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第4章 偽りの勇者 ①


「・・・・おぬしがゴーレム錬成術師、だと? それは真の話なのか??」


 がばっと起き上がって、すごい形相でこちらに詰め寄ってくるジジイ。


 近い近い、顔が近い。


 畜生、あのまま眠ってくれればよかったものを・・・・。


 そうしたら放置して帰ったのに・・・・。


「ちょ、ちょっと確認させてもらうぞ!! 【アナライズ】!!」


 俺の眼前に手を向け、爺さんは魔法を発動させる。


 すると、爺さんの目の前に俺のステータスウィンドウが開かれた。


 そこにはいつもの雑魚ステータスが書かれており、誰が見ても失笑ものの数値が書かれている。


 しかし、目の前の爺さんは俺のステータスを見て、泣いていた。


「本当に、ゴーレム錬成術師だ・・・・・本当に・・・・・うぐっ、ぐぅぅぅぅ・・・・・」


「じ、爺さん、大丈夫か、おい」


「神はワシを見捨てになられてはいなかった!!!!!!!」


 ジジイは俺の肩を痛いくらい掴むと、爛々とした狂気じみた目をこちらに見せてくる。


「頼む。亡くなったこの子の夢をーーーーー冒険者になるという夢を、代わりに果たさせてやってくれ!!」


「・・・・・・・・・・・・・はい?」


「ゴーレム錬成術師だけが使える魔法スキル、【ドールコンダクト】。それを使えば、お主は人形に魂、意識を移して操作することが可能になる。お主は我が娘の夢を叶えることができる唯一の存在なのだ!!」


「いやいやいやいや、ちょっと待ってくれ、【ドールコンダクト】なんて魔法知らねえよ? 使えねえよそんなもん」


「何を言っておる?? ほれ、お主はちゃんと習得しておるではないか??」


「へ?」


 爺さんが開いている俺のステータスウィンドウを覗くと、習得魔法の欄に【ドールコンダクト】の文字がちゃんと書かれていた。


 あれ、いつ覚えたんだっけ。


 んー・・・・人形劇の時か? 確かあの時、通知のアナウンスがあったような気がしないでもない。


「頼む!! 【ドールコンダクト】を使ってこの子の動いている姿をワシに見せておくれ!! 頼む!!」


「・・・・・・・・【ドールコンダクト】使っても元の体にちゃん戻れるよな??」


「当然じゃ。過去のゴーレム錬成術師たちは巨大なゴーレムに魂を移して戦い、その後は普通に人間の体に戻ったとされるからな。大丈夫じゃ」


「分かったよ。それじゃあ・・・・この人形に手をかざして魔法を発動させれば良いのか?」


「あぁ。それだけでいけると思う。頼む」


 銀髪の少女の体に、手をかざす。


 そして俺はゆっくりと、魔法を詠唱した。


「【ドールコンダクト】、発動」


 その瞬間、俺の身体から何か大切なものが抜けていくような感覚があった。


 それは生命エネルギー、魂といったものの類なのだと、俺は瞬時に理解した。


「なん、だこれッ・・・・・・!!!!」


 その場で膝を付いた後、身体が力なく床に倒れ伏して行く。


 まるで体全体から血が抜かれていくようなーーーーー怖気立つ感触が体全体に広がって行った。


(さ、寒い・・・・!!)


 とても、凍えるように寒かった。


 身体がガクガクと震え出す。


 そこには明確な、死の予感があった。


「!? 大丈夫か!?」


 倒れ伏した俺に近づいてくるジジイの姿が目に入る。


 しかし次第に目はかすんでいき、ジジイの声は聞こえなくなり、そしてー----俺の意識は程なくして完全に途切れた。








「・・・・・・あれ、俺、生きてる??」


 目を覚ますとそこはまた見知らぬ天井だった。


 今度はヘレナの宿屋よりも小汚い天井だ。


 定年劣化で木造が所々黄ばんでいたり腐って黒くなっている。


「あぁ、ここはジジイの家だな。ジジイ、どこだ。どうやら【ドールコンダクト】は失敗したみてえだぜ?? お前もついてなー---」


 ついて、ない。


 上体を起こし自身の体を確認してみたら、股間にあったものが、ついていない。


 というか、体が素っ裸の女の身体だ。


「え、は、なにこれどういうこと、は?」


 理解しがたい現状に、俺はパニックに陥る。


 というか俺が寝ているテーブルの近くに、毛布を掛けられて眠る俺の姿があるんだが、なにあれ。


 何で俺がもう一人いるんだ?? これじゃあまるで俺の意識が別のものに移っているような・・・・・。


「・・・・・成功、したのか? 【ドールコンダクト】が」


 そう口にした瞬間、ガシャンと後方から陶器が割れる音が耳に入る。


 何事かと思いそちらに視線を向けると、そこにはコップを落とし、目を真ん丸にしている骸骨爺さんの姿があった。


「・・・・よぉ、どうやら成功したみたいだぜ。てか声も女になってるのすげーな。どういう仕組みだこりゃ」


「レイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイインッッッッッ!!!!!!!!!」


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉああああああああああああああああああああ!?!?!?!?」


 俺にとびかかり、頬に頬ずりしてくるジジイ。


 気色悪すぎて背筋が怖気立ってくる。


「やめんかッッ!!!!!!」


 ジジイの脳天にチョップをくらわし、セミのように張り付いてくる爺さんを引っぺがす。


 そして、息を荒げながら部屋の隅を陣取り、距離を取る。


(・・・・? 体が、軽い・・・・? 反射神経が上がっている・・・・?)


