第8話 不運ちゃんと球技祭。その2
ぢゅらおです。
高校卒業しました。もう男子高校生という肩書きは使えなくなったのですね…。
制服を着て遊びに行く時にもうコスプレ感がするのに悲しみを感じている今です。
「森成くん森成くん」
「チアダンスはさすがに教えられないからね?」
「まだ名前しか呼んでないですが…」
「危機察知ってやつだよ」
「なら外れましたね! 私は森成くんにボールを上に投げる方法を教えて欲しくここに来たのですから!」
「・・・的の中央射てると思うんだけど」
クラスが球技祭、というよりその先にある景品のために活気づいてる中、一人自分の席で未来を案じていた僕は両手で頬杖をつきながら相談を持ちかける神見さんに答える。
「私とボール遊びするのが危機なんですか!?」
「さっき自分で運動が苦手の数段下とか言ってたよね?」
「それは言葉の綾と言いますか、実際は少しだけ苦手っていう…可能性もあるじゃないですか」
最後の方に向かってボリュームが小さくなっていった神見さん。明らかに何か自信がなくなっていく神見さんに僕は表情を緩める。
「それにさっき、女子はチアダンス、男子は球技とか言ってなかった?」
「あーそれはちょっと後で知った事実という物があってね…」
と片川さんが僕らの間に割り込むに首を伸ばしてきた。
「何か非常に嫌な予感がするんですが…」
「・・・の前に私にももっと気軽に話してくれてもいいんだよ?」
「いえそんな気軽に話す訳には…」
「さっき天照ちゃんにはタメ口だったのにねー? 特別扱い──────」
「ごっほんっ!!」
本当に事故りかけない流れとなっていたのを僕は強く咳払いをして防ぐ。
・・・防げたのかは分からないけど。
「むっ! 片川さんダメですよ! 森成くんは誰かだけに特別扱いする人ではありません! みんな平等に扱う人です!」
「・・・誰でもいけるってこと…?」
「その…いける? という言葉の意味はよく分からないですけど、そんなところです!!」
「ごっほ!! ごっほ!! ゴッホンッ!!!」
片川さんも片川さんだけど、悪気もなく色んな水溜まりに足を突っ込む小学生みたいに核をつく神見さん。
顔が恥ずかしさで火照って赤くなってるのを手であおいで冷まそうとしている時に、先程の「誰でもいける」発言に反応した女子は気まずそうな目、男子は同類を見つけたかのようなにんまりした目で僕を見つめていた。
顔を冷まそうとしていた手まで赤くなって僕は体温が異常に高くなっているのを感じた。
「あぁー・・・まぁ森成は優しいってことだよね?」
「・・・? さっきからそのように言ってますが?」
(言ってないんだよっ!! 言い方が際どすぎるんだよ神見さんは!)
なんて大声で叫びたがる口を僕は手で覆い隠すようにして抑える。
それに、こういうことは弄り倒すのが趣味そうな片川さんでさえ僕のことを気遣い、終わらせようとしてくれている。
「というか森成くん! さっきから森成くんがいい人って言うのを説明してるのに当の本人はなんで黙っているんですか!」
「…ぅは、ご…ごめん」
「怒ってません! 怒ってない時に謝るのは無粋でしゅ!」
(((あ、噛んだ)))
クラス全員が思った。そして、噛んだだけでこの生物はなぜこんなにも可愛らしいのか。誰しもが思った。なのに誰も分からなかった…
「・・・くすっ」
「! 森成くん…私が噛んだこと…笑いましたね!?」
「笑ってないってっ」
「笑いながら言ってるじゃないですかぁっ」
神見さんは僕の背中を遅めのリズムでポコポコと叩く。凝ってる背中にちょうどいい力だったため、僕は口からこぼれそうになる声を手で覆い隠すように抑える。
「もうっ! 片川さん! 本題に早く入ってくださいっ!」
「ひーぃっ! ひっひっ…ふ、ふぅ。じゃ、じゃあ私から本題に入らせてもらうけどさ」
笑うだけ笑い両手で頬を1回叩くと片川さんは神見さんに促され少し真剣な眼差しで続ける。
