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彼方へ紡ぐ  作者: 流優
深き青に祈りの歌を

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深き青に祈りの歌を《5》

 感想ありがとう、ありがとう!

【午前十一時四十三分】



「シノンせ――シノン、マナポーションだ。飲んどけ」


「ん、ありがと」


「通常のポーションもあるが、怪我は? 重いのがあったら俺、回復魔法使えるが」


「大丈夫。ヒナタが守ってくれたからね」


 ブレスレットとは別の、空間魔法が発動可能なポーチからマナポーションを二本取り出し、一本をシノンに、一本を自分で消費する。


 加えて俺は、通常のポーションも一応飲んでおく。


 このポーション系なのだが、実はゲームみたいに飲んだ瞬間即回復、とはならない。


 いや、『彼方へ紡ぐ』でも、徐々に回復していき、一定割合に到達したところで回復が終わるという仕様だった。

 

 言わば、『リジェネレーション』のような効果であるため、速攻性があまり無いのだ。


 特に……現実であるこの世界だと、ゲームの頃よりもさらにジワリジワリ、といった回復の仕方をするような気がする。


 上級系のポーションでも効果持続時間が伸びるだけでそんな感じだし、ダンジョン潜って、もっと効果の高い消耗品集めでも、するべき時が来たのかもしれない。


「そうだ、シノン。今更だが、レベルは?」


「『20』。けど、戦闘技能はほとんどない。攻撃魔法は『ファイアーボール』と『エアカッター』くらいで、他に出来るのはバフデバフだけ」


「了解。大丈夫だ、手札が少なくともシノンが持ってる『武器』は唯一無二だ。レベルが低かろうが、攻撃魔法が乏しかろうが、そんなのは何の問題にもならん。一緒にいるなら俺が補える部分だしな」


「フフ……ヒナタ、ネア先輩みたいなこと言うね」


「正に受け売りだ」


 肩を竦めると、彼女はクスリと笑う。


「ヒナタのレベルは?」


「ん? 教えない」


「……この流れなら普通、教えてくれるもんじゃない?」


 ジト目をこちらに向けるシノン。


「残念だが、俺がステータスを誰かに明かす日は来ないから、諦めてくれ。あの二人も知らないしな」


「ふぅん? ……まあいいか。そう言えばネア先輩とかも自分のステータスは絶対口にしなかったしね。今教えない場合、二人にヒナタにファーストキス奪われたって言っちゃうけど」


「ぐっ……そ、それ、カードのパワーが強過ぎるから出すのやめてくんない?」


「んー? どうしよっかなー。この手札があれば、大体のことなら、ヒナタに言うこと聞いてもらえそうだし」


「……聞くことになりそうだ」


 思わず苦い笑みになる俺に、彼女は愉快そうに笑う。


「あはは、ごめんごめん、嘘だって。変に漏れてゴシップ誌の的になるのは私も嫌だしね。……それに、あの二人とは、今後も仲良くしていたいから」


「? どういう意味だ?」


「んーん、何にも。それより、早く逃げ道探そ」


「あぁ、そうするか。で……来た道は、流石にもう戻れないな」


 まだ膝辺りとはいえ、海水はかなりの勢いで流れ込み続けている。


 俺達以外にも、仮設ステージの残骸やモンスターの死骸なんかも続々と流れ付いており、当然生きたモンスターも流れ込んで来ているが、メインエントランスとは違い数が少ないので、俺一人で問題なく対処出来る範囲内だ。


 恐らく、途中で枝分かれしている通路に大分散らばったのだろう。


 というか、結構長い間流されて来たので、そもそも来た道がわからない。もうリブリーザーの効力も切れたしな。


「ここ、水族館でしょ? で、私達はメインエントランスの方から、こっちに流された。つまり、入り口(・・・)から流されてる(・・・・・・・)はず。周囲を見る余裕なんて無かったから多分としか言えないけど」


「出口がこの先にあるってことか」


「そ。このまま海水の流れに従って進んでいけば、出れるんじゃないかな。水族館って、色んなエリアはあっても、大体一本道じゃない? 実際ここも、一本道の構造になってるし」


