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俺たちは森を歩く。どこからか鳥の声が聞こえてくる。周囲には木とそれに絡みつく蔦が鬱蒼としていた。そのせいか地面は日が当たらず荒い土と角ばった石ばかりになっている。これでは余計に草が育たないだろう。見上げると暗い葉の裏側とその間から見える木漏れ日に目が眩んだ。
「止まれっ!」
そう先頭にいた仲間が手を横に伸ばして叫ぶ。俺はグッと剣を握りすぐに周辺に目を凝らし耳を澄ませる。何度も練習した動きはほぼ何も考えず自動的に行われた。
少しして僅かにギャッギャッと憎きゴブリンの声がどこからか聞こえた。俺が「いるな」と声にすると仲間も聞こえていたらしくこちらを見て険しい表情で頷いた。
俺たちが森に入った理由の一つに村の子供二名の捜索がある。村の近くで遊んでいた子供達がつい数時間前から忽然と姿を消したらしい。近頃のゴブリンの件もあるので心配した両親から騎士団に依頼が来ていた。
俺たちはいつものゴブリン狩りのついでに森の捜索を行っている。
「進むぞ。気をつけろ」
俺たちは先頭に続いてジリジリと声が聞こえた方向へと向かう。
ふと、木の影にそいつはいた。まず先頭の仲間の肩を叩き、後ろにハンドシグナルで知らせる。ゴブリン四匹、俺たちの数は同数、軍の規定では同数までなら現地での対処が許可されている。
俺は先頭の仲間の指示を待ちながらゴブリンの様子を伺った。あいつらは地面に這いつくばっている。
一瞬、体に雫が落ちてきたようにヒヤリとした。ジッと目を凝らす。幸い地面に血や人らしきものはない。どうやらいなくなった子供達の件とは無関係らしく俺は軽く息を吐く。あいつらは雑食なので虫かミミズでも探しているのだろう。
こちらに気がついた感じはゴブリン共にない。今ならやれそうな気がするけれど慎重に行くのなら待ったって良いし仲間を呼びに一旦引いても良い。
「行こう」
先頭の仲間は対処可能と判断したらしい。俺たちは頷き限界まで木々を使って距離を詰めた。
攻撃のハンドシグナルが行われる。その後カウントが始まりゼロを示す。
瞬間、俺は地面を蹴って走り込んだ。周りの仲間も同じように詰めるのが肌で分かる。
「うおおおおお!!」
俺は叫んで剣を振る。一撃でゴブリンの肩口から腹まで切り開いた。一瞬、周りを見れば仲間も同じように剣を刺したり振ったりしている。誰も彼もが必死でそこには命をかけた戦いがあった。
「さらにいるぞ!」
仲間が叫ぶ。さらに四匹、涎を垂らし腹が変に膨らみ手足が枯枝のように細いゴブリンが真っ直ぐこちらに走ってきている。特徴から見て間違いなく飢餓状態のゴブリンだ。あの状態になると錯乱してなんでも喰おうとする。本来恐るはずの熊や人、食べられそうなら仲間までも喰らう。
だけど、その分動きは単調になる。
俺の突き出した剣の先がゴブリンの頭蓋骨に当たりそのまま貫く。引き抜くまでもなく死んでいるのが見て分かる。剣を抜くとドサッと音を立ててゴブリンが崩れ落ちた。引き抜く時のぬるりとした感触はまだ慣れない。慣れる日は来るのだろうか。
「周辺警戒!」
仲間が叫び体は自動的に辺りに目を凝らす。
散らばったゴブリンの亡骸、遠くの方から鳥の鳴き声が聞こえて来る。地面の石を踏んだままの不安定な足元、キツい獣臭。
「これで八か、一気にきたな」
仲間の一人がもう既に警戒を解いてそう言った。規定は小さな砂時計一回分。手元にないので感覚になるが警戒を解くのはもう少し先だ。俺は何も言わず辺りを見渡し続ける。仲間が亡くなったあの日に学んだ教訓は上官の指示には絶対に従う事だった。ゴブリンにあったら戦わず逃げる、と言われていた事に従わなかったせいで仲間が死んだ。結局の所それも一つの要因でしかないけれど。
