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その光に泣く時  作者: 夏草枯々
一章 心臓の音
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2

俺は慌てて馬車から飛び降りて言われた通り並ぶ。一息つく間もなくゴッと背後から音がして振り返ると、上官が並ぶのに遅れらしい人を罵りながら殴っていた。俺はどうやらとんでもない所にきてしまったらしい、と眉を顰めながら目を逸らした。


その後も俺たちは怒号の飛び交う中で言われるがままに作業をする。どうやら今から平原の中に野営地を敷くらしい。もう日没まであまり時間がない中、各自言われた通り手を動かす。テントを張ったり水を汲んだりだ。幸い俺は町でもこんな感じの仕事だった為になんとか殴られずにすんだものの慣れていない人にとってはとことん苦手な分野らしく上官から厳しく指導されていた。

ふと、自分が担当していた所が終わった時、水を運んでいた細い体の同僚が目に入った。二つの木のバケツを持ちながら危なっかしく走っている。顔には青いアザがあった。


「片方持つよ」


俺は走っていって声をかけた。初めは目を丸くしていた彼だったが「助かるよ」と片方のバケツを差し出した。


「こういう肉体労働は初めてか?」


「そうだね。やっぱり現実は甘くないらしい」


彼はタハハと力無く笑いながらそう言った。俺はらしいな、と頷きタルに水を注ぐ。


「まだあるのか?」


「うん、でも、ありがとう。君もやる事あるだろ?」


俺はまぁ、と言って小さく頷く。

そろそろ上官から次の指示を受けに行った方が目をつけられなくてすみそうではあった。


「えっと名前を聞いてもいいかい?」


「カゲルと呼んでくれ」


僕は、と彼は自分の名前を言った。俺は頷き頭の端に彼の名前を記憶しておく。その後、俺は上官の元へと向かった。

やがて何もなかった平原にテントが立ち並び野営地作りに終わりが見え始めた頃、上官が「四人一組の班を作り森に行って薪になるものを集めてこい」と声をかけた。


「必ず森に入るときは配った剣を持ち四人離れずに行動する事。ゴブリンやその他の魔獣に出会ったら戦わず戻って上官に報告する事」


俺は早速友人二人を集める。本当はここにカイちゃんがいれば完璧だったが新兵達とは別の場所にいるらしい。

後一人か、と顔を上げて辺りを見渡した時「カゲルくん」と呼ぶ声がした。先ほどの彼がいてよかったら入れてくれないか、との事だったので断る理由もなく俺はその提案に頷いた。


「ちょっと前までパン焼き職人の親方の下で働いてたんだけどまさか受からないと思っていた騎士団に合格しちゃって辞めてきたんだ」


俺は彼の話を聞きながら暗くなってきた森で薪を拾い集めていた。森は鬱蒼としていて少し先の視界もままならない。気温が下がり少し肌寒くなってくる。早く薪を集め終えて野営地に戻りたいものだ。


「俺は城壁の修理と改修作業の手伝いだったな」


「だから慣れていたのか」


と、彼はゆっくりと頷いた。


「で、どこのパン屋だったんだ?俺たち結構色んなところ回ってるぞ」


俺の背後から友人が彼に声をかける。

確かに、街のパン屋は大体知っているつもりだ。


「大通りの市場に店を出してるよ。まぁ店を仕切ってたのは女将さんで僕はもっぱら裏方だったけど」


俺はへー、と何気なく返事をして大通りのパン屋を記憶から探した。


「そこって野菜パイって売ってたりする?」


「あぁうん。あれはうちの売れ筋商品だよ」


「あれは俺もよく買ってる」と答えながら意外な所で繋がったな、と思った。美味しいからね、と満足げに微笑んで頷いる。次々に友人が「俺も今日食った」と声をかけて彼は「嬉しいよ」と笑っていた。

