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第3章 ある魔術師との邂逅 ④


「いやはや、何度も倒れてしまい申し訳ない。ささっ、適当な場所に腰掛けてくれい」


「腰掛けろって・・・・どこにだよ!? この部屋ゴミしかねーぞおい!!」


「ゴミではない。お宝じゃ。このお宝をかき分けて自分の席を作るんじゃ。ほら、こうしてな」


 ガラクタをかき分けてスペースを作るジジイ。


 再び倒れたこの爺さんを介抱してたらお礼に家でもてなすと言われ、思わずついてきちまったが・・・・来るんじゃなかったこんなゴミ屋敷。


「ほれ、これでも飲んでゆっくりせい」


 手作り感満載の湯飲みを二つ、俺とヘレナの前に置くジジイ。


 中にはドブのような色の飲み物が湯気を立てて入っている。


 正直、飲みたくはない。


 この部屋の惨状とジジイの風貌からして、毒にしか見えないからだ。


「ブラッシュも来ればよかったのにのう。あやつ、ワシが無事だと知ったらすぐ仕事にトンズラしおった」


「仕方ないわよ。彼は町内会長の孫ですもの。町のためにも大忙しだし」


「ふん。マルコスに似て真面目な奴だからな。面白みのない男じゃ」


 そう口にして、ジジイとヘレナは湯吞をすする。


 ・・・・・それ、飲んでも大丈夫なの?? 毒じゃないの??


 大丈夫なのヘレナちゃん!?


 慌てふためく俺の様子を見て、爺さんは朗らかな笑みを見せる。


「安心せい。毒など入っておらんよ。ひとまず飲んでみい。多分、お前の趣味に合うと思うぞ」


「さいですか・・・・」


 恐る恐る手に取る。


 そしてそれを、ゆっくりと口に含んでみる。


 すると、その味は・・・・。


「・・・・緑茶だ」


 それはよい塩梅の苦さの、ただのお茶だった。


 日本人であれば誰しも飲んだことのある味。


 故郷の味に、少し、いやかなり感動してしまった。


「面白いじゃろう。見た目は違うのに、この世界ではあの場所と全く同じものがある。不思議なものじゃて」


「・・・・あんた、やっぱり日本人・・・・俺と同じ、この世界に召喚された勇者なのか?」


「・・・・・勇者、か」


 ことっと湯吞を置くと、老人は首を横に振った。


「ワシは勇者などではない。80年程前にレインアースの王族の戯れでこの世界に召喚された・・・・ただの流れ人じゃよ」


「流れ、人・・・・」


「勇者というのは今の周期に召喚された、災厄を討つ運命を持った者たちのことを指す。ワシは違う。ワシはお主たち本番の前に実験で呼ばれたのじゃ。現レインアース王の手によって、な」


「・・・・・・」


「して、お主は誰に召喚されたんじゃ? エステラか? クラリスか? 今勇者を召喚した皇子はこの二人しかおらんからな。簡単な二択問題じゃ」


「・・・・ルドナだ」


「何? 第7皇子だと? あやつめが召喚の儀を成功させた話など聞いたことがないが」


「俺はルドナに召喚されて、そのステータスの低さから勇者の称号を剝奪され放逐されたんだ。世間では無かったことにされている存在さ」


「・・・・なるほど、な。全く、ガイゼルの奴め、80年前とまるでやり方が変わってはおらんな」


「80年前・・・・?」


「ワシも奴に・・・・現国王に召喚されて、勝手に落胆され、この世界に放逐されたのじゃよ。このステータス至上主義の世界にな。お主も召喚されて最初、色々とつらい目にあったじゃろう?? わかるよ。ワシもそうだった」


