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1-3 超必殺

「すっごいですね。さすがは衛ちゃん、私が見込んだだけありますね」

「俺がやるといったけどなにか支援してくれてもよかっただろ」

「いやぁ私の武器全部ビーム系なのですがこれが全く効かないんですよね。どうしようもありません」


 一難去ってまた一難と言うべきか。道路に立つ俺の方へ、俺の家の壁からひょこりと出てきたクロ。

ボロボロなのは変わりないが、心なしか元気になったように見える。

反対に俺は元気がなくなってきた。


「どんなカラクリを使ったんです?私が勝てないのは相性的な問題でしたが衛ちゃんはそもそもの勝ち筋と言うものが薄かったんです。もしかして……能力を使いましたか? 」

「俺だってよくわからねえ.能力を使って、火球が当たったら回復したから突っ込んだだけだ」

「ゴリ押しの脳筋戦法ですねピッタリですよ」

「死体に鞭打つような行動はやめような? 」


強敵との相手のすぐ後にこいつと話すとSAN値(正気度)が削れていく気がする。

だが突発的な災害みたいなものとは言え、開幕早々ジャイアントキリングできたのは何というか誇らしく思える。

俺の成果の方を向けば……あれ居ねえ!?


「おいおい……やってくれたじゃあねえか……」

「やっべ生きてた」

「流石に連戦は笑えないですよ……」


 声の方向へと頭を向けると、幽鬼のようにだらんと立っている不死鳥。しかしその瞳から放たれる眼光は、貫かれると思わずぶるりと震えてしまうほど殺気立ったものだった。


「一発殴った程度でいい気になってんじゃねえぞ?まだまだHPは残ってんだ、続きと行こうぜぇ……?」

「気絶したら強制ログアウトとかの機能つけておけよ! 」

「一定以上のダメージでログアウトする機能はついてますので火力不足です」


地獄から轟いてくるような恨み節の籠った低音にビビりながらも打開策を考える。HPがまだまだあるってことはクロの言った通り単純に火力が足りないってことだ、ならもう一回気絶させる?いや同じことはそうそう通用しない、それに油断と慢心があったからこそできたのであってバリバリ警戒されてちゃ近づきすらもできないだろう。


「知ってるか!? ボスにはだいたい第二形態ってやつがあるんだぜ!! 」

「気をつけてください! 超必殺が来ます! 」

「内容が分からないんじゃどう警戒すればいいかもわかんねえけどな! 」 


「『金翅鳥(ゴールディ・ガルーダ)』ァ!!!!」


 叫びと同時に不死鳥の身体が金色に輝き、ついでに高笑いも聞こえてくる。

いや、あれは金色の炎?それが形を成して不死鳥(フェニクス)の身長を超える巨大な鳥となる。

纏っていた鎧も分離して鳥をかたどっていき、その二羽が絡み合ってまた不死鳥(フェニクス)へと纏われていく。

頭部は不死鳥の頭となり、二羽の嘴が×の字に交わるように装着され、翼はそれぞれ左右に分かれて肩を覆うようにたたまり。

身体は金と紅がまじりあうようにして胴体を形作り、鳥の足の一方は膝当てとなり、もう一方は足先を鋭くして靴のようになった。

紅と金で構成された、憎悪と炎を先ほど以上にたぎらせた、不死鳥が再臨した。


「第二ラウンドと行こうぜ?」


ニヤリと笑っているのだろう。怒りと余裕を胸に抱き、俺たちを蹂躙せんと。


「あんな感じの超必殺の獲得ってどうするんだよ? この土壇場でもできるか? 」

「経験と時間と時の運が関係してくるので今は無理です。ですが、私の持つ三つの超必殺の中では一つだけ、対抗できそうなものがあります」

「させるかよ! 」


 今までは作戦会議中は待っててくれたのに今回は許さないらしい。

目ざとくクロの発言を聞きつけて、翼で空をたたき迫ってきた。

距離を詰めてくるときに、赤いもので剣を形作ったのが見えた。


「俺が耐える!だから早く準備しろ!」

「『使用権限解放。格納庫より展開……』」


不死鳥(フェニクス)の剣閃を身に受けながら放った言葉。

クロは詠唱で了承の意を示した。

しかし……予想以上に、痛い!


「俺様の専用武器はなかなかに効くだろォよ!」

「ぐあァッ!」


 炎と羽をモチーフにしたのだろう剣は、言っている通りHPの大半を奪い去っていった。

回復があるとはいえ、連続で食らえばHPはすぐに空になるだろう。

続く第二撃を耐える為に、HP管理をミリ単位でしなければ、やられる。


残り少ないHPバーを見る。俺も回復の基準や回復量を把握しているわけではない、目視で測っていかないといけないのだ。

だが、HPは減りはすれど一向に回復する気配はない。先ほどと同じく、なにかしらの条件で回復するのか!? 


