46:ジョーカーさんの思い出の一部
放課後。休みなしで文化祭まで後三日まで迫った。みんな、慌しく動く。
そんな中…………。
「いたっ」
小さく悲鳴が上がった。クラス全員、声のあがった方を見る。そこには、手の甲から血を流している御井だった。
俺は、誰よりも早く動き、ポケットからティッシュを一枚だし、御井の手の甲に押し付け、御井を引っ張って教室を出た。
クラス全員、ぽかんと出て行く俺らを見つめ、御井も「ええっ」と驚いていた。
俺が向かったのはもちろん保健室だ。保健室には先生がいなかった。仕方なく、御井を座らせ、消毒液とガーゼと包帯を取り出す。
「大丈夫か」
「あ、うん……」
御井の平気そうな声を聞いてほっとする。
「なら、いいけどよ。本当にお前はドジだな」
「ご、ごめんなさい」
「いいって。気をつけろよ?」
「あ、うん」
会話が終わり、沈黙が続く。俺は手当てをし、立ち上がった。
「じゃ、もどろっか」
「あ、待って」
「ん?」
「あ、あの……もうちょっと休まない?」
「痛むのか?」
「大丈夫だけど、その」
「サボりってか?」
俺は笑って見せた。ふるふると御井が首を振る。
「あの……ありがとう。な、何で、その……手当てを……」
「あ?」
「普通、男子は大丈夫って声掛けるくらいで、女子の友達が、保健室に連れてってくれるって感じなのに……篠塚君が一番早く動いてくれて……」
「ああ。俺じゃ悪かったか?」
「ち、違うの! ただ……わたしを保健室に連れて行くとき、すごく顔が真剣だったから」
「俺、そんな顔してた? …………御井が晴姫に似ていたから」
「ハルキ? ……男の子?」
「違うよ。女子。俺の初恋の子」
俺は笑っていって見せた。御井の顔が曇る。
「晴姫は、俺の初恋の子だったんだ。すっげー天然で、おっちょこちょいで。でも、すっごく、なんていうか……心が綺麗で、可愛い子でさ。体が弱かったけど、すごく元気だった」
「だった……?」
「うん。だった……過去形」
「それって……」
「おい、陽向!」
話をさえぎるように、扉が開く。すごく、タイミングがいいな!
「うわっ。って美紅?」
「大丈夫か!? 変なことやってないだろうな!」
「やんねーよ! だから、お前はそっちの方向に行きすぎ! エロ本でも読んだのか!?」
「この前、陽向の家で……」
「俺の家にはない! 俺はそーいうの読まないっつったろ!」
「でも、ベットの下に……」
「嘘つけぇ! リアルだから、やめてくれ!」
「嘘だ。……本当智也から強制的に読まされて……」
「智也ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
本気で、智也との関係を改めた方がいいかもしれない……。まずは、あいつのメアドを消去することから始めようかな?
俺は二人に戻るかと言って教室を出た。
あたしは陽向が保健室を出て行ったのを確認し、玲奈に話しかけた。
「大丈夫か、玲奈?」
「大丈夫。ありがとう」
「あのさ、今けが人に言うのもなんだけど、陽向の過去を引っかくのはやめといてもらえないか?」
「過去?」
「うん。あたしも、実際はよく知らないんだけどさ、アイツ中学二年生の時、大切な人を失くしたらしいんだ」
「大切な人?」
「あたしはさ、幼稚園からアイツと一緒なのに、ずるいよな。相手は1ヶ月だけの間しか一緒じゃなかったのに。あたしよりもアイツの心に残ってる。ずるいよ……何が足りないんだろう」
アイツは一生大切な人を忘れない。そして、その人以外好きにならないだろう。
「アイツ、自分から、その大切な人について語り始めるくせに、すっごく話したくないような顔をして、悲しい顔をするんだ。いっつも……しかも、一定の事しか話さなくて、どうして亡くなったかも知らないし……ただ、好きだっていうのだけ、分かるんだ」
あたしは、悲しそうに話す陽向の顔を思い出す。きゅうんと胸が締め付けられる。
「あ、あたしばっかはなしちまった! ごめん! じゃ、もどろっか」
「あ、うん」
あたしは玲奈に笑いかけると、陽向の後を追って、教室に向かった。