そんな時だった。

ガサッと音が鳴り何かのシルエットが俺たちの前を横切る。

俺は咄嗟に剣に手をかけていた。


「なんだ…?」


皆同じように剣を持ち暗闇に目を凝らす。

シルエットは少なくとも1m以上あった。俺の頭にはゴブリンが思い浮かぶ。


「ゴブリンか?」


同じことを思ったらしい友達がそんなことを呟く。

俺はかもしれない、と相槌をうった。もし襲ってくるようなら…


「と、とりあえず薪を集めて早い所戻ろうよ」


「あぁ」


各自、さらに手早く薪を集めて回る。

その後、幸いな事に薪を集めている最中、特に怪しいシルエットを見る事なく作業は進んだ。

俺たちは一度集まり薪の量を確認し大丈夫そうなので帰路に着く。


「意外とただの野生動物だったのかもな」

「まぁゴブリンだったとしてもこの剣で一発だがな」

「一番ビビってたくせに」


そんなツッコミで俺たちは笑う。


「ゴブリンなんかにビビるかよ」


友達は大きく手を広げ鼻で笑ってそんなことを言う。俺はハハハッと声を上げて笑った。

その瞬間、木々を掻き分ける音が鳴りゆっくりと一匹のゴブリンが姿を見せた。1mほどの細い体、濁った緑のような色、細長い顔に長い耳、こちらを見ながらギャギャと動物の鳴き声みたいた声を放つ。

固まる俺の隣で「ゴブリンなんて雑魚だろ」と言いながら剣を抜いた音がした。

俺は「あぁ雑魚だ」と自分に言い聞かせるように言って薪を置き剣を抜く。


「ここでゴブリンを狩れば俺たちが新兵で一番初めの戦果になるぞ」


それに友達がニヤリと笑い「頭ひとつ抜けるな」と言った。

俺は競争だ、と言いながら剣を構えて真っ先に駆け出す。


「ウグッ」


突然、そんな声が後ろから聞こえてきた。

俺は「は?」と声を上げながら足を止めてなんとなしに振り返る。

後ろにいた彼の腹に何か喰らい付いている。ハッと気がつく。ゴブリンだ。彼の腹に牙をたてている。彼の痛みに歪んだ顔とゴブリンの喰らいついた所が赤く滲んでいくのが見えた。唖然とする俺の先でさらにもう一匹、彼に飛びかかっていく。彼の持っていた薪が投げ出されパッと宙に散らばっている。手を伸ばしながら倒れていく彼のさらに後ろ、森の暗がりの中、黄色く光る目が何個も見えた。

彼は地面に倒れる間際に俺を見ていた。俺は裂けそうなほどに見開いた彼の目を見て直感する。

ーーあっ死ぬ。


「うわぁぁああああ!?」


咄嗟に俺は叫びながら剣を捨てて逃げていた。立ち塞がるゴブリンを物ともせず震える体をがむしゃらに動かし元きた道を走る。途中何度も転んで傷だらけになりながらそれでも立ち上がって走った。道中顔を振って左右の闇を確認する。黄色の目がどこから飛び掛かってくるか分からない。すぐ後ろにゴブリンがついていたっておかしくないのだ。

突如俺の視界がパッと明るくなり森を抜けた。すぐ先に柔らかな光が灯った野営地が見える。野営地の周りを歩いていた上官の足元に縋るように倒れ込んだ。


「ゴッゴブリンがいたんです!仲間を喰って!助けてください!」


俺は叫びながら森の方を指差す。

上官はすぐさま周りの人に声をかけて頷き「案内してくれ、すぐに向かう」と言った。

道中、幸いにも友達二人はすぐに見つかった。一人は腕の肉を食いちぎられていて血まみれで野営地の方へ走ってきていて、もう一人は道中の道で気絶していた所を発見された。


「この辺りのはずです」


やっとの思いで戻ってきてそう言った。辺りは暗く上官達の持つ灯りだけが頼りだった。彼の声がしないどころか風の音すらない。あるのは上官達が辺りを探す足音と声だけが響く。

