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第5章 竜殺しの少女 ①


「アキト!! 昨日サボった分、今日はきっちりとー----」


 早朝午前6時。


 怒鳴り声を上げながら部屋に入ってきたゴズは、驚き、瞠目する。


 何故ならいつもはこの時間、すやすやと幸せそうな顔で眠っているはずのアキトの姿が、部屋のどこにも見当たらなかったからだ。


 ベッドはもぬけの殻で、窓も空きっぱ。


 その状況からアキトが窓から外出したと予測したゴズは、だらだらと汗を流し始める。


「ま、まさかあいつ、昨日に引き続きまた何処かへ!? お嬢が知ったらどうなるかー----」


「あ、おはようございます、ゴズさん」


「む?」


 声をかけられた背後を振り向くと、そこにはキョトンとした顔のアキトが立っていた。


 何故か、両手に大きな洗濯カゴを抱えながら。


「・・・・何をやっているんだ? アキト」


「何って、洗濯ですよ。今日、部屋のシーツの取り換えでしたよね? 他の部屋のもやっときましたよ。はい」


「う、うむ・・・・」


 カゴを受け渡され、困惑気味な表情をするゴズ。


 何故なら彼は今日これから、アキトに洗濯の指導をするつもりだったからだ。


「俺が言うより先んじてやるとは中々良い心掛けだが・・・・チェックさせてもらおう。適当な仕事をされては我が宿屋の名に傷がー----」


 ミスがあれば即座にやり直しと怒鳴るところだったが、先日指導した通りにきちんと、シーツは綺麗に洗濯されていた。


 どうですか?と、ニコニコ顔のアキトにゴズは物調面で答える。


「・・・・・・まだ完璧とは言い辛いが、良いだろう。合格点だ」


「ありがとうございます」


「だが、今日の仕事はこれだけではない!! 次はー---」


「ゴミ出しならしておきましたよ」


「・・・・・・何?」


「ロビーと廊下の掃除も、終わらせました」


「・・・・・・・・・・・・」


 何故急に、そんなに仕事に精を出しはじめたのか。


 まるで自分の仕事を朝のうちに終わらせようとするようなその行動に、ゴズは違和感を感じ、首を傾げる。


「・・・・・あの」


 すると、そんな彼に、アキトは言い辛そう口を開いた。


「・・・・・ゴズさん、俺、今日も行かなきゃならないところがあるんですよ」


 いつもヘラヘラと笑っているアキトが、酷くまじめな顔をしてそう口にした。


 その発言にゴズは、眉間にしわを寄せる。


「それは、この宿屋よりもー---お嬢よりも大切なことなのか?」


「はい。俺が今やっていることは、ヘレナを守るための戦いですから」


「・・・・・詳細を言うつもりはないのか?」


「すいません。俺はただ、信じてくださいとしか言えないです」


「・・・・・・・・・・」


 数秒黙った後、ゴズは大きくため息を吐く。


「・・・・分かった。行って来い。お嬢には俺から伝えておく」


「ありがとうございます。あの・・・・これから数日、同じように朝出かけると思いますので、宿の仕事のほうは朝だけで・・・・・」


「分かっている。大丈夫だ、任せておけ。元々俺が一人で回していたからな」


「ご迷惑おかけします。では・・・・」


 そうしてアキトは頭を下げ、玄関ロビーへと向かう。


 そんな彼の背中に、ゴズは優しく声を掛けた。


「アキト。早く帰って来いよ。またお嬢が暴れだしたら俺では止めようがない」


「はははは・・・・俺もまた殴られたくはないですからね。夜になる前には帰ってくると、お伝えしてください」


 そうしてアキトはゴズの承諾を得て、ジロウの家へと向かうのであった。







「とうりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!!!!!」


 レインウェルツとなった俺は、朝からメグとの剣の修練に励んでいた。


 昨日注意された点を意識して、素早く動けるように足運びを気を付ける。


 しかしー-----。


「遅いっ!!!!!」


 氷で造られた剣が一閃薙ぎ払われた瞬間、俺の木刀は空中に飛ばされた。


 そして、首元に冷気を纏う切っ先が突きつけられる。


「レイン、素早く動こうとするならば相手の剣先を意識するのではなく、足を見るんだ。そして、次はどう動こうとするかを予測するんだ。そうすれば、自ずと相手の動きを制して行動することができる」


「は、はい!!」


「それと、身体の重心が一部に偏りすぎている。昨日言ったつま先立ちが全然できていない!!!!」


 ひ、ひぇぇぇぇ~!! メグちゃん、普段天使のように優しいのに、稽古となるとめちゃくちゃ厳しいよ~!! 稽古が始まる前は『レインさん』呼びだったのが、『レイン!!』って感嘆符付いた乱暴な言い方になってるし~~!!


