魔宴杯の終わり
みんな、やっぱるろ剣知ってるんだな……えー、自分も大好きです。
刀を出すならあの作品読まないとね。
ボックス・ガーデン決勝、最終順位は――。
・1位:ヒナタ=アルヴァー
・2位:ジェイク=ゴルダル
・3位:レイハ=リィト
・4位:ネア=グラハル
・5位:クラウス=ハース
・6位:ゲオルグ=アンデルス
・7位:フィーリア:エンタイア
優勝は、俺。
ただ、俺は撃破ポイントが少し微妙だった。砂丘エリアで足を取られた時間が長かったせいだ。
生存ポイントと撃破ポイントの合計で決まるのが順位だが、ジェイクに最後の勝負で勝てていなかったら、優勝もまた奴になっていたくらいには、僅差のポイントだった。
クラウス先輩が、レイハとネア姉よりは残っていたのに、順番的に五位となっているのも、それが理由だ。
どうやら道中、レイハとネア姉はメチャクチャ撃破ポイントを稼いでいたらしく、特にネア姉は、決勝での撃破ポイント獲得一位だったらしい。流石だわ。
そして――魔宴杯全体での総合優勝は、我らがヴァーミリア王立魔法学園。
均衡していた点数差は、ボックス・ガーデン決勝の上位をウチの面々が固めたことで、一気に突き放した形だ。
競技終了後は、慌ただしくすぐに表彰式が始まり、ボックス・ガーデンを優勝した俺は、準優勝のジェイクと三位のレイハと共に特設ステージに登り、トロフィーの授与を受けた。すごい量のカメラのフラッシュをたかれて、ちょっと目がシパシパした。
で、何故かそのまま俺が、学園代表として総合優勝の表彰も受けることになった。
いやそれは生徒会長が受けてくれよと思ったのだが、なんか、ノリでそうなった。おい。
クラウス先輩は、「俺はお前達に負けて、しかも五位だ。それで表彰受けるのはちょっとなぁ」なんて言っていたが、顔が笑っていたので普通に押し付けてきただけだと思われる。
……まあ、そこまで目立つのは、裏の仕事に差し支えると考えた部分もあったのかもしれない。今更感はあるが。
ボックス・ガーデン決勝の最後まで残ってた訳だし。
「――おめでとう。なかなかの戦いっぷりであったな。君達のような子供がいるのならば、ヴァーミリアの未来は明るそうだ」
大歓声の中、そう言って俺に総合優勝のトロフィーを渡したのは――ウラル=ヴォルヒム=レガドール。
レガドール魔帝国の、国家元首。
長身で細身に見えるが、これはしっかり肉体を鍛え、筋肉が引き締まっているからこその体形だと俺は知っている。
表情はにこやかで、テレビ映えしそうな穏やかな笑みを浮かべているが、その瞳は俺を備に観察し、こちらの一挙手一投足を見ている。
眼光が鋭過ぎて、若干威圧感を受ける程だ。
……全く、これだから有能な権力者というのは。
握手を交わしながら、内心でそんなことを思いつつも、それらを押し殺して畏まったように言葉を返す。
「光栄です、魔帝陛下」
すると、彼はこちらを称えるように俺の背中をバンバンと叩き――耳元でボソリとだけ呟く。
「その歳で、特殊部隊と作戦行動を共にし、敵を捕らえられる実力。凄まじいものだ。そのまま、しっかりと腕を磨くといい。何かあったら、そちらの学園長経由でいい、遠慮なく頼りたまえ。力になろう」
それだけを言って、俺から離れていく魔帝ウラル。
……おいおい。
一日目の夜の戦闘、しっかりバレてんじゃねぇか。
……流石に、ここは魔帝のお膝元、ということか。
思わず苦笑を溢していると、横にいたレイハが声を掛けてくる。
「ヒナタ?」
「ん、あぁ……何でもない。それよりこれ、一人で持つの、ちょい重い。一緒に持ち上げてくれないか?」
「……ん」