ふと、何かが足に当たり地面を見れば俺が投げ捨てた剣があった。

俺は「あ」と声にする。視線の先に赤黒い血溜まりがあった。


「ここにいたんです!本当です!ここで彼はゴブリンに噛まれて」


俺はそう言って血溜まりを指差して上官に話す。

上官は一度血溜まりを覗き俺の肩に手を置いて悲しげな表情で首を横に振った。


「分かってる。ゴブリンに喰われたものは骨も残らないんだ」


そう優しい声で言ったのだった。思わず膝から崩れ落ちた。

嘘だろ、と地面に手をついた。俺が逃げ出したせい…なのか。逃げてなきゃせめてあいつの家族に何か届けるものがあったのか。彼の満足げに微笑んだ顔が脳裏に浮かぶ。情けねぇ、そんな言葉と共に目から涙がこぼれ落ちて地面を黒く塗った。


「まさか、こんな所まで」

「聞いた感じ飢餓状態で間違い無いだろう」

「予定よりかなり早いペースです」


少し離れたところで上官達が顔を見合わせながら話し合っている。


「ほら立って、薪を拾って帰ろう。彼も軍人になったんだ。覚悟を持って君らのために体を張って時間を稼いだ。紡いでくれた命に感謝しよう」


肩を掴まれて立ち上がる。体は立ち上がったものの心は沈んだままだ。俯いたまま薪を拾い、上官達に囲まれながら野営地に戻った。

それからの野営地には現実的な脅威が迫っている事を知った新兵達が見違えるほど積極的に行動し始めた。俺も例外では無かった。

昼は剣の扱い方、集団での戦闘行動の基本などを体を動かしながら学び、夕方からは野営地での生活のために働きそれが終わればゴブリンの習性についての座学が行われた。


「ゴブリンに食われた者は骨も残らない」


そんな言葉も再び聞いた。

食べられなかった部分もゴブリンキングと呼ばれるゴブリンのリーダー的存在の元に集められるそうだ。大体は洞穴にいて財宝や武具、頭蓋骨がそこに集められているらしい。そこに行けばあいつの遺品があるのか、とそんな話を聞きながら思った。

それから俺達がそんな生活を一週間ほど繰り返した頃だった。


「もう既にこちらの野営地近くに主力部隊が合流している。そこには騎士団団長、副団長もいらっしゃる、くれぐれも粗相のないよう気をつけるように」


はい、と新兵達が揃って声を上げる。この一週間仕事中は常に上官が共にいて厳しく軍隊内での上下を教わり心と体にしっかり規律が染み込んでいた。幸い新兵達であれから死者は出ていない。怪我人は何人か出たし辞めた者もいたけれど死んでいないだけで何より良かった。

それから上官の話を聞いて俺の今日の仕事が終わる。

座学に向かう者もいるが俺は座学の試験に合格したのでその分の時間が空いていた。どうしようか、と首を傾げしばらく考えてから近くの村に向かう事にする。村には酒場や娼館がありよくそこを訪れた。息の詰まる軍隊生活にとって村が唯一の癒しだ。


「あれ?」


いつか見た黒いドレスに白い透き通るような髪、後ろ姿だけで誰か分かった。


「ヒカリ様、お久しぶりです」


俺は手を上げながら走り寄って出来る限りにこやかに話しかける。一瞬、ヒカリは顔を顰めた後「お久しぶりです」と言った。多分、忘れられているな。


「カゲルです。一週間ぶりくらいになりますね。あれから特にお変わりなく?」


ヒカリは小さな声で「…カゲル」と呟いた後、表情を直し


「えぇまぁ、騎士団団長の娘として寝場所が前線に戻ってきたくらいで特には」


「そうですか。きっとヒカリ様には後方と変わらないフカフカのベットくらい団長様が用意してくださるのでしょうね」


「まさか。将官達と同じ寝具です。娘だからと優遇はされません」


俺は「それは失礼しました」と答える。どうやら学友の話していたヒカリがどれだけ団長に愛されているか、というのは作り話であったらしい。勘弁してくれ、と苦虫を噛み潰したような顔を笑顔で塗り潰し隠した。


「カゲルと言いましたか、貴方この後、時間はありますか?チェスを一局と思ったのですが、確かチェスは出来ましたよね」


「ええもちろん、是非喜んでお受けいたします」


笑顔で頷き、酒場のテーブルでチェスをした。

結局、対局は俺が勝った。勝ってしまった。


(やっちまったぁああああああ!!)


