57:ジョーカーさんの妹さん
バンッと大きな音を立ててリビングに繋がる扉が開く。突然すぎて、俺の心臓は一回転した。
「おっにーちゃーん!!」
「ごふっ」
驚いて動かないままでいると、何かが俺の腹へとつっこんできた。明るい声……そして、俺をお兄ちゃんと呼ぶのは一人しかいない。
「あ、朝陽っ!?」
「そうだよー」
俺に抱きついている妹、朝陽が顔をあげた。おさげに結んだ髪が揺れる。
「な、なんで!」
朝陽は血の繋がったひとつ下の妹だ。俺よりもしっかり者だが、自分で言うのも変だけど、ものすごいブラコンである。多分、幼い頃に甘やかしすぎたのが悪かった。
そして、朝陽は俺よりも親に好かれていて、四年前、ここに俺と一緒に残りたいと言ったが、親が反対して無理やり転勤先に連れて行ったのだ。
「えー。だって、高校一年生になったら、お兄ちゃんのところに行ってもいいってママが言ったから、来ちゃった」
「来ちゃったじゃねー!」
これはまずい。美紅たちにはアイリスが従妹だと通じたが、身内である朝陽にはアイリスが従妹ではないことくらい分かる。まだ、泥棒の方が良かったかもしれない。
「な、ちょっと待てっ! お前、これからここに住むのかっ!?」
「何言ってるのー? 当たり前じゃん。もう、入学の手続きもしちゃったよ」
「お前……」
朝陽は心底嬉しそうに笑っていた。俺は引きつった笑みで朝陽を見る。
「あ、そーだ。お兄ちゃんのお部屋も掃除したよ! ほら、来てっ」
朝陽が俺を引っ張る。俺は、焦って朝陽を止めた。
「待てっ! 分かった、行くから! 先行っててくれ」
「えー。分かった」
朝陽が俺の服を離し、リビングに進んでいく。俺は振り向いて、アイリスに耳打ちした。
「すまん、とりあえず、落ち着くまで美紅の家に泊まってくれ」
「なっ、あ、あんなすぐに男に抱きつくような変態とお前は一緒に暮らすのかっ。しかも二人で!」
俺が言うと、アイリスは真っ赤になって驚いていた。何を考えているのやら。しかも、俺を前にして実の妹を変態呼ばわりか……。
「いやいや、男に抱きつくのは俺だけだし。変態じゃないし。妹だから」
「だが……」
「あいつは記憶力が抜群にいいんだ。アイリスが従妹じゃないことくらいすぐにわかっちまう。な? どうやって説明するか考えさせてくれ」
「うむ……。多少納得いかんが、陽向が言うなら……」
アイリスは、少し不満そうだったが素直に家を出て行った。俺は、リビングに向かい、扉を開ける。
「あ、お兄ちゃん、こっちこっち」
「分かったから、腕引っ張るな」
朝陽に連れられ、自分の部屋を開ける。すると、ピッカピカに輝いていた。
「うわぁ……」
「へっへーん。伊達に几帳面なお兄ちゃんの妹をやってないのだっ!」
「調子乗りすぎ」
思わず驚きの声を漏らした俺に威張る朝陽。俺はいつものように、突っ込んだ。そして、朝陽はちろりと舌を出して笑う。
懐かしい……。
昔はよく、二人で漫才をして美紅に見せていた時期があった。もう、俺は中学に入ったときに朝陽は両親と行ってしまったから、もう四年になるのか。
そーいや、少し可愛くなったと思う。高校生らしくなった。
「あ、そうだ、お兄ちゃん。美紅ちゃんに挨拶しにいったほうがいいかな?」
「そ、それは別にいいんじゃねーか!? どうせお前、転入してしたら、毎日のように俺の教室に通うだろ? 同じクラスだから、いつでも会えるぞ」
「そっか。そーだね! 今日はお兄ちゃんと二人きりの夜でも楽しむよ」
「おい、誤解を招くからやめてくれ」
「いいじゃん、二人っきりだし」
「よくないです」
そんな風に言ってみるが、俺は少し楽しみだと感じてしまった。
あ、普通に兄妹としてだけど?