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彼方へ紡ぐ  作者: 流優
魔宴杯

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229/256

魔宴杯の終わり

 みんな、やっぱるろ剣知ってるんだな……えー、自分も大好きです。


 刀を出すならあの作品読まないとね。



 ボックス・ガーデン決勝、最終順位は――。



・1位:ヒナタ=アルヴァー

・2位:ジェイク=ゴルダル

・3位:レイハ=リィト

・4位:ネア=グラハル

・5位:クラウス=ハース

・6位:ゲオルグ=アンデルス

・7位:フィーリア:エンタイア



 優勝は、俺。


 ただ、俺は撃破ポイントが少し微妙だった。砂丘エリアで足を取られた時間が長かったせいだ。


 生存ポイントと撃破ポイントの合計で決まるのが順位だが、ジェイクに最後の勝負で勝てていなかったら、優勝もまた奴になっていたくらいには、僅差のポイントだった。


 クラウス先輩が、レイハとネア姉よりは残っていたのに、順番的に五位となっているのも、それが理由だ。


 どうやら道中、レイハとネア姉はメチャクチャ撃破ポイントを稼いでいたらしく、特にネア姉は、決勝での撃破ポイント獲得一位だったらしい。流石だわ。

 

 そして――魔宴杯全体での総合優勝は、我らがヴァーミリア王立魔法学園。


 均衡していた点数差は、ボックス・ガーデン決勝の上位をウチの面々が固めたことで、一気に突き放した形だ。


 競技終了後は、慌ただしくすぐに表彰式が始まり、ボックス・ガーデンを優勝した俺は、準優勝のジェイクと三位のレイハと共に特設ステージに登り、トロフィーの授与を受けた。すごい量のカメラのフラッシュをたかれて、ちょっと目がシパシパした。


 で、何故かそのまま俺が、学園代表として総合優勝の表彰も受けることになった。


 いやそれは生徒会長が受けてくれよと思ったのだが、なんか、ノリでそうなった。おい。


 クラウス先輩は、「俺はお前達に負けて、しかも五位だ。それで表彰受けるのはちょっとなぁ」なんて言っていたが、顔が笑っていたので普通に押し付けてきただけだと思われる。

 

 ……まあ、そこまで目立つのは、裏の仕事に差し支えると考えた部分もあったのかもしれない。今更感はあるが。


 ボックス・ガーデン決勝の最後まで残ってた訳だし。


「――おめでとう。なかなかの戦いっぷりであったな。君達のような子供がいるのならば、ヴァーミリアの未来は明るそうだ」


 大歓声の中、そう言って俺に総合優勝のトロフィーを渡したのは――ウラル=ヴォルヒム=レガドール。


 レガドール魔帝国の、国家元首。


 長身で細身に見えるが、これはしっかり肉体を鍛え、筋肉が引き締まっているからこその体形だと俺は知っている。


 表情はにこやかで、テレビ映えしそうな穏やかな笑みを浮かべているが、その瞳は俺を備に観察し、こちらの一挙手一投足を見ている。


 眼光が鋭過ぎて、若干威圧感を受ける程だ。


 ……全く、これだから有能な権力者というのは。


 握手を交わしながら、内心でそんなことを思いつつも、それらを押し殺して畏まったように言葉を返す。


「光栄です、魔帝陛下」


 すると、彼はこちらを称えるように俺の背中をバンバンと叩き――耳元でボソリとだけ呟く。


「その歳で、特殊部隊と作戦行動を共にし、敵を捕らえられる実力。凄まじいものだ。そのまま、しっかりと腕を磨くといい。何かあったら、そちらの学園長経由でいい、遠慮なく頼りたまえ。力になろう」


