魔宴杯開始《3》
魔宴杯開幕式。
何とか俺は遅刻せず、始まるギリギリで滑り込むことに成功したのだが、衆目の前で「遅い、兄さん! どこ行ってたのさ!」と妹に怒られる羽目となり、周囲から生温かい目で見られることになった。
おのれ賊め……お前らのせいだ。絶対に許すまじ。
で、俺は一応、一年の中で代表的なものをやれと言われているので、同級生達を先頭で引き連れて並び、開幕式が開始。
この大規模なお祭りに相応しいセレモニーが行われ、これもまたなかなか面白かったが、まあこの後が本番なので、十分程の短い時間で終了。
開幕式が終わった後は、すぐに競技ごとに別れ、それぞれの待機室へと移動する。
ただ、俺達の出場は、まだ少し先だ。
まず先に他の競技が行われ、ボックス・ガーデン組も『新人戦』から行われるため、俺達の競技開始自体は午後からなのである。
だから、慌ただしかった朝とは違い、割と自由な時間が生まれ――故に今、俺はネア姉に先程のことについて話していた。
「いやがったか?」
「あぁ。ただ、ドルマの生徒会長が先んじて排除してくれて、俺の出番は無かったわ。あの人、相当実戦慣れしてやがった」
「ドルマの生徒会長ってーと……へぇ、あのデカい魔族か」
「知ってるのか?」
「去年、お前らと同じく、一年生ながらボックス・ガーデン本戦に出場して、決勝でも暴れてやがったからな。あたしは直接戦うこたぁなかったが、多分お前でも油断したら負けるだろうよ」
「……あの実力なら、そうだろうな」
ボックス・ガーデンでは、予選と決勝の二試合を戦うことになる。
一試合の参加人数は、四十名。
決勝に進むには、予選の上位五名に入らなければならず、それが多いか少ないかは人によって意見が分かれるだろうが、とにかくそんな大人数が参加する競技であるため、当然決勝に進むのは容易ではない。
単純に、最後の五名にまで生き残っていたとしても、『生存ポイント』以上に『撃破ポイント』を稼いでいる選手が他にいれば、そちらが決勝に進むことになる。
どの程度隠密で動くのか、他選手を倒しに動くのか、その辺りは戦略によって変わってくるだろう。
まあ、とは言っても、やはり実力のある生徒が、自然と最後まで残るのがこの競技なんだがな。
「ナヴェルさんは何か言ってなかったか?」
「あぁ、多分敵の増援が来たって連絡があったぜ。昨日までで結構潰したはずが、また別口っぽい敵が入り込んでやがったらしい。お前が遭遇したのも、それだろうな。あと、例のお姫様。ちと危ねぇかもしんねぇって言ってた」
「……リーゼル王女か」
やっぱり、ここで関わってくるか。
魔宴杯に参加した以上は、彼女は狙われる。その意識でいた方がいいだろう。
「悪いがヒナタ、こうなってくると、あたしらもあんまりゆっくり競技を観てる時間は無ぇかもしんねぇ。競技開始まで、ちと付き合ってくれるか?」
「何を今更。むしろそれは、こっちのセリフだろうよ。半分くらい俺が巻き込んでるようなもんだし」
肩を竦めてそう言うと、ネア姉は小さく笑う。
「……ま、今は、お前の妹の競技を観てやんねぇとな。確か、そろそろだろ?」
「あぁ、かなり早い順番だったはず」
俺とネア姉は、控室のモニターに顔を向けた。
◇ ◇ ◇
「フゥ……」
ユヅキは大きく深呼吸を繰り返し、そして己の手元にある剣を見る。
使い慣れた、ショートソードの分類に入る典型的な片手剣。
昔、「お前なら、これが使いやすいだろ」と兄がくれたもので、実際とても使いやすく、愛用し続けている。
『ブルーム』で使用可能な『杖』には明確な規格が存在しているが、この剣は、本当にただの剣だ。
魔力が流しやすく、あとそこらの刀剣よりは遥かに斬れ味が良いという特徴はあっても、そもそも杖として使うようなものではないため、事前の審査でもしっかり許可が出ている。
魔法の緻密さ、規模、美しさを競うこの競技では、杖選びも重要なので、本当に剣で良いのかと先輩に確認されることもあったが、多分自分は、むしろこれ以外だと上手くやれないだろう。
兄程ではないとはいえ、自分もまたそれなりには、剣を振ってきた身だからだ。普通の杖より、こちらの方が今では手に馴染むのである。
――己の剣技は、兄とは比ぶべくもないものだ。
幼少の頃から鍛え続けてきた兄の剣技は、もはや見ていて美しさすら感じられる程で、同じ父に教わったものが元になっているとはとても思えない。
まあ、どうやら兄は、あの小さく可愛らしい、だが苛烈な先輩に昔から色々教わっていたそうなので、そちらからの学びも大きいのだろうが、どちらにしろ日々の努力の積み重ねで出来上がった兄の剣技は、己のものより数倍は洗練されていることだろう。
そしてそれは、魔法でもそうである。
兄はあまり魔法を使わないが、緻密な魔力制御から繰り出されるそれは、剣以上に魔法を磨き続けてきた自分より優れていることを、ユヅキは知っている。
あの、アマネ=ヤヤが、ライバル視しているくらいなのだ。その事実だけで、兄の魔法技術がどれだけ卓越しているのかが、わかるというものである。
そう、いつの間にか兄は、学園でも有数の生徒となっていた。
いつかそうなるだろうとは思っていたが、あっという間に一年のトップ層――いや学園のトップ層に入り、今では学園で兄の名を知らぬ者は、恐らくいないと思われる。
対して自分は、まだまだ未熟そのもの。
追いかけても追いかけても、それ以上の速度で兄は成長していってしまう。
しかし、その差に落ち込む暇などない。そんな無駄なことをしている間に、兄はさらに先へと進んでいくことを、妹としてよく理解しているからだ。
だから――ここで。
この『ブルーム』で、少しでも追い付くのだ。
ユヅキは、ステージに出る。
瞬間、客席から一斉に注がれる視線。
朝なので、まだまだ少ない方ではあるだろうが、それでも数千、いや万の客はいることだろう。
それだけの者達の視線に晒され、否応無くユヅキの緊張も高まっていくが――こんなもの、関係無い。
客など、関係無い。
自分は、自分のやれることをやるだけ。
兄のように……ただ、全力で駆け抜けるだけだ。
とんでもない兄の妹として生まれた以上、これくらいは何でもないという顔で、熟すのである。
全く、面倒な兄を持ってしまったものだ。
「……よろしくお願いします!」
ユヅキは微かに笑い、そして一礼する。
多くの拍手に包まれながら――剣舞を開始した。
ちょい書き直すかも。




