表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼方へ紡ぐ  作者: 流優
王魔祭

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

104/256

近衛騎士団との訓練《1》

 感想等ありがとう、ありがとう!


 ――ヴァーミリア近衛騎士団。


 王を守る盾。


 現団長ジークムント=バルツァーは、歴代団長の中でも最強と謳われ、とある都市を襲った龍種を彼が斬り殺したことで、その名は爆発的に広まった。


 冒険者上がり、という異色の経歴を持ち、身分等の問題から王の盾には相応しくないなどと言われながらも、ただ実力をもって全てを黙らせ、近衛騎士団団長にまで昇り詰めた男である。


 今の俺でも勝つことが非常に難しい、明確な格上だ。『蒼焔』があってもどうか、という相手だな。


 彼らは学園長の伝手で呼ばれ、生徒達に軽く訓練を付けるため来てくれるのだが、彼らとしても学園の将来有望な生徒達に唾を付けられるので、毎年このイベントは行われているらしい。


 と言っても、学園の生徒は多く、無尽蔵に相手が出来る訳ではないため、実際に模擬戦が行えるのはそれぞれの学年での上位数十名程度で、それ以外は希望した生徒のみ見学することが出来る。


 特に、騎士団長が直接相手するのは、各学年の上位十五名のみだ。


 それでも、成り上がりの象徴みたいな現団長はこの国ではすごい人気なので、毎年大勢が訓練に参加するみたいだがな。


 まあ、ゲームで知っているから言えるのだが、団長自身は相当寡黙で、そういうのが煩わしいタイプなので、嫌々やっているのだろうが。


「近衛騎士……どれくらい強いのかしら」


「王の護衛だからな。上澄みの上澄み集団だぞ」


「ヒナタとどっちが強い?」


「あー……一般団員だったら、そこまで負けないつもりはある。が、団長と副団長の二人は、厳しいだろうな」


「……ヒナタ、お前は俺に、その鋼のメンタルを見習いたいとか言うけどよ。俺としちゃあ、お前のその傲岸不遜なクソ度胸の方が見習いたいぜ。いや、これは褒めてんだぜ? マジで」


 訓練場に移動しながら、三人で会話をする。


 確かにそう言われてもしょうがないだろうが、俺も、このレベルまで戦い抜けてきた自負がある。


 本来は誰も知らないはずの知識を活用してのレベリングなので、相当反則というか、ズルと言われれば全くその通りで否定は出来ないものの、それでもレベル差とは正直なものだ。


 近衛騎士は、団長と副団長を除いて、平均で確か『Lv:60』前後。まだ俺でも、『蒼焔』無しでどうにか対処出来る相手だろう。

 

 この世界では、「レベルが低い? じゃあレベリングしよう!」なんて、気軽に出来るものではない。


 格下を幾ら狩ったところで経験値にはほとんどならず、同格、もしくは格上に挑まなければレベルは全然上がらないため、そうなれば当然命懸けになる。


 レベルが上がるにつれ、挑む敵の強さも増していき、その中で生き残り続けなければならないのだ。


 合宿で、シノンにパワーレベリング紛いのことはやったが、あれも俺達がいなければ普通に命懸けだからな。


「現騎士団長はすげぇんだ、レイハちゃん! 盾を持たせた戦闘なら、間違いなく世界一だろうな。それでいて剣の技もピカイチだ。怪物だぜ、紛うことなき」


「そうか、ジェイク、盾役のお前としちゃあ、あのおっさんが理想そのものなのか。タワーシールド使いってとこも一緒だしな」


「おっさんて。けど、その通りだ。ウチの国にすら名前の轟く猛者だぜ? それが直接見られて、しかも剣を交えることが出来るとあっちゃあ、楽しみもひとしおってもんだ。ヒナタだってそうだろ?」


