第二話 部活動
「えぇ、では、今日の予定ですが....」
「9時30分から部活紹介が始まります。体育館に集合してください。主要の部活の紹介が終わったら、自由に部活の見学に行っても構いません。体育館に集合していない部活もありますので、興味のある方は行ってみてください。....以上です。では、各自準備をしてください。」
「ねぇねぇ、結芽、部活どうする?」
「う~ん...やっぱり歌うの好きだし、合唱部かなぁ...」
「うんうん、結芽ならそう言うと思ったよ!私はバレー部かなぁ、やっぱり!」
「あー、やっぱり。凄いねぇ...尊敬するよ、運動部って。」
「まぁまぁ、普通だよ~。」
私は美濃川結芽。ただの高校一年生。勉強が出来るわけでもないし、スポーツだって上手じゃない。
目の前の子は小野川雪奈。勉強もスポーツも出来る万能な子。実を言うと羨ましい。
「あの、私も合唱部に入りたいんですけど...一緒に行きませんか?」
隣から話しかけてきたこの子は飛川夏来(ひかわなつき)。合唱部出身らしく、私と似たような経歴を持っている。
「うん、いいよ。一緒に行こう!」
雪奈が元気よく答える。
「ありがとう!...ところで、二人って仲良しだよね。」
「うん、まぁね!私達、10年以上も一緒にいるもん!!ね、結芽。」
「うん、そうだね。結構長いこと一緒にいる。」
「へー、そうなんだ。いいなぁ、私もそんなお友達欲しかったよー。」
「じゃあ、今日から三人組になろうよ。」
「いいの?じゃあ、これで、三人組だね!」
いつの間にか仲良しグループが出来ていた。夏来ちゃんもキラキラとした笑顔を振り撒いている。
....正直なところ、雪奈と一緒にいたとは思うけど、あんまり記憶にない。幼稚園のときとか、小学校の時とか、一緒に遊んだ記憶がすっぽりと抜け落ちている。中学校の時は一緒に遊んだと思うんだけども。
「あ、結芽。私、お手洗いに行ってくるね。」
「うん、行ってらっしゃーい。」
少しの静寂の後、夏来ちゃんが口を開いた。
「ねぇ、結芽ちゃん。」
「何?」
「結芽ちゃんって、タイムスリップとかって信じてる?」
「タイムスリップ?」
SFとかでよくある奴だ。時空とか時間を超越して、あらゆる時空や時間に移動できる能力。UFOとかに比べると、まだ信憑性がある気がする。
「う~ん、半信半疑かなぁ。」
「そうなんだ。ありがとう。」
「...?でも、なんでそんなこと聞いたの?」
「ああ、いや.....別に何でもないよ。ちょっと気になっただけだよ。」
「....?」
夏来ちゃんはSFが好きなんだろうか。そんなことを考えていると、雪奈が戻ってきた。
「お待たせー。じゃあ、行こうか。」
「うん、行こう。」
体育館は妙に蒸し暑かった。それぞれの部活が各々自分たちが用意したものを発表している。サッカー部とか、バレーボール部、バスケ部に、剣道部。吹奏楽部なんかもあった。私が想像している以上に多かったと思う。
「では、最後に今回参加出来なかった部活を紹介します。」
「漫画研究部、映画研究部、それから、英語部です。」
「この3つの部活に関しましては、資料を配布しますので、教室に戻り次第、確認してください。」
そういうと司会は会の終わりを告げた。私はその3つには興味がなかったが、雪奈が行きたいというので、仕方なくついて行くことにした。
「あ、こっちだって。」
向かったのは漫画研究部。体育館から意外と近いところで活動していた。ドアを開けると、部長らしき人がこちらに駆け寄ってきた。
「ああ!もしかして、見学に来たの?ささ、入って。」
流されるまま中に入る。机の上には散乱した原稿が置いてあった。色がついているものもあれば、モノクロのまま大きく罰点がついているものもある。
「えっと、まずは自己紹介だね!私は松ヶ谷那癒(まつがやなゆ)。ここの漫画研究部の部長なの!ただ、見ての通り閑散としててね...」
「でも、元気に活動してるよ!今はいないけど、もう二人部員がいるんだぁ。」
「合計で三人ですか?」
「うん、そうだよ。」
私は部屋を見渡していた。不気味な置物があるのも気になるが、机の上以外には原稿用紙が見当たらないのが一番気になった。漫画を描くときに使う機械のようなものもないし、水晶玉みたいなのが堂々と置いてあるのが最も不気味だった。
もしかして、この部活は....
「あの...此処って本当に漫画研究部なんですか?」
「そうだよ~。」
「でも、参考資料みたいなのもありませんし....本当に漫画研究部なんですよね?」
「え.....えっと....そうだけど...?」
那癒さんの顔が引きつった。焦りからか、言葉がまとまっていない。
「しかも、なんで水晶玉とか、置いてあるんですか?それに、それっぽい機械もありませんし、第一、机の上以外に原稿がないじゃないですか。」
「.........。」
「ちょっと、結芽。気にしすぎだよぉ!」
「ゴメン...でも気になったから...」
「...いや、いいよ。」
那癒さんの声のトーンが下がった。引きつったような笑顔で話し出す。
「....ここはね、表向きは漫画研究部なんだけど、本当は...」
「本当は....?」
「呪術研究部....なの。」
「...呪術研究部?」
「そう、呪術研究部。」
唖然とした。そんな言葉、漫画やアニメでしか見たことなかったから。
「どんなことしてるんですか?」
「普段はさっきみたいに漫画研究部。でも、夜になってからが本番。皆でこの町に伝わる伝説について調べてるの。」
「伝説って...『血鬼』のことですか?」
「そう、それを中心にしてるよ。」
『血鬼(けっき)』....この町では小説やアニメの題材にもなっている逸話。ある少女が森の中を歩いていると、突然、鬼のような形相をした怪物に襲われ、その鬼に余すことなく血を奪われた....というようなストーリーの伝説。
はっきり言って伝説の域を出ないと思うけど、一部では実話なのではないかという人もいる。ただ、鬼みたいな怪物が現実に出て来るとは思えないけど。
「でも、アレって伝説なんじゃ...?」
「確かにそうだよ。でもね、最近うちの二年生が有力な情報を手に入れてね...!!」
「有力な情報?」
「そう、その子がその血鬼みたいな怪物と出会ったって言ってたの!!」
「へー。なんて言うお名前なんですか?」
「それはね...」
「おやおや、見学の人ですかぁ?」
突然、ドアが開いて誰かが話しかけてきた。真っ赤なフードを被っていて、長い髪がフードの端から出ている。とても不気味な声色で、不気味な風貌をしている。
「あ、魔奈ちゃん!お帰り~」
「あぁ、どーもです。」
魔奈と呼ばれたその人は私たちの前に立って振り返った。
「こんにちは、私、纐纈魔奈(こうげつまな)です。よろしく~」
「あ、よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします!!」
「フフフッ.....」
纐纈さんは不気味な笑みを浮かべながら、水晶玉の近くのソファーに腰かけた。
「纐纈さん、あの話してよぉ。」
「あの話?...あぁ、血鬼の話ですかぁ?分かりましたー。」
そういうと纐纈さんは腰かけたソファーから立ち上がってよろよろとこちらに向かってきた。
「では、お話しましょうかぁ。私の実体験を...」
余りにも不気味にしゃべる纐纈さんに少しだけ恐怖を感じた。