20:ジョーカーさんの周りはいつも賑やかです
「お、陽向ー!」
昼休みの終了を告げるチャイムにより、教室に戻ってきた俺は何故か智也に暖かく迎えられた。
「な、何だ智也」
「てめー、何しとんじゃぁぁぁぁぁ!!」
いきなり、ドロップキック。俺はひょいと避けた。いや、みえみえだしね?
「何で避けるんだぁぁぁ!」
そう叫んで、廊下の壁へ突進していく智也。俺はそのまま扉を閉めた。
「おい、ひな!」
「何だ、美紅?」
智也の次は美紅か。次から次へと……。
「お前、屋上で玲奈とにゃにやっていた!」
舌が回ってないよ、この子。どんだけ焦ってんだ。あー、これが可愛いと思えなくもない俺は重症か?…………鼻息荒くしてる奴がいたわ。俺より、あんた重症だよ。
「別に? ってか近い」
「え? あ、あわわわわっ。ち、違うんだ!」
そう言って離れる美紅。いや、そんなに離れないでよ、何で5メートル以上離れるの? そんなに、俺は臭いか?
制服の匂いを嗅ぐ。うん、大丈夫だと思う。
「別に何もやってねーよ。屋上で…………君達には言えないこともとい、分からない事を話してた」
『篠塚ぁ!』
「何でだよ!?」
男子が声をそろえて、俺に怒鳴る。いや、俺間違った事言ってないよ!?
だって、あんたらに死神の話なんかしてもわからないじゃないか!
「陽向! お前、まさか……もう、経験してるのか?」
「は? ちげーよ!」
後ろで、驚く顔をする智也。あ、お前、ドア開けんな! つか、入ってくるな! 智也にもう一度、顔面ドロップキック。あ、鼻血出てる。ま、いっか。
「い、痛いじゃないのぉぉぉぉ」
「うっせぇ! 消えろ! FUCK YOU!」
「何で、お前発音いいんだよ! テストの点数20点のクセに!」
「人の点数ばらすなぁ!!」
こ、こいつ。今日はお前を許すまい。
「おい、陽向!」
俺が蹴ろうとしたその刹那、隣の教室から、人が跳び出て来る。
げっ。めんどくさい奴が来た。
「真琴かよ! 帰れ! もう、チャイム鳴るぞ!」
「そんなのはどうでもいいぞ! 君は僕がいるのに、他の女の方がいいのかい?」
「まず、俺はお前を女としてみていない」
「なにっ。外見は悪くないだろう!?」
まあ。わ、悪くはないよ? 運動神経がいいからか、モデル並に細いし、胸も平均よりはあると思うし、深琴先輩の妹だから、可愛くないことはないけど……。
「お前は中身の全てが腐ってる!」
「ぐはっ。では、君は僕を何だと思っているのかい!?」
「「火星人」」
あ、智也と重なった。男と重なっても全然嬉しくねー!
真琴は大げさに廊下に転がった。そして、オヨヨヨヨよ泣きまねをする。今、そんな風に泣くやついないよ?
「ああ、悲しい。まるで、捨てられた子猫のようだ。雨の中、段ボールでひっそりと暮らし、冷たい雨の雫に体を震わせながら、飼い主を待つ。しかし、何日たっても飼い主は現れない。誰も拾ってくれさえしない。ともに捨てられた仲間は飢え死にし。俺も死を迎えそうになる。僕は必死に脚を踏ん張って段ボールを出る。しかし、足元はおぼつかない。そして、ふらりと体が傾いた時、僕は川へと落ちて行く。小さな体の僕には川の流れが早く足もつかない。必死で、流れに逆らおうとするが、僕はついに、川へ沈んでしまう……。そのとき! ばしゃんと川へ誰かが飛び込み、僕を抱き上げ――――」
「長いわぁ!」
俺は、真琴の頭を叩く。「ぐへっ」と品のない声。こいつ、ほんとに火星人だな。
「例え話がどんだけ、長いんだよ! 何で、川に落ちるんだよ! てっきり、俺は公園に捨てられたかと思ってたよ!? しかも、最後の方、誰か、お前を助けに来てるじゃねーか! 誰も、同情してくれねーよ!」
「助けてくれた人を陽向だ!」
「俺はぜってぇ、お前のような猫は拾わねーよ! 自分の服を濡らしてでも、お前みたいな猫を救うつもりはねーよ!」
「第二章。陽向と僕の同居生活」
「いいわぁ! 何で、第二章がある!? 何で俺は拾ったことになってるんだぁ!」
「僕を助けた陽向に僕は恋をする。しかし、猫と人間の越えられない壁。そして、陽向の幼馴染や従妹が僕の敵となり、僕をあざ笑う日々。そんな僕の思いに君は気付かないんだよ!」
「しらねーよ! お前の思いなんて通じるかボケェ!」
「ちなみにこれは第44章まである!」
「無駄に長い! しかも、縁起悪いな!」
「結果は僕が妖精さんにお願いし、人間になって、陽向と結ばれるんだ! ハッピーエンド!」
「最悪のバットエンドだ!」
ぜえぜえと荒い息をつく俺。つ、疲れる。こんなんじゃ、午後の授業うけられん。
「もう、お前、帰れ!」
「…………君は廊下に立ちたまえ」
背後から声。振り向くと、先生が立っていた。同じに始業チャイムがなる。周りを見ると、みんな席に着いていた。
と、智也! てめー裏切ったな!
「篠塚、そして藤原。二人とも廊下でたってなさい」
「先生、最高のご褒美をありがとうございます!」
「ええっ。こいつと一緒は嫌ですぅ! もう一時間立っていますから、お願いします! こいつを離してください!」
俺の叫びも虚しく、先生は教室を入っていく。
「陽向! 僕たちの愛をともに語ろうじゃないか!」
ああ。今日も良い天気だなぁ。