49:死神さんの文化祭のお約束?
一通り写真撮影が終わり、午後の部が始まる。この時間、俺は回るはずだよな?
壁には、先ほど撮った写真が貼られて、全てに値段がついていた。800円? 高っ。
「あのー、すいません」
声をかけられ、急いで向う。男子四人組だった。多分、三年生だろう。
「はい、なんでしょうかお客様」
「いやぁ。可愛いね、君」
「あ、ありがとうございます」
虫唾がはしるっ。が、一応、笑顔で受け答える。
すると、誰かに、ケツを触られた。
「ひぁっ」
男子四人組は、にやにやと笑っている。俺、男っ!
「すいません、お客様」
身をよじって、逃げる。なんだ、このベタすぎる展開は! 俺が女だったら、ラブコメそのままだな。ここで、愛しの彼が助けにきてくれるけど……俺、男だし。
男子四人組はにやにやと笑っていた。そして、今度は腰に手をやられ、ぐいっと引っ張られる。
「お客様……!」
「いいじゃん。君、確か、男子だったよね。ほんとに男子?」
「すいません、勘弁して下さい」
「可愛いなぁ。女子が、言うだけあるわ」
「……っ」
一向に離そうとしない手に俺の毛細血管がぶちぎれた。
「っ……てめぇらっ、いい加減にしろやぁぁぁぁ!」
俺は腰に巻きつく腕を掴み、背負い投げをした。男子が机を巻き込んで、倒れる。
「ふんっ」
鼻を鳴らし、男子に近づき、倒れている椅子に片足をのせる。そして、笑顔で言ってみた。
「次やったら殺り返しますわよ。お客様?」
男子ががくがく震えながら、頷いた。よし。……何この沈黙? …………………………あぁぁぁぁっ! やっちまったぁぁぁ! やべぇ、相手客じゃん! しかも、三年生! 机まで、倒しちまった!
「す、すいません! お客様! 失礼しました!」
急いで、頭を下げる。男子――――先輩は立ちあがって、俺を見た。やべぇ、殴られる。
「…………ほれた」
「は?」
俺は、顔をあげ、聞き返した。先輩は顔を赤くしている。え、ちょっと待って……。
「俺は、君にほれたっ!」
「えぇぇぇぇぇぇっ」
俺は、悲鳴と驚きの混ざった声をあげた。おい、周りの人たちは何で「分かるよ」みたいな顔してるの! 分からないの俺だけ!?
「男だろうが女だろうが関係ない!」
「俺が関係ありますけど!?」
「俺は君が好きだあぁぁぁぁ!」
「大迷惑だあぁぁぁぁぁ!」
なんだ、こいつ! 気持ち悪いっ。つか、今のでほれるって、お前、Mだったのか!
「もっと、俺を罵ってください!」
「気持ち悪いっ!」
本物のMだった。
俺は、逃げるように、一歩ずつ、下がった。じりじりと先輩が近づいてくる。
「スイマセン! 勘弁して下さい! 俺が、勘定しておくんで、帰ってください!」
俺は、必死に叫ぶが、先輩は少しずつ距離を縮めていく。こわっ。怖いって! ヤバイ、足が竦むんですけど! つか、鼻息荒いっ。にんにくクサッ。
「誰かぁぁぁぁぁぁ!」
「ぐほぉっ」
俺が叫ぶと、先輩は悲鳴をあげて、後ろへ飛んでいった。……あ、俺の拳だ。先輩の血らしきものが付着している。俺は、どうやら、先輩の顔面を殴ったそうだ。
先輩は、起き上がらない。気絶してしまったみたいです。てへっ。俺の拳が久しぶりに唸っちゃったZE☆
…………どーすんだぁぁぁぁ! 俺、先輩殴っちゃったよ!
頭に退学や停学、説教の文字が浮かぶ。みんなが慌てて先輩を運んで行ってしまった。みんなの視線は俺に向く。
「僕の陽向ぁぁぁぁぁっ」
「がはっ」
どうしようかと考えていると、俺のほうに誰かが突っ込んできて、俺を巻き込んでともに倒れた。飛んできた奴が、慌てて俺を抱きかかえる。パシャッ。
「大丈夫か! 陽向! 悲鳴が聞こえたから、助けに来たぞ! 誰だ、陽向をこんな風にしたのは!」
相手はもちろん真琴だ。俺は全身をぶつけたので、体に力が入らず、そのまま真琴に抱えられる。
パシャッ。パシャパシャッ。
「助けに来てくれてありがとう。でも、俺をこんな状態にしたのはお前だ。そして、俺はお前のものじゃない」
「僕が、君をこんな風にしただって!? 僕の魅力にやられたのかい! それは無理も無い!」
パシャッ。
「いや、お前の全身凶器にやられたんだよ! お前に魅力はない!」
戻ってきた手足の感覚に安堵しながら、俺は真琴から離れた。
「…………」
俺は、周りを見た。みんな(クラスメイト)、カメラか、携帯をこちらに向けている。
「……てめぇら、何やってるんだ」
俺がそう呟くと、みんなが、カメラや携帯を急いで背中に隠した。そして、何事もなかったように口笛をする。
「てめぇら、不自然すぎるだろ! 何で、全員口笛を吹くんだっ。気持ち悪いぞ!」
『えぇー。せっかく、王子様と白雪姫ですっごく可愛いのにぃ』
この後、俺が全員の携帯やカメラを没収したのは言うまでも無い。
隣で真琴が頬をそめて「いやんっ」と言っていたのが、異様にムカついた。