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第6章 第二皇女からの刺客 ①


「メアリーちゃん、おはよう!!!!」


「いや~今日も可愛いね!!!!」


「荷物もってあげるよ!! ほら、貸してっ!!」



 今日も、私の周りには男どもがワラワラと寄ってくる。


 粗野で粗暴で言葉使いが悪い、お下品なこの町の冒険者。


 けれどそんな彼らは私にとって、鼻の下を伸ばして寄ってくるだけの、ただの無害なお猿さんでしかない。


 そして、私はそのお猿さんの手綱を握る飼い主。


 冒険者、『葬送の魔女』こと私、メアリー・エクスティアは、その庇護欲かき立てる愛くるしい風貌から冒険者の男たちからアイドルのように崇拝される、王国ギルドきってのオタサーの姫なのだ。



「フフフ、おはようございますぅ、皆さん~っ。あれ? あれあれ? 貴方、襟が曲がっていますよぉ?」


 背伸びして、屈強な冒険者の男の襟首に手を伸ばし、その乱れた服装を手で直してあげる。


 すると強面の彼は頬を赤く染め、ぶっきらぼうな口調で「あ、ありがとうございやす」と慌てて頭を下げてきた。


 そんな彼を羨望のまなざしで見つめる他の取り巻きの男たち。


 今日も私は自分のモテ度に内心満足感を覚えながらも、周りの男たちに慈母のような微笑みを向けていく。


 (私って罪な女ですぅ。彼ら取り巻きの中から依頼に向かうパーティを自由に選べる立場なんですものぉ)


 くるりとウェーブがかかった長い髪を、私は手で弄ぶ。


 私は現在、王国で8人しかいない銀等級冒険者のひとりではあるが、実際の実力は銅にも満たない鉄等級くらいのものだ。


 分不相応な等級にランクアップできたのも、ただ異様に男にモテただけ、というふざけた理由なだけなのである。


 なんたって可愛いというだけで、言い寄ってくる男たちの中からパーティをとっかえひっかえ自由に編成できる立場を手に入れることができたから。

 

 格上の金等級や同じ銀等級の男をパーティに組み込むことができるから・・・・やはり、可愛いというだけでこの世はイージーモードなのよ。


 そんな訳で、私は一気に銀等級冒険者へと位をランクアップさせてきたのだ。


(だから、私は、自分のモテ度を手放すわけにはいかないの)


 一度手にしてしまった銀等級冒険者という地位を安易に捨てることはできない。


 だって、上位冒険者というのは給金が半端なく良いからね。


 だから今の良い生活を維持し続けるためにも、私は男たちのアイドルである必要があるの。


 いや、アイドルでい続けなければいけないわ。


 それが私の冒険者としての、唯一の武器なのだから。


「さぁ、皆さん、今日も行きますよぉ? 冒険者として依頼をガンガンこなしていきましょぉう!!!!」


「「「うす!!!!!!」」」


 そうして私は今日も男たちを引き連れ、金払いの良い依頼を探すために、冒険者ギルドへと足を運ぶのであった。







「あら・・・・・・?」



 ギルドに入ると、ひとつ、妙な違和感を私は感じてしまう。


 それは、いつもだったらギルドに入るや否や私に向かって飛んでくる愚かなお猿さん1号・・・・レクスの姿がどこにも見当たらなかったからだ。


(変、ねぇ。ここ数日ギルドに足を運んではいなかったから・・・・長期の依頼でも受けたのかしらぁ? あの人)


 首をかしげながら、5.6人の男たちを引き連れて、私は、依頼書が張り出されている掲示板へ向かう。


 すると、その時。


「は、はぁぁぁ!?!?!? パーティ解散するって・・・・・本気で言っているの!? レクス!?」


 背後から聞こえてきたその女の怒号に私は驚きつつも、急いで声が聞こえてきたテーブル席へと視線を向ける。


 いや、私だけではない。


 ギルド内全ての者たちが、一組のパーティに奇異な視線を向けていた。


「なんでよレクス!! 銀等級冒険者『風槍』として今まで私たち、ちゃんとやってこれていたじゃない!!!!! それなのに何で解散するなんて言うのよ!!!!!」


「・・・・・俺、本当に欲しいものができちまったんだ。だから、お前との・・・・お前たちとの関係もここで終わりにする」


「は、はぁぁぁぁぁぁぁッッッッッ!?!?!? ミ、ミーシャも黙ってないで何か言ってやんなさいよ!! この馬鹿に!!!!」


 そう赤髪のツインテール少女が、修道服を着たミーシャという少女に言葉をかける。


 しかしミーシャは彼女に対してふるふると感情のない顔で首を横に振った。


「まぁ・・・・仕方ないのではないでしょうか? リーダの彼がこう言っているのですから」


「えっ、な、何でそんな冷静なのよ貴方!!」


「ヴェーヌさん、私は貴方と違って彼に恋してこのハーレム・・・・もとい、パーティに参加したのではありません。私は、銀等級冒険者である彼だからこそ仲間になったのです」


「え?」


「ですから、このパーティにあまり未練はございません。解散するというのならば私は、次の実力のあるパーティに仲間入りさせてもらうだけです。では」


 そう言ってまるでレクスに興味を失ったかのように、ミーシャはさっさとギルドから出て行ってしまった。


 残された赤髪のヴェーヌは、わなわなと口を震わせて、レクスをギロリと睨む。


「もしかして・・・・あの女が原因なわけ・・・・??」


 そう言うと、レクスはどこか遠い目をして、惚けた顔で口を開いた。


「そうだ・・・・レインウェルツ・・・・いや、レイン様。あの時、あの美しいおみ足で蹴り飛ばされた瞬間、俺は自身がいかに愚かな存在だったのかを思い知ったのだ。ひとりで複数の女を抱こうとするなど・・・・なんたる傲慢!! 男ならば、本当に恋した女一人を愛し続けるべきなのだと!! 彼女にはそれを教わったッ!!」


