期末試験
レイハの家に泊まってから、一週間が経った。
その間、やはり期末が近いため模擬戦ランキングに参加したり、部室に集まってテスト勉強をしたり、ネア姉から魔法の実技でのコツなどを教わったりしていた。
期末が近いため流石に仕事を入れていなかったらしいシノンも来ることが多く――というか毎日部室にやって来て、学園が閉まる時間近くまで残って皆で勉強会をしていた。これがなかなか楽しかった。
実はシノンは、オーシャンシティでの一件の後、俺達の『実戦魔法部』に入部している。
と言っても、訓練場で模擬戦をしたことはほとんど無く、大体お茶しに来ていた。
まあ、彼女にとって、こうして気を抜いてのんびり出来る場所は大事なのだろう。ネア姉も「お前はここで、のんびりしてりゃあいい」とか言っていたので、俺と同じことを思ったんだろうな。
シノンの送り迎えはまだ続けているのだが、ただそれも、そろそろ終わりそうだ。
というのも、オーシャンシティの件で学園長と話す機会を彼女は得ていたそうなのだが、その際「学園付近に住むのならば、護衛を付けずとも二十四時間防衛体制を整えてやれるが、どうかね?」と言われたらしい。
俺達に送り迎えしてもらってる現状に若干の申し訳なさを感じていたらしい彼女は、その提案にすぐに頷き、夏に学園近辺に引っ越しをする予定なのだそうだ。事務所にもすでに話してあると聞いている。
あのジジィもたまには良いことをする。まあ、生徒の安全に関しては己の仕事の一環だとでも思っているからなのだろうが。
――そして、とうとうやって来たテスト期間。
テストは三日間。一日目と二日目が紙のテストで、三日目が魔法の実技。
模擬戦ランキングに関しては、このテスト期間までの結果で見られるので、もう成績は確定している。
悪戦苦闘しながら日程を熟し、どうにか終了。
この答えがどうの、うわこれ間違えただの、そんな会話をクラスメイトと交わし、休日を挟んで登校した週初めに、結果が返却された。
俺の紙のテストの点数は、可も無く不可も無く。平均点よりは良く、全体の順位も真ん中より上ではあったので、勉強会をやった甲斐があったとは言えるだろう。
別に特別お頭の出来が良い訳じゃない俺としては、それなりに良い結果である。
聞いたところ、レイハは『12位』と、ここでも学習能力の高さを発揮して好成績をマークしており、そして我が妹ユヅキなんかは、なんと『1位』でドヤ顔していた。大したものである。
やっぱアイツ、頭良いわ。昔は俺が勉強を教えていたが、今はもう逆に教わった方が良さそうだな。
ちなみにジェイクに聞いたら、にこやかな笑顔で中指を立てていたので、多分アイツ補習あるな。
そして、魔法の実技。
これは、魔法の威力などよりも、魔力操作の正確性が一番に問われるため、どれだけ高威力なスキルを持っていたとしても評価の対象では無く、仮に最上位スキルを使えたとて「あ、そう」で終わるため、レベルが高いから有利とはならない。
まあただ、俺の魔法の練度自体はそんな高くないが、魔力操作に関しては剣術にも大きく反映される要素であるため、幼い頃から練習を続けていた甲斐もあって、結果は学年で『2位』。
やはり魔法全一少女には敵わなかったようだが、上々の結果だろう。
で、『3位』はレイハで、『4位』はユヅキだったらしい。
レイハはともかく、ユヅキは正直意外だった。多少家で見てやったりはしていたが、まさかそこまで魔力の扱いが上手くなっているとは。
そろそろアイツも、外のダンジョンに連れてってレベリングでもしてやった方が良いだろうか。
最後に、模擬戦ランキングでの俺の順位は、学年別では変わらず『1位』。
全体では、あの後も幾らかやっていたおかげで、『23位』になっている。
七十四戦を熟し、そこでタイムアップ。全戦全勝だ。
ただ、最後の方は相手がほぼ全員三年生だったのだが、流石にここまで来るととても楽勝とは言えない状況で、長剣で戦わざるを得なくなっていた。
レベル差があっても、意表を突く攻撃や初見殺しみたいな技を食らい、数回は普通に負けそうになり、ちょっと甘く見ていたかもしれないと反省したものである。
同レベル帯だったら、一進一退になっていた可能性は高いだろう。
まあ、俺も『蒼焔』は縛っていたし、スキルも全くと言って良い程使ってなかったので、全力じゃないと言えばそうなのだが……この学園で三年過ごす、ということの意味を垣間見た気分だ。
そして、それら三つから出された、最終的な俺の総合成績は――『1位』。
やったぜ。
もうほとんど模擬戦と魔法の実技の結果のおかげで、ぶっちゃけ紙のテスト結果が大分足を引っ張っており、模擬戦ランキングでぶっち切りだったにもかかわらず二位とは僅差の点数差だったが、一位は一位だ。
