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 下鴨神社を囲む糺の森の外れに、橋元家が宮司を務める白山叶神社がある。

 御神体は菊理媛神(くくりひめ)。商売事から男女の仲まで幅広い縁結びのご利益があると言われ、それなりに参拝者も多い。

 彼女と初めて会ったのも、そんな縁に彼女が頼ったことから。

 境内から仕切る様に居宅の周りには土塀が巡らされている。

 来客は木戸の横にある鐘を鳴らしてもらうのだけれど、私が木戸を開けるとまさに鐘つきの棒を持った紗和(さわ)さんが立っていた。

 涼やかな撫子の薄物に、褐色(かちいろ)の帯、象牙色の帯締。武家の子女らしく凛とした立ち姿。そのくせ小柄で柔らかく笑うこの人と初めて会ったのは、朝の境内、本殿の前。熱心にお参りする姿を何度か見かけて声をかけると、故郷の許婚者が京に来て行方がわからなくなったから探しに来たと話してくれた。縁結びの神社を見つけるとつい参拝してしまう、と困り顔で話していたのが春のこと。

 その後出合った意外な場所は、何度か訪れたことのある他流派の道場。身の丈の倍以上長い薙刀を自在に扱うのを見たときには、同一人物だとは思わず驚いた。

 更に驚いたのが、二刀流。真剣は重くて持てないけど、と手合わせで負かされた後、恥ずかしそうに笑った。

 聞けば、この道場の奥方の姪だそうで、郷では剣豪の家系として有名な一族という。私も剣を習い始めたのは早い方だと自負していたけれど、紗和さんはもっと早くから兄君たちと木刀を振っていたという。

「おはようございます」

 背筋を伸ばしてお辞儀をすると、

「おはようございます、琳ちゃん」

 紗和さんもお辞儀で返してくれる。そしていつものように、

「そんな、かしこまらなくていいって言ってるでしょう?」

 笑顔でたしなめられる。

「そう言われても…」 

「本当に琳ちゃんは真面目ね」

 長年身についた礼儀はなかなか直せるものでもないのだけれど。

「えーと、今朝も、やって行きますか?」

 誤魔化すように誘うと、

「もちろん」

 紗和さんがすました顔でうなづく。

「琳ちゃんの呼気が聞こえたから、お参りついでに寄ったのよ」

 出会ってから五月(いつつき)。彼女のたずね人は、まだ見つかっていない。

※2024.7.15更新 一度「二話」として掲載したものを、「二話」「三話」に分けました。

 前回の後書きは三話の後書きに移動します。

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