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第2章 全てがステータスによって決まる世界 ①



「さて、どうしよう」


 城を追い出されてから数十分。


 現在俺は城門の階段を降りてすぐにあった公園で、碇ゲ◯ドウポーズをしながらベンチに腰掛けている。


 時折目の前を通っていく人々がこちらを不思議そうに見ているが・・・・多分、この服装のせいだろう。

 

 (この世界には入院患者が着る青い病衣なんてものはないだろうからな)


 通っていく人たちは皆、大体がケルト風の民族衣装を着ている。


 先程一通り観察してみたが、やはり現代風の衣装を着る人間はひとりもいない様子だった。


「というか現代の衣装どころかさっき耳の長いエルフみたいな奴とか猫耳付けた獣娘とかいたぞ・・・・ここ、本当に異世界なんだな・・・・ハハ、驚きすぎて声が出ねぇや」


 理解不能な状況の連続に脳がパンクしそうになる。


 けれど、このままここで混乱しながらただぼーっと景色を眺めているわけにはいかない。


 (ルドナは、命を賭けて俺を助けてくれたんだ・・・・)


 そして、俺に生きろと言ってくれた。


 ならばその言葉に従い、俺は何としてでもこの世界で生きる術を見つけなければならない。


 生き抜いて、力を付けて、最弱から脱却する。


 そして最強のステータスを手に入れたら、今度は俺がルドナを死の運命から救い出すんだ。


 きっと勇者として認められるくらいの能力を得れば、王も俺の存在に納得せざる終えないだろう。


 そうすれば、彼女が新たな勇者を召喚する必要は無くなる。


(よし!)


 タイムリミットは、災厄がくるまでの1年間。


 見知らぬ世界だからといって、ビビって時間をロスしていては駄目だ。


 力を得るためにも、地道な行動を積み重ねて行かなければ。


「・・・・うん。でも今まずは何としてでもーーーーー仕事を見つけなければな」


 グゥーッと、大きく腹の音が鳴る。


 人間、何もしていなくとも腹は減るもの。


 生きていくために必要なものである食料と水。


 今は何よりも先にその2つを獲得するための、金、収入源を得なければならない。


「っても、どうやって仕事を見つければ良いんだ? 果たして異世界にハロワみたいな職業斡旋所はあるのだろうか・・・・・・・ん?」


 ベンチ横のゴミ箱に入っていた雑誌に目を向ける。


 そこには、「仕事案内」と大きく書かれていた。


「おぉ、これはもしやこの世界におけるタウンワーク的なものか!?」


 俺はさっそくその雑誌を手に取り、読んでみることにする。

 


「ええと、荷物配達人、募集最低ステータス レベル10 HP80 攻撃力50から。・・・・・募集最低ステータス?」


 もしかして仕事を受けるのにステータスが関わってくるのか??


 俺は急いで他のページにも目を通してみる。


「清掃業、募集最低ステータス レベル8 HP70 SP30・・・・・ベビーシッター、募集最低ステータス レベル7 HP50 SP70・・・・・・まさか、これは・・・・」


 恐らくこの世界では、ステータスが履歴書代わりなのかもしれない。


 有名大卒とFラン大卒では、大体の企業が有名大卒の人材を選ぶように、前の世界では学歴=その人間の価値だった。


 だから、この世界においては自身の能力値はイコールでその人の価値なのだろう。


 「俺のステータス・・・・・確か平均が1とか2とかだった気がするんだが・・・・」


 嫌な汗が頬を伝う。


 俺もしかしてこの世界で・・・・まともな職業に就くことができないんじゃね??


 絶望の表情をしたまま、パラパラとページを捲っていく。 


 うん、やはりどれもこれもレベルの段階でお断りされるな。


 もしかして、この国の連中はみんな普通にレベル1以上のステータスを持っているのか?


 俺だけなの? こんなに雑魚なのは?


「・・・・・ったく、どうすりゃいいんだよ・・・・こんなん無理ゲーじゃねぇか・・・・・って、ん?」


 非情な現実に愚痴をこぼしながら次のページを見ると、そこに気になる文字を見つけた。


「冒険者、経験問わず。初心者大歓迎・・・・これだ!」


 異世界転生モノにおいて、冒険者という職業には夢がある。


 何たって魔物を倒して金銭を稼ぐ、ファンタジー世界における傭兵だからな。


 RPGゲームにおける勇者や英雄といった存在に近いものと言ってもいい。


「ステータスに自信は無いが、ここで経験を積めばきっと俺は強くなれるはず。あの憎き国王とエステラの奴を見返してやるぞ!」


 冒険者ギルドの場所はレインアース城から徒歩10分・・・・よし、近いし行ってみるか!