あぁチェックメイトになりましたね、と呟くヒカリを見てチェックを言っている手前「あっ気がつきませんでした」なんて言えるわけもなく「えぇチェックメイトです」と言っておいた。

本当は床に頭を抱えて蹲りたい。何やってんだ俺。相手は立場が上も上、最上級のお方だぞ。心中ではグギギと醜い顔をして唸っていたが「もう一戦しますか」とまるで動じていないように言える辺り先祖の何処かは意外と高い身分ではないのかと少し自分を見直す。


「あなたのお時間が許すのであれば、是非」


そう言いながらヒカリは俺の目を真っ直ぐ見据えて頷いた。水色の目が力強く俺を見る。

俺は「では」と言いながらチェス盤に駒を並べていく。自分のやらかしに焦った反面、気分は良かった。勝負事に勝てたこともそうだが、久々にちょうど良い相手とやれた事が何より大きい。ゲームというのは勝つのも負けるのも圧倒的ではあまり楽しくない、というのが俺の持論だ。その点、ヒカリはちょうどいい強さをしている。端的に言えば楽しかったのだ。

俺は全ての駒を並べ終えて顔を上げた。ヒカリは下唇の辺りに人差し指を置いて首を傾げている。何かを考えているように見える。さっきのゲームの振り返りだろうか、それとも全く別の例えば騎士団の事だったりするのだろうか。

俺が見つめる中でしばらくヒカリはそうした後、ふと顔を上げて「…やりますか」といって駒に手をかけた。どうやら俺が勝ってしまった事は本当に問題なさそうだ。

その後、対局は四勝一敗、俺の勝ち越しだったが実力は拮抗していたと思う。


「カゲル、もうすぐ飯の時間だぞ」


そう言って肩を叩かれ俺たちの対局は終わりになった。

俺は立ち上がり「ではありがとうございました。ヒカリ様のお陰で楽しいひと時を過ごせました」とお辞儀をする。


「いえ、長い時間お付き合いいただきありがとうございました」


ヒカリも立ち上がりそう淡々と口にする。

俺は仲間と共に酒場から立ち去ろうとしていた。


「カゲルさん。また会ったら是非一局お願いします」


扉を開けた時、そんな声が背後からして思わず振り返った。

ヒカリは真っ直ぐ立ったままなんでもなさそうな表情をしていた。その言葉に深い意味は無いのだろう。俺はだからこそそんな純粋な言葉につい笑ってしまった。


「えぇ是非。多分、すぐ会えますよ」


俺はそう言って店を出た。

そしてその言葉は本当になる。次に会ったのはその日から明後日の事でまたチェスをした。それからも会うたびチェスをしながら話をした。いつの間にか俺は毎週、ヒカリとチェスをする仲になっていた。


「カゲルもいい加減敬語やめようよ。わたしは貴族でもなんでも無いんだし」


ヒカリがチェスの休憩に煮豆を軽く摘みながらそんな話をし出した。

俺は横に首を振って「ですがヒカリ様は貴族のご令嬢でございますから」と答える。誰が聞いているか分からない中でそんな事は出来ない。


「お兄様がいらっしゃるのでわたしは貴族でもご令嬢でもなんでもないです。それにどうせどっかのよくわからない貴族に嫁ぐ事になるのですからそれまで自由にしていいじゃ無いですか」


そう言われれば確かにそうだ。俺は少し考えてから「まぁじゃあ俺もそっちの方が楽だしな」と答えた。

ヒカリはそれに「よっしゃ」と言ってクシャリと目を閉じ小さく笑う。俺はそんな表情もできるんだな、とチェスの駒を並べつつ思った。初めて会った時には一生見る事のないと思っていた笑顔を最近よく見るようになった。


