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彼方へ紡ぐ  作者: 流優
魔宴杯

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ボックス・ガーデン決勝《1》


 どうやら、時間になったらしい。


 スタッフに声を掛けられ、俺達は訓練場のすぐ近くにある控室へと移動し、五分も待たずにフィールドへの転送が開始される。


「うし、お前ら。行こうか」


「あぁ」


「押忍!」


「ん!」


 俺達は、コツンと全員で拳を打ち合わせ――転送陣に乗った。


 瞬間、景色が変わる。


「……げっ」


 見渡す限りの、砂。


 砂丘エリア。


 おいおい、本番でここを引くか……文句言ってもしょうがない、この状況での戦い方を考えるか。


「フー……」


 大きく息を吐き、軽く競技用の刀を振って、精神を落ち着ける。


 ちなみに今、イブキはシノンに持たせている。


 彼女は剣なんて振るえないが、イブキの危機察知能力があれば、危険から逃げることは出来るだろうからな。


 ……今後、シノンにも軽く刀の扱いくらいは教えた方が良いだろうか? 剣自体は、護身用程度だがネア姉に教わってるはずだし。考えておこう。


 と、その瞬間、Booo、という競技開始のブザーが、高らかに鳴り響いた。


 刹那、ボン、という爆発するかのような音がそう遠くない位置から聞こえ、高く砂が舞い上がる。


 戦闘開始。


 砂丘エリアは、崩れた遺跡跡のようなものを中心に広がっているのだが、ここは極端に遮蔽物が少ないため、開始時点で他の選手の姿が見えることがあるのだ。


 俺の姿も視認されていたようで、こちらにも多種多様な魔法が飛んできたが、避けたり斬ったりでどうにか回避していく。


 砂に足が取られる。機動力マイナス二十パーセント、って感じだ。


 ……ここを安全に抜けるには、まず先に他の生徒を落とさないとマズそうだな。


 そのためには、やはりまともな足場のある遺跡跡で戦わないとならないだろう。こんなところじゃあ、魔法主体で戦闘していない俺はカモにされるだけだ。


 この世界で俺は、それなりに魔法スキルを覚えてはいるものの、全然使わない。


 魔法斬り(・・・・)があるからだ。

 

 どんな威力のある魔法でも、構造を崩せば消すことが出来る。となれば、魔法では決定打になりにくい。戦艦の主砲クラスになれば話は別だが。


 まあ、こういう場所なら魔法の方が強いだろうが、どっちにしろ大なり小なり必ず魔力を消費することになる。


 ボックス・ガーデンは、一人落とせば終了じゃないのだ。継戦能力の維持は必須である。


 特に、この後レイハ達と戦う可能性がある以上、魔力はなるべく温存しなければ。


「――ってうおっ!?」


 突如俺の足元から出現する、砂で出来た蛇のような巨大モンスター。胴回りが、大木くらいはあるだろうか。


 恐らくは、『ゴーレム』の一種だろう。『サンドゴーレム』といったところか。


 開かれた(アギト)からギリギリで逃げ、突然過ぎたせいで一瞬転びかけるが、両手を突いてすぐに体勢を立て直し、距離を取る。


 誰の魔法か知らないが、この規模のゴーレムなら使う魔力量も相応にデカいだろうし、こんな序盤で随分ぶっ込んでくるものだ。


 ……もしかして、俺を警戒してか?