「そもそも森成はチアダンスって何をするか知ってる?」
「・・・ダンスしたり、踊ったりすることかな?」
「それ言ってること同じだけどね」
「・・・!」
あれっ。僕なんでこんなバカみたいなこと言ってるんだろ!? これじゃまるで目の前にいる──────
神見さんみたいだと思った僕の心を見透かしたのか神見さんはジト目を向ける。
「森成くん。今自分のこと私みたいって考えてましたよね!? なんですか!? バカの類義語みたいに私の名前思い浮かべるレベルなんですか私!?」
「えぇー? 森成ひっどーい」
神見さんは本気で、片川さんは台本でも読むかのように言った。
「・・・話が進まないのでもう細かいことは全部置いといてください」
「私の尊厳に関わることが細かいことなんですか!? ひどいです! 森成くんのあんぽんたんーっ!!」
と言い残し神見さんは逃げるように教室を出ていってしまった。残された僕と片川さんはどこか気まずい雰囲気が──────
「で今どういう問題が起きているのか教えてよ片川さん」
「お、おぉそれは今から教えようと思ってるけど、凄い唐突に素を出してくるね? あと一切天照ちゃんに触れないところとかどしたの?」
「それはさっきの神見さんの扱いといい、もしかすると同じ感情を共有出来る仲なんじゃないかなって判断したからだよ。だからなんで神見さんに触れないか分かってるでしょ?」
「・・・なるほど理解〜。じゃ、本題に入るけど──────」
「お願い」
流れるという訳ではなく、言葉にしなくても分かり合えると言わんばかりに話をどんどんと先に進めていった。
※※※※※※
(私、なんでこんなに無視されてるんですか…)
同時刻、教室を逃げ出した…ように見せた神見さんは扉を出るとすぐにその場で曲がり、扉に付いている窓から目だけをひょっこりと覗かせていた。
(少なくとも片川さんが、高確率で森成くんが心配して着いてくると思ったのに、何故か2人で楽しくおしゃべりしてるんですが!)
確かに外から見れば防人と瑞穂は仲良くおしゃべりしていると見てとれる。
それに天照のフィルターに掛かった上で見える光景では、瑞穂と防人の距離が異様に近いのである。もちろん実際はそんなことはない。
(ぐぬぬ…私の知らないところで女子と仲良くするのですか森成くんは! 私がいない方がいいのですね! もう知りません!)
挙句の果てにどこかむず痒くなった天照はわざと廊下を踏む足の力を強くすると、ドタドタと気持ちを歩き方に乗せるようにしてその場を去ってしまった。
※※※※※※
「・・・行ったかな?」
「多分今度は見てないと思う」
「私は別に天照ちゃんがいるところで相談しても良かったのに…」
「話によっては神見さんが悪くないのに悪いって捉えられそうな話によってなりそうだったからさ」
「そんなことないと思うけど、よくもまぁあの一瞬で天照ちゃんが聞き耳立ててるって分かったね?」
「まだ全部を知ってる訳じゃないけど、あの感じは神見さんの構って〜って言葉が聞こえたから…ね?」
「・・・本当にどっちもどっちじゃん」
本当は片川さんが来た時にだいたいの事情は把握していた。けどその話が余計に神見さんを不安に陥れると思って、僕は神見さんにこの場から離れるようにわざと仕向けていたのだ。
今思うと、ちょっとやりすぎたとは思っているけど。
「チアダンスの中にボールを使う演技があって、そこにどうしても神見さんを参加させたいって話でしょ?」
「あったり〜! もっといえばセンターで、だけどね」
「・・・ちなみにもう偶然とは言うには無理すぎる神見さんの生体については理解してるよね?」
「・・・もうさすがにあれは気付かないわけにはいかないよね〜…」
乾いた笑いを出す片川さん。すれ違う人であるなら誰でも1度は振り返りそうな整った顔立ちから溢れ出る呆れの含んだ雰囲気に僕もくすくすと笑う。
「あれは1種の天才だよもう…」