「カゲルは解体、他は周辺警戒を続けろ」
「はい!」
俺は地面にしゃがみこんで懐からナイフを取り出し解体を始める。
ゴブリンの爪は錬金術の基礎的な素材として使われる為、騎士団の資金繰りの一環として集められている。俺たちも手数料やら税金やらを引かれた後、討伐報酬として売上金の一部がもらえるけれどゴブリンの爪はかなり安い。見たことがないけれど森にいるデカく黒い狼であるロゲンヴォルフの毛皮は高級品で一頭で一月分の新兵の給料くらいあるらしい。一度は見てみたいものだ。
「リーダー、俺も手伝って良いっすか?」
「うん、僕も手伝うよ。早く帰りたいし」
その後、続々とみんなが解体を手伝ってくれる。周辺警戒はその間チラ見で行われていた。幸い、この日あったゴブリンはそれだけで俺たちは誰も怪我をせずに森から帰れた。こういう日が続いてほしいものだ。
「多いな」
俺は野営地に戻りその日集まったゴブリンの素材を見てそう呟いた。今日は他のチームも多くゴブリンに接敵したらしい。逆にここでよく見るもので言えばウサギの皮や足なんかのそれなりに高値で売れる人気な素材は無い。
その後もしばらく素材の集積所を見ていた。次々にやってくる仲間たちの持って来る素材を見る。本当にゴブリン以外の素材は一つもないのようだ。俺はうぅん、と小さく唸り踵を返して広場の掲示板へと向かった。
「ゴブリンの森だな」
俺は森の方を眺めながらそう呟いた。やはり掲示板に記された今日の戦果報告の欄にもゴブリン以外の名前は無い。あの青々と茂る木々の中にはもうゴブリン以外いないらしい。それは流石に異常だ、と顔を顰める。ため息をついてやけに静かな森を背に俺は村へと向かった。
村に入ると見知った人物が見えた。
俺は思わず「カイちゃん!」と声を上げる。カイちゃんは俺の方へと向き手を上げて駆け寄ってきた。
「久しぶりーでも無いか?一週間とちょっとぶりになるのか」
「そうだな、そっちはどうよ?本隊の方は」
「もう超忙しいよ。ゴブリンの処理だけで手一杯って感じ」
そう言ってカイちゃんは首を横に振る。
「カゲルの達方は貴族への夢は順調か?」
「あぁ、あいつらもたまに怪我をしてるけど順調に戦果を伸ばしていってるよ。新兵ではかなり上の方だ」
それ全部ゴブリンだろ、とカイちゃんは笑う。
確かに俺たちは騎士なのにゴブリン狩りしかやっていない。本来騎士は馬に乗って戦場を駆けるものじゃないのか。
俺が渋い顔をしていると「まぁ仕方ないよ。今は騎士団じゃなくてゴブリン狩り集団だ」とカイちゃんは笑って言った。
俺は本当だよ、と口を尖らせた後、笑う。その後もゴブリン狩りの愚痴を酒場に入り言い合った。
カイちゃん曰くどうやら今のゴブリンは先鋒隊らしい。更にその後にゴブリンキングと呼ばれる親玉が率いている本隊が近づいているらしく、そうなれば村は終わりだそうだ。
「災害だな」
俺はため息をつくようにそう呟いた。ゴブリンの本隊が逸れてくれる事を祈るしか無いが、ここに陣地を築いたという事は上官達の予想はきっとそういう事なのだろう。
「結局、今日の探索で子供達は見つかってないしな」
「あれもゴブリンの仕業なのか?」
「十中八九そうだろうな」
二人の間に沈黙が訪れる。ゴブリンに喰われたものは骨も残らない。捜索は難航しそうだ。
サラリと子供達が何事もなく帰ってきてくれたら良いけれど。
「まぁとりあえず考えてたって仕方ないし飲むか」
ニッと笑ってカイちゃんが言う。
俺はまっそうだな!と強く頷き酒を掲げ
「「再会にかんぱーい!!」」
共にそう叫んで互いのコップを打ち鳴らす。
その後、勢いよく酒を呷った。いつの間にか俺たちの卓には友達達が合流していて、友達がさらに友達を呼び、楽しげな様子に惹かれた村の方まで卓を共に囲み大いに飲んだ。
「「ワハハハハ」」