「ま、そうだな。これでワクワクしないって言ったら、嘘になる」


 いったい自分が、どれだけ騎士団長を相手に戦えるのか、という点は、非常に興味がある。


 だから、今日一日を楽しみにしていた訳だしな。


 自分より強い者というと、親しいところにナヴェルのじいちゃんがいるが、あの人は、そのー……クラスがちょっとアレなので。


 本人自身、お願いすれば快く技を教えてくれるものの、手合わせだけは絶対にしようとしなかったので、戦闘における自身の荒さ(・・)は重々承知しているのだろう。


 ――そうして、一年の希望者全員が、模擬戦ランキングでも使ったメイン訓練場に集合する。


 ちなみに、二年と三年の姿は無い。いや、見学している上級生の姿はあるが、それだけだ。多分、もう上の学年の指導は終わっているのだろう。


 俺達の眼前にいるのは、鎧を身に纏った、十数名の近衛騎士達。


 前世の現代とほぼ同じ技術力があるのに、王の護衛の装備が鎧に剣と盾、というのはなかなか面白いものだが、それがこの世界というものをよく表していると言えるだろう。


 例えば、騎士団長が斬ったという龍種。


 銃程度で龍種は死なない。滅龍弾とかあっても、そうそう死にはしない。

 ミサイルでも死なない。艦隊で一斉射撃を行ってどうにか、というところだろうか。


 が、剣ならば、死ぬ可能性がある。


 世界最強の生物たる龍種を、歩兵で殺せる可能性がある。


 だから、中世のようなあの恰好が未だ現役であり、歩兵の最高峰である訳だ。鎧と盾は、現代の技術でかなり近代化されているけどな。


「――今からあなた達の指導を行わせてもらう、ヴァーミリア近衛騎士団です。私は、副団長エナ=ランセル。よろしくお願いしますね、皆さん」


 前に出て来て挨拶を行うのは、騎士団長ではなく、騎士団副団長の女性。ゲームにもいたキャラだ。


 まあ、あの堅物は、そういうことしないだろうな。


「それじゃあ、あまり時間も無いから手短に。事前に通達されている通り、団長と訓練する生徒はこちらへ、私と訓練する生徒はこちらへ、それ以外の訓練の子達はこちらへ移動してください! 見学の子達は、ごめんなさい、相手をしてあげられる人数は決まっているので、フィールドの横にはけていてください」


 彼女の誘導に従い、俺達はそれぞれで分かれ始める。


 と言っても、俺とレイハと、あとジェイクの奴も模擬戦の上位組なので、ここ三人は一緒のままだったが。


「見学の生徒の皆さん、または団長に指導を受けたいと思っている生徒の皆さん、こういう世界は実力が物を言います。あなた達はまだ一年なので、時間があります。ここで悔しいと思ったのならば、それを糧に訓練を重ねて、実力を上げましょう! ――では、始めます!」