 まあ、こういうゴーレムとかを形成するタイプの魔法は、維持自体にはそんなに魔力を消費しないから、一旦作ってしまえば最後まで使えるしな。


 この一体で、砂丘エリアの他の生徒も落とすつもりだったのかもしれない。


「ったく、だからって最初に俺を狙わなくても良くないか!?」


 俺が向かった先は、斜めに砂丘に突き刺さっている、デカい柱。


 俺はその柱を駆け上がっていき、曲芸が如く途中で蹴って跳び上がる。


 一歩遅れて、砂蛇が柱に激突し、良い位置に奴の首が来る。


 使うのは、やはり魔法斬り。


 競技用のせいで、イブキと比べると微妙に通りが悪い刀身に無理やり魔力を流し込んで纏わせ――落下と同時に、斬る。


 砂蛇の首を斬り落とし、すると、そのまま肉体全体がズササと砂丘に落ちていき、ただの砂へと戻った。


 本来なら砂の塊を斬ることなんて不可能だろうし、恐らく斬った断面からまた顔が形成されるのだろうが、今俺が破壊したのは魔法の構造そのもの。


 丹精込めて作ったところ悪いが、これでお前のおもちゃはお釈迦だ。


「んなっ!?」


 驚きの声が、意外と近くから聞こえてくる。


 いた。砂丘の一つ奥。


 見つかったことに気付き、砂蛇使いの選手は目くらましのためか砂嵐を発生させたものの、今は逃げるよりも迎撃に魔法を使うべきだったな。


 相手が次の行動をするよりも先に距離を詰め切り、一刀の下に斬り捨て――その瞬間が狙われていたらしい。


 また別方向から飛来してくる、火の弾。


 まるで散弾のように数個纏めて飛んできたそれを、俺は地面に転げるようにして回避。


 術者は……遠い。さっきの奴は意外と近かったから良かったが、今の精度の攻撃を受け続けながらあそこまで距離を詰めるのは、この足場だと難しいな。


 蒼焔を使えば話は別だろうが、こんな衆目の目があるところでわざわざユニークスキルを晒す訳にもいかないし。


 というかアイツ、多分開幕で俺に向かって魔法ぶっ放してきた奴だな。


 かなり精度が高いし、不意打ちのタイミングも大したものなので、アイツをどうにかしないとこの砂丘エリアからは抜けられないな。


「……なるほど、決勝かッ! そう甘くは無いよなッ!」


 予選とは違う、初っ端からヒリつくこの感覚に、俺は何だか楽しくなり、自分でも知らぬ間に笑みを浮かべていた。


 戦闘大好きなネア姉を笑えないな。



   ◇   ◇   ◇



 試合開始時、レイハが転送された先は、『工事現場エリア』だった。


 他のエリアよりも比較的遮蔽物が多めで、『街エリア』とも隣接しているため、取れる選択肢の多いエリア。戦術が試される場所だと言えるだろう。


 心臓が、高鳴っている。


 初めての大舞台というものに、己に強い緊張が走り、精神が高揚しているのがわかる。


 ただ……訓練の時から思っていたが、そんな状態でも、身体だけはよく動いた。


 感じている緊張とは裏腹に、動きのキレが、とても――良い。


 まるで、レイハの高揚に呼応するかのように。


 と、肉体の動きを確かめていたその時、競技開始のブザーが高らかに鳴った。


 しかし、レイハはまだ動かず。


 周囲を確認しながら、考える。


 ――この、ボックス・ガーデン決勝に出るということの意味。


 別に、己が望んだ舞台ではない。


 皆が出ると言うし、自分も選手に選ばれたみたいだから、まあやってみるかといった感じで、受け身的に決めた参加だった。


 だから、レイハには正直、魔宴杯に対してそこまでの熱意は無いのだ。


 無いのだが……この試合には、ヒナタも、ネアも、ジェイクもいる。


 自分の、大切な友人達。


 彼らは、すごい。常に前を見て、先へ先へと走り続ける。


 ジェイクなど、何度もヒナタに負けているのに、それでも食らいついていくことをやめず、ただその背を追い続け、ついには学園の中でも有数の実力を持つに至っている。


 自分も……負けていられない。


 ヒナタ達と一緒にいるのならば、自分だけ停滞している訳にはいかない。


 全力で、追いかけるのだ。


「…………」


 ただ緊張するだけだったレイハの瞳に、強き意志が宿る。


 それは、レイハが持つ、何にも代えられない最も大きな武器(・・)


 彼女に意志がある限り、その歩みを止めることは出来ないのだ。

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[良い点] ただ緊張するだけだったレイハの瞳に、強き意志が宿る。  それは、レイハが持つ、何にも代えられない最も大きな武器。  彼女に意志がある限り、その歩みを止めることは出来ないのだ。 トゥン…
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