11話 再び
ここに来るのってなんか久しぶりだな…俺がこの世界に来た初日にきて以来だから10日以上ぶりか……。
この店で俺が着ていた服を大金貨2枚で買い取ってもらったおかげでかなり助かったけど…ここの店長クセ強いんだよなぁ。
まあさっさと買って次は武器屋に行けばいいか、とりあえずソフィにこの店の店長のことを教えておこうかな。
「ソフィ、店に入る時には耳を塞ぎながら入った方がいいよ」
「?はい、分かりました?」
何故そんなことを?というような表情のソフィだが入ったら俺の言った意味を理解出来るだろう。
前回の経験からソフィに伝えておくことは伝えたので俺も耳を塞ぎながら店に入るとソフィも俺に続いて店に入る。
「いぃぃぃらっっしゃいませー!!!!!」
やはり前回と同様に入店時の挨拶をしてくるが今回は耳を塞いでいるので前回ほど鼓膜にダメージは無いのだが、それでもうるさいと感じる程度には大きい……チラッとソフィを見るとポカンとした表情をしている。
おそらく耳を塞いでいてもそれなりに入ってくる声の大きさにビックリしたのだろう。
「どうも、また服を見せてもらいに来ました」
「おや貴方は以前珍しい服をお売り頂いたお客様ではありませんか、本日はどういったご用件で?」
「この子の服と靴を買いに来たんですけど……ソフィ、欲しい服のデザインとかある?」
「えっ…と……あの、欲しい服のデザイン…ですか?……でしたら動きやすい格好だったら他には特にありません。靴は一番安いもので大丈夫です」
「だそうなのでこの子に似合いそうな動きやすい服をお願いします。靴は値段を気にせずに丈夫で冒険者向きの物を」
「かしこまりました。アネット!話は聞いていましたね?こちらのお客様の衣装を見繕って下さい」
「ま〜かせて〜、お客さんたち初めましてだね〜私はアネットっていいま〜す。」
「先程店長さんにも言いましたが値段は気にしなくて良いので彼女に合うものを見繕ってあげてください」
「どうせならお兄さんが選んであげた方がこの子も喜ぶと思うんですけど?」
「あ〜いや俺はまだ冒険者になって日が浅いからね、女性が着る冒険者向きの服装はよく分からないだ、この子に任せると安いもので済ませてしまいそうだしそう考えるとやっぱり店の人に選んでもらうのが確実だと思って」
「な〜るほどね〜、そうゆう事ならさっきも言ったけど任せて〜」
そうしてソフィはアネットに引っ張られて店の奥の方に向かって行った。
俺はというと特に欲しい服はないので店にある椅子に座って遠目に彼女たちが服を選んでいるのを眺めているだけだ、時折ソフィがこちらを見てくるがソフィの表情を見る感じぐいぐい来るアネットに少したじろいでいるが少なくとも嫌そうではないので服選び完全にアネットに任せてよさそうだ。
待ってる間にソフィに別の服を買っといても良かったんだけどどうせなら一緒に見て選びたいと思い冒険者用の服とは別の服はまた今度見にこようと思う。
「お待たせしましたご主人様」
「おっ、選び終わった?じゃあお金払ってくるからソフィはそれに着替えておいで」
ぼ〜、としていたらいつの間にか服選びは終わったらしいのでソフィには支払いをしている間に早速着替えてきてもらうことにした。
「かしこまりました」
「はいはい、じゃあソフィちゃんこっちで着替えてこよっか」
「分かりました」
そう言ってソフィはアネットと共に購入した服に着替えるために店の奥に消えて行った。
そうして支払い終わった俺はソフィが着替えてくるのを店の外で待っているとそれほど時間はかからずにソフィも店の外に出てきた。
◇
「ど、どうでしょうか?」
「おお〜」
ソフィが着てきたのはザ!エルフといった服装ではなくいかにも女性冒険者といった服装だった。
服自体はオシャレよりも実用性を重視しているであろうといったものなのだがソフィはスタイルが良いのでとても良く似合っている。
しばらくソフィを眺めていると痺れを切らしたソフィが再び口を開いた。
「あの、ご主人様?」
「うん?」
「この服、似合ってませんか?」
「ああっ!ごめんごめん、めちゃくちゃ似合ってたからつい見惚れてたみたいだ」
「っっっ!!??」
素直に思った事を言ってみたんだがソフィは俺の感想を聞いた途端に顔を赤くしてしゃがみこんでしまった。