「・・・・あぁ」


 どうやらこいつは、俺と同じ道を辿ってきた人間のようだ。


 いや、未来の俺と言った方が正しいか。


「・・・・やっぱり、お爺ちゃんとアキトさんは同郷の人だったんだね。こことは別の世界の」


 ずずずとお茶をすすりながら言うヘレナ。


「ヘレナ、お前はこことは別の世界の存在を知っていたのか」


「まぁ、うん。半信半疑だったけどね。お爺ちゃんの与太話だと思ってた」


「何!? 完全に信じておらんかったのか!?」


 ガーンと落ち込むジロウという名のジジイ。


 ここで俺は気になっていた疑問を2人に投げてみることにした。


「ヘレナと爺さんはどういった関係なんだ?」


「うーんと、私のお母さんの育ての親なんだ、このお爺ちゃん。だから・・・血のつながってない私の祖父? かな?」


「まぁ、育てた記憶はないがな。ワシの研究の傍ら、飯を与えてやってただけだ。こいつの母親・・・・エレナは勝手に育っていったよ。ワシの知らんところでな」


「お母さん、お爺ちゃんあんま好きじゃなかったみたいだしね。よく、『生きている娘を差し置いて死んだ娘に執心のクソ親父』って言ってたよ」


「がっはっはっは!! その通りじゃな!! 奴の死に目にも立ち会わなかったクソジジイじゃ!! 墓の下で恨まれても仕方ないのう!!」


 悪態にも豪快に笑い出す爺さん。


 こりゃ相当な変人だな。


 ヘレナの唯一の家族なんだろうが、こんな偏屈ジジイじゃ確かに母親が死んだら自分一人になったと思うわけだ。


 まぁ、家族問題はさておいて。


「てか、死んだ娘に執心ってどういうことだよ?? 玄関でも度々娘ってワード聞いたが、何なんだ?」


「知りたいか?」


 ニマッと、不気味に笑う骸骨。


 その姿を見て、ヘレナがスッと立ち上がる。


「あ、私宿屋帰るねー、ゴズに任せて店開けてきてるからー」


 立ち上がり、棒読みで去っていくヘレナ。


 その姿に何か嫌な予感を感じた俺は叫ぶ。


「まっ、待って、俺も帰る!! 宿屋の仕事覚えなきゃならねーし!!」


「いいよいいよ、アキトさん初日だしゆっくりしてなって。今日使った部屋も開けとくから、自由に使って良いよ~じゃまた明日から仕事よろしくね~」


 風のように去っていく少女。


 そんな彼女を見つめ固まった俺の肩を、ガシッと骸骨の腕がつかんでくる。


「さぁ、おいで。私の研究を見せてやろう」


「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」


 父さん母さん兄貴、悪い、俺、死んだわ。

 