総合成績の上位十名は名前が張り出されるのだが、そこに俺の名前も出ており、クラスの友人らにドヤ顔でピースして煽っていたら、「あの野郎、毎日レイハちゃんと楽しく部活やってるだけじゃなく、ちゃっかり総合成績まで一位だと……? 許すまじ! 奴を処せ!」と、ジェイクを筆頭にした敗者どもが俺を囲み。
「おら来いや、負け犬の弱者ども! 俺は総合成績一位であり、模擬戦でも一位の男! こんな人数で勝てるとでも思ってんのか? おん?」
「総合成績一位つっても、お前紙のテストは普通だったんだろうが!」
「うるせぇ補習マン! 夏の補習頑張れよ!」
「ぐああああっ! おいお前ら、俺が盾やってやる、だから誰か俺と一緒に、奴を土に還すの手伝え!」
「オーケー補習マン、手ぇ貸すぜ!」
「いいだろう補習マン、中衛は俺に任せろ!」
「……よし、ヒナタの前に、まずお前らから土に還してやらぁ!」
というやり取りの後、男達の仁義無き戦いが勃発したが、弱者どもに俺が負ける訳もなく、全員叩きのめしてやった。フハハ。
その様子を見ていたレイハが、「みんな、男の子で楽しそうね」と、ちょっとズレた感想を溢していた。
そうして無事にテストが終わった今、夏休みを目前に、学園の登校日数は残すところあと二日。
授業も午前中に終わる早上がりの日程で、今日も昼には学園が終わり――その後、いつものように部室に部員全員が集まる。
彼女らに対し、俺は、言った。
「――たこ焼きパーティやろうぜ!!」
「うわうるせぇバカ!」
「いてっ」
パコンとネア姉に頭を叩かれる。
「急に叫ぶなっての! ったく、……で、何だ、そのためにわざわざ家から持ってきたのか、そのたこ焼き機とクーラーボックス」
「今日は、まだシノンも仕事無いって言ってたからな! やるなら今日だろうって思ってよ。学園が早上がりだから、みんな弁当じゃないだろうし」
「オーケーオーケー、ま、お前にしちゃあ良い思い付きだぜ。テストのお疲れ様会兼、シノンの入部祝いってとこだな。お前らも良いか?」
「うん、わかった。いいね、たこパ」
「楽しみ」
「ちなみにクーラーボックスの中に入ってるのはタコ足だけなんで、今から食材を買いに行きたい。スーパー行こう、スーパー」
「タコ足だけって――いや待て、お前、そのタコってもしかして……?」
「お、察しが良いな、ネア姉。そう、ご想像通り、クラーケンの足だ」
「……あれからもう二週間経ってんだが、大丈夫なのか、それ?」
「鮮度は全く問題ない、国に送ってもらう時に消費期限の設定をしてくれたんだが、あとひと月は食えるみたいだぞ。やっぱ魔力が多いと、全然腐らんな」
と、俺の言葉に反応するのは、シノン。
「強い魔物の肉は、魔素が豊富だから全然腐らないって聞いたことあるけど……やっぱりあのクラーケン、そんなに強かったんだね」
「そうだぜ、シノン。このアホはアホだから突撃していきやがったが、本来なら軍が一個艦隊を派遣して討伐するような相手だ。間違っても一人で戦うようなモンスターじゃねぇ」
「ネア姉達も戦ってたじゃん」
「いや、ほとんどお前一人で狩ってただろうがよ。アイツのヘイト、一回もあたしらに来なかったしな。あの時やって来た軍人達とかも、唖然とした顔でお前のこと見てただろ」
「あの時の軍人さん達の顔、なかなか面白かったよね」
「助けに来てくれたのにちょっと悪いが、あんまりあんぐりしてるもんで、吹き出しそうになっちまったわ、あたし」
「まあまあ、それより、買い物行きましょう。せっかくヒナタが、持って来てくれたから」
場を取りなすようにそう言ってくれるレイハに対し、ネア姉は生温かいような瞳で彼女を見る。
「レイハ、お前……ヒナタに甘くなったな?」
その瞬間、己の通学バッグを端に置いていたレイハが、ギャグみたいにズッコケてソファに突っ込んだ。
「うおっ、れ、レイハ、大丈夫か?」
「……平気。……別に、普通よ、ネア先輩」
「いやいや、こういう時は、ヒナタの言動にツッコミ入れてたろ、お前もちゃんと。とうとうここまで絆されちまったか……遅かれ早かれ、こうなるような気はしてたが」
やれやれと言いたげな顔をするネア姉の横で、何やら意味ありげな視線と笑みで、俺達を見るシノン。
「ふぅん?」
「……何だよ、シノン。その視線は」
「ん、別に。レイハの動揺する顔、レアで可愛いなぁって思って」
「…………」
「…………」
上級生二人の視線に耐えられなくなり、俺とレイハはソファを立ち上がる。
「そ、それよりほら、早く行こうぜ、みんな! 腹も減ったし!」
「そ、そうね。お腹空いたから。スーパー行きましょう」
「あいあい、近くのスーパーっつーと、駅までの途中にあるとこが一番近いか。っと、シノン、ほら、外出用の伊達メガネ」
「あ、忘れてた。危ない、ありがと」