 それだけを言って、俺から離れていく魔帝ウラル。


 ……おいおい。


 一日目の夜の戦闘、しっかりバレてんじゃねぇか。


 ……流石に、ここは魔帝のお膝元、ということか。


 思わず苦笑を溢していると、横にいたレイハが声を掛けてくる。


「ヒナタ?」


「ん、あぁ……何でもない。それよりこれ、一人で持つの、ちょい重い。一緒に持ち上げてくれないか?」


「……ん」


 レイハは目立つのが恥ずかしいのか、ちょっと頬を赤くしながらも、ちょんと一歩分こちらに近付く。


 そして――俺と一緒に、総合優勝のトロフィーを高く掲げた。


 瞬間、大歓声と拍手が、スタジアムを包み込んだ。


「……ヒナタ」


「ん?」


「私、今回は、負けちゃった。でも……私は、ヒナタの隣に、立ちたい。だから――追い付くから。あなたに」


 その瞳に宿っているのは、強き意志。


 何者も侵せない、世界を動かす者の眼差し。


 ――本来は、レイハが勝って終わるはずだったボックス・ガーデン。


 だが、結果は俺が勝ち、そして二位はジェイクだった。


 レイハは三位。


 俺が知っているものより悪い成績ではあるが……この瞳を見る限り、魔宴杯での経験は、レイハにとっても大きな財産となったようだ。


 少し考えてから、俺は肩を竦め、冗談めかして言葉を返す。


「そんじゃあ俺は、お前に追い付かれないように、もっと強くなるわ」


「……むぅ。そういう時は、待ってくれるものじゃ?」


「待っててほしいか?」


「……いい」


 少しだけ拗ねたように唇を尖らせる彼女に、俺は笑った。


 その意志さえあれば、お前は最強だよ。



   ◇   ◇   ◇



「次こそは勝たせてもらおう。来年が楽しみだ」


「ヒナタ君、絶対連絡してくださいね? お姉さん、楽しみにしてますから」


 表彰式が終わった後、ゲオルグとフィーリアの二人とはSNSの連絡先を交換し合い、別れた。


 あの二人とは……また、会うことになるだろう。必ず。


 なお、フィーリア生徒会長の俺に対する好感度が何故か微妙に高いっぽく、ねっとりとした笑顔で絡んできて、思わずちょっと頬を引き攣らせてしまった。


 あんな綺麗な顔して、バリバリの武闘派だったし……『強いは正義』という価値観でも持っているのかもしれない。どこの蛮族だ。


 ……いや、考えてみると、エルフって割と戦闘民族の気質があるか。女王陛下からして、王にそんな強さはいらないだろってくらい戦える人な訳だし。ナヴェルのじいちゃんみたいな人もいるし。


 良い笑顔のシノンが割って入ってくれたおかげで、そのねっとり笑顔からどうにか逃げられた感じだ。その後の、シノンの俺に対する笑顔の圧もなかなか凄かったが。


 美人の笑顔って、迫力あるんだよな……。


 エルフお姉さんこと、ラウラ=ドルー女王陛下とも、幾つか言葉を交わして別れた。「なかなか楽しかったの、魔宴杯! また会おうぞ!」なんて高らかに笑いながら、去って行った。


 この人とも……なんか、長い付き合いになりそうな気がするな。どうせまた、レイハと一緒にいたら、遭遇することになるのだろう。


 ――そうして魔宴杯は、終わりを迎えた。


 残る熱気と、祭りが終わったことの寂寥感を皆が覚えながらホテルを後にし、バスに乗って移動。


 そして、その日の内に帰りの魔導飛空艇に搭乗する。


 魔導飛空艇では、総合優勝おめでとうパーティが開催された。


 本格的なのは後日学園でやるそうだが、豪奢な魔導飛空艇のホールを借りてのパーティは、それはもう盛り上がった。


 優勝常連校だったのに、去年一昨年と勝てず、ようやく今年に勝てた訳だからな。


 特に三年生は、その思いもひとしおのようで、そこまで仲が良い訳でもない先輩達などからも「よくやったぞ! マジで!」「決勝の最後、ジェイクとの勝負、最高にシビれたぞ!」「ヒナタ君がいれば、あと二年は安泰ね」などと声を掛けてもらった。