 前の体に比べ、身体能力が向上しているような感覚があった。


 目線の低さといい、今までの体との差異が多すぎて違和感を感じる。


 いや、そんなことは今はどうでも良い。


 今気にするべきは、異常な様子のジジイだ。


「ゼェゼェ・・・・何トチ狂ってやがる。俺はお前の娘じゃねえ!! そこでぶっ倒れてる新條 彰人だ!!」


「パパって言ってくれ、その口でどうかパパと言っておくれ」


「言わねーよ!!!!!! 気色悪いこと言ってんじゃねぇ!!!!!」 


 そう叫ぶと、爺さんは突如真剣みを帯びた顔を見せ、深く頭を下げた。


「頼む。ワシのその人形はな、姿形だけでなく声帯ユニットも娘に似せて作っておるのだ。その声でパパと呼ばれるためだけに何十年も研究してきたのだ。だから・・・・・」


 真剣なまなざしをこちらに見せてくる爺さん。


 ・・・・・大の大人の男がパパなんて口が裂けても言えないが・・・・しかし、このジジイの妄執を考えれば・・・・。


 人生の多くを娘のためだけに費やしてきた男の願いくらい、この一瞬だけ恥を捨てて、叶えてやっても良いのかもしれない。


「・・・・・・・・パ、パパ」


「んんんんんんんんんんパパですよぉぉぉぉぉレイイイイイイイイイイイイインンちゃああああああああああああああんん!!!!!!!!!!!!」


「うぎゃあああああああああああああああああああああ!?!?!?!?」


 再び飛びついてくる妖怪子泣きジジイ。


「離れろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!! ジジイに抱き着かれる趣味はねえええええええ!!!!!」


「もう二度と離さなんぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ愛しの娘よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」


 うげっ!? 頬擦りだけじゃ飽き足らず、頬にキスしてきたぞこのクソジジイ。


 もう駄目だ、限界だ、俺のストレスゲージはマックス飛び越えてオーバーだ。


 早く、早く元の体に戻らなければ。


「発動と同じ原理なら・・・・」


 床に転がる自分の体に手を向ける。


 そしてー----。


「【ドールコンダクト】解除!!!!!」


 その瞬間、今の体から自分の魂が抜け落ち、数秒後に馴染んだ感触の中に魂が入っていった。


「ぷはぁっ!!!!!」


 毛布をはねのけ、起き上がる。


 視界の先には娘を模した人形に抱きつき頬擦りしている変態骸骨ジジイの姿が。


「・・・・・おい、これで満足したか?」


「ぬ!?」


 背後からの俺の声にビクリと肩を震わせる爺さん。


 そして、数秒間肩越しに俺と見つめあうと、コホンと咳払いをした。


「・・・・・うむ。感謝するぞ、新條 彰人。おかげで長年の夢が叶ったわい」


「そうか。そいつは良かった。じゃあな」


 ジジイに頬をキスされるなんてメンタルがズタボロだ。


 これならまだ宿屋のパワハラ教育の方が100倍マシかもしれねえ。


 早く宿屋に帰ろ・・・・。


 ベッドで横になろ・・・・。


「・・・・新條 彰人よ、待て」


「何だよ、まだ何かあるのかよ」


「娘に会わせてくれたことには感謝してもしきれん。じゃが・・・・私の一番の目的は死んだ娘の夢を叶えてやることなのだ。頼む。ワシの造ったこの人形を操作して、冒険者になってはくれぬか??」


「・・・・・・・・・・・・」


「頼む。ワシができる礼ならなんでもする。だからー---」


「断る。良いか? 俺はお前の娘じゃない。俺はルドナが召喚した勇者、新條 彰人だ。俺の目的はルドナを救うことであり、他人の願いを叶えるほどヒマじゃねえ。お前たち親子の夢なんて知ったこっちゃねえんだよ」


「・・・・・・・・・・・・」


「じゃあなジジイ、長生きしろよ」


 そうして俺は宿屋に戻った。


 明日から宿屋の仕事があるんだ。


 帰って早く休まなきゃな。


「・・・・・みんなを救う正義の勇者に憧れていた、か」


 帰り道、ジジイの言っていた少女の夢が、何故か俺の頭に残り続けていた。


 そんな聖人君子、創作上にしかいないって分かっているのに。


 それでも俺は、そんなヒーローがこの世界にひとりでもいてくれたら良いのになと、そう思った。


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