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幕間 ヘレスティナの決意

 


 「あの男~!! 何で毎回毎回朝のうちに宿屋の仕事終わらせては何処かに行くのよ!! これからはちゃんと逐一どこに行くか告げてから外に出る~って言ってたくせに、結局どこに行くか聞いても教えてくれないし!! 本当何なわけ!!!!」


 お昼休憩。


 食堂でゴズが作ってくれた賄いをガツガツと胃に押し込みながら、ぐいっとコップの中の水を一息で煽る。


「んく、んく・・・・ぷはぁっ!! ワイバーンが倒されてこれからが大変だっていう時なのに!! いつもあいつはどこで何やってんのよ!! もう!!」


 コップをガツンとテーブルに叩き付け、私は息を荒げる。


 そんなこちらの憤った様子に、テーブルの上にチョコンと座る目の前の珍妙な生物はおびえた声を漏らした。


「ン、ンゴォ・・・・」


「ンゴォじゃないわよ!! ってか、あんたもいったい何なわけ!? アキトはそこら辺で拾ってきたとか言ってたけど、今まで生きてきてあんたみたいな生き物見たことないわよ!! まさか、魔物とかじゃないでしょうーねっ!!!!」


「ンゴ!? ンゴゴ!! ンゴゴゴ!!」


 ブンブンと首を振って、否定の意を示す土人形。


 この珍妙な生き物・・・・レゴムをアキトがこの宿屋に連れてきて一週間ほど経過したが、どうやらこの生物は人の言葉を理解しているみたいだった。


 首を縦や横に振って肯定や否定の感情を表すだけだが、確実にこちらの意思が通じている分、その辺にいる犬猫よりは数段に知能が高いのかもしれない。


 そして、その知能の高さに加え、この生物は不思議なことに何故か食事を必要としない。


 いったいどういう仕組みで生命活動を維持しているのか疑問が残るばかりだ。


 (本当何なの、この生き物・・・・意味が分からなさ過ぎて、この子見ていると頭が混乱してくるわ・・・・)


 ハァッと、精神を落ち着かせるために大きくため息を吐く。


 「というかアキトの奴め、仕事をサボるだけじゃ飽き足らず、訳の分からない生物を宿屋に連れ込みおって・・・・何様なのよ」


 まったく、あの人のことを考えるとイライラが止まらないわ。


 この子、アキトのペットみたいだし、あいつの代わりに少し意地悪してやろうかしら。


「このっ、えいっ、えいっ」


「ンゴッ!? ンゴッ!?」


 頬を人差し指でツンツンとつつくと、丸い黒い瞳を斜めにさせ、レゴムは困惑気な表情を浮かべた。


 見た目は不可思議だけど、思ったよりもかわいいのよね、この子。


 子供に人気でそう・・・・宿屋のマスコットキャラとして上手く活用できないかしら。


「・・・・・・・今日は一段と荒れていますね、お嬢」


 テーブルに突っ伏してレゴムをツンツンとつついていると、向かいの席に自分の食事を持ったゴズが座ってきた。


 私はジト目で、ゴズの顔に視線を向ける。


「ゴズ・・・・貴方、何で毎朝アキトが何処かに行くのを止めないわけ?? あいつがどこに行っているか、知っているんでしょう??」


「いいえ、知りません。ですが、あの男がお嬢のために行動をしていたのは知っています」


「私の、ため??」


「ワイバーンを倒した冒険者。あの冒険者は何故、唐突にお嬢の依頼を自ら受けに来たのでしょうかね。自分の目的のためと言ってはいましたが、俺には彼女の行動が前から不思議でなりませんでした」


「まさか・・・・レインウェルツの正体は、アキトが女装した姿ー---ー---」


「は? えっ? 違います。そもそも、アキトがワイバーンを倒せる力があったらわざわざ変装する必要なんてないでしょう。加えて、あの美人とアキトは顔立ちも全然似ていませんし」


