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欲張りセット

 レイナは首を横に振る。


「まだだよ、こんなに早く目覚める訳ないでしょ?」


 ベットに座り込みながら。


「それもそうだな」


 ゼロはレイナの隣に座った。

 それしてもこの耳、このピンと尖った耳はまるで。


「この人エルフみたいな耳してるね」


 レイナは呟いた。

 そう、この少女はエルフとも姿が酷似していた。


 華奢でスレンダーな体にスラリと伸びた手足。整いながらもどこか子供っぽい面立ち。小さな唇や色を取り戻した肌からは少女の淡い色香が感じられた。人間でいえば十四、五歳、エルフで言えば二百歳くらいに見える。


 見た目上はエルフそっくりだ、翼を除けば。天使や、悪魔、それにエルフ? 混ざりすぎだろ。欲張りセットかよ。


「この子の服はどうしたんだ? 包帯巻く時脱がせただろ? 血もついて汚れてたし」


「それならおにーちゃんが話してる間にそこに畳んでおいたよ」


 レイナは机の方を見る。そこには少女が着ていたボロボロな白基調の服が畳まれていた。つまり、この少女は現在全裸である。布団で隠してはいるが。


「血はとれたのか?」


 レイナは首を横に振る。


「血も魔法が効かないみたい」


「それはまた面倒な」


 ゼロは苦笑いを浮かべた。血まで魔法が通じないのか。完全魔法耐性とか魔導師泣かせだな。


 少女の目覚めを待つこと数時間後・・・・・・。空は少し明るくなっていた。


「・・・・・・っ、・・・・・・ぅ・・・・・・」


 少女の身体がピクリと動いた。肩が小さく震える。その後、閉じていた瞼がゆっくりと開いていく。そしてぼんやりと、天井を見つめていた。


「・・・・・・ここは?・・・・・・っ!?」


 身体を起こす時に生じた全身を走る痛みに少女はうずくまった。


「まだ完治してないんだからあんまり動かない方がいいぞ」


「ひっ!?」


 少女はバッとゼロの方に振り向き声にならない悲鳴をあげた。目を覚ましたら当然知らない男が話しかけてきたのだからこうなることは致し方ないことだ。


「そんなに怯えなくても何もしないから大丈夫だよ! ね? おにーちゃん」


 レイナは怖がらせないように宥める。それに続けるようにゼロも宥めようとするが。


「あぁ、何もする気は無いから安し――」


「・・・・・・や」


 少女は小さく呟きゼロの言葉を遮った。


「「や?」」


 声が小さくて聞こえ辛かったが、今度ははっきりと聞こえてきた。


「いや! こないで!」


 少女はゼロに片手をバッと突き出した。

 その掌に魔法陣が展開、紫の光の粒子が集まってくる。見たことない魔法だけど、まともにくらうのはヤバそうだな。


「ごめん、レイナ」


「え? ひゃっ!」


 ゼロは妹の襟を掴み後ろへ投げ床に落ちるのとほぼ同時にゼロの身体を激しい紫の光が包み込んだ。


「痛た、おにーちゃん大丈夫?」


 頭を抑えながら身体を起こすレイナ。ごめん、後でなにか好きなもの買ってあげるから許してくれ。


「っ〜、あぁ、大丈夫だ」


 ゼロは咄嗟に手を前方に突きだし魔法障壁を展開していた。だが、少女の魔法はそれを貫通、ダメージを完全に打ち消すことが出来ずゼロの体に痛みが走った。建物への被害はなかった。貼っておいた結界のおかげで。よかった、どうやらこの子の魔法自体には魔力を打ち消す力はないみたいだ。防いでこの威力、まともに受けてたら危なかったかもしれない。


「な、なんで生きて、っ!!」


 少女は信じられないものを見たような表現を見せたあと、痛みで顔がしかめった。


「何でって、! お、おい大丈夫か? せっかく手当したのにあんな魔法撃つからだ、傷口が開いたんじゃないか?」


「手当て?」


「うん、二人で包帯巻いたの、傷口が開かないように」


 身体に巻かれた包帯をまじまじと見る少女。その後顔が赤くなり胸を隠すような仕草をした。大丈夫だ、無いものは見えないから隠す必要は無い。それに包帯巻いてるし、興味ないから。


「こ、これ、貴方達がしてくれたの?」


「あぁ、一応な」


 少女はしばしの沈黙の後、申し訳なさそうな表情をして


「あ、あの、えっと、ごめんなさい、手当までしてくれたのにあんなことしてしまって・・・・・・」


 と言い、頭を下げた。素直に謝るところいい子なのかもしれない。


「気にするな、俺は別に怪我をさせられたわけじゃないし」


「私も怪我してないし全然気にしなくてもいいよ」


 二人は口角を緩めて微笑みかける。素直に謝ってくれたんだ、許してあげないと可哀想だ。それに、ちゃんと反省してくれているみたいだし。故意じゃない事さえ分かればいい。


「とりあえず、怪我治るまではここで安静にしとけ、面倒は見てやるから」


 手当してまだ傷が癒えてないやつを外へ放り出すほどゼロは鬼畜ではない。放り出して野垂れ死にでもされたら寝つきが悪いので、助けた以上は完治するまで面倒は見る。


「宿のおばさんに後で言っておかなくちゃいけないね」


「そうだな、明日くらいに言っておくよ」


「あ、あの!」


 少女は二人の会話を遮り、恐る恐る聞いた。


「 なんで、見ず知らずの私にそんなに優しくしてくれるんですか?」


「なんでって、助けてって言ったろ?」


 優しいって別に優しくなんてしてないんだけどな。手当しただけだし。


「私が、人間に、ですか?」


 身に覚えがない、と言った表情だ。少女の言葉に少しムッとしたゼロだが、それは表情には出さなかった。


「俺は見ず知らずのやつを率先して助けるほどお人好しじゃないからな・・・・・・」


 一部は別としてな。ゼロは妹に見られていることに気づき横目でちらりと見ると、慌てて視線をそらした。やめろ、レイナ、俺をそんな人でなしを見るような目で見るな、お兄ちゃん泣いちゃうぞ。ゼロは妹の目から逃げるために話を変える。


「そんなことより、お前、あー・・・名前は?」


「私はフィーネ・・・・・・フィーネ・クラヴィス、です」


 そうか、フィーネか。


「フィーネ、お前、何者なんだ? 俺はお前みたいなやつを見たのは初めてなんだ」


「天魔――」


 偶然か、その言葉は二人が少女を見た時に頭に浮かんだ言葉だった。


「って言われたこともありました」


「実際は違うって言ってるように聞こえるが?」


「ど、どうでもいいじゃないですか、種族なんて、なんだって」


 顔を逸らし声も小さくなっていく。

 その話にふれないで。

 そう言ってるように瞳を大きく揺らして。


「助けてくれたことに対しては感謝してます。攻撃したことも悪いと思ってます。でも、種族事はあまり聞かないでください、苦手なので・・・・・・」


「そうか、悪かった」


 その言葉を聞いて、ほっとしたような表情をする少女。ゼロも無理に聞こうとは思ってないが、少し違和感を感じていた。


「フィーネ、一ついいか?」


「は、はいなんですか?」


「お前、なんであんな怪我してたんだ?」

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