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第4章 偽りの勇者 ④


「え、ええと、はじめましてで・・・・良いんだよね??」


 困惑する魔法少女を前に俺は「しまった」と舌打ちし、自分のミスを修正するために急いで佇まいを正す。


 (俺は今、新條 彰人じゃねぇ)


 今の俺は冒険者見習いの女剣士(剣の扱い経験0)の、銀髪美少女だ。


 決して、24歳万年童貞陰キャオタクの最弱勇者新條 彰人ではない。


 そう、今、俺は女なのだ。

 

 花の香りがする美少女なのだ。


 ならば、今、俺やるべきことは女になりきることー--ーそうだ、女になりきれ、女の気持ちになれ、女の気持ちにー-----。


「はじめましてーっ!! レインウェルツですっ!! 今日はよろしくお願いしますねーっ!! きゃるるんっ!!」


「・・・・・あ、うん、よろしくね・・・・・」


 ドン引きさせてしまった。


 俺の中にある『女』というを幻想を表現したら、ヒューム族最強と紹介された冒険者の彼女に恐怖を抱かせてしまった。


 はっ!! も、もしや、俺こそが予言にあった人類を滅ぼすとされる災厄なのでは??


 だから王は俺の正体に感づいて早々に城から追い出したんだ!!


 なにそれめっちゃ有能じゃんあいつ。

 

「僕は、フレイモンド級冒険者のメオルグ。気安くメグって呼んでくれると嬉しいな」


 そう言って爽やかな笑みを見せ、握手を求めてくれる僕っ子大天使メグたそ。


 うううぅっ・・・・俺のテンションに引きながらも、それでもなお俺に笑顔を振りまいてくれるのか・・・・・なんて良い子や・・・・陰の者としてはまぶしすぎる存在や・・・・。


 彼女のその性格の良さに涙を流しながら、手を取り握手する。


 小さくて可愛らしい手だな・・・・思わずペロペロしたくなるぞい。


「メグ殿はな、ワシの店の常連でな。数少ない魔道具好きのコレクション仲間、同志といったところじゃな」


「ジロウさんの魔道具への知識はすごくてね。度々冒険者家業の相談相手としてお世話になっているんだ。だから、大恩ある彼が頼みがあると聞いて急いで駆けつけてきたんだよ」


 爺さん、頭のおかしい変人の割に結構交友関係広いんだな。


 正直、戦い方を教わる人間なんて知り合いにいないので凄く助かるぜ。


 いや・・・・ゴズは結構強そうだったな。


 でもあいつに稽古つけてくれなんて言った日にはパワハラ祭り開催で俺の身が数日で塵芥になりそう。


 なっとらーん!!って言われてバキバキに全身の全ての骨を折られそう。


「メグさん・・・・いや、師よ!! よろしくお願いします!!」


「うん、よろしくね」


 教わるなら絶対美少女の方が良いよな、目の保養にもなるし。


 むさいオッサンに教わるなんざ願い下げだ。


「さぁ、さっそく稽古を始めようか。ジロウさん、裏庭借りるね」


「うむ。じゃあワシは研究に戻るかの。レイン、頑張るのじゃぞ」


「あ、あぁ・・・・」


 そうして俺はメグと二人きりになり、そのまま裏手にある比較的ゴミが少ない空き地へと移った。


「レインさん、これ使って」


 裏庭にたどり着くと、いきなり木刀が投げられ、俺はそれを慌ててキャッチすー---キャッチできずに地面に落としてしまう。

 

 っべー恥ずいわーと内心で呟きながら赤面し、それをゆくっりと拾い上げる。


 その慣れない動作を見てクスリと、メグは目を細めて笑った。


「もしかして剣を触るのは初めて?」


「あー、はい。全くのド素人です」


「そうなんだ。それなのに冒険者を志すなんて・・・・君、面白いね」


「え?」


「事前にジロウさんから聞いていたけど、ワイバーンを倒したいんだって??」


「あ、はい。・・・・やっぱり無謀ッスかね、ズブの素人がドラゴンを倒したいだなんて」


「ううん。そんなことはないよ。僕も、今でこそ最上級冒険者であるフレイモンド級1位とか、ヒューム族最強の女とか、『灰燼のメオルグ』なんて大層な名前がいっぱいついているけど、最初はすっごく弱かったんだ」