 ただ、割と疲れていた俺は、皆と話すのもそこそこに、ホールから繋がっている外のデッキに一人で来ると、手すりにもたれかかって少し休憩していた。


「フゥ……」


 夕方となり、夕闇に呑まれ始めた空。


 眼下に見える雲。


 かなり高空を飛んでいるが、寒さは全く感じない。このデッキにも、空調の魔法がしっかり働いているのだろう。


 携帯端末を開き、見るのは、シノンが撮って、SNSに共有してくれた写真の数々。


 ホテルでの写真や、競技で俺達が戦っている時の写真、何気ないふとした空き時間で撮った写真など様々で、これを見ていると何だか楽しくなってくる。


 おっ、これ、レイハと一緒に、優勝トロフィーを掲げた時の写真か。


 なんか、いいな、構図が。気に入った、待ち受けにしとくか。


 ――あぁ、俺は、魔宴杯が楽しかったんだな。 


 写真を見ながら、ふとそう思った。 


 色々あったし、なかなか大変ではあったのだが……ま、何とか乗り切れたという感じだ。


 魔宴杯の裏に関して、わからないことは多い。


 ネア姉の話だと、ナヴェルのじいちゃんは気になることがあるようで、もう少々だけレガドール魔帝国に残るそうだし、二日目以降に敵の動きが無かったのは俺も気になっていた。


 安易に向こうが諦めた、なんて考えるには、向こうの攻撃が(ぬる)かったような気がするのだ。


 一日目の夜こそ、結構な規模で攻撃を仕掛けてきたが……二日目も、さらに三日目も、何も動きを見せなかったのは気になるところである。


 あと、気になると言えば、これもさっきから気になっていたのだが――。


「……何でリーゼルがいるんだ?」


 俺の視線の先にいるのは、レイハとシノンと一緒に談笑している、リーゼル=シュレイア。


 なんか、当たり前のように一緒の魔導飛空艇に乗っているが……あの、あなた、ヴァーミリアの生徒じゃないですよね。


 いつの間に……。


「――おう、アイツ、なんか知らんがウチの学園に留学するそうだぜ」


 そう、横にやってきて口を開くのは、ネア姉。


「……マジで?」


「マジ。……その反応からすっと、この流れは予想出来なかったのか」


「……あぁ。全然だ。何でそんなことに?」


「あたしも詳しく聞いた訳じゃねぇがな。どうやら、今あたしらの国に来るべきだって、そう判断したらしい」


「…………」


 リーゼルは、『バハムート』の操り手だ。


 『レヴィアタン』を宿したシノンか、あるいはレイハの特殊性に気付いたか……?


 いや、だが、この流れは悪いことじゃない、はずだ。


 レイハの側に二人がいることは、今後を考えれば確実にプラスとなるはずで……ただ、今リーゼルが留学して、シュレイア王国の方はいったいどうなってしまうのか。


 ……まあ、なるようにしかならない、か。 


「……もう今日は、難しいことは何も考えたくないな」


「はは、ま、それでいいと思うぜ。マスターも向こうに残ったように、気になることは幾つかあるが……今日だけは、ゆっくり休みゃあいい。ほら、食え。お前、その様子だと、料理取んのも億劫になるくらい疲れてんだろ」