 求人誌に書かれていた場所へ向かうため、俺は大通りを目指した。





「うわぁ・・・・すげぇ人の量だなぁ」


 レインアース王国、商店街通り。


 そこは見た感じ、コミケ会場並みの人の多さだった。


 エルフや獣人などの多種多様な種族が行き交い、前から後ろから人の波が押し寄せ、足を踏み出す充分なスペースを確保することもままならない。

 

「・・・・・・痛っ」


「あ、すいません!」


 そんな足元が見えない人混みの中だからか、俺は前を歩く少女の踵を踏んでしまった。


 痛そうに涙を浮かべて、こちらを睨む少女。


 彼女は長いつばのある帽子を被ったーーーー魔法使いのような格好をしていた。


 年齢は18〜9と言ったところだろうか。


 左手に長い杖を持ち、翠色のおさげ髪を首の横から左右に垂らしている。


 そして彼女の肩にはちょこんと、何故か小さいカラスが乗っていた。


「ちょっと〜! 注意して歩いてよぉ〜!」


「は、はい! すいません!」


「ったく、もう〜・・・・って、ちょっと待って」



 突如、ジーッと、驚愕の表情をしてこちらを見つめ始める少女。


 その瞳には何故か、こちらに対する深い感情が宿っている気配があった。



「あ、あの・・・・?」



 不思議に思い首を傾げると、少女は穏やかな笑みを浮かべ、口を開く。


「君、見たことない服着ているね」


「あぁ、ええっと、俺凄く遠くの国から来てて・・・・」



 俺が他の世界から来た勇者であることは、なるべく隠した方が良い情報だろう。


 王族が俺のような雑魚を召喚したなんて話が広まれば、せっかく庇ってくれたルドナに対して申しわけが立たないからな。


「ふぅん・・・・」


 ジロジロと、興味深そうに俺の服を眺め始める魔法使いの少女。


「ねぇ君、その服、僕に売ってくれたりしないかな?」


「え!?」


 おいおい、こんな成人男性の汗に塗れた病衣欲しがるなんて・・・・さては変態か?


 なんて冗談はさておき、きっと見たことがない服だから物珍しさで興味が出たんだろうな。


 だけどあいにく、この服は渡すことはできない。


 何故なら俺は現在、この服以外の衣服を所持していないからだ。


 装備なしの、素っ裸男の異世界ライフは何が何でも避けなければ。


「ごめん、今俺、この服以外の衣服持ってなくてさ・・・・」


「ううん? どういう状況なのかな、それ・・・・」


 困惑気な表情で首を傾げる少女。


「じゃあ、そういうことで・・・・足踏んでごめんな」


 手を上げ、その場を去る。


 この病衣は一応、前の世界から持ってきた唯一の所持品だからな。


 もうすっかり、長年共に過ごしてきた相棒だ。


 元の世界の名残を忘れないためにも、簡単に手放すわけにはいかんのよ。


 いくら僕っ子の可愛い子ちゃんといえども、な・・・・。


「分かった。なら、僕が代わりの衣服をプレゼントしてあげるよ。ついでに少しばかりのお金も恵んであげる。君、見たところ文無しのようだしね」


「・・・・その話、乗った!」


 さらば相棒よ・・・・やはり先立つ金には変えられんのだ・・・・。




「ありがとうございましたー」


 防具屋を出て、外で待っていた少女の前に立つ。

 

 「はいこれ」


 「ありがと」


 そして、脱いで畳んでおいた青い病衣を少女の手に渡した。


「新しい服、本当にそれで良かったの??」


「あぁ。周りの人みんなこれ着てるし、何となく動きやすそうだったしな」


 俺は黒いマントとフードの付いたケルト民族衣装のような服を購入し、身に付けた。


 商品名はレインアースの遊牧民衣装というらしいが・・・・あの服を着ていた人たちはみんな畜産を生業とする人たちだったのだろうか。


 結構この服を着ている人町に多かったけど、この国、動物産業が発達しているのかね。


 なんて考察していると、少女が不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。



「・・・・君、あんまり欲を出さない人なんだね。その服、この国では1番安いものだよ? そんなに守備力もないし・・・・」


「え? そうなの? でもまぁ、俺はやっぱこれで良いかな。他の服は全部胸当てが付いた鎧類だったし。絶対上手く着こなすことできねぇわ」


「・・・・鎧だけでなく、他にはローブ類もあったけど・・・・君、魔導士って訳ではないみたいだから、着ても魔力が上がることはなさそうだね。確かに、その服がベストな選択だったのかも」