「努力して強くなったんですか??」


「うん、そう。いっぱいいっぱい努力した。僕のマスター・・・・いや、お父さんはね、どんなに逆境の中でも諦めない人だったんだ。だから僕もそんな父を見習って、辛い時でも前を向いて歩いてきたの」


 そう口にすると、メグはどこか寂しそうな瞳をこちらに向けてきた。


 その瞳は出会った時と同じように、何かこちらに対して深い感情を持っているようなー--そんな不思議な雰囲気を持っていた。


 まぁ、気のせいだろうけどな。


 会ったばかりの俺にそんな深い感情を抱くわけがない。


 「さて、まずは足運び、かな」


 先ほどの違和感のある表情は噓のように消え、メグは俺にニコリと微笑みかける。


 今から冒険者の頂点に立つお方が直々に稽古をつけてくれるんだ。


 余計な考えは消して、真剣に取り組んだほうが良いだろう。


「剣術っていうのはね、いくら色んな流派の剣技を極めても使い手が遅ければただのカカシなんだ。速さがものをいう世界なの」


 そう言って彼女は空中に手を浮かべると、何もないところから一瞬で氷の剣を造り出した。


「あ、あの、ちょっと気になっていたんですけど、メグさんってその恰好からして魔法使いですよね?? 剣を使って俺と実戦で修行してくれるのはありがたいんですけど・・・・その、大丈夫なんすか??」


「大丈夫だよ。僕、魔法使いの格好をしているけどクラス的には剣士だから」


「え?」


「まぁ、普通に魔法も使えるけどね。魔導士の装備をしているのは・・・・適正値が低いSPや魔力を補うため、かな。ガチガチの鎧なんか着て守備力を上げても意味ないしね。だって、僕を傷つけられる人間なんてこの世に殆どいないし」


「・・・・・・・・・・・」


 なんだこの子の、圧倒的強者感。


 いや、現に最強なのか、この子は。


 何たってヒューム族最強の冒険者、なんだからな。


 彼女こそがこの国最強の人間、真の冒険者と言っても過言ではない。


「さ、始めようか。まずは全力でどこからでも打ち込んで来て。それから君の悪いところを少しずつ直していこう」


「は、はい・・・・よろしくお願いします・・・・・」



 そうして俺はそれから日が沈むまで彼女と打ち合ったが、当然、最強の冒険者に最弱の俺が一本も取れることはなく。


 たくさんの悪い動作を指摘され、「次から意識して改善していくように」の一言でその日の稽古は解散となった。


 こんなんじゃ一端の冒険者にはなれない。明日もビシバシ鍛えていくというメグの発言に絶望しながらも、自身が強くなるための修行に、俺は少し高揚感を覚えていた。


 彼女の指導をまじめに受け続けていれば、俺にも戦う力が身に付きそうな、確かな予感があったから。


 

「じゃあな、爺さん、また明日な」


「うむ。ヘレナによろしくな」


「おう」


 レインウェルツから新條 彰人の体へと戻り、帰路に就く。


 馴染み深い体に戻ってきた安心感があるが、身体がすごく重く感じる。

 