「お、あんがと」


 ネア姉が差し出してきた取り皿の料理を、俺ももらう。


 一人でいるのを見て、わざわざ持って来てくれたらしい。自分も疲れてるだろうに、相変わらず甲斐甲斐しい人だ。


「……俺、将来ネア姉と結婚するわ」


「ぶっ……なっ、何だ、急に! 舐めたこと言ってっと、ぶっ飛ばすぞ!」


「はは、おう、今日は勘弁してもらいたいな。大分疲れたし」


 笑いながら俺は、魔宴杯の終わりを噛み締め――。




 ――長い長い夜は、ここから始まる。



   ◇   ◇   ◇



 陽が西に傾き、夜が迫りつつある時間帯。


 魔導飛空艇の艦橋にて、最初に異変に気付いたのは、レーダーを見ていた観測手だった。


「船長! 四時方向、十五キロ先に反応あり! 数、三。この航路ですと、約二分で交差します」


 部下の言葉に、船長と呼ばれた男はピク、と眉を動かす。


 四時方向。


 つまり、後方から追尾(・・)してきている存在がいるということ。


「四時方向で交差するとなると、向こうもそれなりの速度だな。船か?」


「不明です。モンスターでは無い可能性の方が高いとは思われますが……対象が、識別信号を発信しておりません」


「何……?」


 モンスターは、強力だ。


 空を自由に航行出来るようになった人類ではあるが、下手な航路を飛べば、縄張りを荒らされたと判断した飛行系モンスターが襲ってくる可能性は、重々有り得る。


 だが、船は、速いのだ。


 魔導飛空艇は、そもそも軍用として使われ始めたのが最初であり、民間の旅客船であるこの機体もまた、それなりの速度で航行することが可能となっている。


 その速度に追い付けるようなモンスターというのはなかなか存在せず、そのため普段であれば仮に接敵しても、スピードで振り切るということが可能なのだが……それでも交差する可能性があるということは、それだけの速度で飛べる強いモンスターなのか。


 あるいは――同じ、船か。


「……総員、念を入れ、これより対モンスター戦を想定して行動を開始する。武装展開、急げ」


『ハッ』


 一気にブリッジに緊張が走り、訓練された動きで、皆が対処を開始する。


 にわかに慌ただしくなる船員達。


「操舵手、取り舵十度。速度を最大まで上げよ。――どうだ、付いて来ているか?」


 観測手は、レーダーの動きに注視し……言った。


「……不明反応、()れません。我々を追尾し続けています」


「となると、やはり船、だな。この距離を探知可能で、魔導飛空艇に追随するスピードを持つモンスターが三体も出現したならば、軍の警戒網に必ず引っ掛かるはずだ」


 そう断言した後、船長は無線機を手に取った。


「所属不明機に告ぐ。こちら、ヴァーミリア王国所属『エントルシア』号。事故防止のため、貴船らの進路の変更をお願いする。また、貴船らの所属を明らかにされたし」

 

 無線は――答えない。


 相手に、聞こえていないなどということは、あり得ない。


 無線の呼びかけを、無視する。


 それが表すのは、明確な、敵対意思(・・・・)

 

 船長の顔に険しいものが浮かび、その声色が若干の焦りを帯びる。


「所属不明機に次ぐ! こちら、ヴァーミリア王国所属『エントルシア』号。事故防止のため、貴船らの進路の変更をお願いする! また、貴船らの所属を明らかにされたし!」


 再度の問い掛けに、やはり(いら)えは無く。


 船長は即座に軍への通報を決心し、傍らの受話器に手を伸ばすが……それは、少し遅かった。


「不明機群、速度上昇! こちらに距離を詰め――なッ!?」


「ッ、ろ、ロックオン(・・・・・)されました! 不明機群、ミサイル発射! 数、四!」


「デコイ散布用意ッ!!」


 怒鳴る船長。


 タイミングを見計らって放たれたデコイが、迫り来るミサイルのレーダーを誤魔化し、明後日の方向へと飛んで行く。


 だが、その程度で攻撃は、終わらない。


「次弾、来ますッ!」


「続けてデコイ用意ッ!! ガンナーの迎撃準備を急がせろッ!!」


 モンスター対策として、エントルシア号には幾つかの武装が備わっている。


 そこらのモンスター程度ならば十分に撃退可能で、そのための訓練も船員は重ねているが……あくまで彼らの船は、旅客船である。


 複数の魔導飛空艇を相手に、それもミサイルを備えているような戦闘機(・・・)を相手に戦える性能は――無い。


 彼らの懸命な努力虚しく、放たれたミサイルの内の一発が、着弾した。

 一旦ここで章を区切るか。魔宴杯編まだ終わらないってマ……?(白目)


 ここまで読んでくれてありがとう! 感想等もありがとう!

 ブクマ、評価いただけると非常に助かります!


 ここからもどうぞよろしく!

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― 新着の感想 ―
[一言] ああ、行きで墜ちないと思ったらここで墜ちるのかwww
[一言] 魔王「人が魔宴杯で疲れているのに、ちょっかいを出すとはいい度胸だな…」 敵さん、逃げて~! 超逃げて~!!!
[一言] エルフは変化があんまり多くなさそうだから戦闘に刺激を求めてるとかなんかなやたら武闘派がいるの
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