 そうして、訓練が始まった。



   ◇   ◇   ◇



 見学の生徒達の応援。

 訓練場を包み込む熱気。 


 訓練は、騎士団員と一対一で数分戦い、その後軽く指導、という形で進められていく。


 騎士団長の訓練もそうであるが、ただ彼だけは指導がかなり短く、実戦の中で鍛える方針であるようで、言葉少なく打ち合わせる剣に意味を持たせているような印象だ。 


 そして今、騎士団長と戦っているのは、ジェイクだった。


「へぇ、アイツ……」


 ジェイクもまた、模擬戦ランキングの一年の成績で、『3位』だったことは知っているが……俺の記憶にある姿より、かなり強くなっていた。


 この様子だと、恐らく……『Lv:30』は超えたのではないだろうか。タワーシールドの扱いも、目に見えて向上している。


 夏休み前は『Lv:20』前後だったはずなので、本当に夏の間に修行を頑張ったんだろうな。


「ぐっ……」


「悪くない。そのまま励め。その腕ならば、鍛えれば一流の戦士になれよう」


 膝を突くジェイクに短くそれだけ声を掛け、すると「おぉ」という声が見学の生徒達から漏れる。


 ここまで、一度も褒めたりはしなかった騎士団長が、明確に「悪くない」と褒めたからである。


「うっす……ありがとうございました」


 コクリと頷き、それから騎士団長は「次」と言い――フィールドに向かう準備をするのは、模擬戦ランキングで一年『2位』の、レイハ。


「レイハ、気を付けるべきは、騎士団長の盾の動きだ。だから、いつもネア姉に言われてることだが――考えろ」


「ん」


 彼女は、それだけを言ってフィールドに向かい――構える。


「……ほう」


 騎士団長の空気が、少しだけ変化する。


 今までは冷静に、格下相手であろうが油断せず、観察するような眼差しで模擬戦を行っていたが、そこに興味深そうな色が宿る。


 ――最初に仕掛けたのは、レイハ。


 ビュウ、と風を切り、突撃。


 体勢を低く倒して盾の死角に入るような位置取りをし、恐らくは、盾で視線を切って己の挙動を隠すつもりなのだろう。


 レイハは、ネア姉程ではなくとも小柄だ。そして、騎士団長が持っている盾はタワーシールド。


 すっぽりと全身を隠し切り、さらに彼女は、そこでステップを踏んだ。


 一度左に出ると見せかけ、そこでグルンと回転し、右に出る。


 そして、回転に合わせて発動するのは、スキル『回転斬り』。


 その攻撃は、抜け――ない。


 ガキィン、と、まるでハンマーで殴り抜いたかのような音が鳴り、ズ、と騎士団長の肉体が後ろにずれる。


 今は『勇焔』を使っていないので、あれは素の身体能力だ。


 回転斬りに体重がしっかりと乗ったことによる、いわゆる渾身の一撃だろう。


 つっても、最近のアイツは、攻撃が大体全て理想の一撃になるので、非常に剣撃が重いのだ。そこに『勇焔』が乗ると、半端ない威力になる。


 ネア姉も、もうレイハの剣は受けようとしなくなった。体重差で、己の身体が吹っ飛ばされるのをわかっているからだ。


 攻撃は受けられたが、レイハも初撃を受けられるのは想定していたのだろう。


 そこから続く、彼女の連撃。


 見る限りでは、レイハが押しているように感じられ、見学の生徒達のボルテージが上がるが――そのレイハ当人は、少し焦っているように見えた。


「ヒナタ、ありゃあ……」


「あぁ、多分、攻めさせ(・・・・)られてんな(・・・・・)


 レイハは、自ら攻撃しているのではない。


 攻撃『させられて』いるのだろう。


 すごいな、あの誘導技術。


 目線、立ち位置、盾の動かし方。


 それらを用いることで「攻めないと反撃するぞ」とレイハに感じさせ、攻めさせているのだ。


 実際には、一度も攻撃をしていないのにもかかわらず、である。


 完璧にレイハの攻撃を見切っているからこそ、出来る芸当だろう。


 あれは、身体強化を使っていても……同じことをされるな。『勇焔:オーバードライブ』まで用いたら、まだ戦えるだろうか。


「……この様子を見ると、俺ん時は、まだまだ遊びだったってのが感じられんな」


 少々悔しそうに、だが、ただただ向上心だけを瞳に見せ、戦闘に見入るジェイク。


「……お前のその向上心がありゃあ、どこまでも強くなれるだろうよ」


「はは、おう、たりめーだ。人生挑戦あるのみ、この程度で折れるようじゃあ、初めから剣を握る資格はねーな」


 やがてレイハの息が切れ、彼女の動きが鈍った瞬間を見計らい、騎士団長が一歩を踏み込んだ。


 レイハは慌てて距離を取ろうとするが、そこをちょん、とだけ剣で押され――バランスを崩し、彼女は尻餅を付いた。


 ス、と首筋に木剣を当てられ、ゲームセットである。


「強いな。随分強い。だが、まだまだ青い。剣を握って……四か月程度、といったところか。攻撃が一々理想だからこそ、相手に受けられる。崩す術を学べ」


「ハァ、ハァ……ありがとう、ございました」


 レイハが軽く礼をすると、拍手が起こる。


 それだけ、騎士団長の反応を引き出せていたことを、皆もわかっているのだろう。


 戻ってくる彼女に、俺はポンとタオルを渡す。


「ん……ありがと」


「お疲れ、どうだった?」

 

