第6章 第二皇女からの刺客 ④
「くらえっ!!!! 【ポイズンアロー】ッ!!!!!」
「痛ッ!!!!」
ギルドに入った途端、首に激痛が走る。
あわててうなじに触れると、そこには紫色の針のようなものが突き刺さっていた。
急いでそれを引き抜き、地面に捨て、俺は舌打ちをして背後を振り向く。
「おい・・・・・」
「なっ!? 常人であれば数秒で全身が麻痺するはずなのに・・・・何で倒れないのぉ!?」
「てめぇ・・・・毎回毎回何しやがるっ!?」
先日の、あのお茶会から2日。
あの日以来、メアリーは俺がレインウェルツとして冒険者活動を行おうとする度に、何故かちょっかいをかけてくるようになっていた。
ギルドで掲示板を眺めていれば、先程のように背後から針を刺され、カウンターでアリシアと会話していれば、謎の粉を頭から被せられる。
今日までの二日間、彼女はまるで俺を監視するかのように常に付きまとい、隙を見てはそういった暴挙に出るのだ。
勿論、俺は彼女から恨みを買った覚えはないし、何か失礼なことをした記憶もない。
なのに彼女は、明確な意思を持って俺に対して攻撃を行なっていた。
まぁ攻撃といっても今のところ、外傷の少ないちんけな魔法を放たれたり、ドッキリ的なイタズラをされるだけの可愛いものだけどな。
けれど、だ。
流石に毎日毎日そういったちまちま地味な攻撃され続けられると・・・・流石にうんざりしてくるものがある。
これからの冒険者活動の精神衛生を守るためにも、嫌がらせをやめるよう何らかの働きを持った策を試みなければならないのは必須だろう。
これ以上のストーキングはやめさせなきゃ、女の子に敵意を持たれたことのない俺のクソ雑魚メンタルが持たずに鬱になるからな。
「なぁ・・・・良い加減、そのちまちまとした嫌がらせをやめて、ちょっと俺と話を・・・・・」
「くっ!! こうなれば撤退するしかないわねぇっ!!!! さらばっ!! レインウェルツ!!」
「って、お、おいっ!!! ちょ、待て!!!!」
ギルドの扉を開けて颯爽と外へと駆けて行くメアリー。
彼女はとても足が速いようで、そのシルエットは数秒であっという間に小さくなり、町の喧騒へと即座に消えていった。
「・・・・・・・・・・・何なんだよ、いったい」
俺はただただポカンと口を空けて呆然とするしかなく。
訳が分からず、彼女が消えていった人々の群れの中をただただ見つめることしかできなかった。
「・・・・・どうやら、完全に目を付けられたみたいですね」
「ん?」
ふいに横から声をかけられたので、そこに視線を向けてみる。
すると隣で、同じように扉の外に視線を向けている少女がいた。
こいつはー----。
「初めまして。私は銀等級冒険者・・・・いえ、今は銅等級冒険者でした。修道女のミーシャ・グレイスと申すものです。よろしくお願い申し上げます」
ペコリと頭を下げると、床に付きそうなくらい長い水色の髪が下へと垂れ下がる。
その髪を耳にかけなおすと、少女は頭を上げ、眠たそうな目をこちらに向けてきた。
「『閃光』のレインウェルツさん、ですよね。以後お見知りおきを」
そして、握手を求めてくる。
(・・・・・・・・・・・・こいつは)
こいつは、あのクソ野郎の・・・・レクスの仲間だった女だ。
初対面時のあのやり取りー----俺のステータスをレクスと共に嘲笑った記憶は未だに忘れることはない。
そして、ヘレナの依頼を一蹴して突っぱねてた一件も。
正直、全くもって良い印象がない女だ。
握手なんかしたくはないし、会話すら嫌気がさす。
絶対に、仲良くなれる気がしない相手だ。
「・・・・・? どうしました?」
俺の警戒する顔を不思議に思ったのだろう。
ミーシャは小さく首を傾げる。
(・・・・落ち着け、今の俺は新條 彰人じゃない、冒険者レインウェルツだ。それに、今の状況でむやみやたらに敵を作るのは得策じゃないだろう)
ルドナを助けるために、フレイモンド級冒険者になるためにも。
ここはできるだけ円滑に仕事を進めるため、友好関係を広めるためにも私情は捨てた方が良さそうだ。
大きく息を吐き、心を落ち着かせる。
「失礼しました。銀等級冒険者レインウェルツです。よろしくお願いします」
そして、怒りを飲み込み手を取り握った。
「よろしくお願いします」
そんな俺にミーシャは小さく微笑むと、ひとしきり握手し、その後手を放して、再び扉の外へと視線を向ける。
「メアリー・エクスティアは自分より目立つ存在、特に女性に対しては敵意を向けやすい性格の人間です。そして貴方は件のワイバーン討伐で巷で話題の冒険者。現在、苦労されているのではないですか??」
「あぁ・・・・うん。ここ二日間、毎回毎回付きまとわれて大変なんだ。突如後ろから攻撃されたり、よくわからない粉を上からかぶせられたり・・・・」
「なるほど。見たところ先程は毒矢の魔法を放たれていたようですが・・・・大丈夫ですか? 何か体調に変化はありませんか??」
「別に特には・・・・・って、え、あれ毒矢だったの? マジ?」
「毒の魔法とは分からなかった、と?・・・・・・そ、それで、身体の変化は何も無いのですか??」
「ん? あぁ、うん。なんともねえな」
「・・・・・・・」
そう言うと、少女は眉間にしわを寄せ、あごに手を当て何やら考え出した。
(あー・・・・ミスったかもな)
もしかしたらレインウェルツの体は人形だから、毒が効かなかったのかもしれない。
