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第6章 第二皇女からの刺客 ②


 ワイバーンを討伐してから翌日。


 現在俺は、依頼達成の報告をするために冒険者ギルドへと足を運んでいた。


 途中、赤髪の女に何故か睨み付けられたり、レクスの野郎に何故か頭下げられたり、オタクっぽい連中に何故か囲まれたりはしたが、全て無視することで事なきを得ることに成功。


 無事に、余計なトラブルイベントを起こさずに目的のカウンターの前へと到達したのだった。


「あっ、レインウェルツ様!! お待ちしておりましたっ!!」


 カウンターの前に立つと、アリシアが満面の笑みでこちらにお辞儀してくる。


 俺はそんな彼女に軽く頭を下げ会釈し、肩にかけているショルダーバッグからあるものを取り出す。


「確か、依頼を達成したら討伐した魔物の一部をギルドの受付に渡すんですよね? これで良いでしょうか?」


 コトっと、カウンターにワイバーンの額に付いていた宝石の破片を置く。


 すると受付嬢アリシアは手袋を付けてその破片を手に取り、まじまじと見つめた後、にこりと俺に対して柔和な笑みを浮かべてきた。


「確かにこれはワイバーンの魔石でございます。依頼達成おめでとうございます、レインウェルツ様」


 そう口にするとアリシアは魔石をハンカチのような布で丁寧に包み、カウンターの下にある引き出しへ静かに仕舞った。


 そして背後にある棚から、金貨の入った袋と一枚の銀のプレートを取り出すと、それを俺の前にすすっと差し出してくる。


「こちら、ヘレスティナ様から預かっていた依頼料でございます。そしてこちらがー---」


 一呼吸挟み、アリシアはどこか興奮した様子で銀のプレートを手で指し示す。


「こちら、銀等級のギルドプレートでございます!! レインウェルツ様はワイバーンを討伐されたことにより、無等級から一気に四階級特進、銀等級7位に昇級でございます!!!! おめでどうございますっ!!!!」


 そう言った後、アリシアは何故かパチパチと盛大な拍手を鳴らし、カウンターの中でピョンピョンと飛び跳ねていた。


 俺はその様子に若干引きながらも、金貨とプレートをおずおずと受け取る。


「おい・・・・あいつ、銀等級入りだってよ?」


「無等級がたった2日で銀等級冒険者・・・・ギルド創設以来最速の昇格じゃね??」


「いったい何者なんだあいつ・・・・フレイモンド級の化け物どもの親族か何かか??」


 ざわざわと背後で騒ぎたつ声にむずがゆさを感じながら、俺は受付嬢にずっと疑問に思っていた質問を投げてみる。


「アリシアさん、すいません、前々から不思議に思ってたんですけど冒険者の等級っていったい何なのですか??」


「等級とは、冒険者の力量、格を示すものです。下から無等級、石炭、鉄、銅、銀、金、プラチナ、ミスリル、フレイモンドの順で構成されております」


「なるほど・・・・じゃあ俺は冒険者としては中間層くらいの実力であると、上から評価されたんですね」


「それは・・・・・」


 アリシアは突如キョロキョロと周りを気にした素振りを見せた後、俺の耳元に手を当て、小さな声で話し始めた。


「・・・・冒険者の殆どはパーティを組んで依頼に挑む方がほとんどですので・・・・・個人個人の実力はそうでもないんですよ」


「え?」


「ですから、ソロでワイバーンを討伐されたレインウェルツ様は、実際は銀等級以上の実力をお持ちだということです」


「な、なるほど?」


「本当だったらレインウェルツ様はプラチナ、いえ、ミスリル級はあってもおかしくない実力です。ですが・・・・・」


 そう言ってアリシアは俺から離れると、どこか申し訳なさそうな顔をした。


「・・・・ワイバーンを無等級冒険者がソロで倒すなんて事例、今まで一度もあったことがなくて・・・・ギルド上層部の役員も全員、かなり混乱しているんですよ。ですから、レインウェルツ様が本当にワイバーンを倒したのか訝しむ役員も出てきてしまいまして・・・・・・」


 そう言って、アリシアはこちらに深く頭を下げてきた。


「そういった理由からレインウェルツ様は銀等級という位になってしまいました。本来の実力と異なった配属となり、誠に申し訳ありませんっ!!」


「そ、そんな!! 頭を上げてくださいよ!! 別に俺、等級とか気にしてませんから!!」


「ですが・・・・」


「俺は、他人にどんな評価をつけられても構いはしません。いずれ実力がついていけば、自然と周りの目も変わってくるはず。そうでしょ?」


 ウィンクをして、アリシアの謝罪を止める。


 すると彼女は何故か顔を赤く染め、ハァハァと息を荒げはじめた。


「な、何てお優しいお方・・・・そんな曇りのない純粋な瞳で見つめられたら私・・・・濡れてきちゃう」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」


「レインウェルツ様ッッッッ!!!!!!!」


 がしっと両手をつかまれる。


 痛い痛い痛い痛い!! 力の入りようハンパないっすよアリシアさんっ!?


