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第1章 最弱の勇者 ③



 「ここは、どこだ・・・・?」



 再び意識が覚醒すると、そこは薄暗い部屋の中だった。


 部屋の四隅には火が灯った蝋燭が立てられており、足元には謎の魔法陣のような紋様が所狭しと描かれている。


 周囲に人の姿はどこにも見受けられず、八畳ほどの暗い部屋の中、何故か俺はポツンとひとり立ち尽くしていた。



 「あれ・・・・?」


 何で俺こんな変なところにいるんだ?


 確か、兄貴庇って事故に遭って・・・・病室にいたんじゃなかったっけ??


 寝たきりだったのに立ってるし・・・・体、動かせる・・・・??


 眼前に手のひらを持ってきて、グーパーグーパーと開いては閉じてみる。


 うーむ。何の異常も見当たらない。


 風邪が治った直後のような倦怠感はあるが、至って健康体だ。

 

 

「植物状態は免れないんじゃなかったか?? んだよビビらせやがって。ヤブ医者がよぉ・・・」



 身体が無事だったことに、安堵のため息を吐く。



「しかし、どこだここ・・・・どう見ても病院じゃないよな・・・・」



 そこはイカれた宗教家か厨二病患者が悪魔召喚の儀式でもやっているかのような不気味な部屋だった。


 あいにく、宗教とは無縁の人生だったし厨二病もとっくの昔に卒業しているので、このような場所に縁などない。


 なら、どうして自分はこんなところにいるというのか。

 


「訳が分からん・・・・・夢か、これは」



 寝ぼけ眼を擦りながら小首を傾げる。


 現状把握できることといえば、自分が入院患者用の青い病衣のまま魔法陣の中心で突っ立ているということだけ。


 そんな意味不明な状況を受け入れることができず、思わず目を白黒させてしまう。



「ようこそいらっしゃいました、勇者様」


「う、うわぁ!? ど、どこから声が!?」


「後ろをご覧ください」


「後ろ!?」



 振り返って見るが、そこには誰もおらず。



「下です、下」



 声がする方向へ視線を下げると、そこには漆黒のローブを纏った小さな少女の姿があった。


 身長、120cmといったところだろうか。


 妙に尖った耳と紫色のおかっぱ頭をしたその少女は俺の顔を確認すると、にまっとギザギザした歯を見せて微笑んだ。


「私はレインアース王国第七皇女、ルドナと申します。貴方をこの世界に呼び出した召喚者です」


「レインアース王国・・・・召喚者・・・・えっと君、頭大丈夫?」



 そんな俺の発言に目を大きく見開いて驚く少女。



「察するに、どうやら精霊石様からこの世界に関する情報を与えられなかったみたいですね。なるほどなるほど・・・・」



 少女は顎に手を当てふむふむと何やら思案すると、俺の病衣の袖を掴み、部屋の奥にある扉へと先導し始める。



「まずは、明るいところに行ってお話ししましょう。私の後ろをついてきてください」


「は、はぁ・・・・」



 訳がわからないまま少女に引っ張られ、俺は魔法陣が描かれた怪しい部屋を後にした。



 「うわぁ、すげぇ・・・・」



 部屋を出て長い階段を登りきると、そこに広がっていたのは豪勢な大広間だった。


 天井からぶら下がっているシャンデリアには光り輝く七色の宝石が散りばめられており、巨大なステンドグラスから差し込む光が大理石の床を明るく照らしている。


 働き詰めの社畜ゆえ、俺は海外旅行に一度も行ったことがない。


 なので、こんなヨーロッパ風の建築様式で造られた豪勢な邸宅は人生で一度も見たことがなかった。



「勇者様。まず最初に言っておきますが・・・・ここは貴方様の居た世界とは別の世界。名をフィリスヘルムといいます」


「フ、フィリス・・・? は、はい・・・・?」


「勇者様がお産まれになられた世界はヒューム族・・・・いえ、人間が食物連鎖の頂点に立ち、万物の霊長となった世界。書物などの文献で科学文明が発達した世界であると学んだことがありますが・・・・合っているでしょうか?」



 広間に着いた途端、またも厨二病じみたことを言い始める自称皇女のコスプレ幼女。


 別の世界? フィリスヘルム? 万物の霊長?