「強かった。とても。動きが……全部、見切られているような感じで」


「けどレイハちゃん、すごかったぜ。あんだけ騎士団長がしっかり対応してんの、他にはいなかったしな」


「ん、でも、きっと……まだまだあの人には、余裕がある」


「あぁ、そうだろうな。だから、最後の奴の戦いがどうなるか楽しみだ。――さ、トリだな、ヒナタ」


 ニヤリと笑って、こちらを見るジェイク。


 いつの間にか、他のところの模擬戦も終わっていた。


 レイハのが長引いたこともあり、生徒達の全員がフィールドを囲み、こちらを見ている。


 他の騎士団員達もまた、こちらに集まっているようだ。


「ヒナタって、確か三年にも勝ってんだろ? 騎士団長に、どこまでやれるんだろうな」


「いや、流石にボコられて終わりだろ。今のレイハちゃん見てたか? あの技量で、あんな風に転がされるんだぜ?」


「ヒナタ、間違いなく一年で一番強いだろうけど、流石にね」


 ざわざわとそんな話し声が聞こえてくる中で、だがレイハとジェイクだけは、俺を見て、声援を送る。


「ヒナタ、頑張って」


「お前がどんだけやれんのか、見せてくれや」


「おう、ま、やれるだけやってくるわ」


 ジェイクの楽しそうな表情。


 そして、レイハの期待するような瞳。


 それらを受けながら、俺はフィールドに上がり、ジークムント=バルツァーの眼前に立った。


 頭部に刈り込みのような傷が走った、巌のような彫りの深い顔立ち。


 頭のてっぺんからつま先まで、こちらを観察するかのような冷静で怜悧な視線が、俺を見ている。その鋭い眼光だけで、人を殺せそうだ。


 二メートルはあろう肉体から放たれる威圧感。鎧で見えないが、きっとその肉体も、隅々まで余すところなく鍛え上げられているのだろう。


 ――さて……どう戦うか。


 ゲームの頃は、俺もジェイクみたいな感じで、評価はされつつ普通に負けていた。


 主人公より模擬戦の成績も悪かったしな。


 だが、はっきり言おう。


 俺は今、勝つ(・・)つもりでいる(・・・・・・)


 俺が目指すところは、騎士団長の実力を超えた先にある。


 であるならば、俺の地力で、『蒼焔』も使わず、この人程度は超えなければならないのだ。 


「よろしくお願いします」


 そう言って俺は構え――あ?


 攻撃に移る前に、そこでふと、違和感を覚える。


 騎士団長の、立ち位置。


 構え。


 視線。


 そこから俺は、相手の思惑を理解する。


 ――コイツ、俺を挑発(・・)してやがる!


 今まで他の生徒達を相手にしている時は、こんなことはしていなかった。


 相手が格下だとて、しっかりと間合いを測ってそこに自分からは入らず、相手の攻撃に任せるのみだった。


 だが今、この男は露骨に俺の間合いに入り込み、そこで展開している。


 自分から仕掛けて来ないのは同じでも、その意味するところは――「さっさと来い」。


 そんな挑発に、他ならない。


 レイハ並の鋼鉄の表情だが、確かに俺はそこに、片手でヒョイヒョイと手招きするかのような、煽りの表情が見えていた。


 その瞬間、俺もまた、カチリと意識を切り替える。


 訓練を付けてもらう、という意識から、敵をぶっ殺す(・・・・・・)、という意識に。


 ……いいぜ。


 そっちがそういうつもりなら、俺も好きにやらせてもらう、ぞ――ッ!!


 刹那、俺は突撃を開始。


 盾も何も関係なく、がむしゃらに突っ込み、剣を振り抜く。


 当然、騎士団長は盾で防御し――だが、威力を見誤ったのか受け切れず、その構えがブレる。


 奴の表情に、初めて驚きが生まれる。


 体幹がブレた隙を逃さず、連撃。


 だが、それは完全に受けられてしまい、こちらの攻撃を制限するかのような鋭い剣閃が、反撃として繰り出される。


 俺は、薄皮一枚の最小の動きでそれを避けると、体勢を倒して刈足。


 読まれていたのか、一歩下がることで回避されるが、逃がさず追って斬撃を放つ。


 ――そこから続く攻防。


 刹那の間に数十の斬り合いを行い、相手をぶっ殺さんと互いに斬撃を放ち続ける。

 

 すでに俺の意識から、これが訓練である、ということは抜けていた。


 騎士団長もまた、いつの間にか、獰猛な笑みを浮かべていた。


「クク……一瞬で化けの皮(・・・・)が剥がれたな。貴様、最初の殊勝な態度はどうした?」


「知るかよッ、煽ってきたのはそっちだ、学生程度に負けて、吠え面掻いても文句言うんじゃねぇぞッ!!」


 その失礼過ぎる言動に、一瞬空気がザワリとするが、そんな様子が一切視界に入っていない俺は、さらなる攻撃を始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 平均レベルが60か… 60超えたら超人って前言ってたし文字通り超人集団なんだろうな でも何人ぐらいいるんだろう?20人くらい?
[良い点] ヒナタの煽り耐性低すぎ?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