そうなると、もし、生物には絶対に効く状態異常魔法なんてものがあった時、俺は真っ先に周囲から疑惑の目を向けられることだろう。
自分たちと体のつくりが違う・・・・もしや人間ではないのか? と。
これからはそんな事態に陥らないためにも、人形の身体だとバレないように、常に人としての振る舞いを意識して、奇異な目を向けられないように気を配っていかなければならない。
俺は緊張した面持ちで、少女の顔を覗く。
するとミーシャはどこか納得したように頷くと、俺の目をまっすぐと見つめてきた。
「・・・・加護持ち・・・・いえ、もしくは上級魔道具持ち、ですか。なるほど。どうやら評価を改めなければならないですね」
「へ?」
「いえ、こちらのことです。それよりレインウェルツさん、メアリー・エクスティアの対処に困っているんでしたよね?? でしたらその件、私に一任してくださいませんか?」
「対処・・・・?? いったいどうやって??」
「それは・・・・後日、お話いたしましょう」
そう言って、どこかいたずらっぽく、ミーシャは微笑んだ。
「いつも、この家の近くで見失うのよねぇ」
赤く染まった空の下、木造建築の家の前で私は顎に手を当て考える。
「この家、いったい何なのかしら・・・・・」
門前に建てられている看板には「ガラクタ屋」と書かれている。
しかし、どうみてもこの家は店の外観ではない。
よくわからない機械のようなものが所狭しと庭に置かれているし、玄関の柱には何体ものマネキンが横たえられている。
正直本音でいえば、この怪しさ満載の不気味な家には近づきたくはなかった。
けれど私はこの2日間、レインウェルツを尾行して気付いたことがある。
それは・・・・毎回毎回、この家に入った後、奴は消息を断っているということ、だ。
普通に考えればこの家があの女の住居と考えても良いところだが・・・・あの淑女然とした澄ました顔のあいつが、こんなあばら家に住んでいる姿は何故か結びつかなかった。
それに、この家に住んでいる人間は老人一人であると事前に調査済みだ。
この家がレインウェルツの住処ではないことは明白。
だったら、いったいあの女はこの家から何処へとー----。
「あ」
「あら?」
ガラクタ屋から出てきた青年と目が合う。
青年は何故か私の顔を見た後、どこか困ったように目を伏せた。
(もしや、彼は・・・・レインウェルツの関係者、かしら??)
殆どの男性は初対面の私に対しては、大抵頬を赤く染め、おどおどしだす。
それなのに彼は私に好意どころか嫌悪を含んだ表情を見せてきた。
その様子から見て、間違いない。
この世界で一番可愛い可愛いメアリーちゃんに嫌悪を示すのは、あの女、もしくはあの女の関係者だけだ。
私の勘が言っている。
彼は、レインウェルツの居所を知っていると。
「こんばんわ。私、レインウェルツさんの同業者の冒険者、メアリー・エクスティアと申すものですぅ」
「あー・・・・どーも」
「フフフ。驚いたり惚けた反応がないってことは、やっぱり貴方はレインウェルツを知っている、ということですねぇ??」
「・・・・・・・・・・」
「少しお話、よろしいですかぁ?? そこの公園ででもぉ」
「・・・・・・はぁ。わかったよ」
けだるげにそう言うと、彼は先導する私の後ろを静かについてきた。
公園にたどり着くと、辺りはすっかり暗くなっていた。
周囲に人はおらず、遊具で遊ぶ子供の姿も勿論ない。
私はその人気が無い環境を好都合と考え、さっそく手頃なベンチを見つけ、そこに腰掛ける。
「ここで良いですねぇ。ささっ、座ってくださぁい」
「・・・・・・」
ベンチに座り隣をポンポンと手でたたき示すが、彼は動かず、ただ目の前でジッと私を睨みつけてくるだけだった。
「フフフ~。そんなに警戒しなくても良いですよぉ」
「あ? 警戒すんなっつーのも無理な話だろ。毎回毎回あんなこと・・・・を、レインウェルツの奴にやってるんだからな」
「あらぁ? そこまで聞いているのぉ?? もしかして君、あの女の男??」
「・・・・・・・・」
「あっ? 当たり~?? 道理で私に靡かない訳だぁ。既に本命がいた、って訳ねぇ。それにしても誠実な人~」
「・・・・・・・・」
無言ということは肯定。
この男はレインウェルツの恋人と見て良いだろう。
兄弟にしては全く顔似てないしね。
私は勝利を確信し、蠱惑的な笑みを浮かべながら、彼の前に立つ。
「ねぇ? レインウェルツじゃなくて、私にしない~? あの女の身体じゃ、貧相すぎて楽しめないでしょ?? 性格も男っぽいし」
「あ? お前、何言ってやがる?」
「フフフ、私に乗り換えないか、って言っているの。銀等級冒険者になったばかりのあの女よりも私、確実にお金持っているわよ。ね、どう??」
「はぁ。くっだらねえな。お前、何したかは分からないがあいつにこれ以上ー----」
「新條 彰人だな?」
誰もいないはずの公園に、突如、私たち以外の存在の声が鳴り響く。
その声に驚愕の表情を示し、彼は背後を慌てて振り向く。
私も彼に続き、公園の奥の闇の中に視線を向けてみる。
するとそこには、フードを深々と被った黒いマントの男がひとり、不気味に立っていた。
「・・・・・何者だ? どうして俺の名前を・・・・」
「エステラ様の命令だ。今宵、ここで貴様を討つ」
そう発言した直後。
男は高く跳躍すると、手のひらの上に魔力によって造り出された紫色の刃を浮かび上がらせ、それを私たちに向かってー-----いや、前方に立つ彼に向かって高速で放ってきたのだった。




