下見《1》
下見に行くことに関して、レイハとシノン先輩に話したところ二人とも「オーケー」とのことだったので、予定を合わせ――当日。
皆にとって一番良い中継地点なので、まず学園の最寄り駅を集合場所にして、俺達は集まったのだが……。
「……で、何でお前もいんだ」
「それは勿論、友達と遊ぶためだよ」
そう答えるのは、我が妹、ユヅキ。
……朝、「私も予定ある」とか言いながら、何故か俺を見てニヤッと笑ってたのは、これが理由か。
「……ネア姉」
「おっ、よくわかったな? 呼んだのがあたしだって」
「そりゃわかるわ。レイハは自分から人を呼ぶタイプじゃないし、シノン先輩はそもそも妹と面識無いだろ。ネア姉しかいないっての」
いつの間に連絡先交換してたんだ。
「はは、まあ、そうか。いや何、どうも聞く限りだと、お前の妹も結構鼻が利くらしいからな。下見に連れて行ったら良い意見が聞けるかもと思ってよ」
「鼻が利く……?」
「何だ、兄貴なのに知らねぇのか? 生徒会でブイブイ仕事してるらしいぜ。あのお堅い生徒会長が手放しで褒める人材って噂だ。あたしはそれを聞いた時、やっぱお前の妹だなって思ったモンだ」
あぁ……ユヅキの優秀さも、順当に知れ渡り始めてるのか。
この世界ではそうなっていないとはいえ、主人公のパーティ候補の一人だからな。能力は折り紙付きである。
そうか、仕事頑張ってんのか、ユヅキ。
「で、本音は?」
「お前が憮然とする顔が見たかった」
「そうかい、その企みは見事成功だ。後ろから奇襲でも受けた気分だね」
そんな会話を交わす俺達の横で、シノン先輩がユヅキに声を掛ける。
「ヒナタの妹さん? 確かに、よく似てるね。よろしく、私は二年の、シノン=ラエリア」
「ユヅキ=アルヴァーです! 兄がお世話になっています」
「どちらかと言うとお世話になってるのは私だけどね」
「……あー、そういう感じですか」
最近よく見る、意味ありげな視線をこちらに向けるユヅキ。
が、他に人がいるからか、それ以上何かを言うことはなく、妹は次にレイハに顔を向ける。
「レイハさんも、こんにちは!」
「ん」
言葉少なだが、歓迎するように小さく手を振るレイハ。
「……いいか、妹よ。俺達は今日遊びに来た訳じゃないんだぞ」
「わかってるわかってる。兄さんが荷物持ちしてくれるんだよね」
「おう、全然わかってないな、お前」
「よっしゃ、全員揃ったし、移動するか。行くぞ、お前ら。荷物持ちも呆けてないでさっさと来いな」
「あはは、この人数の荷物持ちは大変だね」
「大丈夫です、兄は力があるのが取り柄ですから」
ネア姉に続いて、シノン先輩と妹が歩き始め、俺は一つため息を溢し――と、レイハがポンと俺の肩に手を置く。
「私も、荷物持ち手伝う」
いや、そこは別に嘆いてないんだわ。
「……そうか。ありがとな」
「ん」
レイハは、小さく微笑んだ。
……お前がそうやって笑ってくれるんなら、もう何でもいいかな。
◇ ◇ ◇
首都ヴェルダという都市は、大体東京だ。
区で分けられ、ファッションで有名だったり、機械部品で有名だったり、ゲームで有名だったり、魔法で有名だったり、政治の中心だったりする区が存在する。
新宿とか池袋とか秋葉原とか、大体それと似たような感じだ。
そして、ヴェルダの中をアリの巣が如く魔法列車が走っているので、目的地へのアクセスは良く、学園の最寄り駅から目的地であるここ――『湾岸区』へも、二十分程度で到着した。
「あれが……」
「あぁ、アレだ。まだほとんど見えねぇがな」
俺達の視線の先にあるのは、湾の少し奥に見える、長さ三キロはあるだろう人工島。
完全に陸とは切り離された海の上に建設されており、道路と線路だけが唯一の行き来の手段であるようだ。
整えられた公園や運動場など、外の施設はよく見えるものの、本丸のショッピングモール周りの施設はわざと見えないようにしているようで、工事用の布がまだ掛けられている。多分、オープンと同時に一気にお披露目する予定なんだろう。
「何かあった時の脱出経路は、道路と線路のみか。いや、陸は近いから、その気になれば泳いでも逃げられるか? 陸と反対側だが、ボートもあるみたいだな」
「泳ぐ、か。あのデカい道を押さえられたら、ちと厄介か? 海の上にあるってのが、思った以上にネックかもしんねぇな、ヒナタ」
持ってきた双眼鏡を交代で覗き込みながら、ネア姉と意見を交わす。
