35:死神さんは泣いています
ミナルトは、どうやら死神の力を使って屋上から抜け出したそうだ。だって、突風が吹いてたから。五時間目の終わりごろに帰ってきたミナルトは放課後になると俺の所にやってきて怒鳴り散らして、御井とともに怒って帰っていった。
そして現在。俺は、智也と駄弁りながら帰って、家の前。いつも、アイリスと一緒に帰っているがアイリスは怒って先に行ってしまった。
「あー」
俺は困惑していた。こういう時、どう声をかければいい?
俺の視界には家のドアにもたれて、体育座りで泣いているアイリスだった。
アイリスは俺に気付くと睨むように俺を見る。
「……」
ここは一発ギャグを飛ばすか? それとも、優しく声をかけるか?
「失恋でもしちゃいましたか? うふふふふ。純情なんだからぁ――――ぐふぅっ」
陽向は魔法ギャグをかました! アイリスの返り討ち! 陽向100のダメージ! ……どうやら選択を誤ったようだ。
「あー……どうした? あのさ、俺、なんかしたか?」
訊いてみると、ふるふるとアイリスは首を振った。
「あ、そう? 今日、ハンバーグだぞ? 食わないのか?」
またまた首を振られる。腹は減ってると。
「言ってくれなきゃ分かんないんだけど……」
「…………た」
アイリスはゆっくりと口を開いた。でも、声が小さくて聞き取れない。
「……狩人モードになれなくなったんだ」
今度は聞き取れるほど声で言った。えっと、それって俺、もう襲われないんですか? 喜びたいんですけど。……空気読まなきゃいけませんね。
「あー、そうか。時期がたてばまた戻るんじゃないのか?」
「狩人モードは生まれつき死神が持っている能力なんだ。使えなかったことなど一度も無い」
「ジャックは?」
「ジャックは消えてしまった。声をかけたがどこにもいないんだ」
「ミナルトは?」
「ミナルトは、調子は悪いが一応使えると言っていた。陽向、どうしよう。あたしは、このままではただの人間になってしまう」
アイリスはそう言うと、またポロポロと泣き始めた。やべぇ、俺が泣かしてるみたいだ。
ともかく、このままじゃ通報され兼ねない。無理やりアイリスを立たせて俺は家の中に入る。そして、ソファに座らせた。
エプロンを着て台所に向かう。そして野菜を切りながら、考えた。
んー、今日は豆腐ハンバーグに挑戦してみようかな。…………すいません。ちゃんとアイリスのことも考えています。
「原因とか分かるのか?」
野菜を切りながら、アイリスに聞こえる声で話しかけてみる。……返事無し。分からないんだな。
「いつ頃くらいに違和感を覚え始めたとかないのか?」
「天使と戦う朝の狩人モードの時は上手く体が動かないとは思った。しかし、それは天使と戦う時はいつもそうなんだ。死神全員、体が鈍くなる体質がある」
「ミナルトは狩人モードになれないって言ってけど?」
「ミナルトはまだ天使と戦った回数が少ない。だから、耐性が無かったんだ。今日はまだ天使と戦ってから日が短いからミナルトも調子が悪かったんだろう」
「ふーん」
「このままでは死神の世界にも帰ることができん。……どうすればいいのだ」
アイリスが震えた声で言う。死神の世界に帰れないか…………あ。
「アイリス! 良いこと思いついたぞ!」
アイリスの方へ走っていく。すると、アイリスはぎょっと驚き、体をこわばらせた。
「何驚いてんだよ。解決策が見つかったんだって」
「そ、その解決策とやらはあたしを殺して俺も死ぬって言う作戦かぁ!」
「は?」
何言ってんのこいつ? ……ああ。包丁振って走ってきたんだ。そりゃ怖がるな。
「悪かった。そうじゃなくてさ、ミナルトに一回死神の世界に帰ってもらえば? あいつ、別に任務とか無いんだろう?」
「……なるほど!」
アイリスの顔が輝く。ま、眩しい。やっぱアイリスには笑顔が似合うぞ。死神だけど。
「確かにミナルトは、何も任務がない。ただ、あたしを邪魔しにやってきたんだったな」
ミナルトって邪魔者扱いなんだ。
「ふむ。あいつに聞いてもらえばいいのか! 頭が良いな陽向! 見直したぞ!」
「あ、そう?」
何で、上から目線?
と、ともかく、これで解決らしい。アイリスはさっそく携帯を出し、ミナルトに電話をかけていた。
その時のアイリスの嬉しそうな笑顔があまりにも眩しく、ドキンとときめいてしまった。