もしかして褒めない方が良かったのか?と思いながらソフィに近づくと小声で「えへへ〜」と笑っていたのでどうやら機嫌を損ねたわけではなかったようなので安心した。
1分もしゃがんでいなかったと思うがソフィはおもむろに立ち上がって俺の方を向くと口を開いた。
「ご主人様、お褒めくださりありがとうございます。次はどちらへ向かいますか?」
「ん、次は武器屋だね。ソフィに合う弓があれば良いんだけど」
「いえ、与えてくださるならどのようなものでも構いません」
「いや俺が構うよ、粗悪な武器を持たせるつもりは毛頭ないからな?まぁこれから行く店には粗悪な物は無いと思うけどね」
弓はまだ創った事が無い、というかそもそも自分で使う選択肢に無かったので創る機会が無かっただけだけどね!まぁなんにせよひとまずはあのドワーフのおっさんの店で売ってる弓を持たせるのが無難だと判断した。
おそらく[武器創造]で問題なく創れると思うけど先に実物を見ておいた方が良いだろう。
下手に自分で創り出した弓を持たせて不具合があったら困るし、いきなり俺が創った弓を持たせるのはリスクがあると感じた。
まぁこれまでの感覚からして創り出せさえすれば問題は無いとは思うけど念の為にリスクは下げていきたい所だ、なにせ命を預ける物だからな武器ってやつは。
色々考えながら武器屋を目指しているといつの間にか武器屋に到着した。
「お、着いた着いた。ここで弓と防具を買って行こうか」
「はい」
武器屋に到着した俺たちは早速店の中に入って行く、すると今日は最初からおっちゃんがカウンターで店番をしていた。
普段は客が来るまでずっと奥で何か作業をしてるのかと思ってたけどちゃんと店番するんだな、と少し失礼な事を考えているとおっちゃんを見たソフィが口を開いた。
「えっ?ドワーフ…?」
「ん?どうしたのソフィ?」
ドワーフが武器屋をしている事に違和感でもあったのだろうか、俺の中のイメージでは〈武器屋=ドワーフ〉は定番中の定番なんだけどもしかしてこの世界では違うのか?
「あ、いえご主人様、ドワーフは弓は……」
ソフィが何かを言いかけたがそれを遮るようにおっちゃんが喋り出した。
「おおっ!お前さんか!なんだなんだあれ以来一回も顔を見せないから俺はてっきり魔物にやられちまったのかと思ってたぜ!」
「あぁすいません、あれ以来毎日依頼をこなすのに忙しくて中々顔を見せに来れなかったんですよ」
「ガハハハハ!!大丈夫だ分かってるよ、お前さんの噂はこの店から滅多に出ない俺でも知ってるくらいだからな、いやまさかお前さんがそれほど腕が立つやつだとは知らなかったぜ!」
「いやいやそれほどでもないですよ」
「なーに言ってやがる!冒険者になって2日目にはBランクになったそうじゃねぇか!そんなやつの腕がそれほどでもないなんて事があってたまるかよ!」
「まぁ、それを言われると確かに…」
自分でも強さが普通じゃないのは自覚あるけどそんなに強く否定しなくても良くないか?拗ねるぞ?俺?まあ拗ねないけどさ。
などと脳内でアホな事を考えていると俺たちの会話が始まってから黙っていたソフィが口を開いた。
「え?ご主人様はBランクの冒険者なのですか?」
「んぁ?そうだよ?言ってなかった?というか奴隷商館の店主は言わなかったの?」
「はい、ご主人様の冒険者ランクには触れずに貴女の主人になる人はとても凄いお方だからしっかりと尽くしてきなさいと」
ふむ、そういや奴隷商館で俺の冒険者ランクの話をした時はそもそもソフィの前ですらしてなかったっけ、まぁ仮にしてたとしてもあんな状態じゃ聞こえてすらないよなぁ。
というかそれくらいの情報は言っとけよ店主、別に問題はないけどさ、ソフィびっくりしちゃってんじゃん。
「安心して、いきなり高ランクの依頼に連れてくなんてことはしないから」
「いえ、ご主人様の為なら問題ありません」
なにこの娘めちゃくちゃ健気なんですけど、抱きしめたいけどいきなり抱きしめて嫌われたくないので自重した俺偉い。
今のところ金に余裕はあるから別に高ランクの依頼をこなさなくても十分に生活は出来るしソフィのステータスならある程度高ランクの依頼に連れて行っても大丈夫とは思うけどまだソフィの戦闘も見てないし最初は低ランクの魔物を狩る依頼で様子を見てけばいいだろう。
というかそもそもこれから冒険者登録をするソフィはいきなり高ランクの依頼には連れてけないしな!
そういや確認してなかったけどソフィは冒険者登録してないんだよな?