そんな笑い声が酒場の外まで聞こえていたらしい。
俺は結局、野営地に戻らなくてはならない時間のギリギリまで飲んでまともに歩けないので背負われて帰った。
言うまでもなく翌日のゴブリン狩りの体調は最悪だった。
「流石に酒は当分控えよう」
俺はそう呟きながら未だジンジンと痛む頭を手で抑える。
ふと、村を歩いているとバイオリンの音が聞こえた。俺はまさか、と思いつつその音を頼りに近づく。駆け足で家の角を曲がって見えた景色に俺はフッと小さく笑った。
やはりその音色はカイちゃんだった。村の人の家先で椅子に座りバイオリンをうっとりと気持ちよさそうな顔をしながら弾いていた。町では何度も聞いた音だ。
「やっぱり」
俺はそう言いながらカイちゃんに近づく。
カイちゃんは顔を上げて「おお、カゲルか」と言ってバイオリンから手を離した。
「久々に弾いたが手が覚えてるもんだな」
「借りたのか?」
「あぁ昨日ここの人と話してたら偶然バイオリンの話が出てな」
そりゃ良かったな、と言いながら家の壁に背を預ける。バイオリンは貴重品であり財産だ。それを貸して貰えるということは昨日相当ここの人とカイちゃんは意気投合したらしい。
しばらくの間、青い空を眺めつつカイちゃんの弾くバイオリンの音色を聞いていた。今日はヒカリに会えるかもしれない日だ。もう少ししたら酒場の前に行かなくちゃな、なんて事を考えながら俺は目を瞑って欠伸を噛み殺した。
「カゲル!」
俺を呼ぶ声がして辺りを見渡す。
向かった酒場の前でヒカリが俺の方へ手を振っていた。どうやら先についていたらしい。
「悪い、待たせた」
俺がそう言って近づくとヒカリは首を横に振る。
「わたしも今来たとこ」
「そうか。今日はどうする?」
ヒカリは一瞬、視線を逸らした後俺を見て「中で話す?」と言う。俺は首を傾げて「魔法は?」と言っていた。準備してないなら別にいいんだけど、とその後に続ける。俺より頭一つ小さな所からヒカリは「覚えてたんだ」と目を丸くして俺を見上げた。さっきからヒカリの顔は俺の方に向けてあったのに唐突にそう感じて苦笑いを浮かべる。その後、俺は「二日前のことだぞ」と口にした。
「いや、なんか興味ないけど話合わせたのかなーって」
「何だそれ」
俺はそう言って小さく笑う。
ヒカリが「準備してる」とだけ少し早い口調で言った。
「え?」
「本隊の野営地に準備してるから」
「じゃあ行こうよ」
俺たちはその後、本隊の野営地に向かった。道中ヒカリから軽く魔法の説明を聞いたけれどよく分からなかった。魔法は神様の奇跡の再現らしい。俺は神様ねぇ、と呟くように言った。
もし神様がいるなら死んでいったあいつを生き帰らしてくれ。
なんて思ったけれどそういう叶えられない願いが積み重なって今の教会の廃れ具合があるのかな、なんて頭をよぎった。もはや神がいるかどうかより魔法という学問の一種になっているのだろう。
「本当は今日見せる魔法、夜の方が綺麗なんだけど」
「…じゃあ夜まで待つか」
俺は何気ない調子でそう言った。罰はもちろん受けたくない。でも、ヒカリが望むのなら罰だって受けれた。元々、俺は規定に従うタイプじゃない。だからあんな事が起きたのだろうけれど、今回罰を受けるのは俺だ。
「いいの?」
「あぁ、滅多にない機会なんだし」
「そっか」
それからヒカリは「夜まで」と呟いていた。空を見上げると青い空に日は高く登っている。夜にはまだ時間があった。
「本隊の野営地ってよく知らないし、どうやって時間潰そうか」
俺は空を見上げたままそう言った。
本隊の野営地に行くのは初めての事だった。本隊にいるカイちゃんからも野営地については何も聞いていない。興味もなかったし。
「じゃあ案内してあげよっか」
「お願いします」
俺は冗談めかしにそう言って頭を下げる。ヒカリはうむ、と言って笑っていた。
