71:ジョーカーさんと嘘
突然、陽向の様子がおかしくなった。
玲奈にダウトと言われ、藍に何か指摘されてからだ……。
あたしには、何故、陽向の様子が悪いのか分かる。
「ほら、智也だ」
「……13を2枚」
「えっと、みんなダウト言わないよな! 次、あたし! 1を4枚」
「ダウト」
「おっと、本物だぜ」
「ちっ」
みんな、どこか雰囲気が悪くなっている。あたしが声を張り上げても、陽向の一言でばっさりと捨てられる。陽向も、さっきから、珍しくダウト失敗してるし……。
「次は、あたしだよね。2を3枚」
誰もダウトと言わない。みんな、沈んでる。どうしよう……。
今、陽向の存在がどれだけ、あたしたちを動かしてたか気付く。陽向は、今まで色々あったもんね。
「みんなー! 元気にやろうよ!」
あたしは言ってみるが、みんな視線をそらすばかり。
「次は、ほら、玲奈だよー!」
「美紅、うるさい」
「もう、陽向っ!! そんなに暗くなんなよー」
「これは、勝負だろ? 真剣にやって何が悪い」
「次、玲奈だよー!」
「うん」
玲奈が3を2枚出す。
「ダウト」
「え、あ、うん……」
「次、湊」
「あ? ああ……4、1枚」
「ダウト」
「そうだけど……」
「俺。5、4枚」
……誰もダウトを言わない。どうしよー……。
「次、智也」
「……なあ、また今度出直さない?」
「は? 何言ってんだよ。勝つんだろ。竜胆に、色々言うんだろ」
「そうだけどさ……おかしいぞ、お前」
「どこが。いたって普通だ」
「お前、さっきまで、俺のほうが悪いって言ってたじゃん……」
「気が変わったんだよ。今は勝つことだけを考えてる」
「え……おい、陽向……」
親友の桂木でも駄目だ。やっぱり、事情を知ってるから、強く言えないんだよな。
「ともかく、俺は、勝つ」
「ジョーカー……」
湊がどうしようか、悩んでる。玲奈もおどおどしていた。瑞希は少し怒ってるっぽい。智也も、どうしようか悩んでいた。
暗い雰囲気の中、ダウトが進んでいく。
「もう、我慢できん!」
「がっ!」
急に、藍が声をあげ立ち上がった。立ち上がったと同時に陽向のあごに、藍の後頭部がぶつかる。陽向は、あごを押さえ、痛みにこらえていた。
「くっ……藍! 何すんだ!」
「うるさい! このゲーム、男子チームの負けだ!」
「は!? まだ、何もしてねーだろ!」
「あたしは審判だぞ!」
「さっき、審判じゃないっつただろーが!」
「今は審判だ!」
「おかしいだろ!」
藍と陽向が睨み合う。智也とミナルトは唖然としていた。あたしたちも唖然とする。
「そんなに、勝ちたいなら、目を覚ますのだ!」
「はあ? 目はばっちり覚めてるっつーの」
「なら、何故お前はダウトの失敗ばかりしているのだ!」
「うるさいっ!」
陽向が怒鳴る。そして、藍を睨んでいた。藍も陽向を睨んでいた。
やっぱり、空気はそのまま悪いようだ。