「そういえばソフィは冒険者登録はしてないんだよね?」
「はい、私は冒険者ではありません」
「ああだよね、言ってなかったけど今から冒険者登録をするソフィはいきなり俺と同じランクの依頼はそもそも受けれないんだよ」
「そうなんですね……申し訳ありません」
「?なんでソフィが謝るんだ?」
「いえ、ご主人様の足を引っ張っていると思ってしまって……」
「いやいや、足を引っ張るもなにもまだ何もしてないからね?これから一緒に頑張ってくれれば良いんだよ?」
なんかソフィが急にネガティブ入っちゃって俺がどうしたらいいか考えていると放置されていたおっちゃんが口を開いた。
「おーいおしゃべりはそのくらいしてそろそろ商品を見てったらどうだ?その嬢ちゃんの武器と防具を見にきたんだろ?」
「あっ、ごめんなさい。じゃあソフィまずは武器から見ようか?」
おっちゃんがナイスタイミングで話しかけてくれたおかげで話を戻せたので今言ったようにまずは武器から見て行こう。
おっちゃんはおそらく空気を読んだとかじゃなくて単純に痺れを切らしただけなんだろうけど実にナイスなタイミングだったので助かった。
「あっ…あのですねご主人様…」
「うん?どうしたの?」
「先程は最後まで言えなかったのですが、ドワーフは基本的に弓は作らないんです…」
「えっ?そうなの?」
「はい…」
ええ〜、ドワーフって弓作らないの?うーんでも確かに俺が今まで読んできたラノベとかでドワーフが弓作ってるシーンてなかったかも…。
「おっちゃん」
「ん?なんだ?」
「この店って弓はないんですか?」
「あるぞ?」
「あるんかい!」
あるんかい!
おっと、あまりにも予想外の答えが返ってきたせいで心の声と実際の声が同時に出ちゃったよ。
「ああ、お前さんは知らなさそうだからその嬢ちゃんに聞いたのか?確かに俺たちドワーフは基本的に弓が嫌いな奴が多いからなぁ他の種族の奴らにはドワーフは弓を作らないってイメージが定着しているが、別に全てのドワーフが弓を嫌いな訳じゃねぇぞ」
「そうなんですね、でも前に俺が来た時この店の店内は全部見たつもりでしたけど弓は見当たらなかったような?」
「ん?いやあるぞあそこに」
そう言っておっちゃんは店の隅を指差した。
確かに弓はあったけど1つだけかよ!これ嫌いじゃないって言ったけど絶対好きでもないだろ!
「これだけ?」
「ああ、それだけだ」
「……ソフィ、とりあえず見てみて?」
「あ、はい」
見てと言いつつ俺も[鑑定]で弓を見てみるがこの店の他の武器同様に希少度はHNだったので良くも悪くもないと言ったところかな?
とりあえずはソフィが良いと言えば暫くはこれで戦ってもらうことになるな、まぁもう一度見たし壊れても俺が新しく創り出せるしなんなら矢も俺がいくらでも創れるから一々無くなったら買いにくるっていう手間も要らないんだよな。
「どう?」
「悪くないですね」
「ん、なら後は防具かな?おっちゃん防具も見せてもらうよ」
「おう!その娘っ子が弓を使うんなら防具は胸当てと手甲ってとこだろうな」
「なるほど、ソフィは防具はどんなのが良いの?」
「先程店主さんが言ったように胸当てと手甲があれば十分です。あまり防具を着けすぎると動きづらくなってしまいますので」
「なるほど、じゃあ防具はその2種類を買おうか、おっちゃんこの子に合う物で出来るだけ軽くて丈夫なのを貰えるかな?値段は気にしなくていいから」
「おお、流石にBランクの冒険者ともなると太っ腹だな!どれ、その娘っ子ならこれとこれで良いだろう」
俺の注文を聞いたおっちゃんはすぐにソフィに合う物を持ってきてくれた。
弓は一つしか無かったけど防具はそこそこ品数があったからすぐに持ってきてくれたのは有難い、この後ソフィの冒険者登録もしないとだしね。
「ありがとうございます。じゃあいくらになりますか?」
「おう、じゃあ全部で丁度金貨1枚だな」
うん、相変わらずまだこの買い物が高いのか安いのか全然分からん。
まぁ金だけは余裕があるので仮にこれが高い買い物でも全く問題はないんだけどね。
「はい、じゃあこれで。ソフィは早速装備しておいで?」
「分かりました」
「おう!確かに!ところで剣は大丈夫なのか?」
あ〜剣ね、確かに最初に創って使ってたやつは折れちゃったんだよね、まぁRの武器だったらいくらでも創れるけども。
「はい、武器は今のところ大丈夫です」
「そうか、所詮武器や防具は消耗品だ、少しでも性能が悪くなったと感じたら修理したり新しいものに買い換えるなりした方がいいからな?」
意外だ…おっちゃんみたいな職人の人達は少しでも長く使わせるものだと思ってたけどちゃんと割り切ってるんだなぁプロだわこの人。
この忠告は今後も冒険者をしていく上で凄く大事な気がするからキチンと胸に刻んでおこう。
「ありがとうございます。その言葉、胸に刻んでおきますよ」
「おう、またいつでも来いよ!」
このやりとりをしていた間にちょうどソフィも弓と防具を装備し終えて戻って来た。
「お待たせしましたご主人様」
「おかえり、丁度会計も終わったところだから次は冒険者ギルドに行こうか」
「はい」
さて、時間的にはソフィの冒険者登録を終わらせても簡単な依頼くらいなら出来そうだからちゃちゃっと行っちゃいますかぁ。