23:死神さんに手当てします。
家に戻ると、そわそわと御井が立っていた。キョロキョロと辺りを見回している。
「おい、御井?」
俺が声をかけると、御井はすぐに振り向き、ほっと安堵の息を吐いて近づいてきた。そこで、アイリスを背で背負い、無理やり起こしたミナルトに肩を貸している俺を見て、目を丸くする。
「あー……ちょっと敵に会っちゃってね」
「は、早く手当てしないと!」
「おい、玲奈。俺らは大丈夫だって」
ミナルトが苦笑して言う。俺は溜息をついて言った。
「ともかく、俺の家に入れ。手当てすっから」
御井は困ったような表情を浮かべてから、軽く頷いた。
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「ほら、動くな!」
「いてぇ! ちょ、無理! 死ぬぅ!」
「じっとしてねーと消毒液ぶっかけるぞ!」
暴れるミナルトを御井と俺で押さえつけ、切れた額に消毒液をつけたガーゼで撫でる。その度にミナルトは悲鳴をあげた。
「痛! しみる! 死ぬ!」
「うるせぇ! …………あっ」
「ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
思わず、消毒液を掴んでいた手がすべり、消毒液が丁度ミナルトの顔にぶっかかった。決してわざとじゃないですよ?
「テメー! ジョーカー! 狩るぞ!」
「アホ。さっき狩人モードは使っちまっただろーが。どうやって狩るんだよ」
「包丁でてめぇの心臓をえぐる!」
「グロい!」
手当てが終了し、ミナルトを離す。そして俺は、アイリスに目を向けた。
「アイリスちゃーん?」
消毒液とガーゼを片手に、隅に隠れているアイリスに目を向ける。アイリスは「ひぃっ」と可愛らしい悲鳴をあげ、隅のほうへ逃げる。
「こら、待て!」
アイリスが逃げ出す前に手を掴み、引き寄せる。そして、俺の腕にすっぽりはまったアイリスを引っ張り、ソファに座らせた。
「へへっ。日ごろの恨みを晴らしてやろう」
「なっ。あたしは何もやっておらんぞ!」
「どこの口が言うのかな?」
『そうだ! アイリスは仕事をしているだけだ!』
「黙れ」
ひょっこりとジャックが飛び出す。俺は目も向けず、消毒液をぶっかけた。
「ぎぁぁぁぁぁぁ!」
使い魔って変な悲鳴をあげるんだな。ジャックは目を押さえてのた打ち回る。ってか、手、あったんんだ。
「篠塚君、ちょ、落ち着いて」
「俺? 落ち着いてるよ?」
御井が焦って俺に言うが、俺はいたって平凡だ。首を傾けて、ガーゼに消毒液をたらす。
「し、篠塚君!」
御井が悲鳴をあげる。あ、消毒液かけすぎた。ガーゼを通り越して、床を濡らしていく。
「まいっか」
「よくないぞ!?」
「ほらー、我がまま言わないの。もう、あんたをそんな風に育てた覚えはないよ!」
「お母さん!? しかも、これは我がままの類に入らないだろう!?」
俺は無言で、消毒液で濡れたガーゼをアイリスの腕の傷に押し当てた。
「ッ……!」
声にならない悲鳴をあげるアイリス。俺はもっと力を込めた。
「!」
ばたばたと涙を浮かべて腕を振り、俺の手を離そうとするアイリス。俺は仕方なく離した。
「ひ、陽向! あたしを殺す気か!」
「いや?」
「お前を今すぐ狩ってやる!」
「だから、ミナルトと同じで――」
「のこぎりで思いっきりお前を指して、首を切断する!」
「リアル! さっきより、リアルになってグロさ増してるから!」
「シャー」と猫のような唸り声をあげて、睨みつけてくるアイリス。俺は「すまんすまん」と謝って救急箱をしまった。
「ほら、飯作るから。今日は肉じゃがにするけど」
「肉!」
「あ、御井も食ってけよ」
「えっ! ……あ、うん」
御井は何故か顔を真っ赤にし、頷くと即効で携帯を出して、メールを打ち始めた。
「は、早ぇ」
「お母さんに遅くなるってメールしただけだから」
「あ、そうなの? そーいや、御井とはメアド交換してねーな」
「え!」
「まー、これから死神関係のおかげで連絡とかと取りそうだし、メアド交換するか?」
「あ、うん!」
御井は首が千切れそうな勢いで首を縦に振った。俺は苦笑してポケットから携帯を出した。
「ほい。今から飯作るから、ちょいよろしく」
「あ、うん! ……痛っ」
「す、すまん!」
御井に軽く投げた携帯を取れず、顔にぶつける。お、おかしいな。軽く投げたつもりなんだけど……。
冷や汗をかいていると、アイリスとミナルトが携帯を不思議そうに見つめた。
「おい、陽向!」
「なあ、玲奈」
「「それは何だ?」」
おお、ハモった。すげぇな。
「……アイリスにも」
「……ミナルトにも」
「「携帯を買わないと」」
俺らは同じに溜息をついた。息ぴったり。