と頷く。それから「ゴブリンどもはどんな調子なんだ」と聞いた。多分自分で調べるより騎士として先輩であるカイちゃんに聞いた方が早そうだ。


「ついてきて」


そう言って先に進むカイちゃんの後を追った先の部屋は『作戦指令室』と掲げられてあった。


「失礼します!」


俺も続いて「失礼します!」と言って部屋の中に入る。

部屋には何人もの騎士団の先輩方が手に資料を持って忙しそうに働いていた。部屋はかなり広く、真ん中に大きなテーブルがありその上には都市近辺の周辺地図があった。先輩騎士たちはその奥にあるそれぞれの机で紙束を積み上げて事務作業に追われていた。


「現状、ゴブリンたちの本隊はここから一山ほど先にいる。あと一週間程度で本隊が現れるだろう」


地図で言えばここら辺だ、とカイちゃんは真ん中のテーブル近くに立って棒で指す。

まだ見えない所にいるらしい。地図にはゴブリンたちの方角だけ記されている。


「幸い目下の脅威であった先鋒隊は村への襲撃の撃退でほぼ全て狩り尽くしたらしい。結局500匹程いたらしいが」


俺はそうか、と頷いた。500匹か。かなり多い。


「本隊の数は?」


「それが問題でね」


カイちゃんはそこで一度区切りため息を吐く。


「10万匹だ」


思わず息を呑んだ。

そんな数集合したゴブリンは聞いた事が無かった。この都市に住んでいる人の数より恐らく多い。それも圧倒的なほどに。その住民の中で騎士団に所属している人はさらに少ない。確か騎士の数は二百名とかだったはずだ。


「それじゃ戦いにならない。蹂躙だ」


と、俺は首を横に振る。


「だが、そうは言ったって俺たちはドレェスダンスの騎士でここを守る義務がある」


俺は言い切るカイちゃんを見ながら真面目だなぁ、と苦笑いをする。

ただカイちゃんの言う通りなのだろう。俺も騎士でゴブリンを前に都市を置いて逃げるわけにはいかないのだ。騎士である限りそこに絶望が待っていても戦うしかない。

そんな今後を思いはぁ、とため息が出た。


「しかも最悪なことにあいつらは飢えてなんとなく動いているわけではなさそうだ。明確に目的があるみたいに動いている」


「何が目的なんだ?」


「専門家の見立てではこの先に広がる穀倉地帯とマイム川だと」


そこからカイちゃんは予想も交えながら地図を使いゴブリンたちの説明をした。つまり増えすぎたゴブリンたちを賄うためゴブリンキングはここを侵略先に選んだらしい。そのためにはこの都市が邪魔だ。

ゆっくりと大陸を移動し続けるゴブリンたちがちょうど増えすぎたタイミングで俺たちの都市、というよりその後ろに控える潤沢な食糧のある土地が近かったらしい。色々な不運が重なっている。


「迂闊に麦畑を燃やしたら俺たちの国自体が干上がるしな」


ドレェスダンスの後ろに広がるのは我が国で一番広い穀倉地帯だ。ゴブリンを避けるために燃やすなんてのは本末転倒だった。


「他の所から応援は来るんだよな」


現状、頼みの綱はそれしかない。


「今、侯爵様が頼みに向かってるそうだ」


カイちゃんは口には出さなかったもののその表情から見るにあまり期待できなさそうだ。本国は北で隣国と戦争中で、ドレェスダンスの騎士団だけがゴブリンの軍勢が近づいているらしい、とここに戻ってきたからだ。戦況もあまり良くないと噂があり簡単に前線から引き抜いて応援に来てくれるとは思えなかった。


「せめて隣国の騎士団との協力を承認してくれればいいけれど」


そうは自分で言ったもののその隣国が相手の国と通じていない可能性もゼロではない。ましてや今回の戦争はかなり他国から心象が悪いらしい。そこも国王は分かっているだろう。簡単に頷いてくれると思えなかった。


「正直、厳しいだろうな。前国王が金で売り払って、現国王が侵略して取り戻すなんて事したらな。俺でも分かるよ。やってる事めちゃくちゃだって」


カイちゃんも同じ意見らしい。

俺は「そうだね」と頷く。


「…一旦、戦争を金か何かで手打ちにして、ここの対処をしてくれるのが一番良いけど」


現状北で争っているのはこの国を百年以上支えてきた(ヘオス)鉱石の取れる大きな鉱山を巡ってのものだ。我が国を照らす鉱石と称えられ物理的な照明として家々を照らし続けた鉱石だ。世界規模で見ても大きな鉱山らしく売り払った時は大きな話題となったのを覚えている。国王のやっていることはめちゃくちゃだがそれでも取り返さないといけないほどの利益があの鉱山にはあるのだろう。自分で言っておいてなんだが、手打ちしてここが解決すればまた攻めてくるのは目に見えていた。手打ちを受けるわけがない。相手の国からすれば是非ゴブリンは頑張ってくれ、と言った具合だろう。


「ただ流石に、ここを手放すのは考えられない」


「そうだね」


そこは二人とも同意する。


「そもそもここを突破されたら西の国の城塞都市じゃあ守れない。次に止められそうなのは我が国で王都に次いで二番目にデカい都市になる。そこまでの道中は全滅だろう。そうなれば国が半壊だ」


そう言ったあと、それを許すほど国王も馬鹿じゃないだろ、とカイちゃんは鼻で笑った。


「西の国…応援出してほしいけど」


カイちゃんも言った通り、ここで抑えられなければ西の国も甚大な被害が出るのは間違いなかった。多くの人が犠牲になる。上手いこと侯爵様が取引してくれれば良いけれど。兎も角、何をするにしても国王の許可はいる。


「それでこの都市がゴブリンから守れたけど西の国にとられました、なんてなったらお笑いだけどな」


「そうだよなぁ」


多分、それも色々と難しいのだろう。

一旦、そこでカイちゃんと共に部屋から出た。


「実際、カゲルの見習い期間終了も防衛戦において見習いだから、みたいな割り振りが面倒だったからじゃないかと俺は予想してる」


「…馬に乗れない騎士か」


「今後、馬に乗る騎士なんてのは形骸化していくんじゃないか。今ですら勲章のほとんどが騎士としての活躍より指揮官としての活躍を認められてって場合が圧倒的に多いわけだし」


「カッコいい騎士なんてのは元々いなかったのかもな」


俺は昨日のことも思い出しつつ口にする。カイちゃんは「かもな」と言って頷いた。

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