 うんうんと頷くと、少女は俺の手に金貨と銀貨を数枚渡す。


「はい、約束のお恵み。それじゃあね、文無しさん。この珍しい服、大切にするよ」


 そう言って、少女は静かに去っていった。


 なんというか・・・・不思議な雰囲気を持った少女だったな。


 話していて底が掴みきれないというか・・・・只者ではない感じというか。


 まぁ、今は目的の金を手に入れたことを素直に喜ぼう。


 後は・・・・・目的である収入源だな。


 この場を後にし、俺は当初の目的地である冒険者ギルドへと足を急いだ。




「おぉ、これが冒険者ギルド・・・・・」


 大通りの最奥に聳え立つ、塔のような巨大な建物。


 入り口の上にある巨大な看板には、『レインアース王国 冒険者ギルド 栄華の剣』と書かれていた。


 ここが、目的地のギルドに相違ないだろう。


 俺は意を決して、緊張と共にギルドの扉を開いていく。


 「うっ、酒臭ぇなぁ・・・・」


 中に入ると、眉を顰めるような酒気が出迎える。


 どうやら冒険者ギルドは酒場と併設されているようで、テーブル席にはジョッキを片手に持つ男たちがわんさか座っていた。


 一見ただの酒場に見えるが・・・・・そこにいる者たちの様相が、その考えを一蹴する。


 そこにいるのは間違いなく、戦を生業とする者たちだったからだ。


 顔に傷を負った鎧甲冑を着た男や、黒いローブを身にまとった魔法使いのような男。


 中には片腕のない者や、片目が無い者もいた。


 異世界に来たばかりでまだ何も知らない俺だが、肌で、彼らが死線を潜ってきた猛者だと言うことが感じられた。


(ひ、怯むな、俺よ・・・・!!)


 明らかに自分が場違いな存在なのだと分かるが・・・・ここは覚悟を決めなければ。


 俺は、ルドナを救うんだ・・・・!!


 深呼吸し、奥にあるカウンターの前に立つ。


 すると、受付嬢が柔和な笑みを浮かべ声をかけてきた。


「いらっしゃいませ。ご用件は何でしょうか?」


「す、すいません、冒険者を募集していると聞いたんですが・・・・」


「あぁ、冒険者希望の方ですね。畏まりました。では、失礼ですが先にステータスの方をこちらにお見せくださいませ」


(いきなりステータスか。やっぱりこの世界では自身のステータスが仕事採用の第一条件になっているんだな)


 こんな低い能力値で果たして冒険者になれるのだろうか。


 だけど、前に進まないことには何も始まらない。


 俺は意を決してステータスを・・・・ん? 待って?


「あの・・・・ステータスってどう見せれば良いんですか?」


 そう口にすると、受付嬢はハッとした顔をする。


「なるほど、情報魔法を使えないのですね。畏まりました。では、こちらをお使いください」


 そうして彼女はカウンターの下にある引き出しから占い師が使うような水晶玉を取り出し、それを俺の方へ差し出してきた。


「ええと・・・・?」


「こちらは使用者のステータス情報魔法が開示される魔道具。手をかざしてみてください」


 言う通りに、水晶玉に向けて手をかざす。


 すると目の前に、またもやあのウィンドウが現れた。


 【ステータス】 

  名前 新條 彰人

  Level 1

  種族 ヒューム 

  年齢 24歳

  クラス ゴーレム錬成術士

  HP 2

  SP 5

  攻撃力 1

  防御力 2

俊敏性   1

  魔法攻撃力 1

  魔法防御力 1

  成長性  F


 【固有スキル】

  ○錬成術 レベル1

  ○人形師 レベル1

  ○悪運 レベル1


 【汎用スキル】

  ○睡眠耐性 レベル1

  ○地属性魔法 レベル1

  ○闇属性魔法 レベル1

  ○栽培技能 レベル1

  ○集中力 レベル1

  ○ネガティブ思考 レベル1


 【習得 魔法】

  ○ゴーレム錬成

 【習得 戦闘術】

  ○なし


 うーん、何も変わってない。


 見事なまでの最弱ステータス。


 ここから俺は本当に強くなれるのだろうか。


 いや、冒険者になってモンスターを狩っていけばきっとそのうち普通のパラメーターに・・・・・。


「あ、あの、た、確かに当ギルドでは経験の一切は問いませんが、流石に、こ、これは・・・・・」


 俺のステータスを確認した受付嬢は先程の落ち着いた様子とは打って変わり、困惑げな表情で口元を歪んだ形につり上げていた。

 

 なるほど。やはりこのステータスじゃ冒険者は無理か。

 

