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第3章 ある魔術師との邂逅 ③


「・・・・知らない天井だ」


 目覚めて開口一番、お決まりの台詞を吐いてみる。


 ベッドから起き上がり辺りを見回してみると、そこは素朴な一室だった。


 壁際にある木製のタンスと木製のテーブル以外、物は見当たらない。


 太陽の光が差し込んでくる窓に掛けてあるカーテンも、無地の真っ白なもの。


 なんというか、寂しい部屋だった。


「あ、起きた?」


 ボーっとしていると、扉を開けてひとりの少女が入ってきた。


 藍色の長い髪をポニーテールでひとつに結んだ、黄色い瞳をしている少女。


 彼女は確か、昨日俺が飛び降りを阻止したー---。


 あれ、その後どうなったんだっけ??


 記憶がないぞ??


 俺が混乱しながら首を傾げていると、少女は大きくため息を吐いた。


「あの後、私、お兄さんの腕伝って上に戻ったの。そしたら・・・・」


「そしたら??」


「お兄さん、そのまま安心した顔で気失っちゃったのよ。腕伸ばしたまま、ね」


「・・・・・・」


 え、なにそれ、ダサ。


 あんだけ偉そうなこと彼女に言っておきながら、俺、気絶したの??


 自殺しようとした少女を助けようとしたら逆に俺介抱されたの??


 何なの?? 恥ずかしくて死にそう。


 穴があった埋まって蝉の幼虫になりたい。


 10年くらい経ってから地上に出て成虫になりたいわ。


「・・・・・味方になってくれるって、本当??」


 赤くなった顔を手で隠してると、指の間から少女の不安そうな顔が見えた。


 彼女のその綺麗な瞳には俺の顔が鏡のように映っている。


「あぁ。二言はない。味方になるよ。・・・・っても、味方って概念がよくわからないけどな。友達にでもなれば良いのか??」


 女性の友人なんて今まで出来たことないし、年下の少女なんて何考えてるか分からん存在だ。

 

 年齢=童貞の男子高出身の俺には些か高いハードルかもしれん。


 よし、まずは好きなメシの話から広げて交流を持つのが無難かな。


 会社でもラーメンの話は上司と弾む話題筆頭だったし。


 しかし、十代後半の少女っていったい何が好きなんだ? タピオカか? マカロンか?


 やべーぞ、どっちも食ったことねえぞおい・・・・・。


 こんなことなら行きつけのラーメン屋にあったゲテモノ料理、タピオカラーメン食っとくべきだったわ・・・・。


「・・・・私、ヘレスティナ。ヘレナって呼んで」


 ヘレスティナ? ヘレナ? それ何て食べ物・・・・?