その後、ヒカリに案内され本隊の野営地に着いた。まず外から見ただけで俺たちの野営地との違いが分かった。大きいのだ。よく行く村よりも広い敷地に見える。周りを木の柵と堀で囲い中には大小のテントが立ち並んでいる。沢山の人と馬や犬の姿も見えた。中では談笑する男達の声が聞こえてくる。掲げられたドレェスダンスの軍旗が風に靡く本格的な野営地。それを俺はポカンと口を開けたまましばらく眺めた。
「…凄いな」
ただ何も考えていない感想がそのまま口から出ていた。
「そんな驚く?」
俺の方を見ながらヒカリは首を傾げてそう言った。ヒカリにとっては子供の頃から見ていた光景なのかもしれない。けれど、俺にとってはいつかの自分が思い描いていた騎士の野営地がそこにはあった。俺もヒカリの方を見て
「驚くでしょ!一個の街が出来てるじゃん。すげぇよ」
俺は感情を抑えきれず、昂ったままそう言っていた。
ヒカリは「まぁ」と一度飲み込む間があって「確かに」と言った。そうヒカリは言ったけれど納得はいってなさそうだったので俺は堀の方を見ながら片方の眉を少し上げて頭を掻いた。まぁ仕方ない。
その後突然ヒカリが噴き出すように笑って「なんかちょっと子供っぽいね」と揶揄うように言った。
「えー?」
「ほら見てるだけじゃなくて行こうよ」
そう言ってヒカリは堀にかかった橋を走りながら門の先を指差して進む。俺もその後を追った。
野営地の中は一つの街のようだった。鍛冶屋、馬屋、料理屋、多数の寝泊まりするテントがそこらにある。その間ヒカリはキョロキョロと辺りを見渡す俺を楽しげに眺めていた。たまに視界に入るたびニマニマしているのでもう良いや、と諦めて素直に楽しむ事だけに集中して見ることにした。
そうして歩いている時にふと久々に香辛料の効いた美味そうな焼けた肉の匂いを嗅いだ。
見ると近くの店で小さな鳥を吊るして焼いていた。店の奥からピーピーと鳴き声が聞こえて来て頬が引き攣る。それは如何なものだろうか。まぁただそれはそれとして肉に罪は無い。先ほどの鳴き声は聞こえなかったフリをしつつ俺は肉に視線を戻す。
「美味そうだな」
「買っていく?」
「そうしよっかな。ヒカリもいる?」
ヒカリは険しい顔をして腕を組み「うーーーん」と唸った。その後、ジッと焼かれて茶色になった香ばしい匂いの漂う肉を眺め…
「食べない!」
ヒカリはそう言って目を瞑り顔を店から道の方へと向けた。
「あら」
「今のスタイルが崩れると服が死んじゃう。もしそうなったらお父様に怒られお兄様に詰られメイド長に叱られる」
ヒカリは怒られた時の事を想像しているのか、少し青くなりながらそう言った。
「…色々大変だな」
前も言っていたけれどヒカリはどっかの貴族に嫁ぐまで本当の自由は無いのだろう。いや、多分嫁いだとしても無い。それは生まれた時の血によって縛られているのだろう。
それに貴族の着ている服は確かに窮屈そうだし、自分にピッタリ合うようにオーダーメイドしているらしい。貴族らしく服にもかなりの金が掛かっているのだ。
「俺のを摘むくらいならセーフじゃ無いか?」
俺が何気なくそう言うと、ヒカリは口を開けて眉を顰め視線をどこかにやって変な顔をした。多分、混乱している。
その後俺を見上げ嬉しそうに口元を綻ばせ親指と人差し指に少しの間を作って「ちょっとだけ」と言った。
「全部食べて良いけどね。俺また買うし」
「それじゃ意味ないから」
そう言ったけれど口調はとても嬉しそうだった。
その後、食べたヒカリの感想は「美味しい肉と罪悪感の味がした」らしい。俺は肉にかぶりつきながら大変笑った。
そんな事をしながら本隊の野営地をダラダラと喋りながら回った。その後夜には少し早い時間に野営地から少し離れた原っぱに陣取り魔法の準備をする。簡易な祭壇と供物の肉、後は赤い色をした粉状の香料が入った袋。後で肉を祭壇に焚べる時、袋の中から香料を取り出してかけるらしい。