「・・・・確かにそうね。全く似てないわね。でも、何でかしら? 今一瞬、レインウェルとアキトが重なって見えちゃったのよ。不思議ね」


 顎に手を当て、自分のよく分からない思考に首を傾げる。


 そんな私にゴズはコホンと口に手を当て咳ばらいをすると、食事をしながら静かに口を開いた。


「これは俺の勝手な推測ですが・・・・多分アキトは、レインウェルツにワイバーンを討伐するよう直接頼んだのではないでしょうか。冒険者は動かないと知ったからこそ、冒険者ではない彼女に何らかの取引を持ちかけて、動いてもらったと」


「・・・・なるほど、ね。確かにその推測は頷けるわ。でも、あいつがそんな面倒なことするかしら?? あの毎朝何処かにほっつき歩いている馬鹿が私のために?」


「ワイバーンが倒される前、俺がアキトに何処に行っているか尋ねた時、彼は『俺が今やっていることは、ヘレナを守るための戦い』だと、言っておりました」


「え・・・・・??」


「毎朝出かけているのは、恐らく、レインウェルツとの取引を精算しているからだと俺は考えています。そう考えると、彼が俺たちに心配をかけまいと黙っているのも頷ける」


「・・・・・・・・・」


「だから今は、彼を見守ってやりましょう、お嬢。大丈夫。あいつは本当にお嬢の味方ですよ。俺が保証します」


「・・・・・・・・・・・・」



 私に隠れて、彼は何処かでこの宿屋を助けるために奔走している。


 確かにあのキザッたらしい男ならば、そのような回りくどいことをしそうな気配はある。


 いや、間違いなくそうだ。


 あいつは私の手助けを陰で行っている。


 何故かは分からないが、明確な確信があった。


「・・・・・そっか。なるほど、ね」


 出会って二週間程度だが、あの男の妙にかっこつけたがりな性格はすでに嫌というほど私は理解している。


 私に対して歯の浮くような台詞を恥ずかしげもなく口にするし、頼ってくれと言わんばかりに自分を誇張して大きく見せようとする。


 あいつは多分、私のことを妹のように見ているんだろう。


 常にかっこいい兄であろうと、私が不安にならないよう、頼れる味方であろうとい続けようとしている。


 ・・・・・妹として見られているのはどこか少し、複雑な気持ちはあるが、別に嫌な気はしない。


 嫌な気持ちがしないのは、多分、彼との信頼関係が深く築かれていると、認識できたからかも・・・・。


(まったく・・・・不器用な人、ね)


 私の味方になると言ってくれた、彼のその言葉には嘘偽りはないことはもう分かっている。


 だったら私は、彼の味方になろう。


 あいつが何も言わず陰で私のことを支えてくれているならば、私は表で彼を支えてあげよう。


 この宿屋をお母さんがいた頃と同じように繫盛させ、彼の住むこの宿を過ごしやすい空間にしてあげよう。


 いつか彼が陰で何をやっていたのか、素直に話してくれる、その時まで。


 私は、私の戦いに挑んでいかなければ。


 この理不尽な世界に、彼と共に抗い続けていくためにも。


「よし。あいつのためにも、本腰入れなきゃね」


  頬を両手でパチンと叩き、私は立ち上がる。


「ゴズ! 昼食食べ終わったらいつもの作業に戻って!! あと、レゴム!! あんたは私と一緒に店の前に立って客引きよ!! あんたのその奇妙な姿、武器にさせてもらうわ!!」


「了解しました!!」


「ン、ンゴッ!!!!」


「さぁ、お母さんが名付けたこの宿屋、『月夜の宴』、再び始動よ!! みんな!! 午後も頑張っていきましょう!!」


 ヒューム族である私と、半獣人族の大男のゴズ、そして謎の生物のレゴムのトリオ。


 この歪なパーティが、宿屋を復興させていくメンバーだ。


(よし。気合い入れなきゃね)


 アキトはあの時、死んでお母さんのところに行くという誤った選択を、修正してくれた。


 だったら私も、生きるということに、現実に、覚悟を持って挑んでいかなければ。


 この理不尽な世界で神に抗い続ける彼の味方になろうと、そう決めたから。


 信じて待とう、彼が帰ってくるこの宿屋で。


 そして、戦っていこう。


 彼が帰ってきたとき、また笑い合える、そんな場所を守るために。

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