 水槽の他に、模型等が置かれている関係か、現在いるこの部屋は広く。


 一見すると水族館というより博物館という趣で色々見るものがあるのだが、確かに道は一本道になっている。


「よし、そうしよう。多分どっかに案内板くらいあるだろうから、見つけたら確認しようか。……あっちの二人の様子も気になるが、今は俺達の方が危険地帯にいるか」


 あの様子なら、多分大階段を抜け、警備が固まっていたところに合流出来たと思うが、隔壁自体はクラーケンに壊されてしまった。


 故に、モンスターの流入も恐らくまだ止まっていないだろう。クラーケン自体も残っている。


 二人が無事であることを祈るばかりだ。


 ――そうして俺達は、先へと進む。


 やはり、幾つか部屋はあるが、この水族館の構造はほぼ一本道であるようだ。すぐに見つけた館内の案内板に、詳しいところが書かれていた。


 ここまでの激戦具合からすると平穏なくらいの現状だが、だからこそ「頼りになる二人がいないのだ」という警戒を強め、俺はシノンを連れて歩き……少しして辿り着いたのは、通路の全てがガラス張りになっている、海中が一望可能なゾーン。


 この水族館は海底に建っているので、見上げると綺麗な水面が光に反射して揺られ、こんな時じゃなかったら普通に眺めていたい美しい光景だ。


 美しい光景なのだが……。


「……私もう、水族館とか海とかしばらく良いかな。少なくとも、泳いだりとかはしたくない」


「同感だわ。あっちの二人も同意見だろうよ。みんなの水着が海で拝めないのは大分残念だが」


「うわ、男の子の意見。ま、でもいいよ? 水着なら今度着てあげよっか」


「お、言ったな? じゃあ是非とも――いや、やっぱやめておく」


「遠慮しなくて良いのに。お礼代わりって訳じゃないけど、それくらいなら着てあげるよ?」


 何だか無駄に、ニヤニヤと楽しそうなシノンである。


「ただでさえなんか、現状シノンに弱みを握られてるのに、水着なんて着てもらった日には二度と逆らえんようになる気がするわ」


「ん、いいね、それ。じゃあ私、水着でさらに接待してあげる。隣に座って、ね」


 わかってやっているのだろうが、流し目で妖艶な笑みを浮かべてくる彼女に、思わずゾク、と来るものを感じ、身体が仄かに熱くなる。


 ……ここに来て絶好調じゃないか、この人?


「……言い方がエロいぞ、シノン」


「ふーん? そう捉えるんだ? 私は単純に、この胸に溢れる感謝の気持ちを形として表したいだけなのに。ヒナタのエッチ」


「それは感謝の気持ちではなく、俺をおもちゃにして遊びたいという気持ちが形に表れてんだろ」


 俺は苦笑を溢し――瞬間、彼女の身体を抱えて大きく後ろに跳ぶ。


 触手(・・)


 それを認識した数瞬後、ドガシャアァ、と通路が上から叩き潰された。


 ――あのタコ野郎、追って来やがったのか!?


「きゃっ……!」


「下がれッ、シノン!!」


 浸水――は、始まらなかった。


 こちらはまだ安全機構が働いているようで、通路全体のガラスに隔壁が下り、海水の流入も不自然な形で停止している。


 が、触手は止まらない。


 開いた大穴に突っ込み、バキバキと通路の備品を破壊しながら迫り来る、太いタコ足。あのデカい吸盤に吸い付かれでもしたら、顔面が丸ごと削げ落ちることだろう。


 瞬時に『蒼焔:身体強化』を発動した俺は、いつもの『蒼焔:武器強化』の代わりに、スキル『炎獄刃』を発動し、刃にエンチャントを施す。


 武器に二種類エンチャントを施すことは不可能であるため、どちらかを選択する必要があるのだが、こういうデカブツは状態異常や属性攻撃で戦うのが定石だからな。


 そして俺は、火の属性との相性が全キャラクターの中でトップクラスに良い。


 レイハの次くらいにな!


「たこ焼きにでもなってろッ!!」


 魔力を大量に込めたため、普通に発動した時の倍の熱を放ち、マグマのように煮え滾る剣で、無造作に伸びて来た触手を深く斬り裂く。


 まるでバターでも斬ったかのような軽い感触で触手の先端が千切れ飛び、ズゥン、と俺達の後ろにぶっ飛んでいった。


 場違いな、香ばしい香り。


 『炎獄刃』……結構良い。俺にはやはり『蒼焔:武器強化』があるため、こういう属性エンチャント系は今までほとんど使ってなかったのだが、これからはもうちょっと活用しても良いかもしれない。


 ピンポイントの使用でも、戦闘が有利に運べる場面はあることだろう。


 ちなみにこういう属性のエンチャントをした時に、『魔力伝導率』が低いと剣身がボロボロになるのだが、『瞬華』はその点でも優秀なので全く問題無く剣身を保ち、斬れ味を落とさないでいることが出来る。