 いや、もう死んでたわ、鉄骨で。


 辛すぎる。







「何だ、これ・・・・」



 骸骨ジジイに連れられてやってきたのはガラクタ屋敷の地下室だった。


 そこは上階と比べてきっちり整理整頓されており、本や魔道具のようなものが棚に綺麗に収納されている。


 そして、部屋の真ん中にある診察台のような大きなテーブルの上には、ひとりの少女が素っ裸で横になっていた。


 綺麗な顔立ちをした白髪の少女だった。


 この世界で見た美少女といえばエステラだが、彼女は激しさ、情熱のある生き生きとした美女だった。


 だが、この少女から感じるのは冷たさだった。


 氷のような美しさと言えば良いのだろうか。


 彫刻品のように、まるで現実感のない美しさを持った女性だった。


「・・・・この人は、何だ? 何で素っ裸で寝てるんだ??」


 理解しがたい光景に、俺の脳は混乱する。


 もし、彼女がこの爺さんに地下に監禁され、性奴隷のように扱われてるのだとしたら・・・・。


 俺は緊張感とともにゴクリと、唾を飲み込む。


 そんな俺とは対照的に、爺さんはケラケラと楽しそうに笑った。


「ほう、この人、か!! お主には人間に見えたのか!! 良々、身体のほうは完璧だな!! やはり最終的な問題は魂の置換だが・・・・しかしこれは最早・・・・」


「人間だろどう見ても!! ブツブツ言ってないで服着せてやれよ!! かわいそうだろ!!」


「む? あぁ、中々真摯な奴だなお主。好感が持てるぞ」


「おい、話聞いてたか?? この人に服を・・・・」


「こいつは人じゃない。人形だ。ワシが造った、な」


「は・・・・?」


 もう一度観察してみる。


 やはりどう見ても人間にしか見えない。


 だったらこのジジイは、奴隷を人形と呼んでいるのだろうか。


 なんて邪悪な・・・・。


「ほれ」


 ぶちっと。老人は少女の腕を関節からちぎった。


「お前!! 何てこと・・・・を??」


 腕の断面図から見えるのは血や肉ではない。


 何重にも様々な線が繋がれた、機械の中身だった。


「へ?」


「これはオートマタマシンドールと呼ばれる機会人形じゃ。機械文明が盛んな南のエレフィアの国では人間に似せたこいつらに荷物の運搬などをさせてたりする。まぁ、こんなに精工に人間に似せて造られたマシンドールは世界にもこいつしかおらんだろうけどな!! ワシ天才じゃから!! はっはっはっ!!」


「・・・・・・・・・・・・」


「ほぉ、感動して声も出んか?? ふっふっふっ、自分が造った娘を自慢する時ほど心地よいものはないな」


「・・・・娘?」


「そうじゃ。この子の名前はレインウェルツ。大昔に亡くなったワシの家内が産んだ娘ー---を模した機械人形じゃよ」


 そう言って爺さんは人形の腕をくっ付けると、どこか寂しそうに虚空を見つめた。


「ワシはな、死んだ娘を蘇らせたいのじゃ。また生きて動いて、パパと呼んでもらう日を夢見てるのじゃ」


「・・・・・・・」


「この子は冒険者になるのが夢だった。災厄を倒すと言い伝えられている、みんなを救う正義の勇者に憧れておった。今でも、勇者様の仲間になるんだーと息巻いておった当時の姿が目に浮かんでくる。じゃがー----この子はとても見目麗しいかったからな。大貴族の嫡男に目をつけられた後、散々凌辱されて殺されてしまったよ。夢をかなえることもなく、な」


「・・・・・・・」


「ワシは彼女にもう一度命を与えたかった。南方にあるエレフィアに行き技術を得て、禁術である死霊術にも手を出してみた。じゃがー---わが人生生涯の殆どを賭けても彼女に似せた人形を作るのが精一杯だった。世界を旅してみた結果、魂を甦らせる魔術はこの世にないのだと、思い知ったからな」


「・・・・・・爺さん、あんたはもう一度娘さんに会いたかったんだな」


「そうじゃ。この世界に来た当初、右も左もわからないで野垂れ死にそうな時に手を差し伸べてくれたワシの妻。その家内と産んだ大切な愛娘。ワシの希望。あきらめようとも何度も思った。旅先で拾った孤児を娘の代わりに育てたこともあった。じゃがー---この穴は埋まらなかった」


 胸をかきむしるようにつかみあげる爺さん。


 その姿に、俺は何とも言えない寂寥感を感じた。


「・・・・最近になって魂が取り戻せないのには踏ん切りがついた。じゃがせめて、この人形を動かしたいんじゃ。機械ではなく、生命として。そのためには・・・・ゴーレム錬成術師の力が必要不可欠なのじゃと分かった」


「・・・・・ん?」


「ゴーレム錬成というのは古の昔に滅んだ力でな。太古にいたとされる第6の種族、魔族ハイマジエシストたちが使えたとされるのじゃが・・・・全くもって現代においては文献がない」


「・・・・・・」


「唯一の望みは精霊から定められる勇者の適正クラスガチャだけだが・・・・この世界に存在するクラスは星の数ほどある。排出率0.00000000000000000001%の勇者に頼るわけにもいかまいて」


「・・・・・あの」


「わかっておるわかっておる。流石にそんなに都合の良いことは起こらんことくらいはな。で、なんじゃ、お主のクラスは。言うてみい。安心せい、どんなクラスでもガイゼルのように落胆などせんから」


「・・・・・ゴーレム錬成術師です」


「ん?」


「ゴーレム、錬成術師、です」


「・・・・・・・・・・・・・・・」


 ドスンと、また白目になって、骸骨ジジイは後方に倒れ伏した。



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