 あとその蘭々と光ったそのうるんだ眼、俺に向けてくるのやめてもらって良いでしょうか!?


 マジで怖い、獲物を狙う獣の目をしていてマジで怖い。


「レインウェルツ様、女の子同士、というのはお嫌いでしょうか??」


「ちょ、まっ、え、は!? ス、ストップ!! アリシアさんストップ!!!!」


「いいえ、私は止まりません!! 今日、良かったら私の部屋に・・・・・・」


「お取込み中のようですけどぉ、ちょっと、良いですかぁ?」


 背後から声を掛けられ、俺は逃げるようにアリシアの手を振りほどき、声がした方向へ振り向く。


 するとそこには、ウェーブがかったゆるふわサイドテールの、メルヘンチックなローブを着た少女が立っていた。


「あ、受付に用あるんですか?? どうぞどうぞ、俺、もう用はないので」


 前をよけて、どうぞと両手をカウンターの前へと指し示す。


 アリシアがどこか寂しそうな顔をしていたが、全力で無視だ。


 百合ものは好きだが、それは第三者目線で見るものであって、自分自身が百合になるようなそんな特殊な趣味趣向性癖は俺にはない。


 この女の子が割って入ってくれなければ、危うく俺の童貞・・・・いや、レインウェルツの処女があのケダモノ受付嬢に奪われるところだった・・・・ありがとよ、見ず知らずの美少女よ。


 そんな彼女に感謝の視線を向けると、栗毛の美少女はキョトンとした顔をこちらに向けてきた。


「ええとぉ、私が用があるのは受付さんじゃなくて、銀等級冒険者であるお姉さんなんですけどぉ?」


「え? 俺?」


 どこかあざとさのあるゆったりとした口調で俺にそう話しかけると、少女はニコリと小悪魔のように微笑んだ。


「私、銀等級冒険者『葬送の魔女』の、メアリー・エクスティアって者ですぅ。『閃光』のレインウェルツさん、ですよね?? 以後お見知りおきおきを~っ」


 手を差し伸べられ、俺は少し困惑しながらもその手を握る。


「『閃光』なんて二つ名は知らないけど、はい、俺がレインウェルツです。よろしく、メアリーさん」


「よろしくねぇ~! あっ、ねぇねぇっ、突然だけど、私とパーティ組んでくれませんかっ? レインウェルツさんっ!」


「え? パ、パーティ!?」


「そうですぅ。私ぃ、今さっき仲間に裏切られてソロになっちゃってぇ、ひとりぼっちなんですよぉ~。だから、銀等級冒険者になったお姉さんとチーム組みたいなって、そう思って思い切って声かけちゃったんですぅっ!」


「あ、あぁっ、そ、そうだったんだ」


 握手をほどくと、少女は頬に指を当て、小首を傾げ微笑む。


「どうですかぁ? 私とパーティ、組んでくれませんかぁ??」


「・・・・・・・・・・・え、あ、えっとー・・・・」


 なんだこの子、一挙手一投足がいちいちあざと可愛いんだけど。


 あとコロコロ変わる表情がめちゃくちゃ心にキュンとくる。


 しかも、元々そんなに背が高くないレインウェルツの体よりも小柄で、尚且つすっげー巨乳だ。


 この子にお願いされたら「う、うす」って言って何でも言うこと聞いちゃいそう。


 「この人殺して~?」なんて命令された日には「う、うす」って言って包丁持って指示された人物に特攻かましてしまいそう。


 はっ!! もしやこの子は大学時代に噂されていたあの伝説の『童貞殺しのオタサーの姫』というやつなのでは!?!?


 俺みたいな万年童貞の陰キャを無条件で支配下における最強の洗脳スキルもっていると噂される、あの伝説の!!


 くっ!! なんてことだ!! 今まで出会ってきたどの人間よりも一番相性悪いぞ、この女!!!!


 早く戦線離脱しなければっ!! 早くこの女から離れなければ!! 俺の童貞ソウルジェムが黒くなって魔女化してしまう!!


「まぁ、ここでお話しすることでもないかなぁ?? 受付のおねーさん、何故か私のことすっごく睨んでくるし」


 チラリと彼女が指さすカウンターに視線を向けると、そこには般若のような顔でメアリーを睨むアリシアの姿が。


 「ほらっ、いこっ?」


 俺は唐突に現れたこの謎の美少女に何故か抗うことができず、ただただ彼女の手に引かれて、そのままギルドの外へと連れていかれるのだった。

 

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