目が覚めたらラスボスになってた《1》
新作始めました。どうぞよろしく!
「ふー……終わった……」
俺は、『Fin』という画面の前で、コントローラーを置いた。
――『彼方へ紡ぐ』。
学園モノのファンタジー系RPGで、美麗なイラスト、完成度の高いストーリー、難しいが決して苦痛じゃない戦闘。
それら全てがマッチし、まさに『神ゲー』と呼ぶに相応しい出来のゲームだった。
この『世界』に浸っていることが楽しく、あまりに好き過ぎて、トロコンまでやってしまったくらいだ。
別に俺はコアゲーマーという訳ではなく、有名どころが出たら買ってプレイするくらいなので、他にここまでやり込んだものはないし、同じゲームを、しかもRPGを何周もしたのは今回が初めてである。
十時間くらいでサクッと終わる訳でもなく、普通に一周で数十時間掛かるのだが、それでも何周もしてしまった。後半は効率化されまくり、クリア時間が短くなっていったが。
だが、それも、ここまで。
縛りとかで遊び始めたらもっとやれるのかもしれないが……目標としていたトロコンは、ついに終わってしまった。
胸にあるのは、やり遂げた達成感と、それ以上に大きい寂寥感である。
本当に、このゲームが面白く、好きだった。
腹を抱えて笑いまくったし、ボロボロと泣きまくったし、難しい戦闘に「ふざけんなこれ、難易度どうなってんだ!」とキレまくったし、主人公達の言動や展開に胸が熱くなり、込み上げてきたものからやっぱり泣きまくった。
多分俺は、これ以上に面白いゲームとは出会わないだろうという、そういう思いすら今抱いている。
生涯で最高のゲームだったと、断言してしまえるのだ。
「…………」
動かないテレビ画面をしばしの間見続け、やがてゲームの電源を落とし、テレビを消し、風呂に入るため立ち上がった。
◇ ◇ ◇
「――ヒナター、起きなさい、朝よー」
「うーい、今起きる、母さん……」
……母さん?
呼びかけにそう答えた後、何か違和感を覚える。
だが、寝起きのせいでロクに頭が働いておらず、何に対して疑問を覚えたのか、それがわからない。
とりあえず、布団から出るべく俺は身体を起こし……そう言えば俺、なんか声が高くなかったか? 寝起きだから……いや、寝起きなら声は低くなるか。
というか、ヒナタって誰だ?
「……あ、いや、俺か」
ヒナタは俺だ。『ヒナタ=アルヴァー』が俺の名前だ。本当に寝惚けてるかもしれない、俺。
……違う、待て。俺は日本人だ。漢字の名前を持ってるし、決して名前が先に来る文化圏には住んでない。
何だ、どういうことだ?
思考が混乱している。
訳がわからない。
何か、自分が二人いるような、おかしな感覚が――。
「ちょっと、ヒナタ。早く起きなさい。いつまで寝てるの」
そこで、部屋に入ってきた『母親』と俺は顔を合わせる。
「――――」
「? あら、起きてるのね。じゃあ早くいらっしゃい、ご飯冷めちゃうわよ」
何も言葉が出て来ない俺に対し、『母』は……そう、母だ。
俺の母さんは怪訝そうな顔をしつつも、特に何か反応を示すこともなく、カーテンを開けて窓を全開にして、部屋を出て行った。
残された俺は固まっていたが、その時たまたま窓に反射した自身の姿が視界に入り、強制的に思考を再起動させられる。
あどけない、ともすれば少女に見えるかもしれない顔立ち。
黒髪に、燃えるような紅色の瞳。
小さく、筋肉も少ない肉体。
俺の記憶にある姿よりは、大分幼い見た目だが……俺は、『俺』に、見覚えがあった。
――え、俺、ヒナタになってんの?