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1-6 素人の自作歌は玉石混交

いきなりですが私の黒歴史病を発症する時はクオリティのひっくい作品を読み返した時です

「で、その旅人さんがなんで俺なんかに」

「それは……ちょっと……企業秘密で」


秘密、秘密、秘密。千羽もそうなんだが言わない=ミステリアス感が増していいってわけじゃないからな? 情報が与えられないとこっちはどう動けばいいのか判断がつかないんだよ! 最悪嘘でもいい。気づいた時になんか隠してるな、敵対するつもりか? って判断材料が増えるから。ただし、0、というのはいただけない。誠に遺憾である。


「じゃあ聞かない」

「あー分かった。話す、話すよ」

「ほら、はやく吐けよ。情報と理由吐けっ! 」

「ほんと容赦ないね君……。そう、珍しく不死鳥の奴がねぐらから飛び立ってね。気になったからつけていたんだ。そうしたらチュートリアル中の初心者を襲ってるじゃないかっ! てね。そのまま見てたら君が勝っちゃったもんだから興味をもったのさ」

「いや、見てたなら助けろよ」

「だから言ったろ? 私は戦闘能力はとても低いんだ。で、そんな君に頼みごとがある」

「嫌です」

「まあそんなこと言わずに。君にはここからずっとまっすぐ突き進んだ先にある広場。そこで起きる事件を解決してもらいたい」


 にっ、と笑ってこちらを向く。妙にドヤ顔が様になっている。

助言とか一言も入っていないし本当に嫌な予感しかしない。受ける道理は無い。


「あの焼き鳥の言っていたフラグに当たるものがそこにはある」

「えっマジで」


 よし、行こう! さっそく手がかりだ!

千羽を問い詰めるための手がかりがあるなら先に言ってくれりゃよかったのに!

小さくガッツポーズののち、その広場を目指して歩きはじめる。


「良い旅を。君の旅路に、幸あれ」

「そりゃどーも」


 向こうさんも話が終わったら早々に立ち去ってくれるようだ。こういう面倒くさくない人種は楽だから好きだ。

どこかのNPCっぽいセリフは軽く肩を叩くことで返す。

こう、行く先が見つかったからか、足取りが軽やかだ。道路のど真ん中を駆け抜け、ビルを蹴って少しの間フライハイ。目下に映るこちらを見上げる他のアバターを尻目にまたビルを蹴る。


 さっき借りた(パクった)この能力、使い勝手が良い。

単純な脚力増加に加え、空中二段ジャンプや一時的な急加速だって出来る。

旅人、というだけのことはあるようだ。そしてなにより能力が一つの枠で色々と応用が利くのが良い。

俺のコピーは一つのアバターからは一つしか能力は借りれないようなので、例えば千羽の能力を丸パクリしてミラーマッチ、なんてことは出来ない。

銀光を纏うだけで様々なことが出来るようになるこの能力は、まさに俺に合わせてくれた能力だといえるだろう。戦闘能力は無いといっていたが、使い手の運動神経によれば上がった身体能力で一方的な試合が出来るのではないかとも思う。運動音痴なのか? あいつ。


 こうして肌で風を感じていると、この世界のマップはなかなか悪くない。単純なファンタジー世界はもう飽き飽きしていたところだ。ちょっぴり現実味があって、それでいて非日常のような体験ができるのは面白い発想だ。

適当なビルの屋上へ上がり、辺りを見渡す。見れば、目的の広場とやらは目と鼻の先のさらに向こう。まだ少し遠い。


 銀に輝く足を前に出し、また空中へ身を投げ出す。

煌めく一色の虹が俺の足を追いかけ、通り道には残光が揺らぐ。

気分は2Dアクションゲームの主人公。

風切り音と共に流れてくる歌を聴きながらさらに一歩を踏み出す。


 ……歌?

とても、耳に残る歌だ。緩やかな旋律に、スッと身体を通り抜けていくような歌声。

脚を止めて聞き入る。独唱だ。一人、なぜか隠れるようにひっそりと。

だが隠し切れない存在感がそれは関係ないとばかりに鼓膜に、脳髄に声を響かせてくる。


 自分自身でも、分からなかった。目的の広場なんて関係ない、コンビニの誘蛾灯に引き寄せられる哀れなヤママユガのように、音へ一直線に。

旅人の足をフル活用して俺はそちらへ駆けた。

ビルの合間を。路地裏を。天を。

暗く閉ざされた細い道からこぼれる光が、そうだともわからないのに希望の光のようで。


 その時俺は……天使を、見つけた。


従者のように付き従うスポットライトに照らされて。


こじんまりとした優美な舞台の上で。


歌姫は静かに、旋律を紡いでいた。


「la……」


「la,la,la……」


「流星は爆ぜ」


「死兆星は照り」


「野望渦巻く星が鳴る」


「無辜の王冠は砕け」


「屍は叫ばん」


「猛き者こそ剣を掲げよ」


「二人は…………」



止まった。鈴の声が奏でるアカペラに聞き入っていれば、不意にこちらへ視線が飛ぶ。

気づかれた、か。


 蒼の双眸がこちらをじいっと見つめ、さながら返事を待つ告白シーンのような、そんな緊張した空気が立ち上った。

これは、一歩。踏み出すしかないだろう。


「歌が、聞こえたんです。頭を揺さぶる歌が」


「声なんて聞き飽きたほどなのだけれども、あなたのは……違った」


「永遠に聞いていたい。そんな素晴らしい声だった」


「お願いが、あります。私の、天使(アイドル)になってはくれませんか? 」


 四秒、沈黙が続いた。周りの音も、空気を読んだかのように一切動くことをやめ、この状況を見届けんと一斉に歌姫へと事をゆだねた。


「えと……ごめんね?まず、最初に聞きたいんだけど……」

「なんでしょう、姫」

「私の歌、どこから聞いてた……?」


 蚊の鳴くような、先ほどとは比べるべくもない小さな声で。なぜか真っ赤な歌姫がそう、問うた。

どこから、と言われてもどこが始まりなのかはわからない。だから俺はこう答える事にした。


「あなたが紡いだ歌は、かけらたりとも聞き逃したとは思いません。すべて俺の胸の内に」

「──」


 エンジンが壊れた時のような白煙を思わせるほど沸騰した姫は、フラフラと無言で腕を振る。

つい先ほどまで歌姫の足に踏まれていたステージが折りたたまれていき、一冊の本のような長方形になると、歌姫の胸の内へと飛び込んで。


「うわぁーーーーーー!!!!!!! 」


 辺りにソプラノボイスを放って、輝く従者とともに真っ赤な顔で走り去っていった。

はためくドレスがなんとも美しい。

しかし、なぜだろうか。

俺はただ崇拝すべき対象になってほしかっただけなのに、どうしてそこまで謙遜してしまうのか。

歌姫(アイドル)の退場には誠意をもって見届けるが騎士(ファン)の務め。

また、ライブにて会いましょう。姫。



一応こいつは主人公です()

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