「お兄さんの名前は?」


「な、名前か、そりゃそうだよな。まだ名乗ってなかったもんな、うん」


「え?」


「何でもない。俺は新條 彰人だ。アキトって呼んでくれ」


「アキトさん、か。よろしくね。それじゃあ・・・・・」



 突如、ヘレナは懐からホテルなどのカウンターに置かれている呼び鈴を取り出し、チリンと鳴らした。


 その瞬間、ごぉぉぉぉぉぉぉっと音を立てて、何かがこちらに向かってくる音が聞こえてきた。


 ドスンドスンと大地を揺らす何者かの足音。


 それがやがて部屋の前に辿り着き、そしてー---。


「お呼びですか!! お嬢!!!!」


 勢い良く扉が開け放たれ、3mくらいの身長がありそうな筋骨隆々の髭達磨が部屋に入ってきた。


 こめかみからはニョキっと短い角が生えており、下あごからは牙が二本、天を突くようにそびえたっている。


 こいつには勝てないと思わせるような、圧倒的強者のオーラが、大男からは放たれていた。


 そんな彼に少女はニコッと微笑むと、俺を指さし、口を開いた。


「この人、うちの宿屋で住み込みで雇うことにしたから。名前はアキトさん。今日から仕事のノウハウ教えてあげて」


「了解しやした!!!!」


 ひょいと掴まれ、マッチョメンの腕に抱えられる俺。


「いやいやいや、なにこれ、どういうことこれ!?!?」


 ヘレナに助けを求めるような顔を向ける。


「味方になってくれるんでしょ?? うちの宿屋、お母さん亡くなってから経営やばいの。何としてくれるよね? 勇者様??」


 友達になるとかそういう可愛いものだと思ったら違ったのかー。


 まぁ、念願の仕事(住居付き)にありつけたから良しとするか。


 こうなったらバリバリ働いて自殺志願少女の心を明るく照らしてやるゾイ。





 三時間後。


 俺はカウンターのテーブルに突っ伏し、精魂尽き果てていた。


「何だこの宿屋・・・・体育会系にもほどがあるだろ・・・・」


 客への挨拶が小さければ「声が小さーい!!!!」と背中をぶっ叩かれ、シーツのたたみ方をミスれば「汚ーい!!!!!」と脳天にチョップをくらわされるのだ。


 その度に視界に浮かぶHPウィンドウバーがゴリゴリに削られていく。


 前の世界ならパワハラで訴えられてもおかしくないぞ、あの教育方針は。


 てか従業員、髭達磨以外見ないけどどうなってんだ? ここ。


「お疲れ様。これでも飲んで」


 トレイに乗ったココアのような飲み物を、ヘレナが俺の前に置いてくる。


 俺は、それを口にし、ホッと息を吐いた。


「すげー、見た目も味もまんまココアじゃんこれ。あったまるわー」


「ココア? それ、デズレーヌ茶だけど??」


「いや、何でもないこっちの話。てかよ、ここ他に従業員いないの?? あの髭達磨しかいないみたいだけど」


「髭達磨・・・・あぁ、ゴズのことね。うん、彼しかいない。元々雇っていた人たちはみんな、お母さんが亡くなってから他のところに行っちゃったから」


「・・・・・・・」


「まぁ、彼は獣人族・・・・モルフとヒュームの混血児だから他で働けないって理由でここに残ったんだろうけどね。王都周辺はモルフに対する差別や偏見持ってる人多いから」


「人種差別的なことか。どこの国、どこの世界でもそういった話はあるもんなんだな」


日本育ちだと、どうにもそういった感覚わかんないんだよな。


基本的に住んでるのみんな同じ民族だし。


「人種差別・・・・私だってそうよ。この黄色い目・・・・分かるでしょ??」


「ん? 黄色い目?? なんだそれ、ただの綺麗なだけの目じゃねーか」


「・・・・・え??」


 さっきの大男・・・・ゴズと呼ばれたあいつが差別されるのは理解できる。


 あいつは、あの見た目で生きていくのにはどうしても目立ってしまうだろうからな。


 人は強面ってだけで相手に恐怖を感じてしまう生き物だ。


 外見は関係ないなんて善人気取ったこと言う奴がいるが、この世は間違いなく外見が100%だ。


 相手の中身なんて初対面でわかるわけがない。


「この世界に来て間もないからまだ分かんないことばかりで下手なことは言えないけどよ、お前はあの髭達磨よりはマシなんじゃねーの?? 少なくとも俺はお前に何の嫌悪も恐怖も感じなかったぜ。満月みたいで綺麗な目じゃないか、その目」


「・・・・・・・・・・・」


 そう言うと、少女は顔を赤くして俯いた。


 フッ、どうやらいたいけな少女をひとり落としてしまったようだな。


 俺も罪な男だ。


「・・・・プッ、アッハッハッハ!!!! 何それ! 満月みたいって・・・・口説いてんの!? 私のこと口説いてんの!? 今時吟遊詩人でもそんなキザッたらしいこと言わないわよ!!!!」


 違った。


 爆笑していた。


 しょぼんですわ・・・・かっこいいこと言ったつもりなのに・・・・。


「あはははは!! そんな悲しい顔しないでよ!! あー、お腹痛い!! はははははは!!」


「そんな笑うことはねえだろ!! 励ましたつもりなんだよこっちは!!!!」


「だって、だってさぁ!! 決まり顔でそんなこと言われたらさぁ!!!!」


 ゲラゲラとひとしきり笑った後、ヘレナは「うん」と頷いて、目を細めて微笑んだ。


「・・・・でも、ありがとう。ちょっとだけ、嬉しかった」


「そうかよ」


「もう、いじけないでよ、大人なんだからさ。ねぇ、さっき言ってた『この世界に来て間もない』ってどういう意味?」


 やべ、ミスったな。


 うっかり口が滑っちまった。


 でもこいつにはすでに勇者って名乗っちまってるしもう話しても良いのかな?? 見た感じ王国上層部に繋がりがある感じじゃなさそうだし・・・・いやいや、ルドナに迷惑がかかるようなことは・・・・。