 駄目だ、ついていけん。


 中学生の時なら同調できたノリかもしれんが、今の俺にはキツすぎる。

 

 そんな困惑している俺を無視し、少女は話を続けた。


「この世界、フィリスヘルムには人間以外にも高度な知能を持った存在がいます。森の賢人と呼ばれるエルフ、大地の番人と呼ばれるドワーフ、聖龍の血を引き継ぐリザードマン。そして・・・・・獣人種であるモルフ族」


 ん? モルフ族のくだりだけ若干声が震えている気がしたが・・・・気のせいだったろうか。


 まぁ、他に突っ込むところが多すぎて今はそこを突っ込んでる場合じゃねぇな。

 

「この世界ではこれら五種族が共に生きております。ですが決して全員が全員、良好な関係にある訳ではありません。どちらの種がこの世界の万物の霊長であるかを競い合い、殺し合う。お互い、敵対関係にあるのです」



 つまり、多種族同士仲悪いから国同士で戦争したりするよーって話か。


 まぁ、そこは俺の知っている世界とあんまり変わらんかな。


 中東とかだと日常茶飯事っぽいし。


 大きく違うのは、人間と人間同士の争いか、多種族同士の争いかってところか。


 って、幼女の妄想を真面目に考察してどうする、俺・・・・。


「私たち五種族は古来から何度も殺し合ってきました。ですがそんな折、世界の創造主たる精霊石様がある予言をなさったのです。それは1000年後、この世界に五種族を滅ぼしかねない災厄が訪れるというもの。その予言を聞き入れた五種族は災厄と戦うため、争いを停戦することにしました」


 ふむふむ。


 RPGゲームとか異世界転生ものによくあるテンプレ的な設定だな。


 人類を滅ぼしかねない災厄・・・・魔王の復活とかか?


 ファンタジー漫画や小説が好きなだけに、こう、ちょっとワクワクしてくるものがあるな。



「そして精霊石様は手を取り合った我ら五種族に災厄に打ち勝つ方法を伝えました。それは999年後の春、各種族の王族が大召喚の儀を行い異世界から勇者を召喚すること。異世界から来る勇者こそが災厄を退ける唯一の存在なのだと、精霊石様は仰ったそうです」



 その話のパターンでいけば、もしかして俺は・・・・・。



「そう、その勇者こそが貴方様。貴方はこの世界のヒューム族、人類を救うために選ばれた守護者なのです!」



 うんうん、そうなるよねー。


 恐らく、この女の子は異世界転生もののアニメか何かに影響されたっぽいな。


 しかし安心したまえ少女よ。こういう時期は誰にだってある。


 俺だって中二の頃、自分の前世は異世界を恐怖に陥れた魔王だと・・・・・いや、皆まで言うまい。


 今は元厨二病の先輩として、暖かい目で彼女を見守ってあげようではないか。



「そっか。じゃあ俺はその・・・精霊石さま?の予言にあった人類を救う勇者さまで、君はその勇者を召喚した王族、ということなんだね」


「っ!! そうっ!! そうですっ!!」



 目をキラキラと輝かせながらピョンピョンとジャンプし、俺を見上げる幼女。


 そんな興奮気味の彼女の頭をポンポンと撫で、俺は穏やかな笑みを浮かべる。


「その遊びは後で一緒にやってあげるから・・・・今はどこか大人がいるところに俺を連れてってくれないかな?」


「全然理解してなかったぁぁぁぁぁ!!!!!!!」



 幼女は怒りの雄叫びを上げると、俺の手を払い除け、こちらに指を突きつけ睨み付ける。



「何で私の言ったことを信じないの!! それに子供扱いして!! 私、これでも14歳なのよっ!! 立派なレディなのっ!!」


「14歳・・・・子供では・・・・」


「この国だと14歳はもう立派な大人なの!!!!」


 ゼェゼェと鼻息を荒くする幼女。


 何だか、さっきまでの穏やかで丁寧な口調で話していた様子とは大きく変わったな。


 猫被り、していたのだろうか。


「それでその・・・・ええと、君、名前何だっけ・・・・」


「ル・ド・ナ!! 良い歳したおじさんなんだからちゃんと覚えなさいよね、もう!!!!」


「おじさん・・・・まだ24なんだが・・・・お兄さんって呼んでほしい・・・・」


「24歳はおじさんでしょ!! 全く、私が想像していた勇者様と大いにかけ離れた存在ね、あんた。この王国一の美貌を誇るルドナ様が呼び寄せた存在だというのに・・・・期待外れもいいところだわ!」


 何だかプンプンと怒っている、ルドナと名乗る少女。


 しかし、困ったな・・・・・俺はここがどこなのかを知りたいだけなんだが。


 そんな困惑している様子の俺にルドナはため息を吐くと、静かに俺の前を歩き出した。


「しょうがないわね。こうなったら状況を見て理解してもらう方が手っ取り早いわ。ついてきなさい」


 そう口にしてルドナはさっさと歩いていく。


 俺はそんな彼女の後を・・・・・腕を組んで見送ることにした。



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