レイハは目立つのが恥ずかしいのか、ちょっと頬を赤くしながらも、ちょんと一歩分こちらに近付く。
そして――俺と一緒に、総合優勝のトロフィーを高く掲げた。
瞬間、大歓声と拍手が、スタジアムを包み込んだ。
「……ヒナタ」
「ん?」
「私、今回は、負けちゃった。でも……私は、ヒナタの隣に、立ちたい。だから――追い付くから。あなたに」
その瞳に宿っているのは、強き意志。
何者も侵せない、世界を動かす者の眼差し。
――本来は、レイハが勝って終わるはずだったボックス・ガーデン。
だが、結果は俺が勝ち、そして二位はジェイクだった。
レイハは三位。
俺が知っているものより悪い成績ではあるが……この瞳を見る限り、魔宴杯での経験は、レイハにとっても大きな財産となったようだ。
少し考えてから、俺は肩を竦め、冗談めかして言葉を返す。
「そんじゃあ俺は、お前に追い付かれないように、もっと強くなるわ」
「……むぅ。そういう時は、待ってくれるものじゃ?」
「待っててほしいか?」
「……いい」
少しだけ拗ねたように唇を尖らせる彼女に、俺は笑った。
その意志さえあれば、お前は最強だよ。
◇ ◇ ◇
「次こそは勝たせてもらおう。来年が楽しみだ」
「ヒナタ君、絶対連絡してくださいね? お姉さん、楽しみにしてますから」
表彰式が終わった後、ゲオルグとフィーリアの二人とはSNSの連絡先を交換し合い、別れた。
あの二人とは……また、会うことになるだろう。必ず。
なお、フィーリア生徒会長の俺に対する好感度が何故か微妙に高いっぽく、ねっとりとした笑顔で絡んできて、思わずちょっと頬を引き攣らせてしまった。
あんな綺麗な顔して、バリバリの武闘派だったし……『強いは正義』という価値観でも持っているのかもしれない。どこの蛮族だ。
……いや、考えてみると、エルフって割と戦闘民族の気質があるか。女王陛下からして、王にそんな強さはいらないだろってくらい戦える人な訳だし。ナヴェルのじいちゃんみたいな人もいるし。
良い笑顔のシノンが割って入ってくれたおかげで、そのねっとり笑顔からどうにか逃げられた感じだ。その後の、シノンの俺に対する笑顔の圧もなかなか凄かったが。
美人の笑顔って、迫力あるんだよな……。
エルフお姉さんこと、ラウラ=ドルー女王陛下とも、幾つか言葉を交わして別れた。「なかなか楽しかったの、魔宴杯! また会おうぞ!」なんて高らかに笑いながら、去って行った。
この人とも……なんか、長い付き合いになりそうな気がするな。どうせまた、レイハと一緒にいたら、遭遇することになるのだろう。
――そうして魔宴杯は、終わりを迎えた。
残る熱気と、祭りが終わったことの寂寥感を皆が覚えながらホテルを後にし、バスに乗って移動。
そして、その日の内に帰りの魔導飛空艇に搭乗する。
魔導飛空艇では、総合優勝おめでとうパーティが開催された。
本格的なのは後日学園でやるそうだが、豪奢な魔導飛空艇のホールを借りてのパーティは、それはもう盛り上がった。
優勝常連校だったのに、去年一昨年と勝てず、ようやく今年に勝てた訳だからな。
特に三年生は、その思いもひとしおのようで、そこまで仲が良い訳でもない先輩達などからも「よくやったぞ! マジで!」「決勝の最後、ジェイクとの勝負、最高にシビれたぞ!」「ヒナタ君がいれば、あと二年は安泰ね」などと声を掛けてもらった。
ただ、割と疲れていた俺は、皆と話すのもそこそこに、ホールから繋がっている外のデッキに一人で来ると、手すりにもたれかかって少し休憩していた。
「フゥ……」
夕方となり、夕闇に呑まれ始めた空。
眼下に見える雲。
