第1章 最弱の勇者 ①
幼い頃から俺は、双子の兄と比べられて育ってきた。
兄はとんでもなく優秀な人間だった。
勉強、スポーツ、あらゆることに非凡な才能を発揮し、いつも周囲の人々を驚かせてきた。
逆に俺はというと何をやっても駄目駄目で、兄の存在を際立てさせるだけの引き立て役にしかなれなかった。
「双子なのに似てないねぇ。お兄さんはすごく優秀なのに」
兄を知る人間に会う度に飛んでくる、憐みの言葉。
当時はそれがとても悔しかった。
だから、何度も兄に勉強やスポーツで勝負を挑んでいた。
けれど、どんなに努力を重ねたところで凡人は凡人。
何度も兄に挑戦する内に自分の限界に気付いた俺は、幼いながらにして悟った。
自分は、他人に注目されるような存在にはなれないんだと。
漫画や小説に出てくるようなヒーロー、物語の主役に自分はなれないんだと、理解した。
「彰人、こっちだこっちー!」
そんな完全無欠の兄ももう24歳。
ファミレスに入った俺に当時と変わらない笑顔でそう声をかけると、ちょいちょいと奥の席から手招きしてくる。
正直、過去の苦い思い出が蘇るから兄貴は苦手な存在だ。
社会人になった今では会いたくもない相手なんだが・・・・なし崩し的に話の場を作られてしまったので、すっぽかすわけにもいかず。
「久しぶりだね、兄貴」
コートを脱いで向かいの席に座る。
すると、兄の隣に座る女性が申し訳なさそうな表情で口を開いた。
「ごめんね。仕事終わりの疲れている時に」
「大丈夫だよ。明日は土日だし」
彼女の左手に嵌められている指輪にチラリと視線を向ける。
薬指に嵌められていたそれには、キラキラと眩しそうなダイヤが輝いていた。
(なるほど、な・・・・)
今日2人に呼び出された理由。
それはーーーーーーーー。
「彰人。俺たち、婚約したんだ」
「・・・・そっか。おめでとう」
事前に用意していた作り笑いを浮かべ、2人を祝福する。
結局俺は、恋愛でも兄には勝てなかったということか。
いや、勝負にすらなってはなかったな。
幼い頃から好きだった幼馴染の彼女は、ずっと兄だけを見つめ続けていたんだから。
「お前には誰よりも早く伝えておこうと思ってな」
「うん。何たってあたしたちの仲を繋いでくれたのは彰人くんだからね」
悪いが、仲を繋いだ覚えはない。
彼女は俺と仲の良い友人という立場を介して、兄と出会ったにすぎないだろう。
そんな本音は勿論飲み込み、長年2人を見守ってきた友人として、弟として、偽りの自分を演じていく。
「昔から2人は仲良かったから、いつかはこうなると思ってたよ」
「えーそうかな? 昔は彰人くんとの方が仲良かった気がするけど」
「ハハハ! そういえば昔といえばーーーー」
そうして時折適当に相槌をうちながら、2人の昔話に付き合うこと1時間。
終点の時間となり、俺たちは帰路に着くべく駅のホームへと向かった。
「いやー今日は久しぶりに話せて良かったよ」
にこやかな兄に肩をバンバンと叩かれる。
この暑苦しい感じ、懐かしいな。
体育会系っていうのか? 正直、陰キャの俺には昔から苦手なノリだった。
まぁ兄貴は自分が弟に嫌われているなんて全く想像していないんだろうけどな。
「見て、雪!」
俺たち兄弟の前を歩いていた彼女が、そう声を発しながら空を指さす。
そこには暗闇の中から地面へと降り注ぐ白い雪が舞っていた。
12月も後半であるため、季節的にも降ってはおかしくはない。
けれど何故かその雪は妖しげな気配を漂わせており、見るものを釘付けにする不思議な美しさが宿っていた。
「すげぇ、なんだこ・・・・・・」
「ーーーーーーー危ない!!!!」
兄のその叫びに思わずハッとする。
雪に魅了されていたのだとでもいうのだろうか。
俺は一気に現状の異常さに気付く。
「・・・・・・は?」
突如天から現れる、夜の暗闇よりも暗い影。
その正体は、頭上から降ってくる鉄骨だった。
工事中の高層ビルから、俺たち3人に向かって巨大な鉄骨が真っ直ぐと落ちてきていた。
「うそ、だろ??」
そのまま同じ場所に立っていれば、数秒も経たない内に俺たち3人は鉄骨の下敷きになることだろう。
それなのに、俺は恐怖のあまり動くことができなくなっていた。
「きゃっ!!!!」
しかし、兄は違った。
こんな状況下でも愛する人を守るために勇敢な行動を起こしていた。
兄は彼女の背中を激しく押すと、鉄骨が落下するであろう位置から距離を置かせることに成功。
そして、次は俺の方へと向き直りーーーーーー。
「逃げろ、彰人!!!!!!」
自分が身代わりなるかのように、俺の元へと走り出していた。
(馬鹿か!)
そのまま婚約者と一緒に逃げてれば良いものを。
もうあと数秒で鉄骨は地面へと到達する。
こいつはーーーー俺を助けて死ぬ気だ。
「糞が」
こちらに向かって伸びる兄の手を掴む。
その瞬間、兄は安堵の笑みを浮かべた。
ご自慢の腕力で、そのまま俺を安全圏内に投げ飛ばすつもりなのだろう。
けれど・・・・・。
「思い通りににさせて、たまるかよ!」
俺は逆に兄の腕を全力で引っ張り上げると、背負い投げの用量で遠くへ投げ飛ばした。
激しく投げ飛ばされ地面に倒れ伏した後、驚愕の表情を浮かべる兄。
柔道、子供の頃に少し習っただけだったけど、身体は覚えていたようだな。
結局、何を習っても兄に勝てることは一度もなかったけど。
最後くらい一矢報いることができたなら、無駄な努力では無かったのかもな。
「ったく、しょうもねぇ人生だったぜ」
その一言を最後に意識は途絶え、俺の身体は鉄骨に押し潰された。