「どうした?さっきの威勢はどこに行った?」


 手慰みとばかりに飛ばされた火球を食らえば、少しHPを削って回復した。

やはり条件がある。剣撃では回復せず、遠距離攻撃の火球だと回復する。

炎を食らうと回復するのか? だとしても、剣は炎で作られたものではないのか? 俺にはそう見えた。


「『■■■■(アミュザント)』」


また不死鳥が突っ込んでくる前に、巨人の拳が不死鳥(フェニクス)へと放たれた。

しかし剣で受けとめ、流れに身を任せるように羽ばたいて力を逃がされた。


「大丈夫ですか衛ちゃん、頼りになる私が助けに来ましたよ」

「言い返したいところだけど今は助かった。ありがとう」

「おや、随分と謙虚ですね」


 やけに高い所から聞こえるクロの声に向け顔を上げるとそこにはロボが浮いていた。

いやこれは……。例えるならばそう、宇宙で戦ってそうな人型巨大ロボの胸から上だけがある……みたいなものだ。

背部と下部からは蒼の粒子が舞っていて、それで浮いているらしい。


「随分と面白いもん持ち出したなァ? AI専用のお仕置き用兵器ってところか。でもお前のものでは俺様には絶対に勝てない。そいつは事実だ」

「やってみなければわからないじゃないですか。後悔はやってからの方が後味が良いんですよ! 」


言葉を乗せて放たれた拳は、その対象たる不死鳥(フェニクス)を打ちぬかんと迫る。

俺から見ればその拳は十分に速い。質量の塊だというのにプロボクサー顔負けのストレートを放てるのはすごい事だ。

だがいかんせん、不死鳥(フェニクス)には届かない。あの次元では遅いのかもしれない。

余裕をもってふわりと避けられて、伸ばしきった拳は何もない空間を叩いた。


「はっ! これだったらあいつにガラムマサラまみれの卵焼きを食わしてる方がまだ楽しめるなァ? こういう奴の対策の為に、なにか余興を一つや二つ用意してねえのかよ? なあ? 」

「ではその余興の為にはあなたの退去が必要不可欠ですね。三十分ほど準備期間が必要となりますが? 」

「言うねえ? 怒りと愉快にまみれた顔を見るのを一体どっちが楽しいんだか」


 ……この不死鳥(フェニクス)は最近失踪しやがったあのイカれた野郎と似たような感性をお持ちのようだ。

もしかしたら千羽かもしれない、という可能性が頭をよぎったけれども、だとしたらなぜ? という疑問が出てくる。人様に迷惑をかけるような悪質ないたずらは流石にしないのが、十鳥千羽という人間だ。

だからあこがれたんだ。俺が見てきたあいつは、こんなことをする奴ではない。


「ああ、あいつの顔が見たくなってきたな。とっとと終わらせてやるとするか」

「なあ、クロ。あいつに当てられるとしたらどこまで吹っ飛ばせられる? 」

「それこそ月まででも余裕でしょうが、空間に固定でもしない限り無理でしょう。超火力でも鈍足ですから」

「聞くんじゃなかった」


 不死鳥(フェニクス)のひとつひとつの言葉が意味深に思えてきて、あいつ(千羽)と関係があるように聞こえてくる。それが煩わしくて、振り払いたくなってくる。

だからこいつをどうにかして、その仮面を剥ぎ取ってやりたくなる。


「『黄金炎』……くらいなっ!」


 思考の隙をつくように、俺に黄金が飛んできた。

当たるとヤバいということが迫力で理解できた。だが、それと避けられるとではイコールではない。

幸いなのは、飛んできたのが一発だけ。小手調べの一撃ということだ。


「ぐあああああああああっ!」


先ほどまで受けていた火球とは比べ物にならないダメ―ジと火傷が続くような痛み。

そして、比べ物にならないくらいの回復量。継続ダメージもあるせいか収支は合わないが、まだ耐えられる。

俺の全身を覆った黄金炎は足を伝って地面も軽く焦がした。


黄金炎が勢いを失っていくとじくじくと鈍痛だけが残り、継続ダメージの残りがHPに響く。

だが、やはりHPは逆戻りしていく。少なくとも黄金炎そのものがあたった時のダメージ分くらいは回復できた。

そして、アスファルトにすこしだけ燃え移っていた黄金が波を引いていくと同時に、また少しだけHPが回復した。真夏のような暑さだったアスファルトは、今やそのうえで炎が燃えていたことなんかなかったかのように常温だった。


もしかして……熱か?回復のトリガーは熱なのか?……検証しないといけない。


「どうした! そんなもんか! 」

「おお?言ってくれるじゃねーか! 」

「馬鹿ですかあなたは!」


 今度は絨毯爆撃がごとく面で攻撃してきた。クロの罵声を身に浴びながら、クロに当たるコースのものをこれ幸いと受けに行く。

熱い。けど、HPは回復していく。大丈夫だ。まだ耐えられる。

俺に当たらず、地面に着弾した炎がアスファルトを金に染め上げ、そこらじゅうが火の海になった。

俺はそこを突き進んでいく。そして……思った通り。

この回復は熱エネルギーを吸収して行われるものらしい。

炎をかき分けて俺の進んだ道、その跡と周りには燃え盛っていた炎なんてかけらも無い。


「まだまだだ。そんなものでは倒れねえ、数打てば倒せるなんて考えてんじゃねえぞ! 」


 炎を切り拓き、眼前に立つ不死鳥を指差し言い放つ。

いや……なぜだ。慢心でもなく、パフォーマンスでもない。心底あり得ないという風に、棒立ちなんかしているんだ。

急な不死鳥(フェニクス)の変化。驚かないわけがなかった。


「なんでだ……お前は……」


ほんの少し、耳に届いた不死鳥の声。かすかに絞り出したような小さな声。


「他人を身を挺して守る。そんなやつじゃ、ないだろ……?」


ちなみに格ゲーは大乱闘兄弟以外まともにやったことはありません

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