かなり高空を飛んでいるが、寒さは全く感じない。このデッキにも、空調の魔法がしっかり働いているのだろう。
携帯端末を開き、見るのは、シノンが撮って、SNSに共有してくれた写真の数々。
ホテルでの写真や、競技で俺達が戦っている時の写真、何気ないふとした空き時間で撮った写真など様々で、これを見ていると何だか楽しくなってくる。
おっ、これ、レイハと一緒に、優勝トロフィーを掲げた時の写真か。
なんか、いいな、構図が。気に入った、待ち受けにしとくか。
――あぁ、俺は、魔宴杯が楽しかったんだな。
写真を見ながら、ふとそう思った。
色々あったし、なかなか大変ではあったのだが……ま、何とか乗り切れたという感じだ。
魔宴杯の裏に関して、わからないことは多い。
ネア姉の話だと、ナヴェルのじいちゃんは気になることがあるようで、もう少々だけレガドール魔帝国に残るそうだし、二日目以降に敵の動きが無かったのは俺も気になっていた。
安易に向こうが諦めた、なんて考えるには、向こうの攻撃が温かったような気がするのだ。
一日目の夜こそ、結構な規模で攻撃を仕掛けてきたが……二日目も、さらに三日目も、何も動きを見せなかったのは気になるところである。
あと、気になると言えば、これもさっきから気になっていたのだが――。
「……何でリーゼルがいるんだ?」
俺の視線の先にいるのは、レイハとシノンと一緒に談笑している、リーゼル=シュレイア。
なんか、当たり前のように一緒の魔導飛空艇に乗っているが……あの、あなた、ヴァーミリアの生徒じゃないですよね。
いつの間に……。
「――おう、アイツ、なんか知らんがウチの学園に留学するそうだぜ」
そう、横にやってきて口を開くのは、ネア姉。
「……マジで?」
「マジ。……その反応からすっと、この流れは予想出来なかったのか」
「……あぁ。全然だ。何でそんなことに?」
「あたしも詳しく聞いた訳じゃねぇがな。どうやら、今あたしらの国に来るべきだって、そう判断したらしい」
「…………」
リーゼルは、『バハムート』の操り手だ。
『レヴィアタン』を宿したシノンか、あるいはレイハの特殊性に気付いたか……?
いや、だが、この流れは悪いことじゃない、はずだ。
レイハの側に二人がいることは、今後を考えれば確実にプラスとなるはずで……ただ、今リーゼルが留学して、シュレイア王国の方はいったいどうなってしまうのか。
……まあ、なるようにしかならない、か。
「……もう今日は、難しいことは何も考えたくないな」
「はは、ま、それでいいと思うぜ。マスターも向こうに残ったように、気になることは幾つかあるが……今日だけは、ゆっくり休みゃあいい。ほら、食え。お前、その様子だと、料理取んのも億劫になるくらい疲れてんだろ」
「お、あんがと」
ネア姉が差し出してきた取り皿の料理を、俺ももらう。
一人でいるのを見て、わざわざ持って来てくれたらしい。自分も疲れてるだろうに、相変わらず甲斐甲斐しい人だ。
「……俺、将来ネア姉と結婚するわ」
「ぶっ……なっ、何だ、急に! 舐めたこと言ってっと、ぶっ飛ばすぞ!」
「はは、おう、今日は勘弁してもらいたいな。大分疲れたし」
笑いながら俺は、魔宴杯の終わりを噛み締め――。
――長い長い夜は、ここから始まる。
◇ ◇ ◇
陽が西に傾き、夜が迫りつつある時間帯。
魔導飛空艇の艦橋にて、最初に異変に気付いたのは、レーダーを見ていた観測手だった。
「船長! 四時方向、十五キロ先に反応あり! 数、三。この航路ですと、約二分で交差します」
部下の言葉に、船長と呼ばれた男はピク、と眉を動かす。
四時方向。