「このままじゃ君はワイバーンの爪で切り裂かれて終わりだ!! 竜種と戦うなら速さは欠かせない!!」


「わ、わかりました!!!!」


「良いかい? 最初にも言ったが、僕は君に剣技を教えるつもりはない。何故なら付け焼刃の下手な剣技ではドラゴンの皮膚には一切意味をなさないからだ。だから僕は、君に速く動ける術だけを叩き込む」


「え・・・・? でも、速く動けても、剣が通らないんじゃどうやってワイバーンを・・・・?」


「それは、僕の動きについてこれるようになったら教えてあげるよ。さぁ、もう一度打ち込んで来い!!」


「は、はいっっっっっっ!!!!!!」



 そうして俺は何度も何度もメグに剣を振り下ろして、何度も何度も地面に弾き飛ばされた。


 全く彼女の動きについていくことはできないが、注意点を1個ずつ潰していくことには成功した。


 それでも、メグから伝えられる注意するべき問題点は次から次へと増えていくばかりなのだが。



「よし。今日はここまでにしようか」


「ゼェゼェ・・・・ありがとう、ございました・・・・」


 カーカーと、赤い空に黒いカラスたちが飛び去っていく。


 その風景を眺めながら、俺は雑草が生えまくった庭で大の字になって息を整えていた。


 そんな俺の隣にメグは可愛らしく女の子座りで座ると、ニコリと、慈母のような優しい微笑みを見せてくる。


「お疲れ様。今日も頑張ったね」


「はぁ・・・・メグ先生、俺は、ちゃんと成長できてるんでしょうか??」


「うん、できてるよ。大丈夫。このまま頑張ればワイバーン討伐も夢じゃない」


「本当、でしょうか・・・・? どうにも自分が強くなっている自覚が無くて・・・・あっ、1日2日で言う弱言じゃないっすね。今のはナシで・・・・」


 そう言うと、メグは首を大きく横に振った。


「もっと自信を持ちなよ。君には見込みがある。いくら恩人からの頼みと言っても、才能が無い人間に指導するほど僕はヒマじゃない。これでも、冒険者たちの頂点に立つ女なのでね。依頼の予約が来年まで埋まってるんだよ」


 そして、えっへんと腰に手を当て鼻を伸ばすメグ。


 そんな彼女の姿はただの十代後半の小柄な少女にしか見えないが、その身に宿る力はこの国で最強のものなのだ。


 何となく、そのアンバランスさが俺には少し、歪なものに見えてしまった。


 まるで、誰かがひとりの少女の設定を改竄し、そういう存在に造り変えたかのような・・・・・そんな、不思議な違和感。


「ねぇ・・・・君は、どうして力を求めるの?」


 俺がその謎の違和感に困惑していると、少女はそんな問いを投げてきた。


「ワイバーンを倒したい、というのは分かるよ。でも、君から感じるのは一体の魔物への憎悪ではなく、自分を変えたいっていう思いな気がするんだ。君は他者ではなく、自分自身と戦っている。それは、どうして?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・」


 俺が力を求める理由。


 それは、ルドナやヘレスティナを助けるためだ。


 簡潔に述べれば、恩人への恩返し。


 何もできない弱い自分を脱却して、大切な人を守れる強い自分になりたい。


 ただ、それだけだ。

 

 理不尽な現実に、理不尽な神様に、もう何も奪われたくないから。


 この世界で出会った初めての友人である、あいつを失った時のような後悔は、もう御免だから。


 


「俺は、友達を失ったんですよ」


「友達?」


「ゴーレムのレゴムって奴です」


「・・・・・・・・」


「過ごした日々はたったの数日でした。それでもあいつは俺にとって、この理不尽な世界で唯一俺を支えてくれた友人でした」


「・・・・・大事な人、いや、ゴーレムだったんだね」


「はい。もう一度、会えることなら会いたい。会って、あの時何もできなかったことを謝罪をしたい・・・・・でも、もう会えない。こんな思いをするのはもう一度するのは嫌だから、俺は力を得たいんです」