「ねぇ、アキトさん。あなた、もしかして・・・・・」


 その時だった。


 宿屋ロビーの扉が乱暴に開かれ、外から慌てた様相の男が入ってきた。


「ヘレナちゃん!! 大変だよ!! ガラクタ屋の爺さんが!!」


「え? どうしたの?」


「とにかくついてきてくれ!! もう時間がないかもしれない!!」


「わ、わかったわ!! アキトさん、お願い、ついてきて!!」


「え? 宿屋は?」


「ゴズ!! 任せたわよ!!」


「了解いたしました!!!!」

 

 天井の蓋を開け、現れるゴズ。


 いや、忍者かよ、お前・・・・その巨体でよくそんな器用なことができるな。


「行きましょ!!」



 ヘレナに手を引かれるがままに、俺は宿屋を後にした。







「お爺ちゃん!! しっかり!!」


 連れてこられた場所は何やらよく分からない機械やマネキンのような人形が雑多に転がっている木造建築の家だった。

 

 家の前に建てられた看板にはでかでかと『ガラクタ屋 高価買い取りしてます』と書かれていた。


 どうやら店らしいのだが、どう見てもゴミ屋敷だ。


 そんなゴミ屋敷の玄関前で、ゴミに埋もれながらひとりの老人が倒れていた。


 骨と皮の、まるで骸骨のような顔をした不気味な爺さんだ。


 長い白髪が幽鬼のように顔を覆い隠しており、体格に見合わないぶかぶかの黄土色のローブをまとっている。


 首に垂れ下がっている紫の数珠とその出で立ち風貌から見て、怪しさ満載だった。


 初見の感想では、うん、絶対に仲良くなれそうにないな、このジジイ。


「噓でしょお爺ちゃん!! こんなところで死んじゃうの!? 夢はどうしたのよ!!」


 必死になってヘレナは老人の肩を揺する。


 この爺さんはヘレナの祖父か?? いやでも確か血縁者は死んだ母親しかいないって最初言ってたような・・・・。

 

「ヘレナちゃん・・・・ジロウの爺さんも今年でもう97だ。そろそろ天寿全うしてもおかしくはない」


「でも!! こんな終わり方って!! お爺ちゃんの夢がこんなところで終わりなんて!!」


「・・・・・ジロウ?」


 この爺さん、ジロウって言うのか? それって、もしかして、日本語の名前では・・・・?

 

「起きてよお爺ちゃん!! 娘さんを蘇すんでしょ!!」


 そうヘレナが叫ぶと、老人はカッと目を開け、ヘレナを押し退け飛び起きた。


「そうじゃ!! ワシは娘をもう一度この手で復活させるんじゃ!! 死んでる場合じゃねえ!!」


 スッと立ち上がり、玄関前のゴミをかき分けて中に入っていく老人。


「ちょ、ちょっと待ってお爺ちゃん!? 大丈夫なの!?」


「大丈夫に決まっておろう!! こうしちゃおれん!! 今すぐ作業に戻らねば!! ・・・・・ん? その声、ヘレナか??」


 だだだっとゴミをなぎ倒し、家の中からこちらに戻ってくる骸骨ジジイ。


「おぉ、ブラッシュまでおるではないか。どした二人とも。啞然とした顔して・・・・ん? そこのもうひとりの青年は知らん顔だ、な・・・・」


 骸骨ジジイはポカンとした顔をすると、すごい勢いで俺のもとに詰めてきた。


「黒髪黒目!? お主、まさか、ひょっとすると・・・・いいや、あり得るわけがない。東方にも同じ人種がいると聞いたことがある。しかし、周期的にもおかしくは・・・・」


「爺さん、もしかして日本人か?」


 そう俺が問うと、骸骨ジジイは白目になり、再びガラクタの上に卒倒した。

 

 

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