予期せぬ訪問者
どこで情報を得たのか、服部敬斗が突然訪れたのだ。
「お、おう、何してんの?」大介は思わず慌てふためく。
敬斗は肩をすくめながら、「ちょっと寄ってみただけ。ここ、静かでいいね」と言う。
大介は、返事をする代わりにバタバタと自分の席に向かい、適当に棚から手に取った資料を広げ始める。
しかし、彼が選んだ資料は、かつて処刑された4人の怨霊に関するものだった。
(まさか、こんな…)と心の中でつぶやきながら、大介は資料を読み進める。
そこには人々を襲う謎の影、夜な夜な聞こえる奇妙な声など、怨霊が巻き起こしたとされる怪奇現象の数々が記述されていた。
敬斗は興味深そうに大介の手元を覗き込む。
「それ、何の勉強なの?」
彼の声には、大介がこうした不気味な資料に夢中になっていることへの疑問が込められていた。
まるで、こんな話を読みに図書館に来ている大介を不思議に思っているかのようだ。
「ああ、まあ、これは、ある歴史上の事件についての…」
実際には、怨霊の話に興味があるわけではない。急いで選んだ資料がたまたまそうだっただけだ。
突然、思い出したように敬斗は「ねえ、発掘現場、一度見てみたいんだけど。行ってみない?」と言い出す。
敬斗は大介の父が考古学者であることを知っていた。
大介は眉をひそめる。「うーん、そこまで面白いものでもないよ。地味な作業の連続だし、きっと思ってるほど楽しめないと思う」
「敬斗が想像してるみたいな、宝探しとはちょっと違うんだよね」大介は敬斗にそっと言葉を続ける。
「実際の発掘ってのは、地面から少しずつ歴史を掘り起こす作業で、現場で見つかったものの位置を正確に記録したり、土の色や質感を詳細に調べるんだ」
「確かに時々、すごい発見があることもあるけど、そのほとんどが、丹念に現場の状況を記録するような地道な作業なんだよ」
敬斗は少し驚いた顔をして、「へえ、そうなんだ。でも、それもなんだか面白そうじゃない?」まだ純粋な好奇心が溢れた声で言う。
そのやりとりをしている最中、大介のスマホが震えた。父親からのメッセージだ。
「人手が足りない。手伝いに来い」とある。大介がメッセージを確認していると、敬斗がちらりとスクリーンを覗き込む。
「おっ、手伝いに行くんだ、僕も行く」
大介はため息をつきながら、「分かったよ、行こう。でも、あんまり期待するなよ」と渋々承諾する。
敬斗は発掘作業には場違いな小奇麗な服装で、「大丈夫!」と応えた。