34:ジョーカーさんは首をかしげます
「おーい。アイリス? 遅刻すんぞー」
俺は首を傾げた。天使との戦い後で久しぶりな平和な朝な気がする。そーいや、あの日、アイリスにも殺されそうになったんだっけ?
じゃなくて、いつもはアイリスのほうが起きるのが早い。なのに、何で今日に限って遅いんだ? ……まさか、あいつ天使のときの傷が痛みだしたんじゃ?
俺は急いでアイリスの部屋に向かった。そして、思いっきり扉を開ける。
「大丈夫か! アイリス!」
「ぐはっ」
バコッという音がした後、扉が開く。アイリスは部屋の真ん中で頭を抑えてうずくまっていた。
「おい、アイリス!」
慌ててアイリスに近づく。そして、アイリスに触れようとした刹那、アイリスはものすごい速さで拳を振り上げ、俺の顔面を殴った。
「ぶべらっ……は、鼻血でた。おい、アイリス、大丈夫か……」
「お前が来るまでなんともなかったぞ! なのに、お前が入ってきて、丁度ドアが頭にぶつかったんだ! くそっ。死ね!」
「ひでぇ! そこまで言うな!」
アイリスは機嫌悪そうに、部屋を出て行く。俺も、後に続いた。
「なあ、ごめんって」
「おい、藍はどうして不機嫌なんだ? あ、もしかしてお前襲ったんじゃないだろーな!」
「美紅、いい加減にしろよ? 何でお前は俺と会うたびにそうやって言うんだ。ドアホ。俺がちょっとやっちまったんです。何にもないです。お前、智也化してんぞ」
「なぁっ。あんなクズと一緒にすんな!」
「お前って、けっこうひどいよな」
そっぽむくアイリスを横目に美紅と会話する。おかしいな、いつもなら、とっくに機嫌直しているのに。
「おい、藍。どうしたんだよ」
「何でもない! 陽向を頼るなら湊に頼る!」
「てめぇ……」
アイリスは相変わらずそっぽ向く。俺より、ミナルトの方が頼れるだと? そりゃ、お前ら幼馴染だから頼れるかもしれないけどなぁ、言われりゃむかつくんですけど?
まあいい。しばらくしたら機嫌直すだろうし。いいや。ほっとこ。
俺とアイリスは一言も話さないまま、学校へ行くことにした。
「よお、智也。湊見なかった?」
「御井の従弟か? あー見たな。もう、帰ってくるんじゃね?」
「そうか」
鞄を置いて辺りを見渡す。丁度、ミナルトが教室に入ってくるところだった。
「よっ、湊」
「あ、ジョーカー! こっちだ!」
ミナルトがすごい速さで俺の傍に来て、腕を掴み俺を引きずる。
「おい、湊!」
湊に引きずられるまま三分。俺らは屋上に来ていた。
「そー言えばアイリスはどうしたんだよ」
「あ? ああ、あいつならご機嫌斜めですよ。お前に相談したいことがあるんだってよ」
「俺に相談!? ついに来たか! きっとウエディングドレスは何にする? とか、子供の名前は何にしよっか? とかだろうなぁ」
「お前の妄想力は半端ないな」
俺は呆れて言った。ミナルトははっと我に返り、こほんと恥ずかしそうに咳払いをした。
「で、なんだ?」
「お前は天使の戦いの時、どこまで記憶がある?」
「はぁ? 記憶ねぇ。御井が頭をぶち抜かれた時までだな」
「頭ぶち抜かれたぁ? そうか。そうだったんだ」
「ああ。その後に気を失った。で、気付いたら、自分の部屋で寝ていた」
「なるほど……じゃあ、お前はジョーカーとしての能力の発動の仕方分かるか?」
「いいや?」
「なるほど、じゃあ、ちょっと、この鉛筆を持て」
ミナルトも様子が変だな。急に鉛筆持てって。なんだそりゃ。
俺は不思議に思いながらも鉛筆を手にした。特に変化なし。
「ふむ。ちょっとナイフになれっみたいな風に思ってみろ」
「はぁ? お前、どうしたんだよ」
「いいからやれ」
真面目な顔をして俺に言うミナルト。俺は仕方なくミナルトの言ったとおりに思ってみる。
……変化ねぇぞ、おい。
「なるほど。お前には何か取り付いていたのか?」
ミナルトが勝手にぶつぶつと言い始める。屋上の時計を見るともうすぐ、朝のHRの時間だった。俺はミナルトに何も言わずに屋上を出た。ミナルトはもちろん気付いていない。
そのまま校舎内に入ると俺は屋上のドアの鍵を閉めてみた。
何でかって? そりゃあ、好奇心だけど。だって、どうすんのか気になるじゃん。
あ、誰だ。今、俺のことをドSって言った奴。深琴先輩よりましだ!