目が覚めたらラスボスになってた《3》
朝食後。
一人で家を出た俺は、近所から少し離れた人目のない林の中に来ていた。
「ここは……俺が昔から遊び場にしている林か」
何度も来たことあるはずだが、妙に新鮮さがある。まさに心機一転、といった感じだ。
――まずは、記憶の整理からだな。
両親が死ぬ原因は、会話イベントでしか説明されていなかったが、知っている。
モンスターの暴走だ。
住んでいる街でモンスター達による『スタンピード』が発生し、それに呑まれて死ぬのである。
その頃には剣と魔法、両方の才能を見せ始めていた俺だが、襲ってきた魔物を十数匹倒した時点で魔力が尽き、死にかけたところを母が身を挺して助け、そのまま母が死ぬ。
父は、子供達を逃がすため自らモンスター達の只中に飛び込み、身体中を食われながらも無理やり剣を振るい、手足を食われた後も逆に噛み付いて死ぬまで抵抗を続けるという、壮絶な最期を遂げる。
俺は、生きたまま食われる父を横目に、怪我を負って徐々に息が細くなっていく妹を背負い、そのまま数時間逃げ続け、意識が朦朧とし始めたところで駆け付けた軍に助けられ、どうにか生き延びる――というのが作中で語られる二人の過去だ。
住んでいた街は復興に十年掛かるようなレベルで崩壊、同時に発生した火事で生家は全損。街の住民の半分が死ぬという悲惨な結果となる。
……うん、なかなかヘビーである。
四年後に訪れるであろうこれを、どうにか回避しなければならない訳だが……スタンピードは、そうそう起こるものではない。
起こったとしても、それですぐに街がどうこうはならない。
前世とは違い、当たり前にモンスターが存在する世界だ。故に、その脅威に備えるべく、しっかりと防備は整えられている。
それに、俺達の住んでいるこの街は小さいが首都に隣接している。都心部までなら魔法列車で一時間程の距離なのだ。
にもかかわらず、国からの援軍の到着を待たずして崩壊してしまったのは、モンスターが外から襲って来たのではなく、内から湧いて出て来たことに理由がある。
――ダンジョンである。
ゲーム本編中でも攻略することになるのだが、俺達が住む街の地下深くに、発見されていない封印されたダンジョンが存在し、その内部に生息していたモンスター達が封印を破って突如として街中に溢れ返ったことで、瞬く間に滅んでしまった訳だ。
まあ、そうして封印が破れたことにも理由があるのだが、それは今はいいだろう。そこまで行くと手が回らない。
その内、排除しないといけないがな。
ここで大事なことは、ダンジョンは一度攻略すれば『枯れる』という設定があることだ。
空間を変質させ、ダンジョンをダンジョンたらしめている存在――つまりボスを倒せば、空間の変質が終わり、通常に戻るという設定がゲームにはあった。
と言っても、ゲームだとボス攻略後にも周回が出来たのだが……とにかく本編上では、一度攻略したダンジョンは滅ぶことになると語られていた。
故に、俺が両親の死を回避するためには、原因となるダンジョンを攻略するのが最善だろう。
物語の中盤以降で解放される場所なので、攻略の推奨レベルも高いのだが……俺は、あのゲームをトロコンまでやったプレイヤーだ。
内部構造、出現モンスター、トラップ等は完全に把握している。
この世界でも同じかどうかは確認しなければならないが、この知識があれば攻略の目途は立つだろう。
……そうだな、忘れない内に、『彼方へ紡ぐ』の覚えていることは全て、ノートにでも書き出しておくか。
いったい、今の俺に何が出来て、何が出来ないのか。今の俺には、何の知識が役に立つのか。
手札の確認をすべきだ。
「ステータス……は、流石に確認出来ないか」
ゲームではメニュー画面を開けば能力の確認が出来たが、当然ながら今は、そんなものはない。
ただ、『レベル』と『スキル』、そして『クラス』がこの世界にも存在することは、幼い俺の知識の中にもある。
どうにかしてそれを確認出来るようになりたいところだが……レベル上げが出来るのならば、ダンジョン攻略もやりやすくなるな。
俺は、ラスボスだ。
