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第1章 最弱の勇者 ②


 意識が目覚めると、ピーッピーッ、と、無機質な機械音だけが耳の中で鳴り響いていた。


 身体は鉛のように重く、指の一本すらも動かすことができない。


 視界から情報を得るために瞼を開けようと試みるが、それも叶わず。


 現状分かることといえば、自分が仰向けになって寝ていることくらいだった。


 (なんだ、これ)


 いったい俺、どうしちゃったんだ??


 わけのわからない状況に、ただただ混乱してしまう。

 

 「彰人、このままだと植物状態は免れないみたいよ」


 「そう、か・・・・」


 ん? 母さんと父さんの声?


 久しぶりに2人の声を聞いた気がするな。


 俺は元々両親とはそんなに仲が良くない。


 だから就職して一人暮らしをして以降、実家に帰ったことは一度も無かったし、数年間電話したこともなかった。 


 そんな疎遠状態の両親の声が何故突然聞こえてくるんだ?


 そして何で俺は寝たきりで動けないのか。


 今の状況が酷く不可解でしょうがなかった。

 


 「・・・・正直、事故に遭ったのが彰人で助かったわ。悠人は婚約者もいるし、仕事も基盤に乗っていたみたいだしね」


「そうだな。こういう言い方は悪いが彰人が身代わりになったと聞いたとき、少しほっとしてしまったよ」


 (事故・・・・身代わり・・・・・・あぁ、そうだったそうだった。思い出したわ)


 俺は兄貴を庇って鉄骨の下敷きになったんだ。


 それで、今のこの状況・・・・さっきの母さんと父さんの言葉から察するに、俺は今病院のベッドの上で療養中、といったところだろうか。


 にしても植物状態になるかもしれない息子に対して、身代わりになってほっとしたって・・・・相変わらず容赦のねぇ鬼畜夫婦だな。


 まぁこの人たちは昔から兄貴以外どうでもいいってスタンスだから、今更驚きも何もないが。


 (一生寝たきりか・・・糞! 何であんなに嫌いだった兄貴を俺は助けたりしたんだ?)


 我ながら馬鹿なことをしたと思う。


 兄貴を見殺しにしておけば、過去の因縁も好きだった人を取られた確執も何もかも消えて無くなったというのに。


 間違い無く、選択をミスった。


 昔からくじでも何でも外ればっか引き当てるからな、俺は。


 《適性確認 成功 固有スキル 悪運 レベル1 を獲得しました》


 突如、脳内に人工音声のような女性の声が鳴り響いてくる。


 その声に驚愕していると、またも脳内に声が鳴り響いてきた。


 《はじめまして、新條 彰人様》


 (は、はじめまし・・・て?)


 《私は異界と異界の門を繋げる者。こことは違うとある世界である人物が貴方様に召喚魔法を使用しました。これにより貴方様の魂と肉体を召喚者の元へと転送する術式を執り行いたいと思います》


(は? なんて?)


《まずは貴方様自身のことを私にお聞かせください。貴方様の人物像に基づいてこの世界での能力をスキルに変換致します。尚、貴方様の情報とステータスを照合し適性確認が取れなかった場合、そのスキルは継承されませんのでご了承ください》


 は? スキル? ステータス?


 いったい何を言ってるんだこいつは。   


 いきなりネトゲ用語みたいなこと言い出しやがって。


 鉄骨の下敷きになったときに頭でも打っておかしくなっちまったのか?


 まぁ、いちいち驚いててもしゃあねぇか。


 身体動かせねぇし、暇だし。


 退屈しのぎにおかしくなった脳と会話してみるのも一興か。


 両親の糞みたいな会話に耳を傾けててもしょうがないしな。


(しかし、自分のことを話せと言われても、なぁ・・・・)


《軽い自己紹介くらいのものでよろしいですよ》


(自己紹介・・・・・んーと、俺はどこにでもいるただの社畜だよ。名前は新條 彰人。24歳。彼女いない歴=年齢。fラン大卒。趣味は観葉植物を育てることと映画を見ること。あと、漫画とゲームも好きだな。休日はSNSで知り合った友人たちとよくネトゲをしている)


《汎用スキル 睡眠耐性 レベル1 を獲得しました》

《汎用スキル ネガティブ思考 レベル1 を獲得しました》

《汎用スキル 栽培技能 レベル1 を獲得しました》

《汎用スキル 集中力 レベル1 を獲得しました》

 

 何かまたよう分からないことを言ってるが、無視して話を続ける。


(家族は父と母と双子の兄がいる。兄は優秀で、学生時代から人望があって人気者だった。逆に俺はというと学生時代は社交性がなく、あんまり友達はいなかったな。・・・・いや、今もリアルで付き合ってる友達はいねぇか・・・・)


 自己紹介をしているだけなのに、削られるメンタル。


(まぁ、話せるのはこんなところだ。俺という人間は浅すぎて語れるところがあんまりねぇわ。悪いな)


《他に趣味は何かないのですか? 過去、好きだったものでも構いませんよ》


 趣味、かぁ。


 何か他にあったか、考え込む。


 すると、過去に封印していたとある記憶が脳裏を過った。


(造形・・・・粘土で何かを作るのが昔、好きだったかな)


(造形、ですか?)