 赤い夕陽を眺めながら、俺は頬を伝う涙を拭う。


 そんな俺を見て、メグは目を閉じて、俺の片手をギュッと握ってきた。


「・・・・・もう一度、会えるよ」


「え?」


「ゴーレム・・・・精霊っていうのはね、生み出した使役者とは魂の楔で繋がっているんだ。君が死なない限り、彼も生きているんだよ」


「え・・・・??」


「ちょっと動かないでね」


 そう言うと、メグは両手で俺の左手を握り、祈るようなポーズで何やらブツブツと呟きだした。


 その瞬間ー---彼女の体が淡く光り初め、そこから光の粒子がポワポワと浮かび上がった。


「な、何これ!? 何してんすかメグ先生!?」


「・・・・・・・・・・・」


 メグは俺の問いかけに無言を貫き、祈りを続けた。


 そして、1分程祈っていると、彼女の体から出る粒子が俺の腹の上へと集まりー----あるシルエットがそこに現れた。


 それは、ひょうたん型で、黄色くて、某ご当地のゆるキャラにそっくりな姿をしていてー---。


「あ、ぁぁぁぁ、ぁ・・・・っ」


 粒子が集まり形ができて色がついてー---そしてー---。


「ンゴーッッッ!!!!!」


 光り輝く粒子が消えた直後。


 そこに現れたのは俺のこの世界での初めての友人、レゴムその人だった。


「レゴム!!!!!!!!」


 俺は涙を流しながら、五センチほどの小さな土人形を両手で抱きかかえる。


 そして、頬ずりしてペロペロしちゃう。


 うっ、土の味がするわこいつ・・・・子供の頃カブトムシ飼っていた頃の記憶が蘇る味してるわこいつ・・・・。


「ンゴゴー!! ンゴゴー!!」


 そんな俺をレゴムは鬱陶しそうな表情で何やら抗議の声を上げている様子だったが、何だかんだこいつも満更でもなさそうだった。


 どこか、俺との再会を喜んでいるような・・・・そんな気配を感じられた。


「フフフ、仲良いんだね」


「ありがとうっ!! ありがとう、メグ先生!!!!」


 俺は起き上がると、メグに深々と頭を下げる。


 彼女は、レゴムの命の恩人だ。


 感謝してもしきれない。


「そんな・・・・お礼を言われるほどでもないよ。僕はただ、君の魂から彼を掬いあげただけだから」


「いいや!! 貴方は俺とレゴムの大恩人だっ!! 本当にありがとう!!」


 彼女の手を両手で握り、感謝の言葉を伝える。


 すると彼女は何故か、少し照れたように頬を赤らめた。


「・・・・・そんなに好きなの? レゴムのこと」


「はい!! 大好きです!!」


「・・・・・そ、そう」


 そう答えると、何故だか益々顔を真っ赤にし始めるメグ先生。


 何故だ・・・・今の俺は女の姿なのに・・・・イケメン童貞王の新條 彰人ではないのに、何故照れるのだ・・・・。


 も、もしや、メグ先生は百合属性をお持ちなのか!?


 僕っ子美少女は女の子が趣味なのだな!? そうなのだな!?


「さ、さて、今日の稽古も終わったし、僕はもう帰るね。ま、また明日~!!」


「あ、はい!! 今日は本当にありがとうございました!!」


 再び大きくお辞儀をする。


 レゴムの恩人、そして、敬愛する師に向けて。



「てか、アレ・・・・?」


 メグの背中を見送った後、俺はひとつの疑問に気付く。


「レゴム、お前・・・・この姿なのに俺だって分かるのか??」


「ンゴ」


 俺の問いに、コクリと、レゴムは頷いた。


「うーむ、何でだ?」


「ンゴ、ンゴゴゴゴ、ンゴ」


「アッハッハッハ、何言ってるか分かんねーわ」


「ンゴォォォォォォォォォォォッ!!!!!!」


 ブンブンと、俺の足に小さい拳をぶつけてくるレゴム。


 ハッハッハッ、そんな小さな拳では俺を倒すのに何千年かかることだろうな!!!!


 痒い、痒いわ!! ハッハッハッハッハッハッ・・・・ちょ、たんま。靴越しに足の小指引っ張るのはマジでタンマ。


 痛、いたたたたたた、地味に痛い。


「・・・・まぁ、メグ先生は、魂から引き上げるって言ってたし、レゴムも俺の外見では無く、魂で見て判断しているってことなのかな」


 今はそういうことにしておこう。


 もし、いつかレゴムが喋れるようになったら、その時どうだったかを聞いてみたいな。


 このンゴンゴ言っている奴が果たして喋れるようになるのかは定かじゃないが。


「よーし、帰るぞレゴム!! お前のこと、ヘレナたちに紹介しないとな!!」


「ンゴ?」


「ついてこい!! 今の俺には、家があるのだよ家が。もう公園暮らしではないのだよ」


「ンゴーッ!!!!」


「・・・・・って、待て、この姿のまま帰るところだった。ちょっと待ってろ、イケメン童貞王新條 彰人に戻ってくるから」


「ンゴ・・・・・」


 俺の発言にため息を吐くレゴムを尻目に、俺は元の身体に戻るべくジジイの元に急いだ。


 そして新條 彰人に戻った俺は、レゴムと共に帰路に就いた。


 ヘレナとゴズが待つ、俺の、いや、俺たちの家に。












「・・・・・・・・・・・・・」



 緑髪の少女は遠くの物陰から、楽しげに会話しながら帰る青年と一体のゴーレムを、どこか寂しそうな顔で見つめていた。



「・・・・・・フフ、楽しそうな顔だね」


 笑いながら帰路に就く2人を、微笑みながら静かに眺める少女。


 そして、姿が見えなくなるまで彼らを見送ると、彼女は覚悟を決めた表情で踵を返した。


「・・・・・頑張るんだよ、僕」


 それは一体誰に向けられた言葉だったのか。


 彼女のその呟いた声は、誰にも届くことはなく、深い深い夕闇の中に溶けて消えて行った。




 

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