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72:ジョーカーさんの油断

 くそ……。イラつく。


「お前に何が分かる!」


 気がつくと俺は、アイリスを怒鳴っていた。しかし、アイリスが怖がることなく、俺を睨みつけている。


「俺が、築きあげたものはそんなに簡単なものなのか!」

「ひ、陽向くん……」


  玲奈が申し訳なさそうに、おどおどする。


 でも、俺は、そんなことを気にしているほど、余裕はなく、傷ついた。


「俺がどんだけ努力したか知らないからそんなこと言えるだよ! 駄目なんだ、中学三年生の頃の俺じゃ駄目なんだ! だからといって、中一までの俺に戻る事もできないんだよ! クソッ、何がダウトだ! 少しは嘘をつけるようになったと思ったのに!!」


 トランプを思いっきり、床に叩きつける。美紅も智也も事情を知っている為か、悲しそうにうつむいている。竜胆はこんな俺を初めて見たからか驚いていた。アイリスだけがじっと俺を見ている。


「駄目なんだ! 最近、油断しすぎた……。くそっ。駄目だ……駄目だ……」


 毎日が楽しすぎた。駄目だ、これ以上油断してはいけない。本当の顔を見せてはいけない。泣くな。泣いたら何もかもがばれてしまう。


「ならば、もっと油断するべきだ!」

「……え?」

「もっと、あたしたちに背中を預けるべきなのだ! みんなに、お前の本当の顔を見せればいいのだ! それで解決するぞ。私たちはお前の親友だからな!」


 嬉しそうに笑うアイリス。俺はそんなアイリスを見て、心が軽くなった気がした。


 ……ああ。そうだな。


「そうだぜ、陽向ひな。あたしたちがいるぞ」


 ……嬉しいよ、美紅。


 でもさ、やっぱり駄目だよ。俺には、アイツしか見えないんだ。


「ありがとう」


 俺は今の精一杯の笑顔を向けてそう言った。


「解決したか! では、ダウトの続きをやるぞ!」


 アイリスが俺に背中を預けてくる。俺もトランプを拾い集め、ゲームを楽しむことにした。






 その頃、丁度朝陽は、みんなにおやつとして、クッキーを作り、渡しにきたところだった。玄関の扉を開けると、少し空気が重いことに気付いた。


「俺がどんだけ努力したか知らないからそんなこと言えるだよ! 駄目なんだ、中学三年生の頃の俺じゃ駄目なんだ! だからといって、中一までの俺に戻る事もできないんだよ! クソッ、何がダウトだ! 少しは嘘をつけるようになったと思ったのに!!」


 そんな兄の声がする。朝陽は急いで駆けつけようと、靴を脱いだ。


 慌てたせいか、かなり時間がかかり、ドアの前まで、駆けつける。


「もっと、あたしたちに背中を預けるべきなのだ! みんなに、お前の本当の顔を見せればいいのだ! それで解決するぞ。私たちはお前の親友だからな!」


 最近、やってきたらしい同居人の藍の声。朝陽は、顔をしかめた。


「ありがとう」


 その後の兄の声に愕然とする。この声は一生懸命しぼりだした、無理やりの声だ。そのことに気付き、同居人が我が兄を苦しめている事に気付く。


 兄とは生まれた頃から一緒なのだ。兄の少しの変化、表情、声。一番分かっているのは自分である。


 そして、今、あの同居人は兄を分かったような口ぶりだ。


 瞬間、朝陽に、あの藍に対して「怒り」という感情が生まれた。


 ……お兄ちゃんを苦しめるなんて!


 唇を噛み締め、朝陽はいつもの笑顔で部屋に入った。

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