道路はバカデカいため、交通の便自体は良さそうだが……確かにあそこを封鎖でもされようものなら、厄介だろうな。
「あの広さだ、内部構造も迷路とは言わずとも、それなりに入り組んでそうだぞ。当日は朝早くから入って、中の確認がしたいところだな」
「おう、お前がそう言うかと思って、こんなもの用意しといた」
そう言ってネア姉がカバンから取り出したのは、数枚のプリント用紙。
そこには、恐らく工事用のものであろう図面が描かれていた。
十中八九、オーシャンシティの図面なのだろう。
「……どうやって用意したんだ、これ。確実に外に流出しちゃダメな類のもんだろ」
「マスターの伝手」
さすマス。
「あの人の手の広さ、半端じゃないな……」
「そのお前は時折、マスターよりも深い情報を知ってる訳だがな」
「さ、内部構造確認しようぜ!」
俺が答えるつもりがないことを知っているネア姉は、「しょうがねぇな」とでも言いたげに肩を竦め、それから共に図面の確認を始める。
「ん……ヒナタの言う通り、結構入り組んでやがるな、これは。実際に歩いてみねぇとわかんねぇ部分も多そうだ。どっちにしろ当日にも中を見て回るのは必要だな」
「同感だ。で、シノン先輩が歌うのは、確かコンサートホールの方じゃなくて、オーシャンシティのメインエントランスだっけ?」
「あぁ、そう言ってた。施設の顔だから、相当気合入れて作ってるって話だ。今回用に特別ステージを用意するみたいだな。メインエントランスは……この図面か。――シノン! ちょいこっち来い。お前が歌うのって、ここで合ってるか?」
妹とレイハと楽しそうにお喋りしていたシノン先輩は、俺達の方に来ると、ネア姉が広げた図面を覗き込む。
「……これ、会場の図面? こんなもの、いったいどこで……」
「細けぇこたぁ気にすんな。で、どうなんだ」
「……うん、そう、多分ここ。ここに、下に降りるエスカレーターと大階段あるでしょ。ここから下が海中で、奥の壁一面がガラス張りになってるんだって。相当綺麗みたいだよ。普段は写真スポットとかだけど、こういう時に仮設ステージを建てる場所にするつもりみたい」
……海中、か。
シノン先輩と海、という組み合わせには、俺としては少々嫌なものを覚えるんだが……。
俺は、図面を物珍しそうに横から覗き込んでいるレイハへと問い掛ける。
「レイハ、これ見て何か思うこととかあるか?」
「楽しそう」
「……そうだな」
ダメだ、こういう時にほとんど受け身姿勢のコイツは役に立たん。
「……ユヅキ、お前はどうだ」
「どうって……兄さん、何を答えれば良いの?」
「気付いたこと何でもだ」
「何でもって言われても……」
ユヅキは資料をペラペラと見ていき、そしてポツリと呟いた。
「……あ、これ、海の中にも非常口あるんだ」
「海中に?」
「うん、ほら、こことかこことか。非常口が海底に繋がってるみたい。見る限り、そこにトンネル等は存在しないようだから、多分緊急時は魔法で空間を形成して、逃げられるようになってるんだろうね」
「へぇ……」
確かに、位置的に海底だろう場所に、外に出る扉がある。
で、その先にトンネル等の設計が無い。
魔法技術による非常口か。異世界ならではだな。
「ネア姉、こういうのって他にもあるのか?」
「いや、聞いたことねぇ。そもそも海中にある施設ってのが稀だしな。良い気付きだ、流石だな、ユヅキ」
「ネア先輩のお役に立てたのなら、幸いです!」
「俺は?」
「兄さんは知らない」
「お前、兄に黙って付いて来たくせに、ちょっとは兄のためにとか思わんのか」
「そもそも私は、私の友達と遊びに来たのであって、兄さんに付いて来た訳じゃないから。そこを間違えないで欲しいかな」
「はいはい、そうでございますか。全く、兄思いの妹で俺は嬉しいよ」
「私は出来た妹だからね」
ユヅキとそんなやり取りをしていると、横でネア姉が、何故か満足そうにうんうんと頷いていた。
「よしよし、いいな、ユヅキ。大したモンだぜ。その調子でそのアホを抑えといてくれ。お前の兄貴は結構な問題児でな」
「任せてください、ネア先輩。兄が困った人なのは昔からなので、妹として対処法は心得てますから!」
「兄妹……いいものね」
「こんな妹で良かったらくれてやるぞ」
「こんな兄で良かったらお譲りしますよ!」
「あはは、家での二人の様子がよくわかるね」
実際、俺とユヅキの家での会話も、こんな感じである。
まあ、兄妹とはこんなもんだろう。