俺は木の下で座り込んだままそんな説明を受けた。
「カゲルはさ、本当に良かったの?」
あらかたの説明を終えたヒカリが隣で首を傾げながら言った。丸い水色の目が俺を見ている。
「何が?」
「軍の規定破っちゃって。罰則あるでしょ」
「まぁ良いっしょ。もっと居たかったし。そりゃ毎回ってわけにはいかないけど」
ヒカリは「そっか」と言った後、木の幹に頭を当てて空を見上げ鼻歌を歌い出した。
俺も同じように空を見た。藍色の空、まだ少し冷たい風に草の匂い。夜がもうすぐそこだった。
「なんか眠くなってきちゃった」
ヒカリはそういった後、あくびをする。
「えぇ」
それは困る、と眉を顰めた。俺は魔法を見る目的で罰則を受けるのだ。ここに来る途中で出会った上官にもそう伝えていた。
ヒカリは「嘘嘘」と言って笑う。
「じゃあ準備を始めるね」
そう言って予め置いていた小さな白い陶器の祭壇に火打ち石で火をつける。その後、火のついた祭壇に供物の肉を置いてそこに香料を振りかけた。赤く踊る火に照らされ灰色の煙が星が煌めく夜の空に登っていく。しばらくすると鼻に香料の甘い香りが届いた。隣でヒカリはジッと燃える火を見ている。真剣な表情をしているので話しかけずに火に照らされた横顔を眺めていた。
「多分、出来る」
ヒカリがそう言って虫を両手で閉じ込めた時のような格好をしながら俺の方へと体を向ける。
俺は少し離れて息を呑み魔法とやらを見守った。
「いくよ」
そう言ってヒカリは両手を広げる。その間には白く光を放つ小さな球体が何個も浮かんでいた。キラキラとした光る粉を落としながらフワフワと浮かんでいる。俺はその様子に目を疑い思わず目を擦った。
「えっ、凄!!」
「良かったぁ。今日は結構光ってる」
ヒカリはそう言って安堵の息を吐き出し微笑んだ。
「えっ凄いよ!!これ!!」
近くで見ると本当に何もない所が光っている。フワフワと上下に揺れているけれど落ちるような様子はない。
「触れないけど触って良いよ」
そう言われて光を放っている所に手をやる。確かに触れない。なのに指の隙間から白い光が出ている。どう言う状況なのだろう。現実にこんな事があり得るのだろうか。
ふと、疑問に思い下に落ちていく光の靄のようなものにも手をやるが積もったりせず手をすり抜けて落ちている。さらに謎が深まった。
「えぇ、すげぇ」
「さっきから凄いしか言ってない」
そう言ってヒカリは笑っている。
それから「見てて」と言い手を動かす。光を放つ球がヒカリの手に合わせてフワッと動いた。
「ええええ!?どういう事!?」
そんな俺の反応にフフフ、と口元を抑えながらヒカリは笑い「いくよ」と手を翳したままその場で一回転した。
光の球たちがそれに合わせて勢いよくヒカリの周りを回り、それに合わせて白い光の粉が舞う。
俺はポカーンと口を開けてまた「凄い」と言った後、俺は頷き「確かに、これは夜の方が良いね」と言った。
「でしょ」
ヒカリはそう言って上機嫌そうにニコリと笑い「そう言ってもらって良かった」と口にした。
それからしばらく光の球を見つつ魔法の勉強が如何に大変だったかを聞いて解散になった。魔法の光は最終的に萎むように消えてしまった。
俺が少し寂しそうに「消えたね」と光の球があった場所を見ながら言うとヒカリは「またいつでも出してあげるから」と笑って頷いた。
それから俺は新兵達で作った野営地に帰り眠い中、叱られ反省文を書いて提出し寝りについた。上官も事情を知っていたからかそこまで強く言う事無く形式上のものだったような気がする。
俺はヒカリと上手くやれていたと思っていた。
だけど翌日からヒカリは忽然と姿を消した。