 身体能力が高いレインウェルツの身体で半日過ごしたからだろうか。


 自分がどれだけ身体能力が低いのか、身体が硬いのかが、悲しいことに嫌でも実感できる。



「ただいま~。ごめん、随分と帰ってくるのに時間かかっちゃー---」


「遅いわよっ!!!! この裏切り者っ!!!!!」


「ぐふっ!?」


 宿屋に入った瞬間、顔面にエルボーをくらわさられる俺。


 そして床にぶっ倒れた後、ヘレナにマウント取られてバシバシとタコ殴りにされた。


「味方になるって言ってたのに、今までどこ行ってたのよ!!!! 噓つき!!!!」


「いや、痛てっ! ちょっ、ちょっと待って!! ヘレナちゃん待って!! ストップ!!」


「私がどれだけ・・・・どれだけ心配したと思っているの!!!!!」


「え・・・・??」


「お母さんと同じように貴方まで・・・・あなたまで何処かに行っちゃったと思っちゃったじゃない!!!!」


「ヘレナ・・・・・」


「もうどこにも行かないで・・・・私をひとりにしないでよぉ・・・・」


 グスグスと、俺の上で泣きじゃくるヘレナ。


 彼女は恐らく、母親が亡くなった影響で周りから人がいなくなる現象を極端に怖がるようになってしまったのだろう。


 だから味方を欲し、孤独を払拭したがっていた。


 宿屋の従業員も結局、みんな彼女から離れていってしまったしな。


 人が突然消えるというのは、彼女にとってトラウマにも等しい現象なのだと察することができる。


「ごめんな。一度帰って、何処に行っているか伝えておけば良かったな」


「ぐすっ、ひっぐ・・・・うぅぅぅぅ・・・・」


「これからはちゃんと逐一どこに行くか告げてから外に出る。大丈夫だよ、ヘレナ。俺は絶対にここに帰ってくる。勝手に何処かに行ったりはしない。約束する」


 そう言って、袖で涙をこするヘレナの頭をポンポンと優しく撫でる。


 すると、彼女の顔が見る見るうちに真っ赤に染まっていった。


 フッ、俺も罪な男だな。


 こんなに可愛い年下の少女に恋焦がれられるとは、男子高で童貞王の名を冠していた時代が幻に見えるわい。


「プッ、あはははははははははははははははははっ!!!!!!」


 違った。


 またしても爆笑していた。


「何処にも行かない、約束する(キリッ)、頭ポンポンって!!!! 口説いてるの!? あたしのこと口説いてるの!? 今なら抱けるとか思ってる!?!?」


「思ってねーし口説いてねーよ!! お前こそ1日帰らないくらいで泣きながら暴力振るうってメンヘラかよ!! 重すぎんだよ束縛女かよ!!!!」


「メン、ヘラ・・・・? どういう意味か分からないけど何かムカツク。というか、束縛女の方がマシでしょ? 自分をイケメンだと勘違いしているキザ男よりはさー」


「なんだと!?」


「何よ!」


 言い争う俺たちを、遠くの物陰から家政婦は見たばりに半身隠しているゴズが、ボソリと呟く。


「・・・・・・仲良いな、二人とも」


「「仲良くないっ!!!!!!」」



 こうして俺がレインウェルツになった最初の一日は幕を閉じていった。



 




「はぁ、本当、色々あった1日だったな」



 深夜。


 自分の部屋のベッドで俺はひとり、そう呟く。


「しかし、まさか俺が女の恰好・・・・女装ってのも違うか。女の風貌をした人形を操って、冒険者になろうとは、な」


 この世界に来た当初では全く予想していなかった展開だ。


 何たって、ゴーレム錬成術師というのはゴーレムを召喚して戦うものばかりだと思っていたからな。


 まさか人形の中に魂を入れて戦うなんざ、想像もしていなかった。


「でも、これで多分、俺は戦えるようになれるんだ。いや、ならなきゃいけない」


 覚悟を胸に、俺はふぅーっと、大きく息を吐く。


 俺より身体能力が高い人形を操るといっても、戦うのは俺自身なのだ。


 何としてでも、俺は、剣を覚えていかねばならない。


 しかし、だ。


 剣の修練も大変だが、もうひとつ大変なことがある。


 それはーーーーーー。


「・・・・・これから二重生活して行かなきゃならないのは、やばそうだな」


 レインウェルツという少女を演じるにあたって、ひとつ、ジジイと取り決めた約束がある。


 それは、他者に正体をバラしてはならない、という決め事だ。


 ジジイ曰く、レインウェルツとして冒険者のトップに上り詰め、知名度や人気を博せば、王に近づくことが容易になるらしい。


 どうやら、最上級冒険者である『フレイモンド級』になりさえすれば、王自らが王侯貴族の爵位を与えてくれるそうだ。


 そして王政に参加できる貴族になれば、あの憎ったらしい王を権力の座から引き下ろせるチャンスが巡ってくるかもしれない、と。


 新條 彰人のままだったら、あの王は絶対に俺を王国の中枢に関わらせることはしないだろうが、冒険者として名を馳せたレインウェルツならきっと違う。


 レインウェルツなら偽りの勇者として、皆を騙せるはずだ。


 民衆から指示を集め、冒険者としても貴族としても力を得た勇者レインウェルツなら、きっと、王を玉座から引きずり下ろせる手段が見えてくるはず。


 そうすれば、ルドナだってー----。


「いや、今はワイバーンのことだけに集中しなければな。他のことを考えていれば足がすくわれる」


 そう。まずはワイバーンだ。


 奴を倒さない限り、ヘレナは救われないのだから。


「ふわぁ〜・・・・絶対、倒して、やる、ぞ・・・・・ZZZZZ」


 俺は明日から始まる修行の日々に思いを向けながら、瞼を閉じ、深い眠りへと落ちていった。


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