09:死神さんへの質問は手を上げて言いましょう
「おい、アイリス……てめー、どういことだ。説明しろ」
友人二人が帰った後、俺は夕飯のハンバーグを一口、口に入れて睨みつけながら、訊いた。
元凶のアイリスはハンバーグをとろけそうな笑顔で頬張っている。クソ、可愛いやつめ。
「これは、なんという食べ物なのだ?」
「ハンバーグだけど」
「ほお、ハンバーグ……これ、上手いな、陽向!」
「あー、さんきゅ」
やばい、アイリスのペースに巻き込まれている。ダメだ、子供を甘やかせてはならんぞ、陽向!
「で、もう一度問うが、何で俺はあのとき、嘘ばっかり言ったんだ」
「それはだな、あたしが死神だということをばらさないためだ」
「ばらさない?」
『そうだ。死神は、この世界では、存在はしないということになっているだろ?』
俺の問いに答えるように言ったのは、ジャックだ。
「まあ……一般的には」
『そこで、一般人に死神だと悟られると、俺らの仕事がやりずらくなる。それにだ。もし、お前が真実を言ってみろ。お前らの友人は「は? こいつ、ついにボケたんじゃねーの?」って思うだろ?』
「うぐっ……」
否定できん。あいつらなら確実に言う。
『そのためのカモフラージュってわけだ』
ジャックがふわふわと飛びながら言った。
「ふーん。分かった。んじゃ、もう少し、質問させてもらう」
『答えられる範囲だったら、答えてやる』
「いや、お前じゃなくて、アイリスに訊きたいんだ」
『なっ……』
「ふむ。いいだろう。何を知りたいのだ? あ、分かったぞ。あたしのスリーサイズだな!」
「ちげーよ! 一寸たりとも合ってねー! どこに、てめーのようなクソ子供のスリーサイズを知ろうとする変態がいるんだよ!――――ッ」
ガンと派手な音がして、テーブルが揺れる。悲鳴にならない声を出し、俺は、「うぐぐ……」と椅子から降りて、脛を擦った。コ、コイツ……俺の脛を蹴りやがった。
「と、ともかく、一つ目」
俺は、椅子に座りなおし、アイリスを見た。
「…………お前の――――」
「うむ……」
「歳は、小学生でいいんだよな?」
「……ふんっ」
ばしゃっ。
「あっつあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ハンバーグに添えたコーンポタージュがアイリスの手により武装化し、俺の顔にかかった。
もちろん、悲鳴をあげる俺。
「あたしの年齢は日本で言うと、十六歳だ。小学生のような子供ではない」
「いや、その体型で言われても――オーケー。認めるから、その手に持つナイフを置こうか」
「チッ」
おい、こいつ、今舌打ちしたよな?
「……二つ目。お前は、この世界――つまり、人間の住むこの世界のことはどこまで知っているんだ?」
「そうだな。あたしたちには、魂を狩る担当区域がある。あたしは、日本担当だ。だから、沢山の日本に住む人間を見てきた。だから、日本語はけっこう話すことが可能だ。
しかし、だからと言って、日本の物、文化、生活は知らない事が多い。例えば、このハンバーグというのは今日始めて知った。この黄色い液体も知らない。そういうことだ」
「そうか」
結構、厄介なんだなぁ。
「質問は終わりか」
「今んとこはな。また、何かあるかも」
「それならいい。あたしからも質問がある」
「お前は、明日、またあたしを置いていくのか」
「え?」
アイリスは、うつむいていた。カチャカチャとフォークとナイフを動かす。
「お前は、また、お前の職場に行くのか?」
「学校か。そりゃ、行くけど? 学校は毎日あるんだ」
「また、あたしは一人なのか?」
一人。その言葉がひどく胸に疼く。うーむ……でも、こればっかりは……。
「悪い。明日まで、我慢してくれ。何とかしてみるよう、努力すっからよ」
「嫌だ」
「なっ」
あまりの即答さに驚く。いや、ここは、空気を読んで、分かったと頷いてくれないと、対応できないんですけど。
「一人は嫌だ」
「アイリス、俺がいるんだけど」
ジャックが肩を落とす――ように見えた。一頭身だから分からんが。
「一人は寂しい。あたしはそれを知っているのだ。あたしは、幼き頃から、才能を買われ、スペードの隊長として生きてきた。部下はあたしよりも大人で、あたしと同じくらいと言ったら、幼馴染くらいだ。しかし、幼馴染と会う機会も少なく、あたしには、“普通”と呼べる友達がいなかった。だから、一人を知っている」
アイリスが唇を噛み締めている。俺は、ぽんとアイリスの頭に手を乗せた。
「俺も知ってるよ」
「そうなのか?」
目に涙を溜めて、上目遣いで俺を見るアイリス。くぅ……たまんねー。
「おう。……おっしゃ! 俺が、今から、お前も学校に通えるようにしてやる!」
えー、今回は、少しでも知ってもらう為に質問版にしました。あまり、質問を多くすると、変かなと思いまして、少しにしました。全然、死神についてふれてねー……。
また、次回で。
ギャグメインですが、少し、シリアスな空気を作ってみました。二人に影があるように。
楽しんでもらえると、嬉しいです。