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【短編】習作・アイデア切り抜き

貴方への想いは

作者: 結崎 梟

あらすじ・タグのご確認をお願いします。

「急がないと」


 白い息を吐き出しつつ時間を確認するともう19時30分。

 家はそう遠くもないから電車と徒歩で30分もすればつくけど、今日はクロが来る日だ。

 仕事で遅くなったからもう来てるかもしれない。

 隠し鍵の場所は教えてるから外で寒い思いしてることはないとだろうけど、

 おなかを空かして待ってると思うと足も早まるというものだ。

 微妙に断りづらいタイミングで仕事を足してきた上司に今日ばかりは腹が立つ。

 一応作り置きとかカップ麺とかは常備してあるけど、あの子は律義に待ってるからな。


 クロは自称学生で、私が落とした財布を拾って追いかけて届けてくれたことがきっかけで出会った子だ。

 学生を名乗っているのに私の財布を拾ってくれた時も平日の昼間だったし、そのあと何度か会ってお茶したり家に招いた後、会社都合で平日休みになった時にふらっと姿を現したのは驚いた。

 いつも私服だったし、外をぶらついてるみたいだから家はいづらいんだろうかとは考えていたけど、まさか何回か会っただけの私の家まで巡ってくるとは思わなかった。

 あの時はクロも私に合えたことは驚いてたし、会おうと思ってたわけじゃないみたいだけど、嬉しそうにしてるのを見たら何か聞くのもしにくくなった。

 その日からたまに泊まっていくようになったりしてクロが来るのはそう珍しくもない。


「ただいまー」


 息を整えてから隠し鍵の確認とかを済ませて部屋に入ると、リビングは明かりがついて無いようだった。

 遅れたご機嫌取りにメニューを変更しようと思ってコンビニで買い足してきた卵をキッチンに置いて寝室に向かうと、布団が盛り上がっていた。

 待ってる間退屈だったんだろうなと思って着替えるために服装を緩め、目を覚ますまで時間かかるから先に起こそうと布団をめくると、

 クロが猫耳をつけてた。

 あまりの衝撃に数秒は固まっていたと思う。

 慌てて揺さぶって起こすと、ふにゃふにゃした声でおはようと返してきた。


「ちょっと!なんで猫耳つけてるの!?」


「ン~~?あったから?」


 こっちがテンパってるからかいつもより寝覚めはいいみたいだけど正直受け答えが謎だ。


「あったって、どこに!?」


「そこ~~」


 まだ微妙に間延びした声とともにクロが指さしたのは寝室のクローゼットだった。


 そういや買ってたわ。

 家で晩酌しながらネットサーフィンしてた時にクロに似合うと思って衝動買いしたのをそこにしまってたわ。

 謎なのは私なんだよな―――!


 沈痛な面持ちで顔を手で覆っていると、完全に目が覚めたらしきクロが心なしかニヤニヤしながら訊ねてきた。


「なんでこんなのが家にあるの?コスプレするにもこれ以外ないみたいだけどどうしたの?」


「いやクロに似合うと思って…………」


 いやまて、何正直に答えてるんだ私。

 付けてもらおうとしてたって自白してるようなもんじゃん。


 間違いなく赤く染まっているだろう顔を隠しつつ指の隙間からクロを窺うと、クロの方もじわじわと顔を赤くしつつ照れてるのか恥ずかしがってるのか微妙な顔で


「へ~?そういう趣味なんだ~?そういう本も同じ場所に入ってたしね~?」


 と煽ってきた。

 そうだよ。同じ隠し場所にそっち系のもしまってたじゃん!

 ようやくそこに思い至って、恥ずかしさで顔を隠すのも忘れて叫んだ。


「クロこそ人の寝室漁って見つけたそういう本読んで!しかもそのあと猫耳つけたんだ!」


 ケモ耳系の本を読んで知ってる上で猫耳をつけていたことをカウンターされたクロは、自分で墓穴を掘ったことに気付いて顔を真っ赤にして消え入りそうな声で言った。


「喜んでくれるかと思ってぇ……」


 お互い気恥ずかしさと形容しがたい思いで微妙に顔をそらしつつ、寝崩れた服装や着替えのために緩めたシャツ、上がっている吐息に場所まで意識すると、どうしようもなく相手の指先にまで意識が行って、じりじりと近づけあうその指先がからもうとしたその時、

<いしや~きいも~おいも~>

 外から聞こえるその声でお互いにびくっとしつつ離れた。


「あ!お芋売ってるね!寒い季節にあったかいお芋いいよね!ちょっと買ってくるね!」


 そう言って相手の反応も待たずにそのまま家を飛び出して玄関にもたれてずるずるとしゃがみ込んだ。


「何やってんだ私……」


 相手は未成年(自称&推定)だぞ。と繰り返し心の中でつぶやいた。

 いやいやそもそも相手をそういう風に見てもいないんだけどね!と悶えるのは隣の人が出かけようと扉を開けるまで続いた。


 そのころクロは、


「微妙に惜しかったのかな……」


 今回こそ偶然のようなものだったが、自分の気持ちも認識してたので惜しい気持ちもありつつ、手を出してもらうための方法を考えながら初心な心を静めるのだった。



 財布も持たず外に出たので勿論芋は買えず、でもお互いに突っ込めないまま一緒にご飯を食べて手をつないで眠るのは蛇足のお話。


 蛇足の蛇足としては朝起きたときに手をつないでお互いにドキドキしながら眠るのが遅れたことで遅刻しそうになったのを応援するクロと微妙に恨めしそうな私になるのでした。





お読みいただきありがとうございました。

習作ですので様々なご意見ご感想のほどよろしくお願いします。

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