 俺は落胆の表情を顔に浮かべ、項垂れる。



「プハッ! お、おいおい本気か? お前、よくそんなステータス値で冒険者になろうと思ったな!!」



 突如、青い鎧を着た20代前半くらいの男が俺の肩に手を回してきた。


 そして彼は、俺のステータスウィンドウを指差し笑いを堪えている。


 ひたすらに、不快だった。


「こんな貧弱な能力値じゃ、お前、最下級モンスターにすら殺されるぜ?」


「・・・・離してくれ。もう行く」


「おいおい、人の忠告は聞いとくもんだぞ? なぁ! お前らもこいつに何か言ってやれよ!」


 男の後ろから、フードを被った魔法使いのような格好をした女性と、白いローブを着た修道女が現れる。



「レクス、また新人いびり? そういうのはもうやめてってあれほど・・・・って、何このステータス!? 弱ッ!!」


「不思議なほど低い数値ですね。赤子であるならばあり得ますが、大の大人でこれは見たことがないです」


「なぁ、おもしれーよなぁ! どういう人生送ったらこんなステータスになるんだ? 俺に教えてくれよ!!」


 レクスと呼ばれたツンツン頭の戦士は、俺の頭をポンポン叩きながらそう嘲笑する。


 糞が。見下しやがって。


 子供の頃にもいたな、こういう奴。


 自分より劣っている人間を見て、自分はマシだと優越感に浸る糞野郎。


 『そんなに努力してその結果? 俺はたった数時間勉強してヨユーで合格できたけど?』


 『お前兄貴と違って才能無いんだよ。高望みして志望校を上げるな。恥かくだけだぞ?』


 『どうやったらそんな馬鹿になれるの?? 教えて欲しいわー』


 このシュチュエーションに影響され、過去にあった嫌な記憶が俺に牙を剥いてくる。


 お前は見下されて当然の存在だと。


 他人に笑われるのがお前の性分だと。

 

 黒い渦が、心の中に巻き起こる。



「おい? 黙っちゃってどうしたぁ?」


 ニヤニヤと、俺という存在を面白がるツンツン頭。


 その姿に俺は思わず、舌打ちをした。


「あぁ? なんだてめぇ、その態度は?」


「・・・・・け」


「は?」


「どけよっ!!!!」


 前触れもなく、俺はレクスを強く押した。


 まさか手を出されるとは思っていなかったのか、レクスは驚きの表情のまま床に尻餅を付いた。


「おー、おー、銀級の槍兵レクスがレベル1の雑魚にやられてるぞー」


「ぎゃははははは!! いいぞー、赤子級の雑魚ー!!」


 テーブル席に座っていた酒飲みの冒険者たちが、一斉にこちらを茶化し始める。


 そんな状況にレクスは立ち上がると、こちらに怒りの形相を向けた。


「てめぇ・・・・・!! ぶっ殺してやる!!」


 その瞬間、目にも止まらぬ拳が飛び、左頬を殴られる。


 前歯がゴリっと、折れた音が聞こえてきた。


「雑魚が、調子に乗りやがってよぉ!! てめぇみたいないい歳して自分の実力が分かってねぇ奴は1番腹が立つぜ!! 身の程を弁えろ!!」


 倒れた後、馬乗りになられてボコボコ殴られる俺。


 3回ほど殴られた後、視界の端に小さなウィンドウが開いた。


 そこにはあと1ダメージ貰ったら死ぬという、警告アナウンスが書かれていた。


「おい、ミーシャ、こいつに治癒魔法をかけろ!!」


「・・・・はぁ。分かりましたよ。《ヒール》」


 その瞬間、みるみる傷が癒えていき、前歯の骨折が治っていく。


 しかしーーーーーー再び顔面に拳が振り下ろされた。


「オラッ!! てめぇは超超手加減して殴っても数発で死ぬみたいだからな!! 回復させて、何度も何度も気が済むまで殴ってやるぜ!!」


「お、おやめくださいレクス様!! 冒険者ギルド内で、そのような暴力行為は!!」


 見兼ねた受付嬢がレクスを止めようとカウンターの外に出る。


 しかしレクスはそんな受付嬢を鼻で笑った。


「おいおい、俺にそんな指図すんのかぁ? 俺はこのギルドに多額の出資をしている王国七代貴族の一角、ギルヴァディ家の息子だぞぉ?? ねーちゃん、職失っても良いのかぁ??」


「ッ!!」


 そうレクスが言うと、受付嬢はそれ以上言葉を口にすることはなかった。


「さぁ、その身にとことん教えてやるぜ、糞雑魚君よぉ〜〜〜!!」


 そうして俺は無抵抗のまま、レクスに殴られ続けた。


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