29:死神さんと天使の遭遇
いつの間にか放課後になっていた。アイリスと軽く言葉を交えながら階段を降り、靴箱に着く。
「あ、忘れ物した」
俺は、いつも、靴箱で持ち物の確認をする。筆箱が入っていない。
「ふむ……あたしも行こう」
「なんだ、アイリス。珍しい」
「嫌な予感がする」
「この放課後にかぁ?」
「なっ。あたしの感は当たるのだぞ!」
「ふーん」
「信じてないな!」
俺は無視して、教室に向かった。ここで、嫌な予感が的中されても困るっつーの。アイリスがてこてこ着いてくる。……教室四階って結構きついな。
俺はほのぼのそう思っていると、丁度三階と四階の間の踊り場を過ぎたところで、アイリスが俺に突進してきた。
「!? 陽向! しゃがめぇ!」
「ぐふぅっ」
アイリスの突然な突撃により、俺は階段の角に顔をぶつけ、腹をぶつけた。
「てめっ。嫌がらせか!」
起き上がり、腰に抱きついているアイリスに怒鳴った。しかし、アイリスは俺の方を見向きもせずに、俺とは反対の方向を向いていた。俺も、顔を向ける。
「お、お前……」
そこにいたのは翼を広げた天使であった。……名前は覚えていない。
「キョウ=リッチネだよ。久しぶりだね」
「うるせー。俺は一生お前と会いたくなかったよ」
「へぇ。光栄だね。俺もジョーカーの顔は見たく無かったよ」
「じゃあ来るな!」
「そうは行かないよ。俺はお前を殺さなきゃいけない」
「キョウ=リッチネ! ジョーカー排除令は天使界でもでているのか!?」
「うーん? もちろん、でてるよ。ジョーカーは危険な存在だからね。現在その命がでてるのは、一人。でも、俺じゃないけど。俺は、排除令とか、そういうのはどーでもいいんだ。俺は、君を殺したいんだ」
「何でだよ!? お前と会った覚えなんて、この前の公園のときしかないんだけど!」
俺の問いには答えず、天使は不気味な笑みを浮かべると銃を俺に向けた。
「アイリス!」
俺はアイリスを押し、短い階段を登って避けた。パンと銃声がなる。
「痛っ」
「悪い、アイリス!」
「大丈夫だ!」
「俺は、ジョーカーを見るとすごく虫唾が走るんだ」
パンパンとまた2発。俺はアイリスを置いて、廊下を走った。
「くそっ」
自分の能力が分かってない今、俺は逃げる事しかできない。どうやら、鞄を盾に変えることはできるらしいが、その使い方もわからん。現に、俺の今持っている鞄は鞄のまま変化ないし。
「陽向!」
「ぐわっ」
アイリスが俺の後を追う天使のその後ろから叫び、天使に飛び掛る。俺ばかり、気をとられていた天使はアイリスに気付かず、アイリスとともに倒れる。
「アイリス!」
俺は立ち止まって、アイリスの方へ振り返った。アイリスは、天使の上で立ち上がり、踏みつけて俺の傍に走ってくる。
「ともかく、逃げろ!」
俺たちは全速で走り、一番奥の1組の教室へ向かった。教室について、扉を閉める。
「あ、筆箱」
丁度、自分の教室ということに気付き、俺は机をあさって筆箱を手にした。
刹那、パンパンと銃声がなり、教室のドアのガラスが割れた。