3話 冒険の準備
ギルドを出てすぐ路地裏に入って[無限収納]から刀を取り出して腰のベルトに差し、レイナさんに教えてもらったとおりに中央広場から南にある大通りを歩いている最中にふと疑問に感じた事がある。
「俺なんの疑問も持たずに地球の常識通りさっきいた場所が西だったから右が南だと思って歩いてるけど、方角とかって一緒なのかな?あと、まだなーんか忘れてる気がするんだよなぁ」
衛兵のおっちゃんや冒険者ギルドのレイナさんとの会話で、西や南といった単語が通じていたから違和感はなかったけど、単語が通じたからといって意味まで同じとは限らないんじゃないか?
それとも[異世界言語]のスキルがそこら辺を調整してくれているのかな?
などと考えながら歩いていると、レイナさんが教えてくれた服屋の看板らしき物があった。
「お、この絵って帽子だよな?てことは方角はそのまんまでいいって感じかな」
一先ずは目的地の一つである服屋に着いたので、今着ている服を金額次第で売ってしまって、その金で別の服を買おう。
もしこの服が売れなかったら、その時は目立ってしまうだろうが服は後回しにするしかないな、と思いながら店の中に入っていく、すると店に入ってすぐに店員さんに話しかけられた。
「いぃぃぃらっっしゃいませー!!!!!」
うおお、めちゃくちゃテンション高ぇ、あと声もめちゃくちゃデケェよ、なんで服屋でこんなテンション高ぇの?こっちの世界だとこれが普通なのか?いやでも門の近くの屋台で声掛けられた時はこれの半分以下だったぞ?ていうかめっちゃ耳痛いんだけど?もう早くもこの店を出たくなってきたんだけど?
「あー、今俺が着てるこの服をこの店で買い取ってもらうことって出来ますか?」
「はい。私がこの店の店長ですので、買取の査定をさせていただきます。それでは一度その服を脱いでもらってもよろしいですか?」
良かったー!テンション高ぇのも声デケェのも最初だけだったー!てかこの人がこの店の店長なのかよ!声もまだちょっとデカイ気がするけど最初に比べりゃまだマシかな、それよりも服脱げは予想してなかった。
「えーと、替えの服を持って無いのでこのままこの服の査定をお願いできますか?金額次第ですがそのお金で新しく服を買いたいと思いますので」
「分かりました。それではこのまま査定させていただきますね?それにしても上下共に見たこともないデザインに見たこともない生地のようですが、何処の国の服でしょう?」
「そうですね、俺の故郷の服なんですが、かなり遠いので名前を言っても分からないと思いますよ?」
「一応お聞きしてもよろしいですか?」
「日本という国です」
「ニホンですか?確かに聞いたことのない国ですね」
「ですよね?それで、いくらくらいになりそうですか?」
「ふーむ、正確な金額は正直言って分かりませんが、この感じたことのない肌ざわりや裁縫の技術の高さ、上下2枚で大金貨2枚で如何でしょう?」
おお!もしかしてかなり高く評価されちゃったんじゃないか?
まさかユ◯ク◯の服がこんなに高く売れるとはな!リーズナブルだから元の世界ではかなりお世話になってたけど、嬉しい誤算って感じだな!
もう自分の中では依頼に行く気満々だけど、別にこの金で宿の問題は多分解決出来ちゃったな!
おっと、ここは一応冷静に対応しておこう、あまり要らない情報を出し過ぎて足元見られるのも嫌だしな。
「ありがとうございます。それではその金額でお願いします」
「こちらこそありがとうございます。しかしよろしいのですか?これほどの品であれば王都のオークションなどに出品すればもっと価値が出るかもしれませんよ?」
「ええ、オークションにはあまり興味が無いので専門のお店で買い取ってもらいたかったんですよ」
ほう?オークションとかあるのか、でもこの言い方だとこの街ではオークションは無いのかな?その内王都を目指すのもいいかもな、以外な所で面白い話が聞けたな。
「左様でございますか、それではお金を用意して来ますのでその間に服を選んでいていただけますか?」
「分かりました。選んで来ますね」
店の中に客1人だけ残すのは不用心じゃないか?と思ったけどもう1人店員がいた、店長の登場シーンが強烈すぎて全然気付かなかった。
まああっちの店員は話し掛けてくる気配はないからさっさと選んでしまおう。
店内は結構広くて服も新品と古着の両方を扱っているようだ。
「お待たせしました!服は選び終わりましたでしょうか?」
「丁度選び終わった所ですよ、この服はいくらくらいですか?」
「こちらの服ですと合わせて銀貨40枚になりますが、こちらでよろしかったですか?」
「はい、この服でお願いします。それと出来ればなんですが少し他の硬貨も混ぜてもらえますか?」
「もちろん大丈夫ですよ、それでは着替えはあちらでどうぞ」
そう言われた先にはまんま前の世界の1人用の更衣室がある。
まあ中には鏡は無いし服を掛ける所もないので、完全に着替えるためだけのスペースって感じかな?