「天性の才能を天才と呼ぶなら天照ちゃんほどその言葉に似合うのはいないだろうね」
「才能と呼んでいいものかは怪しいけどね」
神見さんの天性の「運の悪さ」は才能と言うより、むしろ呪いと言った方がいいのかもしれない。
普通なら長い期間向き合った上で気付くのが人の性格というものだが、神見さんに至っては判断するのに充分過ぎる材料をこの1ヶ月で見事に披露していた。
最初、階段でよく転んでいたのはドジぐらいの感覚で受け止めていたのだが、後に転ぶ理由が濡れ雑巾が置いてあったり、床にある傷に躓いたりと、とてもたまたまで済まされることの出来ない理由に変わっていたのだ。
「・・・とりあえずそんな天照ちゃんを球技祭で男子共をタジタジに出来るように森成にはどうしても必要なボールを使う表現を教えて欲しいわけ」
「それどうしても僕じゃないとだめなの?」
「女子が教えることも出来るけど、多分森成が心配していることになるよ?」
「なるほど…同性に教えられるとむしろ自分を追い込むってことか」
「ん。なら異性で天照ちゃんが気楽に過ごせる人に教えられた方がいいんじゃないかっていうのが私の考えなのだよ!」
一通り説明を終えた片川さんはふんすっと自慢げに胸を張る。
僕は諸々考えた結果、確かに僕が適任だなと結論づけると諦め半分不安半分のため息をついた。
「僕が教えるっていうのに関してはわかったよ。だけどあの状態にさせちゃった僕が神見さんに教えること出来るかな…?」
「乙女心の問題だね! こればっかりは優等生である森成でも分からないよね〜」
「・・・ごめん」
「謝る必要ないって。じゃあこれから森成が取るべき行動を教えてあげるよっと。耳貸してくれる?──────」
耳元で悪魔のようなイタズラ顔で策を伝える片川さん。それを聞くのと同時に僕は教室を隅から隅まで眺め回した。
──────なんだろう。心がなんだか跳ねてる感じがする。さっきまでただ騒いでいる教室が、今はみんなが僕と同じ気持ちを抱いていてそれを共有している気がする。いや、間違いなくそうなっている。
だけど、この教室に物足りなさを感じる。居て欲しい人がここにいないから。
「・・・それ僕に出来る?」
「私、これでも人に出来ないことは押し付けないよ? それに人にできるできないって概念はないよ! やるかやらないかそれだけだって私は思う」
「今日なんか片川さんの主人公感凄いね」
「女子はいつだって姫様でありたいからねっ」
「それ主人公と同じなの?」
「・・・どうでもいいでしょっ!」
片川さんは僕の背中をペシッと叩く。けど僕にとってそれは前に進むための後押しに感じられた。
そして初めて僕はクラスのためにというより、このクラスの人のために出来ることをしたいと思えた。もちろん神見さんに対してもそうだ。
「じゃ、とりあえず行ってくるよ」
「あっ! 森成これだけは忘れないでね?」
友達に呼ばれそこにトコトコ歩いていく片川さんはくるっと背を返すと僕に向かって一言。
「私みんなで一緒になにか出来ればそれでいいからっ!」
「──────そうだね」
ゴールに価値を見いだすんじゃなくて、途中の道に価値を見いだす。
クラスメイトはチケットのために頑張ろうとしていると思っていた僕の虚を衝く言葉だった。
僕が感じた心の高鳴りの理由に納得だな…僕も結果はどうでもいい。だからこそ今は神見さんのところに行かなくちゃ。
ぢゅらおです。
長らく更新をしてなかったこと大変申し訳ありませんでした!!!
なんでしょうか。自分の中で卒業式を迎えるまでは更新しないだろうなぁとは思っていたのですが、明日やればいいや精神が2週間も続くとは思ってもいませんでした…
我ながら反省です。だからこそ皆さんに言えることもあります。
「出来ることはすぐやろう」と。以上、宿題をやってない奴に宿題やれよと言われてお前何様だよとなる現象を見事に体現したぢゅらおでした。
これに反省し(僕が)次はすぐ会いましょうね…では!