つまり、後方から追尾してきている存在がいるということ。
「四時方向で交差するとなると、向こうもそれなりの速度だな。船か?」
「不明です。モンスターでは無い可能性の方が高いとは思われますが……対象が、識別信号を発信しておりません」
「何……?」
モンスターは、強力だ。
空を自由に航行出来るようになった人類ではあるが、下手な航路を飛べば、縄張りを荒らされたと判断した飛行系モンスターが襲ってくる可能性は、重々有り得る。
だが、船は、速いのだ。
魔導飛空艇は、そもそも軍用として使われ始めたのが最初であり、民間の旅客船であるこの機体もまた、それなりの速度で航行することが可能となっている。
その速度に追い付けるようなモンスターというのはなかなか存在せず、そのため普段であれば仮に接敵しても、スピードで振り切るということが可能なのだが……それでも交差する可能性があるということは、それだけの速度で飛べる強いモンスターなのか。
あるいは――同じ、船か。
「……総員、念を入れ、これより対モンスター戦を想定して行動を開始する。武装展開、急げ」
『ハッ』
一気にブリッジに緊張が走り、訓練された動きで、皆が対処を開始する。
にわかに慌ただしくなる船員達。
「操舵手、取り舵十度。速度を最大まで上げよ。――どうだ、付いて来ているか?」
観測手は、レーダーの動きに注視し……言った。
「……不明反応、逸れません。我々を追尾し続けています」
「となると、やはり船、だな。この距離を探知可能で、魔導飛空艇に追随するスピードを持つモンスターが三体も出現したならば、軍の警戒網に必ず引っ掛かるはずだ」
そう断言した後、船長は無線機を手に取った。
「所属不明機に告ぐ。こちら、ヴァーミリア王国所属『エントルシア』号。事故防止のため、貴船らの進路の変更をお願いする。また、貴船らの所属を明らかにされたし」
無線は――答えない。
相手に、聞こえていないなどということは、あり得ない。
無線の呼びかけを、無視する。
それが表すのは、明確な、敵対意思。
船長の顔に険しいものが浮かび、その声色が若干の焦りを帯びる。
「所属不明機に次ぐ! こちら、ヴァーミリア王国所属『エントルシア』号。事故防止のため、貴船らの進路の変更をお願いする! また、貴船らの所属を明らかにされたし!」
再度の問い掛けに、やはり答えは無く。
船長は即座に軍への通報を決心し、傍らの受話器に手を伸ばすが……それは、少し遅かった。
「不明機群、速度上昇! こちらに距離を詰め――なッ!?」
「ッ、ろ、ロックオンされました! 不明機群、ミサイル発射! 数、四!」
「デコイ散布用意ッ!!」
怒鳴る船長。
タイミングを見計らって放たれたデコイが、迫り来るミサイルのレーダーを誤魔化し、明後日の方向へと飛んで行く。
だが、その程度で攻撃は、終わらない。
「次弾、来ますッ!」
「続けてデコイ用意ッ!! ガンナーの迎撃準備を急がせろッ!!」
モンスター対策として、エントルシア号には幾つかの武装が備わっている。
そこらのモンスター程度ならば十分に撃退可能で、そのための訓練も船員は重ねているが……あくまで彼らの船は、旅客船である。
複数の魔導飛空艇を相手に、それもミサイルを備えているような戦闘機を相手に戦える性能は――無い。
彼らの懸命な努力虚しく、放たれたミサイルの内の一発が、着弾した。
一旦ここで章を区切るか。魔宴杯編まだ終わらないってマ……?(白目)
ここまで読んでくれてありがとう! 感想等もありがとう!
ブクマ、評価いただけると非常に助かります!
ここからもどうぞよろしく!




