10:ジョーカーさんと脇役C
うーん……。あいつに、頼むか。
オッス! オラ、陽向! 今、アイリスの学校について、頭を悩ませているのだっ。
……って、何一人でやってんだか。
「何、やっているのだ?」
「おお、アイリス。今、丁度、お前の入学手続きをしてるんだ」
「おお!」
部屋に入ってきたアイリスに微笑みをかけると、アイリスは目を輝かせた。
俺は、仕方なく、携帯を取り出し、アイツの番号を押す。何度かコールが鳴った後、アイツは出てきた。
『はい、もっしー』
「あー……オレオレ」
『どちら様?』
「オレだって! オレオレ! 今、ちょっと、交通事故にあっちまって、医療費がほしいんだ。今すぐ、講座に振り込んでくれ! 7000万だ。講座番号は――」
『いつの時代のオレオレ詐欺だよ』
「いやぁ、一度、やってみたかったんだ。で、俺」
『名前言えっつーの。……いや、言わなくていい。分かっているからさ』
「さすが、俺の友達!」
『もちろんだ。ちゃんと送信先が、“モテないラブコメ主人公”だから』
「よし。俺は、お前を女好きの脇役Bにしておくわ」
『いや、待て! 脇役かよ! しかもAですらない!?』
「ちっ。じゃあ、だんだん影の薄くなり、しかも良いところは主人公に取られてしまう女好きの変態脇役Cにしておいてやるよ」
『長い! 入らないだろ、それ! しかも、影薄くなってるし!』
「で、用件だが」
『まさかの、ツッコミスルー!?』
お前のコントに付き合ってたら、日が暮れるだろ?
「あのさ――」
『何だ? モテたいだと? いいだろう。この智也様が伝授してやろう!』
「あー……モテなくて、無駄なエロ妄想で人生を養っていて、巻数でいうと二十巻くらいから消えていく脇役Zにしておこうか」
『冗談だ! 何かリアルすぎて言い返せねー!』
「……で、明日、藍を学校に入学させてやりたいんだけど、どうにかできないか?」
『はあ? それは、お前にも出来んだろ。前の高校の書類を出して、編入試験を受けりゃいいんだから』
「そーなんだけどな、あいつ、前にさ……あー……体弱くてさ、中学もろくに行ってないし、高校も行ってなかったんだ。でも最近、体の調子が良くてさ、行かせてやりたいんだけど。なんか良い情報持ってない?」
『ふーん。藍ちゃんみたいな可愛い子なんて滅多にいないからよ、入学させてやりたいのは山々だな。おっし、策、考えとくわ』
「さんきゅ」
『だが、条件があ』
「無理だ」
『はやっ。最後まで聞けよ』
「ろくなことじゃねーだろ」
こいつ、これがあるから嫌なんだよな……。畜生。
『美琴先輩の秘蔵写真をくれ』
「無理」
『頼むよ。お前しか、美琴先輩に近づけてる奴いないんだ。九条家のボディーガードによって、写真なんて滅多に手に入らん。お前の撮ってくれた写真3枚しか、俺の手元にない。なるべくなら、もっとほしいんだよ』
「お前、あれは、俺も対価を払ってんだ。無理だ」
『なら、この条件は飲めない。頼む! 九条家のご令嬢で、頭も良いし、スタイル抜群。学校一の美少女。聖上美女軍団のトップだぞ!』
「……無理なものは、無理だ。やっぱ、今のなし。じゃあな」
『な、ちょっと待――』
俺は、無理やり、電話を切って息をついた。お前に頼む俺が、馬鹿だった。お前の場合は、写真を撮るだけで、俺は、二つの対価を払わなきゃならん。だったら、俺から、頼んだ方が対価は一つになる。
俺は一つ息をついて、あの人の電話番号を押した。