「・・・・・私との関係はここで終わり、ってわけ??」


「そういうことだ、ヴェーヌ。君も、本当に愛した男と生涯を共にしろ」


 レクスがそう発言した瞬間、パチンと、彼の頬が激しく叩かれた。


 そして、ヴェーヌは涙ぐみながらレクスを鋭く睨み付けると、勢い良くテーブル席から立ち、走って去っていった。


(い、いったい何が起きたのぉ!? あの女好きレクスが自分の女を手放すぅ!? ハーレムパーティを解散してまでぇ!? 何故っ!?)


 同じ逆ハーレムパーティを持つ私には、彼がやったことは信じられない行為だった。


 ひとりの女ー---いえ、私の場合はひとりの男ね。


 そんな、いくらどんなに良い男が現れたとしても、私だったらひとりの異性のために自分の取り巻きを蔑ろにするなんてことは決してしない。


 何故ならハーレムを手放すなど、自殺にも似た尋常ならざらぬ行為だからだ。


 (冒険者にとってハーレム・・・・もといパーティは、自分の命を預ける大事な存在に等しいのよ)


 いくら銀等級冒険者といっても、個人個人の実力はせいぜい銅等級程度のもの。


 ゆえに、彼らの『風槍』のメンバーは、解散したことによって銀等級位下に降格することは間違いない。


 そうなれば給金の良い仕事は取れなくなり、ひとりで地道に稼いでいく手段しかなくなっていく。


 彼らの冒険者としての格は、レクスの惚れたひとりの女によって消滅したといえるだろう。


(ご愁傷様ですぅ・・・・)


 心の中でチーンと手を組んで祈りながら、ギルドから出ていこうとするヴェーヌに視線を向ける。


 すると、その時。


 扉から、ひとりのー---透き通る長い銀髪をした絶世の美女が、ギルドの中へと入ってきた。


 その瞬間、雑多のようにごった返していたギルドの中が、空気が止まったかのように静寂に包まれる。


「・・・・・・・・?」


 その様子に首をかしげながらも、銀髪の少女はスタスタとカウンターへ向かって歩き出す。


 その道の途中、ヴェーヌが両手を広げ、通せんぼするかのように美女の行く手を阻んだ。


「レインウェルツ!! あんた、あんたのせいで私は・・・・・!!」


「あぁ?」


 少女らしからぬドスの効いた声で睨みを利かせるレインウェルツと呼ばれた少女。


 その迫力ある剣幕に気圧され、ヴェーヌは悔しそうに歯を嚙みながら道を譲り、そそくさとギルドの外へと出て行ってしまった。


 そんな彼女に、「なんだあいつ」と不思議そうにしながらも、少女は歩みを再開する。


 ー---が。


「レインウェルツ様!!!! この前はご無礼、申し訳ありませんでした!!!!!」


 主人に敬意を表すかのように、レクスはレインウェルツの前に跪き、首を垂れる。


 が、ガン無視され素通りされる。


 哀れ・・・・と思いきや、何故かレクスは満面の笑みで、歩いて行くレインウェルツの背中を見つめていた。


 まるで、無視されるのも喜びであるかのように。


「あの人は、いったい・・・・?」


 そう私が疑問の声をこぼした瞬間、私の取り巻きの男たちが一斉に騒ぎ始めた。


「お、おい、彼女が例の『閃光』の・・・・??」


「ワイバーンをソロで倒したっていう絶世の美女、か。確かに心奪われる出で立ちをしていられますなぁ」


「あんな華奢な体なのに目にも止まらない剣閃を放つらしいぞ?? 彼女の戦いを目撃した衛兵たちがそう言っていたって」


「無等級冒険者が最初の依頼でワイバーンを討伐・・・・一気に銀等級入りは間違いないな」


「創作物上の伝説が実際にそこ歩いているようだよなぁ・・・・はぁ、お近づきになりたい」


 思い思い、レインウェルツへの感想を語る取り巻きたち。


 そんな彼らに、私は思わず常時浮かべていた慈母のような笑みをひきつらせてしまう。


「ちょ、ちょっと、待ってぇ? みんな、私のことは・・・・」


「よし、ちょっと声かけてみようぜ?? もしかしたら名前を憶えてくださるかも・・・・!!」


「そ、そうだな!! 少しでも伝説の女剣士に存在を認識してもらおう!!」


「うぅ・・・・果たしてあんな美少女と上手く話せるかどうか・・・・・あっ、メアリーちゃん、俺たちちょっと行ってくるから!! また!!」


「え? は? ちょ、ど、どこ行くのよぉぉぉ~~~!!!!!!」


 私の下から離れていく、取り巻きたち。


 私の大事な大事なお猿さんたちは、突如現れた銀髪の美少女に、全員かっさらわれてしまっていた。


 私は一人残され、ただパチクリと目を瞬かせることしかできなかった。


(ゆ、許せない、『閃光』のレインウェルツー----!!!!!!)


 胸中に憎悪が巡る。


 私はこの瞬間、あの女を無様に敗北させてやろうと、心に決めたのだった。

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