短期間でバカみたいに強くなっていく主人公に、最初から最後まで対抗出来るキャラだ。
そのため、ゲームにおいての成長速度、成長限度は、主人公並に高かった。
また、適性を持つ武器の幅も広い。
キャラクター達にはそれぞれ適性武器が存在し、それに合わせたクラスに就かせてレベルを上げていく訳だが、主人公と、そしてヒナタだけは条件さえ達成すれば、一部のユニークを除いてほぼ全てのクラスに就くことが出来たのだ。
ゲームでの主流の武器は、大まかに分けて『剣』、『槍』、『弓』、『杖』、『魔導ライフル』の五つ。
さらに、特殊条件の達成が必要になるが、近接格闘用のガントレットとかハンドガン二刀流なんかもよく使用されていた。
この世界は『魔工学』と呼ばれる、科学技術と魔法技術のどちらをも利用する技術が発達しているため、文明レベルは非常に高いのだ。
テレビゲームとか普通にあるしな。テレビゲーム。やりたい。
武器は他に、戦棍や戦斧、斧槍に大鎌などもあるのだが、ぶっちゃけこの辺りは性能がピーキー過ぎるので、『画面の中のヒナタ』ではなく『俺』が扱うことを考えるとやめておいた方が良いだろう。
選択肢はこれだけあるのだが――主武器は、『剣』にするべきだな。
汎用性が高いし、使えるスキルも多く、何より主人公とラスボスたるヒナタ、両者だけが覚えることが可能な『ユニーククラス』が剣ツリーには存在している。
本編最後の決闘で、二人は剣を構え、そのユニーククラスの技を使って戦うのだ。
それに、記憶に残っているのだが、どうやら俺は父親から剣の手解きをすでに受けているようだしな。基礎があるから、他のものを一から覚えるよりかは良いだろう
あとは、サブ武器として何を使うか、か。
ゲームではクラスに合わせたメイン武器に加え、サブでもう一つ、別の武器を持つことが出来た。
いわゆる、『サブクラス』みたいな扱いだ。
メイン武器との相性があり、サブ武器如何によってスキルが変化したりすることもあるので、ちゃんと考える必要がある。
と言っても、剣はオーソドックスな武器であるため、何をサブに持って来ても大体相性が良いのだが……メインが近接武器なら、サブは遠距離武器にすべきか。
遠距離武器なら、候補は『弓』、『杖』、『魔導ライフル』の三つ。ハンドガン二刀流は特殊な近接型だから除外だ。
「……ライフル、かな」
遠距離攻撃が基本の純魔も強いし、剣並に汎用性に優れているので、純魔御用達の『杖』でも良いんだが……本編が始まれば、魔法に関して言えば主人公とヒナタでも超えられない化け物みたいな魔法使いの少女が出て来るので、そのことを考えるとちょっと、って感じである。
先々でもしかするとパーティを組むかもしれない可能性を考えれば、そっちに任せりゃいいじゃんってことになるしな。
となると遠距離の残りは弓かライフルかになるのだが、弓はメインで使わないと、使えるスキルの関係で微妙に性能が悪い。
そう考えると、消去法で残るのがライフルになるのだ。
それにライフルは、極めればビームが出る。
もう一度言う。ビームが出る。
それはライフルとは言わないのではないか、と思わなくもないが、まあとにかく極太のビームが弾の代わりに飛んでいき、純魔が張った最硬の防御魔法であっても突破することが可能になるので、火力という面で見ると非常に高い。
なお、剣でもビームが出るし、何なら弓でもビームが出る模様。槍はビーム出ないが、なんか幻影が出て連続攻撃する。
現実であるこの世界で、いったいどんな仕様になっているのか、確かめてみたいところだ。
――とりあえず、色々触ってみることから始めるか。
剣を主軸にするつもりだとは言え、ゲームとの差異を確かめなきゃいけないし、何より上位クラスに就くための条件として色々使えるようにならなきゃいけないのは確定なので、結局一通りは試してみることになるだろう。
というか、クラスの扱いって、この世界だとどうなっているのだろうか。
ゲームなら、学園の施設か専用の場所に行く必要があったのだが……まあ、とにかくやってみるしかないか。
俺は、今の段階で試せる限りの検証を開始した。