(あぁ。子供の頃、色んな習い事をやってたんだけどどれも長続きしなくてさ。でも美術関連だけは好きで、暇さえあればよく何かを作ってたんだ。といってもいつも入賞していた兄貴の作品に比べれば子供みたいな技術だったけどな)


《汎用スキル 地属性魔法 レベル1 を獲得しました》


(でも、中学に上がる前に造形やらなくなっちゃったんだよな。こうなるならもう一度やっときゃ良かったわ)


《・・・・・・何故、やめてしまったのですか?》


(話すと長くなるけど・・・・・)


《構いません》


(ええと、小学生の時、ある女の子と出会ってさ。その子、放課後になると近所の公園でいつも人形遊びしてたんだよ。すっごい悲しそうな顔をしてひとりでね)


 当時、俺はその女の子に親近感を覚えていた。


 何故なら両親も同級生もみんな口を開けば兄貴のことばかりで、俺はいつも空気のような扱いをされていたからだ。


 酷く、孤独な毎日だった。


 だから、いつも独りでいるこの子は俺と同じ側の人間なんだと、勝手にそう思っていた。


「日々、その子の姿を見かける度に、俺は彼女と仲良くなりたくなってな。だから勇者とかお姫様を象った人形を粘土で作って持っていって、一緒に遊ぼうって声掛けたんだ)


《・・・・・・・・・・・・・》


(そしたらその女の子、嘘のように明るくなってくれてさ。それ以来一緒に遊ぶようになってくれたんだ)


《・・・・・・・・・・・・・》


(でも俺、彼女が学校でいじめられていたことを知らなくてさ。それなのに気を引きたい一心で、自作の勇者の人形を彼女にプレゼントしてこう言ったんだ。“この勇者の人形は悪いものから君を守ってくれるお守りになる”ってな」


《・・・・・・・・・・・・・》


(そしたら翌日、ボロボロになった勇者の人形を叩き返されたよ。“嘘つき! こんなものただの人形じゃない!”と怒鳴られながらな。ハハハ・・・・)


《・・・・・・・・・・・・・》


(まぁそれがショックで造形はやめたんだ。あぁ彼女はその後、俺の兄貴によっていじめから解放されて幸せな学校生活を手に入れたよ。今ではその兄貴との婚約が決まって、順風満帆な生活を送っている勝ち組さ」


《・・・・・・もしやあなたは、今でも彼女のことが好きなのですか?》


(・・・・・・・・・どうだろう、なぁ)


 流石に小学校の頃からの初恋を24にまでなって引きずっていたら痛いやつだ。


 好きだったという感情はあるが、今だに好意があるかと言われれば疑問が残る。


 だけどまぁ、彼女には笑顔でいてほしいという子供の頃からの気持ちは、今も変わらないかな。


 あの完全無欠の兄貴がいるなら、彼女を不幸にすることは絶対無いだろうし。


(あ、そっか)


 俺が兄貴を助けた理由。


 ようやくそれに今気が付いた。


《なるほど。貴方という人がどういう方なのか理解しました》


(おいおい、今の話だけでか?)


《はい。貴方は大切な人が幸せになるのなら自己犠牲も厭わない破滅志願者。そして、全てを持って産まれた双子の兄の存在によって常に日陰を歩かなければならなくなった陰の者。卑屈な性格の持ち主》


(・・・・・・おい、喧嘩売ってんのかてめぇ・・・・)


《貴方、お兄さんに対して本音を1度たりとも見せたことはないでしょう? 兄にとっての理想の弟、常に偽りの自分を演じてきてきたのでしょう?》


(・・・・・・・・・・・)


《他者を守るための自己犠牲心、他人が求める人物像を演じ切る精神力。そんな貴方には、“ゴーレム錬成術士”のクラスが相応しい》


(ゴーレム錬成術士? 何じゃそりゃ)


《適性確認 成功 クラス ゴーレム錬成術士の習得に成功》

《クラス解放により固有スキル 錬成術 レベル1 を獲得しました》

《クラス解放により固有スキル 人形師 レベル1 を獲得しました》

《クラス解放により汎用スキル 闇属性魔法 レベル1 を獲得しました》


(だから、さっきから言ってるそのスキルってのは何なんだよ・・・・)


《スキルというのはこことは別の世界で使える力、貴方様の持って生まれた能力を変換したものです》


(??? 全く持って言っている意味が分からんが・・・・)


《転移した後、自然とスキルというものの使い方は理解できるようになるでしょう。スキルは使えば使うほど成長していく。貴方様がどのようなスキルを習得なさるのか観測者として陰ながら楽しみにしております》


(は、はぁ・・・・)


《さて、そろそろお別れのお時間のようです。こうして貴方様とお話しできるのはきっとこれが最後でしょう。・・・・ですが、もしまたお話しできる機会があったのなら。その時はどうか、貴方様の歩んだ旅路を私にお聞かせください》


(旅路・・・・? って、何だ、意識が・・・・・)


《ヒュームの守護者よ。どうか、貴方の旅路に幸あらんことを》


 その一言の後、俺は再び深い眠りに付いた。


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