 安物だとエンチャントに耐えられず、こんな使い方をした時などは一発で全損する可能性があるのだ。


『――――!?』


 こんなチビな生物に、恐らく反撃されるとは思ってもみなかったのだろう。


 ビッタンビッタンとのたうち回り、そして痛みでキレたのか、他の触手を太鼓が如く通路にガンガンと叩き付け始める。


 一撃ごとに歪む通路。バリンと連続で割れ、落ちてくるガラスの破片。

 

「シノン、戻るぞッ!!」


「う、うん……!」


 俺達は大慌てで、先程までいた広い部屋に戻る。


 しばらくガラス張りの通路で粘っていたクラーケンは、届かないと見るや触手を引っ込めて海の中に消えて行き……突如、水族館全体がズゥン、ズゥン、と振動を始める。


 奴が、上で暴れてやがるのだ。


 今すぐに崩壊することは無いだろうが、クソタコがこの調子で攻撃し続けていれば、いずれはここも潰れるだろう。


 安全機構もまだ働いているようで、海水は相変わらずメインエントランス方面からのみの流入で、先程潰れた通路からは流れ込んでいないものの、それが壊れるのも時間の問題か。


 クソッ、あの巨体で俺達を食っても一食分にもならねぇだろうが。


 何でこんな執拗に――と思ったが、考えてみれば答えは明白か。


 タコ野郎の目的は、十中八九、魔力(・・)だな。


 ――魔力は、この世界において万物に宿っているが、空気中や水中、木々や土に含まれる場合は、『魔素』と呼称される。


 生物の体内にある場合のみ、魔力というように呼ばれる。


 だから、例えば生きたモンスターの体内にあれば魔力だが、そのモンスターを狩って肉にした場合、それに含まれるものは魔素と呼ばれるようになるのだ。


 そして、この世界に少なくない数存在している、大型生物。


 ダンジョン産を除き、あのクラーケンや龍種などの、もう物理法則に反してんじゃないのかというくらいの巨大モンスターは、総じて魔素の濃い地域のみに生息している。


 他の場所に移動するようなことは滅多に無く、それ故に都市など簡単に壊滅させられるような怪物が世界には存在しているにもかかわらず、人類社会は滅びずに存続することが出来ている。


 まあつまり、何が言いたのかと言うと――奴らは魔力や(・・・)魔素を(・・・)食って(・・・)生活しているのだ。


 生物を食すだけではその肉体を維持するための栄養が十分に得られないため、魔素が濃い地域からほぼ出て来ないのである


 そして、現在この付近において非常に多量の魔力を有しているのは、俺と、ナヴェルのじいちゃんだろう。


 魔力量はそこまでではなくとも、特異な魔力をした――ユニーク(・・・・)な肉体をしているのが、レイハとシノン。


 で、建物内にはいても、海底という餌場(・・)に現在いるのが、俺とシノン。


 だからあのタコ野郎は、執拗にこちらだけを狙っているのだ。


 上等な餌が、すぐそこにあるからこそ。


「ヒナタ……」


 不安そうにこちらを見るシノン。


 彼女の視線を受けながら、俺は少し黙り込む。


 ――考えろ。


 メインエントランス方面は通れない。


 が、水族館の出口方面はクラーケンに阻まれた。


 ここから繋がる他の通路は無い――いや、スタッフ用通路はあるが、ここが海底で上が海である以上地上に直通! なんて道は無く、結局逃げる先も同じ方向になるだろう。


 つまり、メインエントランス方面か、出口方面かの二択。


 非常口はあるだろう。だがそれは、数日前に設計図で確認したように、海中に出てしまうはずだ。クラーケンが徘徊している今、それは論外だ。


 実際にスタッフ用通路に入って、確認してから考えるか? 時間にあまり猶予がないとはいえ、そこがどうなってるかは、必要な情報ではある。


 それとも――タコ野郎を(・・・・・)ここで狩るか(・・・・・・)


 ……難しいか。


 攻撃力だけ見れば、俺は奴を殺すことが出来るだろう。


 問題は、やはりこの環境が、クラーケンに大きなアドバンテージを与えているという点だ。


 奴を斬り殺すための、ステージが無い。


 海中に出ては勝てる訳が無い以上、さっき潰れた通路の周りで引き込みながら戦うことになるだろうが、そんなチマチマやっていたら、奴が死ぬより先に恐らく施設が潰れ、終わりだ。


 ……いや、だが、どうにかしてクラーケンを躱す、という考えよりも、奴の排除を前提に動いた方が、先が繋がるような気はする。


 俺の能力と、シノンの支援で、どうにかこの状況を切り抜けられないか。


 俺は、生きるための道を必死に探し続け――ふと、それが視界に入った。




 そこには、倒れた魔導バイクがあった。

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[良い点] 激アツアクションの予感! 明日は大好物が食べられそうだな [一言] 次回には…ね?
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