選んだ服は新品の方を選んだ、流石に異世界に来て最初に買う服が古着というのに抵抗があったからな、見た目はジーパンのような長ズボンに少しゴワゴワしているが長袖の服を選んだ。
外は寒くもなく暑くもないので上着などは寒くなってからで良いだろう。
というかそもそも季節ってあるのだろうか?
「ありがとうございます。じゃあ服はここに置きますね」
「はい、こちらこそありがとうございます。それではこちらが買取金額から購入された服の代金銀貨40枚を引いた残りになります」
そう言われて出された硬貨は大金貨1枚、金貨8枚、大銀貨11枚、銀貨50枚だった。
銅貨と大銅貨は混ざってないけど、やっぱり下の硬貨から10倍ずつ上がっていくみたいだな。
つまりは……
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銅貨10枚=大銅貨1枚
大銅貨10枚(銅貨100枚)=銀貨1枚
銀貨10枚=大銀貨1枚
大銀貨10枚(銀貨100枚)=金貨1枚
金貨10枚=大金貨1枚
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こんな感じかな?
もしかしたら大金貨の上もあるかもだけど、それも追々分かるだろ。
とりあえず次は武器屋だな、武器は正直[武器創造]で間に合ってるけど、[武器創造]の能力を考えると武器を出来るだけ直接触れておきたいし、あとは武器よりも防具が欲しいな、結構な大金も手に入ったから目立たない程度に良い物を揃えたい。
「それじゃあありがとうございました」
「それではまたのお越しをお待ちしております!!」
おう、出てく時はちょっと声デカイくらいなんだ、あともう1人の店員は結局一言も喋らなかったな。
そんな感想を抱きながら服屋を後にして、もう一つの目的地である武器屋を探す事にする。
幸い服屋はすぐに見つかったので、このままこの通りを歩いて行けば見つかるだろう。
◇
「お、あったあった、ここが武器屋だな」
案の定服屋を出て数分で武器屋を見つける事が出来たので、そのまま店に入ることにする。
「あれ?」
さっきの服屋で警戒していたのだが、店に入っても誰も居ないようだった。
「もしかして休みとかいうオチはないよな?いや、休みだったら鍵は閉まってるよな」
店の人が居ないのに勝手に商品を見て回るのは気が引けるため、どうしたもんかと思っていたところでどうやら店の人が奥の方から現れた。
「ああやっぱり客が入って来てたのか、すまねえな奥で客から預かった剣を研いでたんで店先に出れてなかったんだ、見ない顔だがこの店に入って来てるってことは客だろう?」
「はい、そうですよ、ちょっと一通り店の物を見せてもらってもいいですか?」
奥から出てきたのはかなり小柄ではあるが、身体はガッチリとしたオヤジが出てきた。
多分ドワーフって奴かな?喋り方も職人ぽい感じの喋り方だし多分そうだろう。
[鑑定]を使ってもいいんだけど、人を相手に使う時は最初は大勢の人がいる中で適当な人に使いたいと思っている。
[鑑定]を使った人にバレる可能性が無いとは言えないので、初めてスキルを人を相手に使う場合は出来る限り慎重にするべきだと思っている。
「ああ、好きなだけ見ていってくれ、説明が欲しいとか棚の上にあるのを見たい時とかは俺に声を掛けてくれたらいい、買いたい物があったらこのカウンターに商品を持って来てくれ」
「分かりました。商品を見る時は直接持ってもいいですか?」
「ん?もちろん大丈夫だ、見てるだけじゃその武器が自分に合ってるか分からんからな、商品や店に当たらん程度なら多少武器を振ったりしても構わんぞ」
「ははは、そうですよねありがとうございます。それじゃあちょっと見させてもらってますね」
武器屋の中には予想通り武器だけではなく防具も並んでいた。