「なんですか?」


唐突にそんな事を聞かれて「ん?」と俺は声を上げて首を傾げる。

怒ってはいないけれど拗ねてはいるような言い方だった。思い当たる節が、ない。


「子供っぽいとか思いました?」


「え?いや、思って無いけどなんで?」


「なんかちょっと笑ってるから」


俺は声を上げて笑う。すぐにその声は酒場の喧騒に掻き消されていく。

俺はひとしきり笑った後、目に浮かんだ涙を指で拭いながら「初めて会った時よりかなり笑顔増えたなーと思ってただけだよ。仲良くなった証拠だな」と口にする。


「あぁ、元々は笑う方だったんですけど人前だと緊張しちゃうんです」


「それで言ったら俺はヒカリの中で人じゃなくなったのか?」


「いや、カゲルはもちろん人だけど!」


俺は目を大きく開いて手を横に振り慌てふためくヒカリを見ながら嘘嘘と言って笑った。それから並べ終えたチェスを差し出す。最近の勝率は八割ほど、かなりの勝ち越しだ。少しずつだが自分が上手くなっているのも分かる。

ヒカリは一旦、チェスの駒に手をかけてからこちらを見た。


「チェスは今日いっぱいやったしもう良くない?」


そんな提案に俺は首を傾げる。

チェス以外で俺たちにやる事なんてあるのだろうか。


「まぁ別に良いけど」 


俺はそう言った後、煮豆に手を伸ばす。うっすら塩の効いた緑の豆で特に美味しくも不味くもない。


「カゲルはさ、魔法見たことある?」


俺は「んーん」と口を開けずに言いながら首を横に振る。

魔法がある事は知っていたけれど魔術師なんていう専門職の人間にあった事は無かったし、ましてやそれを披露してくれる機会なんて無かった。


「見たい?」


「うん見たいね。ヒカリ出来るの?」


そう言って首を傾げる。

ヒカリは目を輝かせ自慢気に「うん!出来る。簡単なやつだけど」と縦に首を振って口にする。


「それはすげぇな。勉強したの?」


「したしたー。まぁ今も勉強中なんだけど」


「えー凄。偉いなぁ」


勉強を自分からやるなんて事自体が俺からすれば凄い。学校を卒業してからは勉強なんて一切触っていないので多分たくさん内容を忘れている気がする。

ヒカリは謙遜か「でも家の方針で覚えとけって家庭教師が付けられただけなんで」と口にする。それでも、凄い。俺は家庭教師がいても多分しない。そのままそう口にするとヒカリは「ありがとうございます」と言ってはにかんだような笑顔を見せた。


「今度、準備をしておくので見せますね」


俺は頷き「超派手なの期待しとく」と笑って言った。

それからも同じような、なんでもない会話を続けた。この店で好きなメニューだとか、村の様子だとか、それぞれが都市で好きな場所とかだ。ちなみにあの街で好きなところは自分の家と教会、それとあの楽しかった日に行った思い出の城壁だ。その後、いつもの解散の時間になる。軍隊の時間管理は厳しい。一分でも遅れれば処罰は免れない。それは軍人としてヒカリも同じだった。


「じゃあまた」


俺はそう言ってヒカリに見送られながら野営地へと戻った。


「あーもっと一緒に居たいしやる事やりたーい!」


夕食を終えた後の就寝までの短い間、夜空の下で友達にそう話す。

友達には呆れたように「もう惚気は良いよ」と言われてしまう。


「はぁ、ゴブリン病になるとかいってビビってた間、話を聞いたのは誰だよ」


「お前が速攻で逃げ出したから噛まれたんだろうが!?」


これが俺たちのいつもの会話だ。

それはごめん、と俺は謝る。幸い腕を噛みつかれた友達はゴブリンから感染すると言われている病気には罹らなかった。致死率100%、水と風と聖職者を怖がる病気、ゴブリン病。それにかかった者の末路は悲惨…らしい。学校で習っただけだがゴブリンと戦う事にはその病気のリスクもある。


「ゴブリンだからって舐めちゃダメだな」


「な、あいつには本当悪いことしたよ」


「まぁ気にすんな。あれは真っ先に逃げるのが正解だった。そう思うしかない」


友達はそう夜空を見ながら呟く。

俺も合わせて夜空を見上げる。爛々と輝く星空に虫のジージーッという声が響いていた。

目を閉じれば脳裏に彼の笑った顔が浮かび上がる。俺は目を瞑り夜空へゆっくり息を吐き出した。


「すまなかった」


俺は目を開きながら真っ白に光る星にそう呟いた。

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