16:ジョーカーさん絶体絶命。
パキンッ。
俺が、目を瞑った瞬間、そんな音が響いた。3秒経つが、痛みを感じない。恐る恐る目を開けると、少年は俺のほうを見ていなかった。
俺も少年が見ているほうに顔を向ける。
「アイリス!」
そこにいたのは、見慣れた学生服を着ているアイリスであった。少年が、目を丸くしている。
ふと、俺の指先に固いものが触れた。そこにあったのは、黄色い割れた飴玉の破片だった。
「陽向、遅いぞ。腹が減った」
「アイリス……なんで、ここに!」
「やあ、アイリス。会いたかったよ?」
少年が、鎌を下げて、アイリスを見る。
「ミナルト。今、任務中だ。帰れ」
「冷たいな。僕はアイリスと早く、遊びたいから、こうやってジョーカーを殺して、アイリスの任務を終わらせようと思っていたのに」
「余計なお世話だ」
アイリスが、スカートのポケットに手を突っ込み、すぐに少年へと手を振る。少年は、飛んできたものを手で取り、開いた。
「この世界のお菓子だ。飴というらしい。土産に持ってけ」
「へぇ」
ミナルトと呼ばれた少年は、興味深そうに、包みを開き、口に放り込んだ。
「メロン味というらしい。あたしのお気に入りだ」
「ふーん」
ミナルトがコロコロと飴玉を転がす。
そして、俺へと向き直った。
「ジョーカー。命拾いしたね。今回は、アイリスとこの飴とかいう奴に免じて見逃してあげるよ」
ミナルトが、勢いよく鎌を振る。ミナルトとであったときのように、突風が巻き起こった。
突風が収まると、既にミナルトはいなかった。
てくてくとアイリスが俺に近づいてくる。
「今日は疲れた。狩りはしない事にする。ありがたく思え。さあ、早く、ご飯食べるぞ」
まるで、何事もなかったように笑うアイリス。少し、その表情がかっこよく見えた。
俺は立ち上がって、アイリスの隣に並ぶ。
「なあ、さっきの奴は?」
「ん? ああ、ミナルトか? アイツはあたしの幼馴染だ。クローバー部隊隊長だぞ。まあ、あたしよりは地位が低いが」
「へぇ。幼馴染」
「うむ。あたしは、アイツ以外に友達というものはいないからな。あたしは幼き頃から、スペード部隊隊長だ。部下には誇りを持っている。でもな、部下と言っても、あたしより年齢がずっと上だ。みーんな大人。あたしが一番下だった。その中に、ミナルトがいた。一番小さな部隊の下っ端だったけど、歳が同じ事から、すぐに仲良くなった。それから、アイツ、何故か頑張って、クローバー部隊隊長になった。そんで、アイツは『まだ、全然アイリスには遠いけど、ちょっとだけ、近づいたろ? 俺はいつか、スペード部隊の補佐をやる。そしたら、ずっと一緒だから』って言ったんだ」
アイリスの表情が少し寂しくなる。きっと、会える日が遠いからだろう。なんか、気に入らない。俺は、アイリスの一歩前に立ち、アイリスに笑って見せた。
「ミナルトが良い奴なのは分かった。でもよ、友達なら、アイツ以外にここにいるぜ?」
俺は、とんと自分の胸軽く叩く。アイリスは目を丸くして、言われた言葉を理解し、そっぽを向いた。
「馬鹿ッ。お前はあたしの標的だぞ! 明日は死ぬんだからな!」
「ええっ。死ぬ確定なの!?」
「当たり前だのクラッカーだ!」
「お前、どこで、そんな言葉を覚えた。あまり、使わないぞ」
「うるさいっ」
アイリスが、俺を睨む。俺は苦笑した。
いつも、通りに戻ったか。
「あ、なんか、さっき、お前の台詞で気になることがあったけど……何だっけかな?」
「ふむ。老化が進んでるな」
「ひでぇ!」
前言撤回。アイリスはいつも通りに戻ったのではなく、少し、毒舌になりました。
なんか、これ、バトル??
みたいな状態ですが、気にしない方向で!!
コメディですからっ。