買う予定があるのは防具だけだが、[武器創造]の為にこの店にある全ての武器を手に取っていく、一応防具の方も触れておくが恐らく防具は創れないと思う。
確証がある訳ではないが、スキルの説明欄にも武器をと書いてあったから武器だけなんだろう。
体感で20〜30分程時間をかけて店にある武器を全て触り、防具を選ぼうと思ったが何を選べばいいか全く分からなかったので、とりあえず店のオヤジさんにアドバイスを貰おう。
「あのーすいません」
「ん?なんだ?」
「武器はこれを使うから問題無いんですけど、防具は何を選べばいいか分からなくてちょっとアドバイスを貰ってもいいですか?」
「随分と熱心に武器を見てたが良かったのか?それにしてもお前さん珍しい武器を持ってるな?」
「これは俺の故郷の武器で刀というんですよ」
「ほう、お前さんこの国とは別の国の出身か?まあいい、防具だったな?その武器を使うのならこの青銅の籠手と脛当てと、後は魔物の素材で作った革鎧ってとこか、革鎧はそこに並んでるのはどれも似たり寄ったりの性能だし値段も変わらないから好きなのを選んでくれ、もしくはそっちの鎖帷子だな」
そう言われて出された籠手と脛当てはそれほど重くないしいいと思う。
流石に物を[鑑定]で見るのは問題無いと思ったので籠手と脛当てを見てみると2つとも希少度はハイノーマルで、革鎧と鎖帷子はどれもノーマルだった。
武器の方にも希少度がハイノーマルの武器があったので多分ノーマル<ハイノーマル<レアの順に上がっていくのだと思う。
店の中の商品にレア以上の物が無かったので、[武器創造]で創った刀は意外と良い物なのかもしれない。
希少度は高くはないが、元々出来る限り軽装でいきたかったから全体的に装備が軽いといのは助かるな、ステータスの恩恵も今のところどれくらいあるのか実感がないし、これからレベルが上がって行くに従って装備も整えていけばいいだろう。
まさにRPGみたいだけど、実際それが理にかなっていると思う。
「ありがとうござます。えっと、じゃあこれでお願いします」
俺は籠手と脛当てをカウンターの上に置いた。
革鎧も買おうかと思ったが試着してみると想像よりも遥かに動きづらいので、これなら無い方が良いと判断した。
「ん、決まったか?それじゃあ防具は2つ合わせて銀貨80枚だ」
あんまり服と値段が変わらないんだな、てっきりもう少し高くつくかと思ったが、まあこういう物の値段はピンキリだろうけど。
「分かりました。これでお願いします」
「おう、ちゃんと金は持ってたんだな、ほら釣りの大銀貨2枚だ」
金貨で払ったが違和感はなかったみたいだな、正直服屋でいきなり大金貨が出てきたから金銭感覚が全く分からない。
おっと、[無限収納]を誤魔化す用に普通の鞄も欲しいんだった。
「ええ、持って無かったら買えないでしょう?あとすいませんがあの鞄はいくらですか?」
「がはは!ちげぇねえ!あの鞄だったら銀貨5枚でいいぞ、そういや聞いてなかったがお前さん冒険者なのか?最初に話した感じじゃあ冒険者って感じはしなかったが」
「いや、ちゃんと冒険者ですよ?冒険者カードもきちんと持ってますから、はい、鞄の料金です」
「おう!確かに、いや悪りぃ悪りぃ、お前さんの喋り方は妙に丁寧で他の冒険者共とは全然違うもんでな?」
「ああ〜、今日は会う人会う人にそれを言われましたね、でも他人と話す時は大体この喋り方ですけど、身内とか親しい人とかだと砕けた喋り方もしますよ?」
「ほー、だったら砕けた喋り方をするくらいこの店に来て欲しいもんだな!」
「ははは、でしたらその内この刀の研ぎをお願いしにくるかもしれませんね」
「おう!バンバン魔物をぶった切ってまた店に来な!」
なんか知らんけど気に入られたのかな?
本当は武器がダメになったら新しいのを創ればいいから研ぎなんて必要無いんだけど、こういう人付き合いも大事だろう。
さーて街の中での用事も終わったし、ゴブリン狩りに行きますか!